表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/186

DPS(ダメージパーセコンド)

「サブアカウントが一体どういうものかは知らないが、お前は魔法使いなんだな?」


「そうだよ。お前のチャットから場所割り出してきた。なんかクエストやってるんだろうなー、と思って」


「じゃあ、教えてくれないか」


 涼し気な顔をするモンクに、サイモンは尋ねた。

 村に目をやると、まだ多くの異形の影がそこかしこに溢れている。


 教会には、死神の鎌をもったヘリオーネとイブの姿があった。

 まだ死に至れない幽霊のように、悲しげにさまよっている。


「この村人たちも、夜が明ければリスポーンするのか?」


 サイモンは、そうであって欲しいと願って、モンクに言った。

 他のプレイヤーにとっては数ある世界の一つでも、彼にとってはここが唯一の世界だ。

 その表情を見て、モンクの顔つきがじゃっかん真剣みを帯びた。


「サイモン、お前は本当に大衆向けゲームの世界にあってはならないバグだと思うよ……リスポーンは、きっとするだろう。ただし、『スケアクロウ』の討伐を完了させて、このクエストが解除されたら、だけどね」


 どうやら、この世界ではそれが当たり前の事らしい。

 当たり前のように、ずっと起こってきたことだ。


 サイモンが振り返っても、『エアリアル』が討伐された時。

 冒険者ギルドから発行されていたクエストがなくなって、翌日には果樹園の被害そのものがなかった事になっていた。


 その代わり、別のクエストがまたどこかで発生している。

 今回も同じだとしたら、果たして、この戦いに終わりはあるのだろうか。


「俺もギルドで依頼書見てきたんだよ。クエストのクリア条件は『スケアクロウの殲滅』だ。この場合、一匹たりとも残してはならない」


「だったら……余計な話をしている時間はないな。あいつらを倒してからにしよう」


「よし来た」


 モンクは、両の拳をガツンとぶつけると、サイモンと並んで、ひときわ巨大な異形の影に歩み寄っていった。


「ハイランカーだそうだが、戦略はあるのか?」


「おっ、耳が早いな、知りたいか? 名付けて『クロコダイルダンディ漁法』だ」


 モンクは、すうっと大きく息を吸い込んだ。


 拳闘士モンクスキル、第6階梯、【竜王独歩】が発動する。


 全身の皮膚が赤く染まり、湯気をくゆらせながら、モンクはゆっくりと前方に歩を進めた。


「おい、たしかこのスキルは……」


「うん、すまんがしばらくの間、完全に無防備になる、サポートよろ」


 いきなりサポートを頼まれても、サイモンもまだ多数を相手に戦闘できるわけではなかった。

 スケアクロウの動きは鈍かったが、攻撃と同時にかけてくるデバフが厄介だ。

 先ほどのように【鈍足スロウ】をくらってしまうと、手も足も出なくなる。

 サイモン自身が攻撃を受けないよう、自由に逃げ回る必要があった。


 悩んだ末に、サイモンはもう一人の仲間に助けを求める事にした。


「おい、アサシン! サポートしてやってくれ!」


「ひええっ!? わ、わ、わたしぃ!?」


 物影に隠れて様子をうかがっていたアサシンが、ぴょんと跳び跳ねた。

 モンクは、なんだか面白くなさそうに言った。


「あれ、いたんだ、仲間。ふーん。別に俺たちだけのサイモンじゃなかったってわけだ」


 自分たちだけが遭遇した特殊イベントではないことが分かって、モンクは少しがっかりしたみたいだ。


 モンクのよそ者を見るような眼差しに気づいたのか、コミュ障のアサシンはぷるぷると震えはじめた。


「な、な、なんですか、突然あらわれたこの陽キャプレイヤーは……サイモンのなんなの?」


「べつに? リア友がこのゲームやりたいっていうんで、サブ垢作ってレベル1からやり直してたら、たまたまサイモンと友達になっただけだよ」


「ハイランカーな上に、友達と遊ぶために別のアカウント作ってる? おまけに私のサイモンと友達とか、あなた私のもち得なかった全てのものを持ってませんか?」


「知らんけどサポートしてくれるの、くれないの、どっち?」


「うー! するわよ、もー! 持てる者はすべてを持ってくんだからなー!」


 アサシンは、指先に火を灯し、【火遁】を放とうとする。

 スケアクロウの弱点属性である火を使った方が、ダメージも追加デバフの成功率も大きいはずだ。


 だが、放つ直前にその考えをあらため、スキルを変更した。

 指をクモの巣のように絡み合わせて、発動する。


 野伏レンジャースキル、第3階梯、【あざなる沼】。


 周囲の地面がぬめぬめした泥の色になり、異形たちの動きが目に見えて遅くなった。

 かなり広範囲にわたり、敵全体に【鈍足スロウ】のデバフがかかっている。


「おいアサシン、【竜王独歩】の発動中は攻撃も回避もできない、あのままだと攻撃のまとになるぞ」


「いや、いい判断! このままで!」


 モンクが異形たちの間を通り抜け、少しずつ敵の群れの中心に移動していく。

 その先には、巨大な鎌を持った2体のネームドたちがいる。

 だが、沼に足をとられた他の異形たちが壁になり、その2体はモンクを攻撃の射程に入れられずにいた。

 モンスターたちは、お互いに一定以上の距離をあける習性があるのだ。


「ネームドと他のスケアクロウのレベル差は10以上ある、DPSを最小に抑えようとしたら、この場合はザコを壁にしながら接近するのが最適解だ!」


「なんだその戦術は!?」


 DPS《ダメージ効率》という概念がなかったサイモンには、信じがたい荒業だった。

 本来、敵から受ける攻撃は、どんな小さな傷でも命取りになりかねないので、わざと受けるなどあり得ないのである。


 モンクは、周りのスケアクロウから受けているダメージを無視し、すぐ目の前に2体のネームドをとらえる所まで近づいていた。

 レベル20越えのネームド2体に対して、モンスター1体ぶんを隔てた超至近距離でたたずんでいる。

 鎌を大きくふったら届きそうだ。凄まじい度胸だった。


「あと10秒くらい溜める! 遠距離攻撃を打ちそうになったら、サイモンが引き付けてくれ!」


「遠距離攻撃だって!?」


「見てたら分かる! 目を離すな!」


 サイモンは、スケアクロウの行動パターンなど知らない。

 だが、2人のネームドをよく観察していると、イブの方が大きく肩を膨らませ、明らかに不穏な動きをはじめているのが分かった。

 口腔からいかにも毒々しいガスが吹き出してくるのを確認して、サイモンはため息をついた。


「……あれを止めろって? ……ちくしょう、やってやる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