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AIの祈り

 ヘキサンの中央にある教会から現れたのは、小さな修道女シスターが2人。

 顔がそっくりな双子で、大柄なサイモンと比較すると、まるで子供のように見える。


 頭上に浮かぶ白いアイコンの隣に、【教会のシスター】と役職名が浮かび上がった。


 名前が浮かび上がらない、ということは、どちらもサイモンは覚えがないということのようだ。


「あー、すみません、お名前は?」


 双子のシスターは、きょどきょど、と顔を見合わせて、それぞれに名乗った。


「ヘリオーネ」


「イヴ」


 白いアイコンの隣に、【ヘリオーネ】、【イヴ】と名前が浮かび上がった。


 青い目をして、じゃっかん背の高い方が【ヘリオーネ】。

 赤い目をして、背が低くぽっちゃりしている方が【イヴ】だ。


「迷える子羊よ……なにかお困りごとですか?」


「お産ですか? それともまた税金の取り立てですか?」


「いや、お産ではないし、俺は徴税官でもない」


「主よ、今日も徴税を免れる稀なるお導きに感謝いたします」


「では、祝福を」


 シスターは、中指と親指で輪をつくり、口笛を吹くように下唇にあてがう仕草をした。

 そして、ふーっと強い息を吹く。

 サイモンはその意味を知らないが、この国の教会における祈りの仕草だった。


 街では挨拶や食事の時など、息を吹かずに恰好だけするのもよく見かける。


「なあ尼さんたち。このポーズには、一体どういう意味があるんだ?」


 サイモンも、同じポーズをしながら言った。

 シスターは、まるで鏡を見ているみたいにそっくりな顔を見合わせて、それからサイモンに両目をむけて言った。


「ガラス細工を作る職人のポーズです」


「溶けたガラスに息を吹き込んで、膨らませるときのポーズです」


「ガラス職人のポーズだったの? これ」


 サイモンが話し込んでいると、視界のログにアサシンのつぶやきが浮かび上がった。


『サイモン氏、双子の美人シスターに囲まれてデレデレしている模様』


「ああ、今はそんなことはどうでもいいんだ」


 久しぶりにヘキサンに来たのだから、いろいろ話したい事があっただけなのだが。

 もしも相手が人間に化けた『スケアクロウ』なら、ここで自分の目的を素直に告げるのは、愚策だろう。


「村人たちの姿がどこにも見当たらないんだが……みなどうしてしまったんだ?」


 2人のシスターは、値踏みをするようにサイモンの姿をじっくり観察していた。

 サイモンの隠しごとを全て見透かすような、曇りのないルビーの眼だ。


「わかりませんが、モンスターが村に現れたそうで、全員、建物に避難しています……」


「ここにいては危険です、どうぞ、中にお入りください」


 2人のシスターに、サイモンは腕をぐいぐい引っ張られた。

 その瞬間、ぴりりと第六感のようなものが働いて、サイモンは教会に足を踏み入れるのをためらった。


 これは、まずい。

 理屈ではない。

 ここに入ってはいけない気がする。


 サイモンは、アサシンのいる方に目を向けた。

『潜伏状態』のアサシンは、姿こそ見えないものの、しっかりとチャットを送ってくる。


『さーて、私はこれから何が起こってもバッチリ対応できるように、部屋の隅っこで鑑賞会の準備でもしておきましょうかねぇ。┐(´д`)┌』


 なるようになるしかないだろう。

 サイモンも肩をすくめて、教会に足を踏み入れた。


 ヘキサンの教会は、非常に屋根が高い。

 ガラス職人が贅を凝らしたステンドグラスから、カラフルな光が床に落ち、参拝者用のベンチが10くらい並んだ先に、柱と一体化したような大きな祭壇がある。


 祭壇には、巨大なフリスビーを抱えた天使の像があって、その裏側に隠れるようにして、3人の子どもが座り込んでいた。


 いずれの子どもも、ひどく憔悴している。

 サイモンを見ると、みんなシスターと同じ、祈りの仕草をした。

 子どもたちの仕草はたどたどしいが、どれも口笛を吹くような仕草だ。

 ふーふー、何度も息を吹き続けている。


「これがガラスを作るポーズってのは、どういうことなんだ?」


「天地創造の日、創世神ユーパがぺしゃんこだった宇宙を膨らませるために強く息を吹き込みました。異説はあります」


「へえー」


「ユーパはガラス細工のように宇宙をぐるぐる回しながら膨らませましたから、太陽が空をぐるぐるめぐるようになりました。異説はあります」


「なるほど」


「ユーパは、宇宙を膨らませ続ける自分の代理人として夜は『星』を、昼は『生命』を産み落としました。ゆえに我々は息をし、世界を膨らませ続けるのです。異説はあります」


「ほーう」


「呼吸とは、神に繋がる神聖な行為なのです。あと健康にもいいそうです」


「なるほどね、そういう事だったのか」


 サイモンには、これが作り話かどうか分からない。

 だが、モンスターがこんな人間の習俗の深い所まで知っているとは思えなかった。

 とっさに作ったウソにしては、かなり手が込んでいるのではないか?


 アサシンにチャットを飛ばして、確認をとってみた。


「なあ、今の話は正しいのか? この2人は本物だと思うか?」


「知らない。けど、このくらいの作り話だったら、最近のAIなら簡単に作れると思うよ」


「なんだそれは、恐ろしいな」


「あんたが言うのもどうかと思うけどね」


 サイモンは、身震いした。

 子どもたちが、ふーふー息を吹くのを見守っていると、2人のシスターは同時に言った。


「「すみません」」


「……」


「……」


 結局、どちらも何も言わなかった。

 お互いに、相手に先に喋ってもらおうとして、遠慮して黙ってしまったのだ。

 しばらくして、また2人同時に言った。


「「あの」」


「……」


「……」


 また2人とも顔を見合わせて黙ってしまった。

 お互いに相手の次の動きを予測しようと、空気の読み合いをしている。

 アサシンが「かわいい」とチャットを飛ばしてきた。

 らちが明かないので、サイモンは自分から話を切り出した。


「そう言えば、2人とも俺の事を覚えているか? 俺は昔、この村に祭りの餅を食べに来てたんだよ」


「月餅祭?」


「名前までは知らなかったけど、たぶんそれ。あれ、なんで餅を食べるの?」


「かつてこの世界には夏と冬しかなかった」


「また語りが始まった。いいよ、続けて」


「豊穣神プロコポップが宇宙で最初の作物『宇宙果実』を収穫し、まるかじりした。宇宙果実は甘くて、香ばしくて、それはそれはジューシーだった。異説はあります」


「そうなのか」


「神々はあまりに美味しそうなその果実の芳香に、一瞬我を忘れ、夏と冬の間で時間が止まった。こうして収穫の秋が生まれた。異説はあります」


「へえー」


「豊穣神プロコポップは、体や衣服についた種をつまみ、ひとつひとつ吹きとばした。その種が世界中に散らばり、すべての植物が生まれた。異説はあります」


「ほうほう」


「こうして人々は、種を吹く仕草を真似し始めました。つまりこの祈りのポーズは、豊穣の祈りをあらわしているのです」


「それ、さっきとぜんぜん違わない?」


 サイモンは、思わずツッコんでいた。

 双子のシスターは、ぱちくりと目を見開いていた。

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