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スケアクロウ・ゲーム

 サイモンは山道を下り、ヘキサン村へと向かった。

 途中で何度かジャイアントスネークと遭遇したが、子どもの頃から狩っているので、ほとんど作業だ。経験値稼ぎの足しにもならない。


 霧のかかった窪地にようやく村の姿が見え、村の裏手に設置された転移結晶のオレンジ色の光が見えれば、そこはもう安全地帯だ。


 ここまでくれば、モンスターを警戒する必要もない。

 サイモンは武器を片付けて、遠くから村の様子をうかがった。


「まいったな、こりゃ相当深刻みたいだ」


 この村に出没するという『スケアクロウ』の情報を知りたかったが、村人たちにたずねようにも、人が出歩いている様子がなかった。


 マップで見ると、家の中をホワイトアイコンが動いているのはわかる。


「すみませーん、どなたかいますかー」


 だが、扉を叩いてみても、誰も返事をしてくれない。

 たぶん、『スケアクロウ』を用心しているのだろうが。


 人を襲うという話なので、手当たり次第に探し回れば、そのうち向こうから姿を現すかもしれない、と思ったのだが。

 あいにく、それらしい姿は見つからない。


 ひょっとすると、冒険者たちなら何かアドバイスをくれるかもしれない、と思ってグループにチャットメッセージを送ったが、誰からも返事がない。


「さすがに、この時間は起きてないか……」


 この世界における今日1日は、非常に短い。

 向こうの世界では深夜0時から午前1時20分までの80分間に相当する。

 ブルーアイコンの冒険者たちも起きていないだろう。


 ……と、思ったら、ピコン、と音がして、魔法使いからメッセージが来た。


「Wikiによると『スケアクロウ』は人間に擬態するモンスターだ。討伐クエストでは、村人の誰かに成りすましていて、そいつを見つけ出してから戦闘を開始することになる。ただ、イベントの詳細はAIが考えて生成するから、どの村でおこるとか、何が決め手になって変身を見破る、といった詳細は特に決まっていないらしい。気をつけろ」


「わかった、ありがとう」


「べっ、べつにお前の為じゃねーから。眠れないだけだからな」


 やはり、ブルーアイコンの冒険者たちは頼りになる。

 そう思って、街中を進んでいったそのとき、サイモンの視界に人影が映った。


 姿を目で追おうとすると、まったく反対方向から声が聞こえた。


「動かないで。貴方は何者?」


 誰かが武器を構えて、彼に狙い(エイム)をむけているのが分かる。

 視界の隅でマップを確認したが、どこにもアイコンは見えない。


 どうやら、『潜伏状態』の何者かがいたらしい。

 サイモンは、身動きが取れなかった。


 移動中も『潜伏状態』を維持し続けられるのは、スカウトスキル第1階梯『隠密』が必要なはずだ。

 相手のスカウトの階梯によっては、むやみに動くと『即死攻撃』を食らう恐れがある。

 運が悪ければそのままロストしてしまう。


斥候スカウトか? どこにいる」


「質問したのは私、先に答えて」


「俺はサイモン、この先のヘカタン村の門番だ。この村に『スケアクロウ』が出たと聞いたので、様子を見に来た」


「へー、そういうウソつくんだ? 村人たちが家に閉じこもっちゃったから」


「な、なんだ? 何がウソなものか」


「いいわ、まだ信じたわけじゃないけど、動いてもいい。少しでも変な動きをしたら、即死攻撃うつから」


 そのとき、すっと相手が動く気配がした。

 恐る恐る振り向くと、分厚い生地の防護服を身に着けた細身の女性がいた。


 手足のあちこちに傷跡があり、頬には大きなバンテージが貼ってある。

 手に持っている武器は、ボウガンだった。


 鋭利な目は、まだサイモンに信用がおけない、といった風ににらみつけていた。


 頭上に輝いている三角錐のアイコンは、青空を切り抜いたようなブルーだった。

 その隣に浮かび上がるはずの彼女の名前は、まだ知らない。

 代わりに職業が浮かび上がる。


【アサシン】


 アサシンは、スカウトの上級職のひとつ。

 魔法職よりのニンジャや生産職よりのレンジャーと比較して、より戦闘に特化したタイプだ。

 間違いなく『即死攻撃』が使える。


「あんた、ヘカタン村から来たの? ここからどっちに行った方?」


「あっちだ、このまま山を登り続けた先にある」


「その村って、どんな名物料理がある?」


「いや、ヘカタンは料理店がないから、名物料理なんてないぞ。俺が子どもの頃はヘキサンでお祭りがあるたびにお餅を食べに来ていた」


「そうなの? ふうむ、本物っぽい……」


 どうやらモンスターの擬態ならば、そのうちボロがでるような質問をしているのだ。

 相手の真意は、わかった。

 だが、サイモンは、こんな時間にブルーアイコンの冒険者に出会ったことに疑問を抱いた。


「どうしてこんな時間にいるんだ?」


「時間?」


「いま、ブルーアイコンの世界は深夜のはずではないのか?」


「なにそのメタな発言は。というかあんたに関係ないでしょ?」


 ぷう、と頬を膨らませて、怒りをあらわにするアサシン。


 サイモンは、このアサシンのことをいぶかしんでいた。

 ヘカタン村の素朴な民である彼は、リアルの世界に24時間営業の店や、昼夜逆転の生活をしている人が大勢いることを知らないのだ。


「そうか……黙秘するのか……」


 うんうん、とサイモンは頷いた。

 彼女が『スケアクロウ』である可能性が、彼の中で一気に高まった。


 ならば、とサイモンは彼女の前でメニューを開いてみせた。


「実は俺がお前たちの世界の時間を知っているのは、メニューが開けるからなんだ」


「ふーん、で?」


 アサシンの反応は淡泊だった。

 これもおかしい。

 他のブルーアイコンの冒険者たちは、天地がひっくり返ったように驚いていたのだが。


 魔法使いが『ゲームシステムの根幹にかかわる致命的なバグだ』とまで喚いていたのと比較すると、あまりにも淡泊すぎた。

 ひょっとして、彼らが普通ではなくて、こういう反応が正常な可能性もある。


「お前もメニューを開いてくれ」


「え、なに? なんでそんな事する必要あんの?」


「フレンド登録しよう」


「え? なんて、聞こえなかった」


「フレンド登録だ」


「絶対いや、お断り」


 べーっと、舌を突き出すアサシン。

 サイモンは、相手のウソを見破る方法を考えていた。


 ひょっとすると、ブルーアイコンに擬態している『スケアクロウ』なら、冒険者と同じ本物のメニューを開けない可能性がある。


 サイモンは、腰の短剣にちゃきっと手をそえた。


「そうか、お前はブルーアイコンの冒険者なのに、メニューを開けないというんだな?」

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