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59の次は00になる

 冒険者ギルドの受付カウンターに、どかん、と音を立てて大きな麻袋が置かれた。


 思わずやってしまったあとで、サイモンは、しまったと思って、眉をしかめる。


 複数のアイテムを同時に選択して出すと、このように袋に入った状態で出てくるらしい。

 メニューのアイテムリストの仕様だった。


 内容物のあまりの重さに、小柄な受付嬢が、その振動で軽く飛び跳ねた。


 袋の陰から、サイモンは、申し訳なさそうに言った。


「すまん、あまり慣れていなくて」


「あ、いいえ、よくあります。ええと、こちらは……」


「オーガの耳だ。確認してくれ」


「は、はい。ただいま」


 カウンターに置いてあるベルを、チリンチリン、と鳴らすと、血なまぐさいエプロンを身に着けた男たちが、奥からぞろぞろとやってきた。


 またオーガの群れに出くわしたかのように、冒険者たちはたじろいだ。

 裏方の男たちは、巨大な麻袋を大勢で担ぎ、台車に乗せて奥に運んでいく。


「すげぇ、大物の場合はこんな演出があるんだな」


「エアリアルの時は、受付嬢が鑑定魔法つかって一瞬だったのに」


「量が量だからな、そうもいかないだろう」


 冒険者によって持ち込まれた討伐部位は、ギルドに隣接している倉庫の床に並べられ、ひとつひとつ鑑定を受ける。


 ドアの向こうに、大勢の裏方が作業している様子が見えたため、サイモンはシーラの姿が見えないかと身を乗り出した。


「鑑定が終わるまで、しばらく向かいの酒場でお待ちください。1杯無料でご提供しますよ」


「やった、サイモン、何飲む?」


「俺はコークでいい」


「俺も。じゃあ3つ頼むか」


『オーガの大群』を、最後の一匹になるまで狩りつくした、サイモンとブルーアイコンの冒険者たち。

 彼らは、そのまま討伐部位を持って、港町の冒険者ギルドに足を運んでいた。


 国王軍の兵士たちも途中まで一緒だったのだが、サイモンたちが冒険者ギルドに立ち寄ると聞くと、名残惜しそうに別れたのだった。


「すまないが、我々は冒険者ギルドに近寄ってはならないんだ。領主から厳命されていてね」


「そうなんだ。冒険者ギルドと国王軍って、仲が悪いの?」


「まあ、いろいろと複雑な事情があってね。この港町のギルドは、みな領主に対して反抗的だし。とくに冒険者ギルドは、戦争への参加を手ひどく断ったらしくて、恥をかかされた領主から目の敵にされているんだ」


 へー、と納得するブルーアイコンの冒険者たち。


「サイモン、知ってるの?」


「そういや聞いたことがあるな。ギルド長が領主の使者をフレイムソードで斬り飛ばして、1人は屋根からつるし上げて、もう1人は玄関から投げ飛ばして、残りは犬をけしかけて追い返したとかなんとか」


「ぜったい話に尾ひれついてるよね。本当に冒険者ギルドの話なのそれ」


「そのくらい強くてお金にうるさい組織だってことだよ。最後の1人を解放するときも、『冒険者に頼みごとをするときは、まずは金額を提示しろ、ベイビー』と言って返したそうだ」


「ギルド長どんなキャラなんだろう。そういや、サイモンは兵士じゃなかったっけ、冒険者ギルドに入っても大丈夫なの?」


「たぶん大丈夫だろう。俺の部隊はずっと西の方のケインズ伯爵領にあるから、ここの領主とのつながりがそもそもないんだよ」


 サイモンは肩をすくめ、冒険者たちは、ほっと胸をなでおろした。


「なんだ、そんなもんか」


「つまり、いまは同じ敵がいるからひとつの国だけど、もとは薩摩藩と長州藩ぐらい温度差がある、みたいな?」


「知らんが、たぶんそれだ」


「おまちどうさま!」


 酒場のテーブルについてまもなく。

 コークがなみなみと注がれたジョッキが、彼らのテーブルにどん、と置かれた。

 通路側の席に座ったリーダーの剣士が、慣れた手つきで3人に手早くジョッキを配る。

 魔法使いは女の子の給仕に「すみませーん、お手拭き3枚くださーい」と言っていた。

 どうやら見た目より年かさがいっているらしい。


「そういえば、あと一人、女戦士がいたはずだが?」


「あ、女戦士は元の世界に帰っちゃって、今はいない……」


「もう3日も経つが、なにかあったのか?」


「うーん、リーダー、なんて言えばいいんだろう?」


「俺たち3人は、元の世界では全く違う生活をしているんだ。住むところもケインズ領と港町みたいに離れてる。この世界に来ている間だけ、一緒に戦う約束をしているチームなんだよ」


「そうそう、そういう事。けれど女戦士は……ここ以外の、他の世界にも行かないといけないんだよ。カビゴンと約束しているから」


「だから、そういう事は言うなって……」


 サイモンは、手をすっと挙げて、2人の話を遮った。

 彼らが『何かに気を使って話している』ことは、サイモンにも分かった。

 けれど、それは結果として、真実をひどく歪めてしまうものだ。

 サイモンの聞きたい事ではない。


「たのむ、『本当のこと』を教えてくれないか。俺にお前たちの言葉を理解できるかどうかは分からんが、それでもここからは、お前たちの自然な言葉で話して欲しいんだ」


「ええ……と、それは、つまり……?」


 冒険者たちは、思わぬサイモンの注文に戸惑った。

 サイモンは、メニューを開くときのジェスチャーをしながら言った。


「俺は、お前たちの言うメニューが開けるようになった。使い方も少しずつわかってきたところだ。俺はこの機能をもっと知りたい」


 サイモンの目の前に、冒険者たちがよく使う板、メニューウィンドウが浮かんだ。

 すると、冒険者たちは椅子から飛び跳ねるほど驚いた。


「えーっ、サイモン、メニューが開けるようになったの!? うそお!」


「おいおい……おいおいおいおいおいおいおいおい、そんな事ってあるのかよ? なんだよ、この特殊イベントは!? ゲームのNPCが自分から世界観をぶち壊しにきてるぞ!?」


「さあ、このゲームの仕様の事なんか、俺が知るわけないよ……それにキャラクターが自分から世界観をぶち壊すのは、インディーズでよくあるパターンじゃないか?……ただ、普通のNPCでメニュー使ってる奴が今までいなかったっていうだけで、機能的には可能だったんじゃ……」


「そのメニューに関して、教えて欲しい事がいくつかあるんだが」


 サイモンの言葉に、2人はそろって口をつぐんだ。

 メニューをつついてくるっと反対側に向けると、板のすみっこを彼らにも見えるように指さした。


「メニューの端にいつも表示されているこの数字なんだが……どうして59の次は00になるんだ?」


 それは今も刻一刻と変化しつづけている、十数桁の数字の羅列。

 ブルーアイコンは誰でも知っているが、この世界の者は知らない。


「どう……」「して……?」


 冒険者たちは、顔を見合わせた。

 彼らも「そう言えば、どうしてだろう?」という顔をしていて、ああ、これは誰も知らない奴だな、とサイモンは理解したのだった。

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