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Who am I(私は誰ですか?)前編

 リアルの時刻は午前4時30分。

 この世界では、日が昇ってしばらく経った頃だった。


 サイモンとアサシンは、転移結晶を使って港町に到着していた。

 すっかり旅に出るつもりだったアサシンは、用意した旅行用のキャリーバッグ(装飾品。デカいしかさばる)を抱えて驚いていた。


「えーっ、けっきょく夜には帰るって言っちゃったんだ?」


「ああ」


「ヘタレだ!」


 びしっとサイモンを指さすアサシン。

 アサシンこそ、シーラに会う勇気が出ないと言ってついてこなかったくせに、なにも言い返すことが出来ない。


「帝国って、東京ドーム3個ぶんくらい広いくせに転移ポート2ヵ所しかないでしょ? 日帰りで探索して、見つけられるわけないわよ、一体どうやって探すのよ!」


「よく知ってるな……あいにくだが、その転移ポートはなるべく使いたくない。王国軍の重要なものだからな」


「いーでしょ、みんなガンガン使ってるけど、誰も何も言わないよ?」


 ブルーアイコンの豪胆さがすこしうらやましい。

 転移ポートが設置されているのは、王国軍の駐屯地と、最前線の兵站のみだった。

 もしも帝国の領地内に転移ポートを設置できれば殊勲賞ものだったが、戦時中なのですぐに壊されるのだ。


「次回探索するための下準備をしておこう。前線も俺が知っているときと違って、かなり動いている、調べないといけない事が多い……それに、本当にシーラにオーレンのことを任せておけば大丈夫かもわからないからな、夜は村に戻りたい」


 不安は尽きることがないが、これはゲームの世界なのだ、と理解することで、サイモンはじょじょに落ち着きを取り戻してきた。

 どのみち朝のあの時点までリスポーンするのであれば、今回は諦めればいい、などと考えるようになっている。

 だが、アサシンはそうも言っていられないようだった。


「甘い、サイモン、のんびりしてると次のシナリオアップデートがくるよ」


「シナリオアップデート?」


「秋アプデよ。もうすぐ、秋がくるの」


 この世界には、『週間』と『月例』の他に、3ヶ月に1回、すなわち年に4回行われる『季節』アップデートがある。


 そのとき、毎日繰り返されていたこのゲームの『メインシナリオ』が進行し、時代が進み、新しいステージが公開されるのだ。


 オンラインRPGでは一般的な、大型アップデートである。

 サイモンも、ブルーアイコンの冒険者たちの言葉の端々からその存在は聞いていた。


「そういえば、次の土曜日とか言っていた気がするな。一体いつの事なんだ?」


「今日が木曜日だから、明後日だよ。明後日のお昼には、メインシナリオが次に進んじゃう。そのときまでになんとかしないと、このままじゃ、ヘカタン村が滅んだまま時代が先に進んじゃうよ」


 サイモンは、自分に残された時間を計算してみた。


 こちらの世界の1日が、リアル世界の80分。

 つまり、リアル世界の1日がこちらの世界の18日になる、というのは覚えている。


「残り42日か……そう何年も旅できるわけではないんだな」


「計算はやっ!? サイモンってば、変なところでAIっぽい! 文字が読めない設定どこいったの」


「馬屋の息子だったからな、計算は勉強させられたよ」


「それ馬屋関係あるの?」


 サイモンとアサシンは、港町をぐるぐる回り、帝国への行き方や、古い時代の地図を見てドラゴンのいそうな場所、必要な装備を調べていた。


 同じころ、カフェテリアで食事を摂っている2人のブルーアイコンがいた。

 通称『S課』、いずれも日本刀を抱えた用心棒の身なりをしている。


 彼らは職務中の覆面警官で、サイモンとアサシンの行動を陰ながら見守っていた。


 午前5時近くになると、朝の早いプレイヤーたちはログインしはじめるので、彼らにばかり注意を払ってはいられなくなる。


 二人は、視界メモリーの情報と、定点カメラの映像を丹念に照らし合わせていた。


「定点カメラの情報によると、今日アサシンと行動を共にしているプレイヤーはこの拳闘士モンクだけのようです」


「そいつはよく見かけるが、いつも深夜2時にログアウトしている……チャットの内容までは分からんが、連れまわしている訳ではないかもしれん」


「どうやら、サブ垢では魔法使いを使って初心者プレイヤー数名と遊んでいるようですが」


「なるほど、そいつは怪しすぎる。監視が必要だな……ほかには?」


「本官が30分おきに観察していますが、どうも怪しい人物との接触はなさそうです。むしろ人との接触を避けているように見えます」


「となると、やはり『児相』の管轄か……まあ、何もないに越したことはないな」


「ずっとあのNPCとつきっきりです。我々もそろそろログアウトしますか。報告書をまとめないと」


「うむ……」


 白髪の用心棒は、何かひっかかる事があるらしく、じっとサイモンの頭上を見ていた。

 彼の頭上には、NPCである事を示すホワイトアイコンが、コーヒーに入れた砂糖菓子のようにぷかぷかと浮かんでいる。


「ところで、本当にNPCなんだろうな? 裏は取れているのか?」


「ははは、何を言ってるんですか」


 長髪の用心棒は、タピオカミルクティーをすすって、サイモンの方を見た。


「アイコンは白ですよ?」


「それはアバターの見た目だけだろう、偽装はできないのか?」


「いちおう裏は取りますが……まあ、ゲーム的に無理でしょうね。

 もしもアイコンの色が変えられるのなら、『レッドプレイヤー』が違反行為し放題ですし。

 そんなのシリーズ通して長年オンラインRPGをやってきてる運営(GM)が見過ごすはずがないですよ」


「そういう物か……」


「あの男が相当なハッカーでもない限り、無理でしょう。先に行きますね」


 長髪の用心棒は、先にゲームからログアウトした。

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