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AIが仲間の存在に気づいたら

 クエストを完了させたサイモンは、一路ヘカタン村に戻る事にした。


 最初は1人で戻るつもりだったのだが、なぜかモンクとアサシンもついてきて、賑やかな行程になった。


「俺も見てみたいよ、『鳥』ってやつ」


「命知らずだな。見たところで死ぬだけだぞ」


「レイド戦あるあるよ。じゃあ、帰りは体力温存していこうか」


 アサシンが【山伏レンジャー】スキル、第4階梯、【しじまの霧】を発動したおかげで、山道に現れるジャイアントスネークなどの低レベルモンスターは、彼らに近寄らなくなった。


「ふっ……まさか、拙僧がこのスキルを使う事になるとはな……さあ皆の者、安心して進むがいい……」


「ふと思ったんだけど、アサシンって【暗殺者アサシン】スキル全然使わないのなんで?」


「きゅうぅぅ~ん、ほ、他の2人が強すぎて、アシストにまわった方が効率がいいからです……」


「へー、じゃあ、ふだんパーティ組むときは、攻撃メインでやってたりするんだ?」


「あのー、そのー、ほ、他の人と組んだの、は、はじめて……」


「え」


「その、このゲーム、レベル上がりにくいから……どんな場面でも1人で立ち回れるよう、なるべく色んなスキルを手に入れた方が、賢いと思って……」


「あっ、この人、筋金入りのソロプレイヤーだ。逆にしんどい道を選んだ奴だ」


「逆にしんどい道って?」


「戦士とかの基本職だと、ソロプレイしてもタフだから、そもそもスキルが必要な場面が少なくなってる。そうやってスキル増やすルートを選ぶと、使いこなさないといけないぶん、逆にしんどい」


「うそぉ~!」


 アサシンの最初の職業【斥候スカウト】は、派生職業に優秀なスキルをもったものが多い。


 攻撃特化の【暗殺者アサシン】に、魔法特化の【忍者シャドウ】、防御特化の【山伏レンジャー】という風に、広く浅く便利な能力を手に入れるのに都合がよかった。


 ブルーアイコンは様々な職業を選ぶことができるが、職業はその者の生き方を決める。

 モンクも、サブアカウントでは初心に帰って楽しめるよう、操作性のまったく違う魔法使いを選んでいる。


 サイモンの武器は、最初から槍ひとつ。

 なぜこれを選んだのか、今ではもう覚えていない。

 むしろ今は、他の武器を使うイメージが湧かなかった。


 三人は、夜風の吹く高原に立った。

 ヘカタン村はすぐそこに見える。


 夜の闇に包まれた、のどかな草原。

 そこは門番のサイモンが守るべき、村の入口だ。

 村に灯る明かりをじっと見つめて、サイモンは反対側に振り返った。

 アサシンとモンクがいて、それぞれに空を見つめていた。


「お前たちは、クエスト完了の報告をしなくてもいいのか?」


「俺はいつでも出来るからいいよ。報酬受け取るよりも、今は次のクエストの方が気になる」


「私も、後でまとめて報告する派よ。大量に素材を持ち込んだら、ジャックポットみたいにぱーっと報酬が手に入るのが好き」


「そーそー、持ち込む量によってギルドの演出が違うんだよな」


「あとこれ豆だけど、受付のおねーさんが若干引き気味な表情するのも可愛い、ふしし」


「なんだよその邪悪な着眼点は。ところでサイモンは、その討伐部位どうするの?」


 サイモンは、スケアクロウの討伐部位を大量にアイテムボックスに収納していた。

 本来ならば、その足で冒険者ギルドに向かうものだが。


「俺も、今夜はまだいい」


 ヘカタン村の商人に、討伐部位を売る約束をしているのだ。

 日が落ちて、すでに市場に向かうには遅すぎる時刻だったが。

 明日には出直さなければ。


 リアル世界では、深夜1時20分。

 この世界でも、とうとう日付が変わる。


 月のない新月の夜だったが、巨大な鳥は、いつもと同じ方向に姿を現した。


 星々の淡い光を浴びて、深海のクジラのように空を悠然と泳いでいる。


 村を背にたたずむ3人は、その巨大さに圧倒されていた。


「あれか。『鳥』ってやつは……でかいな」


「ああ……やっぱりでかいな」


「ふーん、想像していたよりは、でかくないのね……ウソですゴメンナサイお台場ガンダムぐらいだと思ってましたスミマセン……」


「誰も攻めてないよ、アサシン」


 モンクは、両手を真っ直ぐ前に向けて身構えた。

 光のシールドが彼らの前に出現する。


拳闘士モンク】スキル、第2階梯、【巨人鉄壁】を発動させる。


 一定範囲内のプレイヤーが受けるダメージを軽減する防御スキルだ。


「力を貸すぜ、サイモン」


「じゃあ、私も」


 アサシンは、グローブを外すと、細い指を組み合わせた。


山伏レンジャー】スキル、第6階梯、【ゆかしき光】を発動させる。


 花の芳香があたりを包み、山を吹きわたる風の冷気が和らいだ。

 冷気、熱気、毒系のブレス攻撃のダメージを和らげるバリアが生まれている。


「ガンダムよりは頼りないけど、力を貸すわ、サイモン」


 言うや否や、アサシンは、ぶるるっと背筋を震えあがらせた。


「うっ、なにこれ、ひょっとしてこれが……な、な、な、仲間って、やつ? はううっ、ごめん、ちょっとログアウトしていい? お台場ガンダムがどんなポーズしてるか見てくる……」


