ログアウトの約束(中編)
「そっちにワイバーンが行ったぞ!」
「うおぉー! サイモンかっけぇー!」
レイドパーティに参加した冒険者たちは、彼らが対応に手をこまねいていた上空のワイバーンを【紫電突】の一突きで蹴散らすサイモンの雄姿に歓声をあげていた。
ワイバーンは、恐竜で言うとプテラノドンのような膜の翼をもつドラゴンだ。
飛翔力はさほどなく、岩から岩へと飛び移り、まるでグライダーで滑空するような飛び方をする。
上空10メートルの高さまでなら、サイモンの槍の射程範囲だった。
文字通り戦車のように四方に火を噴いて、ワイバーンたちを落としていく。
あるとき、サイモンの攻撃に感づいたか、翼で大きく風を受けて、さらに上空に逃げる一体がいた。
(……よけられたか)
サイモンは、すぐに感覚で理解し、次の攻撃の事を考えた。
モンクに警告を受けていたため、なるべくブルーアイコンの前で『グリッチ』を使わないように配慮していたのだ。
白髪の用心棒の提案によって、巨大なレイドパーティが結成された今、サイモンの戦闘は、否が応でもブルーアイコンたちの注目にさらされる。
あまり人目につくと、運営(GM)にサイモンの『グリッチ』の存在が伝わり、削除されるかもしれない。
トリオン村で、すでにブルーアイコンの『長髪の用心棒』に見られた可能性があるので、遅かれ早かれ知られるかもしれないが、それでもなるべく遅らせた方がいいだろう。
これから『グリッチ』が使える頻度は間違いなく減るはずだ。
リアルの世界では、朝日がのぼり、日中の時間帯になる。
深夜帯より多くのブルーアイコンが活動しはじめる。
だが、サイモンの【紫電突】は予想よりも彼を前方に突き動かし、槍は最終的に15メートルほど前進し、ギリギリ逃げたはずのワイバーンの首元を貫いた。
(届いた……!)
はるか下方の砂漠で、冒険者たちの歓声があがる。
レッドアイコンをぐるぐる回転させながら墜落するワイバーンと共に地面に着地したサイモンは、すぐに自分の視界に浮かぶログを確認した。
(……レベルが上がったのか)
どうやら、フィールドのワイバーンを絶滅させる勢いで狩りまくっていたお陰で、サイモンのレベルが27まで上がったのだ。
ステータスを見ると、槍使いの職業特性により、攻撃の届く射程範囲がぐんと伸びている。
【紫電突】では、15.762メートルが彼の攻撃の間合いとなる。
このまま伸びていけば、いずれ単独で『鳥』に攻撃をしかけられるようになるかもしれない。
ひょっとして、【紫電突】を4連続で打てるようになってはいないかと思って確認したが、スキルポイントの上限がそこまで到達するのは、まだ先のようだ。
やがて、白髪の用心棒の方から、ぽーん、という連絡音が鳴った。
彼はメニューを開いていた。
「おっと、またレイド参加申請が来たようだ。君はすごい人気者だな、サイモン君」
「このままなら大丈夫そうか?」
「絶滅は簡単にできるだろう。問題は『トキの薬草』の方だな。私はそろそろ探す準備をしておこう。ところで、アサシンはどこだね?」
サイモンも、大勢のブルーアイコンの中で、アサシンの姿を見失ったのにようやく気付いた。
「……おいアサシン、どこだ?」
いつもセルを組んでいるので、視界にうるさいくらいチャットが届くのだが。
そのとき、アサシンとは別のチャットがサイモンに届いた。
サイモンとアサシンの装備を作ってくれたスミスからの伝言だ。
彼女は、こうメッセージをつづっていた。
『アサシンちゃんに、そろそろログアウトする時間じゃないかって聞いてみてくれる?』
妙な伝言だ、と思って、サイモンは首をかしげた。
たしかに、スミスとアサシンはログアウトする時間を約束していた……ような気もするが。
「どうして、アサシンに直接きかないんだ?」
『私とはフレンド登録してくれなかったの、お願い』
サイモンは、意外な真相に驚いた。
アサシンは、スミスの事を『先生』と呼んで慕っていたように見えた。
すっかり打ち解けていたと思っていたのだが、フレンド登録をこばんでいるという。
フレンド登録は、この世界の中での繋がりを作るパーティ登録とは違い、外での繋がりをつくるものだ。
ログアウトした魔法使いが、その後もサイモンと交信しつづけてくれたように、リアル世界にいながらにして、お互いに言葉を交わす繋がりが生まれる。
『ゲームで人と繋がりを持つことができても、リアルで人と繋がりを持つのを嫌がる子はたくさんいるの。
危険な世の中だから、自己防衛のためにそうせざるを得なくなっているんだと思う。だから、私には無理強いできないのよ』
この分だと、おそらくモンクともフレンド登録をしていないだろう。
どうしてそこまで他人と壁を作るのか、サイモンには分からなかった。
ゲームの話をするときは頬を上気させて、あれほど饒舌になるのに。
リアルの世界の彼女は、いったいどれほど大きな問題を抱えているというのだろう。
「おい、アサシン」
マップで位置を確認しながら近づいてみると、アサシンは、岩陰で膝を抱えたまま、がくがく震えていた。
笑顔はすっかり消え、目に涙を浮かべて、ひどく青ざめている。
大勢のブルーアイコンたちに怯えているように見えた。
「どうしよう、どうしよう、サイモン……わたし、こんな事になるなんて、思ってなかった」
「どうしたんだ、一体何をそんなに怯えているんだ?」
「私、他の人とレイドパーティとか組めない……だってパーティを組んだ相手には、自分の『プロフィール』を見られるんだよ?」
「そんなに怖がることか? みんなやってるじゃないか。それに、お前は俺ともパーティを組んだだろ?」
「サイモンはいいの……サイモンだから……私のプロフィール、見て」




