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それぞの秘策

『ジズ』の討伐クエストにおいて、上級冒険者たちはまだレベルの低い冒険者たちを追い払おうと躍起になっていた。


 本気で討伐することを考えての行動なのはわかるが、かなり過激なふるまいだった。

 そのうちサイモンも追い出されるのではないかと気が気ではない。

 だが、冒険者たちはサイモンにだけは決してそんな事をしなかった。

 それどころか、疑いをかけるサイモンに対して、にやにや笑っていた。


「いったい何を言ってるんだ? このゲームは主役のお前がいないと始まらないだろうが」


「休んでないで、『ジズ』を叩くぞ!」


 上級冒険者たちは、一斉に『ジズ』への猛攻撃を始めた。


『ジズ』のライフゲージは、今回は4分の3まで欠けていて、いま再び減りはじめるところだった。


***


 彼らがサイモンの事を主役と言ったのは、じつははじめてではない。

 先ほど山中で会ったときも同じように言われ、サイモンは戸惑っていた。


「俺が主役だと? お前たちは一体、何のゲームをやっているんだ?」


 サイモンは、この上級冒険者たちとの会話を思い出していた。

『ジズ』の討伐を呼び掛ける動画を撮影しよう、という話になったときだ。


「やっぱり、主役が真ん中だろう」


 と言って、サイモンを真ん中に立たせようとして、サイモンはそれを断ったのだ。


 面識のない上級冒険者たちが、どうしてサイモンの事をここまで信用できるのか。

 ずっと不思議で仕方がなかった。


 NPCがウソをつくのではないか、という疑念を誰かが抱けば、この関係は揺らいでしまうはずだ。


 サイモンが『ドラゴン』である事を隠していたと知ってしまえば、たちまち信用を失って、離れていってしまうはずだった。


 鎖鎧戦士は、声を潜めて言った。


「つい昼頃、アップデートの予告情報があったんだ。当然俺たちはそれもチェックしていたが……サイモン、ヘカタン村はもうすぐ地図から消えるんだってな?」


「……」


「お前がどれだけあがいた所で、たぶんこの予定されたアップデートは変更されないだろうよ。今ある村は、今さらどんな変化があっても滅びた村に差し替えられる。

 そうしたら、門番のお前も、その他大勢の村人と一緒に消えるんじゃないか? オーレン料理店はどうなるか分からんけどな」


「そうか……」


 サイモンは、彼らの口から決定的な事実を突きつけられて、気を落としてしまった。


 ソノミネは、運命を変えるために戦えと言っていたが、あれはウソだったのだ。

 思えば、戦えば運命が変わるなどとは、一言も言っていない。


 もうすでに未来は決定していて、変更される可能性など、最初からなかったのだ。


「ふっ、なるほど、どうせ消えるのなら、最後は兵士らしく戦って死ねということか……厳しいな」


 サイモンは、自虐的にわらった。

 負傷兵として戦場から逃げのびて、今までずるずると生き続けてしまった。


 そのうち、この村が好きになり、この村と共に生きようとしていた。

 だが、それは彼に許されない事だっのだ。

 サイモンは門番として、最後まで戦って名誉の死を遂げることを期待されているのだ。


 そう思ったのだが。

 上級冒険者たちは、青ざめてぶるぶる首を振った。


「えっ、なにその野蛮な発想? 俺たちのだれが得するの」


「なに、ちがうのか?」


「ちがうちがう。『秘策』があるんだ……アップデートが邪魔なら、アップデートを止めてしまえばいいだろ?」


「……」


 ブルーアイコンの冒険者たちは、ほんとうに変な連中だ。

 サイモンには、まったく異次元の発想だった。


「……アップデートは、止められるのか?」


「ああ……じつは、過去にアップデートが止まった大事件があってな……その事件をもう一度、俺たちの手で起こすんだ」


 サイモンにはよく分からなかったが、上級冒険者たちは、にやついていた。


「俺たちゲーマーの間では有名な事件だ。ある日突然、メニューから『ログアウトボタン』が消えたら、俺たちはどうなると思う?」


「……リアルの世界に戻れなくなるのか?」


「そうだ、数千人のプレイヤーがリアルの世界に戻れなくなる事件。通称『ログアウト不能事件』だ」


 上級冒険者たちは、その事件がこのゲームでも起こる、と断定した。

 まるでアップデートのように、予定されているかのようだ。


「俺たちは身代金を要求する犯人の計略にはまり、このゲームの世界にとらわれ、人質になる。その間、このゲームは一切のアップデートが起こせなくなる。

 あとは『ジズ』だろうと『ドラゴン』だろうと、襲い来る脅威さえ滅ぼしてしまえば、お前の村は滅びない。そのまま存続しつづけるはずだ……」


「まってくれ……」


 サイモンは、首を振った。

 ブルーアイコンの冒険者たちにとって、この世界はただのゲームの世界だ。


 彼らにとっては、この世界よりもリアルの世界の方がずっと重要なはずだ。

 リアルの世界に戻れなくなるというのに、なぜ平気でいられるのか。


「どうして、そこまでしてくれるんだ?」


「まー、俺たちも公式のアプデにあんまり期待が持てなくなったというか……じつはメインストーリーの方なんだけど、主人公2人が抜けてて、内容がかなりグダグダなんだよ」


「誰のせいとは言わないけど、主人公2人がいないんだよね」


「うむ、誰のせいとも言えないでゴザル」


 騎士団長アスレを邪魔するためだけに『ドラゴン』を見逃した上級冒険者たちは、それぞれ誰のせいとも言えない、と繰り返していた。


「それに、お前を主役にしたこっちのゲームの方が面白そうだったからな……発案したやつの考えはわからんが、お前もよく知っている、とあるプレイヤーからの『リーク情報』だ」


「誰だ?」


 サイモンのために動いてくれたブルーアイコンの冒険者がいた。

 一体誰なのか、サイモンには見当もつかなかった。


「『ノルド』っていう双剣士だ。そいつがお前の為に、この『ログアウト不能事件』を計画しているらしい。

 まだゲームを始めて1日の初心者だそうだが……あいつはとんだ食わせ物だぜ」


 それはサイモンもよく知っている、三人組のリーダーだった。

 上級冒険者たちは、つい先ほど、デバッグが終わった直後ぐらいに双剣士に会ったそうだ。

 サイモンも驚いたが、上級冒険者たちもこの計画を打ち明けられて、最初は信じられなかったという。


***


 そうして、村を破壊する『ジズ』の攻略方法を掴むために、上級冒険者たちは戦いはじめたのだった。

 冒険者たちは、『ジズ』に最大の攻撃を繰り返し、夜空に熱気が登っていた。


 彼らの戦闘に参加しながら、サイモンは、ふと疑問に思っていた。


(まてよ、双剣士は確か……)


 双剣士から聞いた情報と噛み合わない。

 リアルの世界では、どこか遠い場所で勉強していて、家から移動だけで2時間はかかると言っていた気がする。


 つい先ほどこの世界にいたというのは、どういう事だろうか?


 サイモンにその辺りの事情はよく分からないが、なにか方法があるのかもしれない。


「転移結晶でも使ったのか……とにかく、俺も戦い続けるしかないな」


 やがて『ジズ』が羽ばたき始め、冒険者たちを背中に乗せたまま、空に昇りはじめた。

 サイモンは、槍を硬く握りしめ、深く息を吐いた。

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