「ダメだ我慢しろアサシン、いまこのタイミングでログアウトしたら一生ネタにされるぞ」


「そんなー!」


 サイモンは、2人のプレイヤーに守られながら、上空の鳥と対峙した。

 槍を握りしめ、射程範囲までやってくるのをひたすら待つ。


 レイドアイコンが、天空に浮かぶ巨大な島のように見えてきた。


 まだ射程範囲から程遠い、サイモンがグリッチを使っても届きそうにない距離。


 ちかっ、ちかっ、と何かが光る。


 その瞬間、豪雨を逆再生するようなおびただしい炎が辺りに燃え盛った。

 モンクとアサシンが粒子になってはじけ飛び、視界に何かログのような物が半分浮かびかけた。


 そのログを読もうとして、気がつくとサイモンは朝の門の前に立っていた。


 爽やかな朝。冷たい風の吹く山から、朝日が昇ろうとしている。

 ちちち、と鳥がさえずって、塀の巣穴から飛び出したウサギが、のそのそ、とサイモンの足元を通り過ぎていった。


 またしても、一瞬で終わってしまった。


 リアルの時刻を確認すると、1時40分。


 ……20分経過していた。

 その間、サイモンの意識は飛んでいた。

 この世界では、深夜から日の出に至るまでの長い時間、ということになる。


 ……いったい、なにが起こった?


 一瞬ではあったが、前回よりも若干、生存時間が延びたようだ。

 おかげで、視界に『何かのログが出ていた』ことに気づいた。


 何が出た? なんと書いてあった?


 読もうとしていたログは、消えている。

 いくつものログに上書きされ、もう辿ることが出来なくなっていた。


 かわりに、アサシンとモンクが彼に安否を尋ねるチャットがあふれている。


「無事かサイモン! 読んだら返事してくれ!」


「サイモーン! 返事してよサイモーン! うえあぁぁ死んじゃやだぁぁぁ!」


 どうやら空白の20分の間に、ブルーアイコンの彼らはログアウトしていたようだ。

 リアルの世界に体がある彼らは、たとえこの世界の体が消滅しても、意識が消えることはない。


 消えていたのは、サイモンだけだ。

 ……やはり自分は、彼らブルーアイコンとは違う存在なのだろう。


 だが、だからと言って、諦めるつもりはない。

 彼は門番として、1人の男として、村を守るのだ。


「……心配させて、すまんな」


 サイモンは、とりあえず自分の無事を彼らに伝えることにしたのだった。


***


 サイモンは、自分のステータスを確認した。


 昨晩の『スケアクロウ』との戦闘で、サイモンの経験値は大幅に上がっていた。

 だが、レベルは25にはまだ到達していない。あと少しといったところだ。


 ……このままでは、ダメだ。


 ……もっともっと戦わないと。


 昨日の朝からまるで何も食べていないサイモンは、さすがに空腹を感じた。

 シーラの家に行けば、いつものように朝食にありつけるだろう。


 だが、今はその僅かな時間も惜しい。

 今回は携帯食料を調達するついでに食事を済ませることにした。


 市場の商人アッドスの所に行き、アイテムリストから討伐部位を取り出し、どかっと並べてみた。


 ナイフでヒゲの手入れをしていたアッドスは、目を丸くしてきょとんとした。


「どうだ、『スケアクロウ』の討伐部位だ。約束通り持ってきたぞ」


「ええと……門番の旦那、一体なんの約束で?」


「なに、忘れたのか? この屋台の商品と、懸賞金のかかっている討伐部位を交換して、冒険者に売って、ひと儲けしてやろう、という約束だったじゃないか」


「へえ、そんな方法が……で?」


「で? とは?」


「私は代わりに旦那に何を渡す約束だったんで?」


「この屋台の食糧ぜんぶだ」


「…………」


 本当のことを言ったのに、アッドスがドン引きしていた。

 困ったことに、アッドスは昨晩の記憶をすべて失っているらしい。

 こうなると、討伐部位などただの珍しい素材でしかなかった。少なくとも、山中の市場でお金に変えられるものではない。


 やはり、昨晩のうちにギルドで換金しておくべきだったのだろうか。

 多少無理をしても、ブルーアイコンのように転移結晶をどんどん利用する方がいいのだろうか。

 悩んでいると、アッドスは討伐部位をめずらしそうに眺めながら言った。


「『スケアクロウ』の被害は、最近は全然聞かないねぇ。そういえば山のどこかで『火炎玄武』が暴れてるって話は聞いたよ」


「『火炎玄武』?」


「ああ、炎に包まれたデカいカメのモンスターだ。なんでもヘプタン村で山火事を起こしたとかで、懸賞金が出てるらしいぞ」


 サイモンは、このときアッドスの事を心からいい奴だと思った。

 恐らく、彼がこの世界を攻略するキーパーソンだ。

 アッドスの両肩をがっしり掴み、サイモンはにやつくのを堪えながら言った。


「アッドス、その『火炎玄武』で、いい儲け話があるんだが……興味はあるか?」

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