表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/186

アークボアの炭火焼きステーキ

「えっ、サイモン、私と【火の洞窟】に行きたいの?」


 シーラの家に戻ると、彼女は落花生らっかせいの殻をむいて実を取り出しているところだった。

 どうやら、今日は冒険業をお休みにして、お隣の収穫を手伝うクエストをしているらしい。

 秋も間近なこの時期は、シーラの他にも、村のあちこちに同じ作業をしているおばあちゃんがいっぱいいた。


「ああ、レベル上げをしたい冒険者がいるんだが、同伴が俺1人では難しそうなんだ。来てくれるか?」


 またとないチャンスだったので頼み込んだのだが、シーラは、サイモンのお願いにぶぜんとした表情で答えた。


「えーっ、困るなー」


「頼む、シーラにしか倒せそうにないんだ」


「そんな事いわれてもなー」


 困る、困る、と言いながら落花生をむくのをやめ、頭に巻いていた手拭いをほどくと、手を洗って髪の毛をすいすいすき始めるシーラ。


「だから私、Fランク未満のモンスターしか倒したことがないんだってば、もー、困るなー」


 などと言いつつ、革靴のひもを結び、つま先でけんけん、と地面を叩き、タンスの衣類の下に隠してあった剣を取り出した。


 隣で大人しくしていた女戦士は、サイモンに耳打ちした。


「サイモン、あの子めっちゃ分かりやすいね」


「どういう事だ?」


「なんというか、いい子ねってこと」


「だろう?」


 普段着に革製の胸当てを身に着けただけの、簡素な軽装備に身を包むと、シーラはあっという間に旅立ちの準備を整えてしまった。


「じゃあ、オーレンも呼ぶから、一緒に行きましょう」


「大丈夫か? あいつ病み上がりなんじゃ」


「もう平気よ、こっち来て」


 シーラに導かれて家の裏手に向かうと、ここからは静かにするように言われ、サイモンたちは息をひそめた。


 こっそり庭を覗くと、木剣を持ったオーレンが全身汗だくになって剣の練習をしているところだった。

 レベルはたったの2しかない。

 けれどもシーラの動きを近くで見ているからだろう、筋はけっこういいみたいだった。


 そう言えば、病気が治ったら冒険者になるのが夢だと、オーレンはいつか言っていた。

 自分が手に入れたせいで『トキの薬草』を手に入れられなかった人に届けるためだそうだ。


 だが、それは本当の彼の夢ではない。

 自分の犯してしまった罪をあがなうための、ただの罪滅ぼしではないのかとサイモンは思っていた。

 身体に宿ったモンスターは消えても、オーレンはまだ大きなものを背負っている。


「けどあの子、今は料理人になるかどうか迷ってるんだって……サイモンのせいよ?」


「俺か?」


「いつも『村にも料理店があったらいいのになー』とか『料理人になれよー』とか言ってるじゃないの」


「そう言えば、そうだった」


 本当に欲しいのだから仕方がない。

 サイモンは気づかなかったが、オーレンはこうして冒険者になるために、休みの日にも鍛錬を欠かさず行っていたのだ。


 しかし、木陰に隠れてこっそり覗ている意味はあるのだろうか。

 女戦士は、両手で顔をおおい、ゆらゆらと湯気を立てていた。


「はわわわ、なにあの子、めちゃくちゃカワイイんだけど、小さい子なのに動きとかキレッキレでヤバくない?」


「いいでしょ、私の弟よ」


「えっ、お姉さんなの? ということは、何ですか? 私たちは保護者の同意の上で今からあのショタ君と一緒に【火の洞窟】に行っちゃおうというわけですか? あの真っ暗な【火の洞窟】に? それって何々罪とかいう犯罪になったりしませんか?」


