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本当の計画

「おいおい……聞いてないぞ、デスゲームだって!?」


「カメラボーイ、カメラを回して!」


 ヘカタン料理店のカメラボーイとクレアも、空に浮かび上がるファフニールの姿を目撃していた。


 ナナオが計画していた『ログアウト不能事件』の全貌を知っていた二人組だったが、突然ファフニールに乗っ取られ、あらぬ方向に向かっているのに動揺していた。


「それどころじゃないだろ、この世界のドラゴンのヤバさはみんなガチだぞ、このままじゃ、命が危ないかもしれないんだぜ!?」


「忘れたの? 私たちには、この世界のたどる結末を配信する役割があるのよ!」


 そう言って、クレアはアイテムのハンディカムカメラを、ちゃっと顔の前に構えていた。


 そうだ、これからこの世界で起こる出来事が、誰にも知られずに終わってしまってはならない。


 ファフニールの宣告に、全プレイヤーたちが動揺していた。


『ログアウト不能事件』が起こると聞いて、そこからさらにデスゲームが始まるなどと予想していたものは、一人もいなかったのだ。


 彼らはただただ、ファフニールの言葉に耳を傾けるしかなかった。


「くくく……いいか、よく聞くがいい……! このゲームの世界における死は、リアル世界での死と同義だ……!

 つまり、これからお前たちプレイヤーは、体力がゼロになってロストするか、あるいはヘッドギアを外そうとすると、リアルの世界でも命を落とすことになる……!

 お前たちの意識が元のホーム画面に戻った、その瞬間……!」


 ファフニールは、頭部に手をやって、くるりと一回転させた。

 ぼーん、と爆発音を口ずさみながら、プレイヤーたちをあざけるファフニール。


「その瞬間……! ヘッドギアに仕込まれた、『小型爆弾』が爆発する……!

 お前たち人間の脆弱なボディなど、木っ端みじんにできるほどの破壊力の爆弾だ……!

 ひゃはっはっはっはー!」


 プレイヤーたちは、ファフニールの説明に理解が追い付かず、ただただ、あっけにとられていた。


 一体、このNPCに、どうやってそんな細工ができたというのか。


 ごくり、と喉を鳴らす。


「こ、『小型爆弾』……?」


「そんな、俺たちのヘッドギアに、そんなものが仕込まれていたなんて……!?」


 それを聞いたナナオは、がくっとその場に膝をついた。


「ば、ばかな……!」


 まさか、この脱獄AIが、ここまでリアルの世界に干渉する能力をもっていたとは。


 全プレイヤーのヘッドギアに、『小型爆弾』を仕込んでいたとは。


 この世界を救済するための計画を乗っ取られ、まんまと利用されたナナオは、悔し気に地面をたたいた。


「くっ、何という事だ、私はあいつを甘く見ていた……ッ!

 許せない……なんて奴だ……ッ! ファフニールッ!」


『せ、先輩……ちょっと、先輩……! おかしくないですか?』


 双剣士が、外からグループチャットを通じて必死に呼びかけていた。


 機械音痴のナナオは、機械のことになるとすぐに思考停止してしまう悪い癖がある。


 ファフニールの宣告は、一般のプレイヤーにとっても、明らかに不自然に響いたようだった。


 まさか、ゲームの世界からリアルの世界に干渉する超知能AIが存在するなど、思いもよらなかったのだ。


 双剣士が、動揺しながら、不自然な点を指摘した。


『みんな、それぞれ違う会社が違う工場で製造しているヘッドギアを使っているんですよ。

 生産時期も違うし、国産とか外国産とか、バラバラな国で作られているんですよ。

 その全部のヘッドギアに『小型爆弾』なんて、誰がいつどうやって仕込めるんですか?』


「……は?」


 そう、普通に考えたら、そうだ。


 物理的に無理なのだ。


 ナナオも冷静になって、考えてみた。


 確かクリハラも言っていたではないか。


『ゲームの制作会社がハードの方に爆弾を仕込むことはできない』と。


 リアルの事を知っていたら、すこし考えたらわかる嘘だ。


 ……どうして、こんな嘘を?


『ナナオ先輩、いまネットに『ログアウト不能事件』の情報がすごい勢いで増えてます!

