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山中の死闘

 サイモンが麓の街を目指して山を降りていくと、不意にどこからか悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃあああ!」


 サイモンは、ぴりりと神経を研ぎ澄ませた。

 視界の隅に浮かび上がるマップに目を走らせると、複数の白いアイコンが一塊になって移動している。


 そしてそれを取り囲むように、赤いアイコンがうじゃうじゃとひしめいていた。

 みたところ、登山者がモンスターの群れに包囲されているらしい。


「まずい……!」


 相手が誰であるのかは、この際関係ない。

 サイモンは、短槍を抱えてそちらに向かった。

 木々をかき分けて、悲鳴の聞こえた場所まで駆けつけると、鎧を着た兵士たちがオーガの群れと交戦していた。


 国王軍の旗を掲げている、例の軍隊だ。


 ほとんどが新兵か、徴兵されたばかりの経験の浅い者で構成されているのだろう、突然の奇襲に戸惑い、連携を乱していた。


 前回のルートでは、こんな事は起こらなかったはずだ。

 彼らはこのまま進んで、山の中腹で野営をするはずだった。


 さきほど商人が言っていた、『山にオーガが出現するようになった』という言葉を思い出す。


 サイモンは、気づいた。

 そもそも『山にオーガが出現するようになった』などという話も、あの時はじめて聞いたではないか。


『エアリアル』の存在が消えた代わりに、『オーガ』が出現していたことになっている。


「一体、どういう理屈なのかは知らないが……!」


 サイモンは、短槍を構えると、オーガに向かって突進した。

 体当たりするように胸を突き、襲われている兵士から引きはがす。


「あんたは!」


「ヘカタンの門番、サイモンだ! 助太刀する!」


 兵士は、サイモンの登場に驚いていたが、味方だと分かると、すぐに立ち上がった。

 巨大なオーガに対して槍を突きつけ、こん棒による鈍い一撃をさばく。


 オーガは1体で兵士数名ぶんの力をもつ魔人種だ。

 数名がかりでようやく動きを止めることができた。

 しかも、異様に数が多い。

 1体倒しても、山のどこかから続々と押し寄せてくる。

 兵士たちのリーダーらしき男が、サイモンに言った。


「助太刀だと、1人か!? この数が相手ではとても無理だ、村から増援を呼んでくれ!」


「悪いが、村には老人か子供しかいない! ゆいいつ戦える男が俺だ!」


「まったく、運がいいのか悪いのか!」


「あと、俺は療養中の負傷兵だからあまり戦力に期待するな! 1体ずつしか相手にできないぞ!」


 サイモンは、咆哮をあげて突撃してくるオーガを真っ直ぐに見据え、槍で真正面から立ち向かった。


 勝算はあった、サイモンには、冒険者時代に培った槍スキル8階梯がある。

 スキルポイントを消費して、槍スキル第6階梯【紫電突】が発動する。


 サイモンの体から紫色の電光がほとばしり、一瞬にして10メートルの距離を詰め、閃光のような光をまとった槍でオーガの肩を粉砕した。

 反動で10メートル吹き飛ばされたオーガは、白目をむいて倒れ、そのまま意識を失った。


「サイモン先輩、素敵です!」


「あとで所属部隊おしえてください、サイモン先輩!」


「しまった……うかつに喋るんじゃなかった」


 あまり注目を浴びるのが苦手なサイモン。

 どうやら、この兵士たちは本当に国王軍だったらしい。

 前線の兵士だったサイモンよりレベルは劣るが、ニセモノではない。

 山に一体何の用事があって登っているのかは気になるところだったが、とにかく不安の1つは解消された。


 だが、味方と分かったところで、多勢に無勢であることには変わりなかった。

 サイモンが交戦中のオーガを引きつけて、兵士たち数名を撤退させるので手一杯。

 全員は守り切ることができない。

 このままジリ貧になるくらいならば、いっそ全員でオーガの群れに突っ込んで、包囲の外に逃げ道を作った方がいくぶん希望が持てる。


「司令官はどこだ!?」


「先に戦線から離脱した! 麓から増援を呼んでくるはずだ!」


「なら、ここはもう逃げの一手だ……! 伍長、兵士を一ヵ所に集中させろ! オーガの群れに突撃するぞ!」


「ちくしょう、生き延びたらまた会おう!」


 伍長もそれしか手がない事は、とっくに分かっていたのだろう。

 すぐに全員に指示を出した。


 兵士たちが連携を取り戻し、訓練された動きで矢じりのような陣形を組んだ。

 敵の分厚い隊列に穴をこじ開け、道を切り開くための陣形である。


 包囲を突破するのに失敗すれば一網打尽になるが、そんなことは誰もが理解している。

 兵士たちの顔にも、悲壮感が漂っていた。


 そのとき、山林の奥深くから炎の渦が巻き起こった。


 炎の渦はオーガの群れを背中から包み込み、レッドアイコンから体力ゲージをはぎ取っていく。


「広範囲【火炎魔法フランベ】だと……! 一体、誰が!」


 炎の渦が放たれた方を見やって、サイモンは鳥肌が立った。

 白いアイコンが複数、麓から山を登ってきているのが見える。


 これは、サイモンが何度も何度もあってきた、昇りの乗合馬車だ。

 マップで確認すると、いつもの御者と5、6名の乗客。

 そしてそこに、いままで見なかった『青いアイコンの乗客』が2人乗っていた。


「おーい! サイモーン!」


「こんな所でなにやってんだー!?」


 馬車から立ち上がり、身を乗り出している少年が2人。

 鎧を身にまとった剣士のリーダーと、メガネの魔法使いだった。


「お前ら……」


 驚愕に目を見開くサイモン。

 ブルーアイコンの冒険者は、首に提げていたネームタグを引っ張り出し、高く掲げた。


 赤紫色のDランク。


 もはやFランクではなかった。


「お前らいったい何者なんだ!?」


 驚異的な早さだ、この2日間で2ランクも上がっている。


 サイモンがあっけにとられていると、剣士のリーダーは新調したらしい細身の剣を振り回しながら、馬車よりも先に飛び出していった。


 訓練された犬のように山中を駆けめぐると、オーガが竜巻か何かにはね飛ばされたように、突然宙を舞った。


 双剣スキル第4階梯、【クライスラー・ソード】。

 風の力を刀身にまとい、一度の攻撃で複数回のランダムなダメージを敵に与える。


 2本の剣を振りながら、剣士のリーダーはサイモンの隣までやってきた。


「いい剣だ」


「いいだろ? エアリアルの素材で作ったんだ。Wikiに……じゃなかった、とある冒険者の先輩に合成レシピを聞いてさ」


「お前たちには、聞きたい事が山ほどある……だが、立ち話はこの難局を乗り越えてからにしよう」


「ああ、討伐報酬は、山分けでいいな?」


「なに?」


 サイモンが、驚いて剣士のリーダーを見た。

 リーダーは、「知らないの?」という顔をして、にんまり笑った。


「僕たちは冒険者だ、『オーガの大群』の討伐依頼を受けて、山までやってきたんだよ!」

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