「サイモンがタンクで、私がアタッカー、あの子はまだ戦えないから、料理当番よ」


「しかも手料理まで食べられるんだ! うわぁー! 生きててよかったー! 私この世界のこと大好きかも!」


 なにやら感涙している女戦士だった。

 こっちの様子に気づいたオーレンが、手拭いで汗を拭きながら向き直った。

 木剣を置いて練習を途中でやめてしまう。


「シーラ姉ちゃん、サイモンも。どうしたの?」


「オーレン、お前もレベルを一気に上げてみたくないか?」


「レベルを? 強くなりたいかってこと? まあ、そりゃあ、もちろん。男だしね」


 ちょっとぶっきらぼうに言ったオーレン。

 女戦士は、ますますツボに入ったのか、立ち眩みを覚えて倒れそうになっていた。


「今からシーラと一緒に【火の洞窟】に行こうと思うんだが、お前はどうする?」


「行きたい」


「よし、ついてこい」


***


 リアルの時刻は午前5時55分。

 この世界ではお昼まであと少し、といったところだった。


 ふたたび村から離れ、西にぐるりと山をめぐって歩いていく。


 女戦士は、獣のように飛び上がって木からリンゴをもぎとり、サイモンは木の幹を蹴って高く飛び上がり、それぞれにリンゴを手に入れていた。


 シーラは、歩きながらしゅぱっと目に見えない速さで剣を振った。

 木の上からリンゴが2個おちてきて、片方を隣にいるオーレンにあげ、もう片方を自分でかじっていた。


「へぇー、なんだ、みんなあそこでリンゴかじっていくんだ。ジモティーって感じする」


【火の洞窟】に通いなれている地元民は、みんなこうしてダンジョンに入る前に炎耐性(微)を身に着け、準備をするのだ。


 女戦士は、オーレンのぶんもリンゴを取っていたらしい、ふりかえって最後尾までもどり、投げわたしていた。


「オーレンくん、洞窟に入ったら油断は禁物、ぜったいに気を付けてね」


「うん」


「と言っても、大半のモンスターはもう倒してるから、ほとんど敵は出ないだろうけど」


「戦士のお姉ちゃんがやったの? すごいや」


「べ、べ、べ、べつに!? わ、わ、わ、わ、私がやったんじゃないけど! オーレンきゅん、アメたべる!?」


 毛皮の尻尾をぶんぶん振って、オーレンにアメを配る女戦士。

 女戦士は女戦士でかなりオーレンの事が気に入ったみたいだった。


「レベルが近いから、仲がいいのかもね」


「レベルはあんまり関係ないんじゃないかな」


 洞窟に入ると、まれに『チャコールマン』がリスポーンしてくるが、光の渦から出てきたときには既に半分に切り裂かれていた。

 どうやらまだ完全に復活する前にシーラが剣でなにかやったらしい。まったく目に見えなかったが。


「うーん、このペースじゃ、お昼にあんまり美味しい料理たべられないかも……テンション下がるなぁ」


「任せてよ、姉ちゃん。こんな時のために、お肉はいいのを持ってきたんだ」


「どうするの? オーレン」


『チャコールマン』から手に入る素材は、良質の炭だ。

 オーレンは金網を用意すると、手に入れたばかりの炭火で肉をあぶり始めた。


「できた!」


【アークボアの炭火焼きステーキ】脂のたっぷりのったアークボアのS級肉を、最高級の炭火で焦げ目がつくまでじっくり焼き上げたステーキ。

 特性のたれはオーレンが長年をかけて研究してきた、甘辛と塩辛の二種類が選べるオリジナルミックス。

 レモン汁を垂らして酸味のアクセントを加えてもなお旨い。攻撃力増加(大)、ラック増加(大)、空腹予防、各50分。


「はいどうぞ。これはアメのお返しだよ?」


「あー、これはつらい! オーレンきゅんがハイスペックすぎて隣に存在している自分がつらい! こんな最高のイベントがあったのに、今まで私はいったいこのゲームの何をやってきたの!」


 美味しい肉をがじがじ食べながら、しくしく泣き始める女戦士。


 サイモンも、肉をかじってひと息ついた。


「ラック増加(大)か。ちょうどいいな」


「なにか関係あったっけ?」


「レベルがはやく上がるかもしれない」


 これは、冒険者のあいだで経験的に言われていることだった。

 正確には、ファーストアタック報酬、ベストダメージ報酬、ラストアタック報酬の大きさが、通常の経験値のラック%ぶんになっているのだ。


 レベル上げの厳しいこのゲームにおいて、一時的にメンバーのラックを高めるスキルは、喉から手が出るほど欲しがられるものだった。


「……オーレンは冒険者になった方がいいのかもな」


 女戦士と仲良く笑い合うオーレンを見て、サイモンはふとそう思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