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冒険者たちの密談

 リアルの世界では、17時30分。

 サイモンの世界では、朝のひととき。


 オーレンが店長を勤めるヘカタン村の料理店では、ブルーアイコンの冒険者たちが顔を突き合わせていた。


 女戦士は双剣士と共に店に入ると、かなり疲れてぐったりした様子で椅子にもたれ掛かり、犬のような耳をへたりと垂れ下げていた。


「あ~、死ぬかもしんない」


 つい先ほどゾンビの強襲を受けてロストした女戦士は、すっかり青ざめていた。


「あんなのもう戦いたくない。次は戦う前にログアウトしちゃうかも。一般家庭ではもうすぐご飯だし、お食事の時間にあれはよくない」


「それが普通の反応みたい。プレイヤーのログイン数が極端に減っている。Webサービスにとっては致命的かもしれない」


「というかさ、ゾンビになるんじゃなくて、もうちょっと可愛いマスコットキャラになるとかでもよかったんじゃないの?」


「ドラゴンに化けるのはもう既にやってるから、差別化がなかなか難しい」


「おうおう! 双剣士じゃねぇか!」


 そのとき、鎖をじゃらじゃら巻き付けた鎧の男がやってきた。

『ジズ』との戦闘に協力してくれていた上級冒険者のグループだ。

 彼らはいつもの3人組と共に同じテーブルの席に座ると、双剣士と真正面から向かい合った。


「『ジズ』討伐の首尾はどう?」


「ようやく4分の3まで削ったが、昨日はだめだ、まるで削れなかった」


 鎖の男は、ごくごく水を飲んで言った。


「たまにドラゴンが邪魔しにくるのは前からあったけど、昨日はドルイドが欠席してて、体力上限を削る呪いがかけられなかった」


「よんだ~?」


「ドルイド、いたのか……って、なんだ、その恰好は?」


 羊の角を持ったドルイドは、メイド服を身に着けて給仕をしていた。

 手足が極端に細くて、見たことのないくらい不健康そうなメイドだったが、にへらと笑って声だけは上機嫌だった。


「へっへっへ~、カメラボーイがいいバイト紹介してくれたんだ~。

 だって薬草を手に入れるだけなら、お金かせいで買えばいいじゃんね~」


「くっそ、上手いことゾンビ戦から逃げやがって……」


『ジズ』の背中から振り落とされた上級冒険者たちも、その次に直面したゾンビ戦に恐怖を抱いていたらしかった。


 ロストした彼らが『始まりの石盤』から再ログインした時には、港町はゾンビに埋め尽くされ、まともに通ることすらできなかったのである。


「別のゲームにログインしたのかとおもったぜ。

 今日はレイドパーティのメンバーも極端に減っている。みんなあのゾンビが強烈に刺さったみたいだ」


「もうそろそろご飯の時間というのもあるけどね。

 こういう時は、低レベルプレイヤーでもいいから参加して欲しいのだけど、低レベルプレイヤーは誰のせいとは言わないけど『ジズ』に近寄らなくなったから」


「うむ、誰のせいとも言えないでゴザル」


「こんな展開になるなんて誰も思わないだろ」


「言い争いをしている場合じゃない、なんとか体勢を立て直す方法を考えよう」


 双剣士は、言った。


「『聖法師セイント』のスキル『浄化ピュリファイ』は、アンデッド系全般にささるはず。ゾンビとの戦闘ではかなり有効なはず。

 このスキルを一般プレイヤーに広めよう。ゾンビとの戦闘が楽になれば、意識も少しは変わるはずだ」


「『聖法師セイント』なんてレアすぎてほとんど誰も転職できないぞ?」


「心配ない、魔石のひとつ『神代かみしろの石』は、魔法効果を封じ込める素材アイテムだ。

浄化ピュリファイ』のスキルを封じ込めた石を使って、鍛冶師スミスが100個以上の装備を制作すれば、一般市場にも流通させることができる」


「その魔石はどうやって手に入れるの? ゾンビ対策する前に、ドラゴン対策をした方がよくない?」


「魔石なら、すでにある」


 双剣士は、頭の後ろのコンソールを操作すると、テーブルの上にごとん、とこぶし大の石を呼び寄せた。

 明らかに普通のプレイヤーには不可能なテクニックに、上級冒険者たちは息をのんだ。


「すげぇ、やっぱりこいつ、本物のチーターだな」


「美少女天才ハッカーなんだよね」


「……」


 双剣士が返答に困ってしまったのを、女戦士は、おやっと眉をひそめてみていた。


 双剣士は、このゲームの世界に存在するアイテムを自由に呼び出せることができた。

 次々とレアアイテムを呼び出すこの能力のお陰で、上級冒険者たちの信頼を得ることができたのだ。


 しかし、双剣士の中身であるナナオは、じつは運営(GM)である。

 ハッキングなどしなくとも、運営(GM)権限を使えば同じことができるのではないだろうか。


「さあ、急いでこれで武器を作ろう。このゲームが『ログアウト不能』になるまで、時間がない」


「双剣士……聞きたいんだが、それが起きるのは具体的にいつ頃なんだ?」


「その時が来たら伝える。秋アプデまで残り32日もある。悪いけど、今は君たちをそこまで信用できるわけじゃない」


「むう……仕方ないな」


「わたしにも石ちょうだい~。なんか使ってみる~」


 上級冒険者たちはしぶしぶ折れたようだったが。

 女戦士は、早口でまくしたてる双剣士を見ながら、不意に思った。


 この人は何を考えているのだろう。

 彼女の中で、ナナオという人物のロールプレイがうまく像を結ばない。


 ……本当に『ログアウト不能事件』は起こるのだろうか?

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