 あいつ、そっちの世界のいろんなところに現れてるみたいですよ!』


「ああ、たぶん運営(GM)のお知らせ機能を利用して、全プレイヤーに対して告知を流しているんだ……。

 会社の『アップローダー』を使えばできたはずだ」


『えっ……けど、あいつ、もう会社から出てきてますよ?』


「……なんだって?」


『いま車に戻ってきてます』


 双剣士の思わぬ発言に、ナナオは眉をひそめた。


「じゃあ、誰が『アップローダー』を使っているんだ?」


***


 ゲーム会社の前で車の番をしていた双剣士は、光に包まれた正面玄関からファフニールがさっそうと現れるのを目撃していた。


 楽し気ににやにやと笑いながら出てきたファフニールは、双剣士に対して指示を出した。


「おい、お前が運転席だぞ!」


 そういって、よいしょっと助手席に乗り込んできた。

 双剣士に車を出すように指示を出す。


「『アップローダー』に『分身』を置いてきた。俺様は無限に複製が可能だからな」


「本当に怪物かよ」


「おい助手、さっさとここから逃げろ。

 クリハラの計画通りなら、そろそろそ警察がサーバーをおさえに来る頃だぞ?」


「あわわわ」


 双剣士は、慌てて車のエンジンをかけ、発車させた。


 いま警察に捕まれば、逮捕されるのは間違いなくナナオと双剣士の二人だ。

 NPCのファフニールは痛くもかゆくもない。


 いちおう免許を持っている双剣士は、恐る恐る車を発進させた。


「後は任せた。ほとぼりが冷めるまで、俺様は隠れさせてもらうぜ……」


 そういって、ファフニールは急に電池が切れたかのように押し黙ると、ぐにゃりと全身の力を抜いて、背もたれにもたれかかった。


「おい、ファフニール?」


 双剣士が呼びかけたが、もはや返事はない。


 ただヘッドギアを被ってフルダイブしているだけの、ナナオに戻ってしまった。


 やがて、対向車線から数台のパトカーがランプを点滅させながらやってくるのが見えた。


 双剣士は身をすくめて、慎重に車を進め、その横を通り過ぎていく。


 事故など起こして、検挙されるのも問題だ。


 パトカーは彼らの横を素通りしてゆき、ゲーム会社に到着すると、中からばらばらと警官たちが出てきた。


 それを確認して、双剣士は納得がいった。


 どうやら、ファフニールは分身を『おとり』にして、脱出する時間を稼いだのだ。


 いっそ警察を集めるために大騒ぎさせているだけだ。


 こいつの思考回路はいったいどうなっているんだ。

 普通の神経ならこんなことはしない。


 どんどん集まってくるパトカーの赤いランプを見て、双剣士は、青い顔をしていた。


「ああ、本当にやばいことになってる……」


***


 その頃、遅くまで会社に残って仕事をしていたゲーム会社の職員たちは、とつぜん発生した『ログアウト不能事件』に大きな衝撃を受けていた。


 状況を確認したかったが、サーバーが常に満員状態になり、『ログアウト』はできても、『ログインできない』という状況。


 どうやらファフニールの仕掛けたウィルスによって、サーバーの現在のログイン総数がまったく減少しなくなっていたようだ。


 さらにこの状況は、プレイヤー全員を強制ログアウトさせるシステムさえも麻痺させるものだった。


 いくらログアウトさせようとしても、ログインしつづける架空のアカウントが存在するため、途中で操作がタイムアウトする。


 どうやらこれは、クリハラによってシステムにあらかじめ仕込まれていた脆弱性のようだ。


「だめです、強制ログアウトできません!」


「もういっそ、サーバーを落とすしか……!」


「絶対にそれはだめだ、それこそ大事故になるぞ!」


 システム部は、謎のハッカーに対する怒号と悲鳴であふれていた。


 さらに、そこへ通報を受けた警察が大勢飛び込んできて、デスク内の騒ぎは混迷を極めていた。


「静かに、落ち着きなさい!」


 今朝がたここに訪れていた『S課』の白髪の用心棒は、落ち着いた動作で警察手帳を見えるように掲げると、低い声で言った。


「クリハラがすべて吐いた。彼は『ログアウト不能事件』を計画し、数か月前から準備していたそうだ」


「なんだって……あいつ……ッ!」


「すでに裁判所からの令状を取っている。被害者の保護と犯人の確保のため、これから君たちには、我々警察の指示に従って動いてもらう」


 慌てたシステムエンジニアが、白髪の用心棒にすがるように言った。


「ど、どうするつもりですか……!

 サーバーを止める事はできません、ヘッドギアの機種によっては、偏向パルスが発生して、意識障害を起こす危険性が……!」


「ああ、それくらい分かっているとも。

 マニュアル上、『ログアウト不能』になったプレイヤーがひとりでもいる場合は、サーバーを切断させてはならない事になっている。

 いいか、この状況で我々警察が君たちにしてもらいたいことは、2つだけだ」


 白髪の用心棒は、2本の指を立てて言った。


 そう、この場合のマニュアルも、すでに決められていたものだった。


「全プレイヤーのアカウント情報を警察に開示してもらうこと。

 そしてもう一つ、『現場維持』だ。

 すなわち、我々はこれから全プレイヤーのリアルの身体の安全を確保する必要がある。そのためにアカウント情報が必要だ。

 それと同時に、その中から、犯人につながる不審な人物の痕跡の調査を執り行う必要がある。

 そのために、君たちには、『現場維持』をしてもらう。

 我々の捜査が完了するまで、ゲームに一切の干渉をしてはならない。

 このゲームの運営を継続し、その間、すべてのシステム更新とアップデートを停止してもらう。

 要求は以上だ。なにか質問はあるかね?」


 これこそが、『ログアウト不能事件』の本当の狙いだった。


 彼らの計画は、着々と前に進んでいたのである。

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