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乗り込み制限

 世界の果ての島は、凄まじい数の冒険者たちによって埋め尽くされていた。


 島の周囲には船が何艘も浮かんでいて、上陸することすらできない人員が乗っている。


 上陸の遅れたサイモンたちの船も、それは同じだった。

 同じ船に乗っていた冒険者たちは、ぶぜんとして唸っていた。


「おいおい、集まりすぎだろ……これじゃ、『ジズ』の背中にも乗れないんじゃないか?」


 宣伝が予想以上に広まったせいで、宣伝をした彼ら自身が参加できないという理不尽な事態が起こっていた。


「まだ夜のピークじゃないのに、島がもうキャパオーバーだ」


「現在の同時ログイン数は1200人、ほぼほぼ全員がここに集まって来ている」


 そしてまもなく、時刻は午後16時になった。

 上空に輝く三日月の明かりがふっと消え、島の喧騒がふっと静まり返る。

 見上げると、信じがたい巨大さの鳥が上空に浮かんでいた。


 東西の水平線まで届く、虹やオーロラのような自然現象と同列のものを見ているかのような、信じがたい広さの翼。

 クチバシには醜いツギハギだらけの怪物、『ファフニール』をくわえていた。


 冒険者たちが多すぎて気づかなかったが、島に産み落とされていた卵からヒナが誕生し、けたたましい鳴き声を上げた。


「ピィィー!」


「かかれーッ!」


 ヒナのすぐそばにいたプレイヤーたちは、ヒナを一斉攻撃し始めた。

 だが、ずば抜けた高さのライフゲージを持つヒナには、まるで効いた様子がない。


「あーあ、初心者どもが。ヒナは叩いても無駄だ!」


 異大陸で『ジズ』を相手にたたかってみた事のあるプレイヤーは、言った。

 このヒナは、レイドボス並みの体力を持っているが、レイドボスではない。


『ジズ』は、島が人間で埋め尽くされていようが意に介した様子もなく、島に降り立った。

 300名のプレイヤーが『ジズ』のニワトリのような足の下敷きになり、マップ上からもそのアイコンが消失した。

 着地の衝撃で大量のプレイヤーたちが押しのけられ、海に放り投げられていた。


「デカすぎんだろ……! 足しか見えない……!」


『ジズ』は前かがみになり、『ファフニール』をヒナに与えた。

 ヒナはためらいもなく食いつくと、ごくりと丸のみにした。

 こんどは成長することなく、割れた殻が時間を巻き戻すように復元し、再び元の形を取り戻し、卵に戻ってしまった。


 どうやら、特定のイベントで倒した『ドラゴン』でない場合は、ヒナは成長せず卵に戻るらしい。

 ファフニールのイベントはすでに攻略されているため、2回目は起きない。


「……いまの、なんか凄い『ドラゴン』じゃなかったか?」


「どのみち野生の『ドラゴン』だろ、このエリアで探せば出てくるんじゃないか」


 卵がダメージをまるで受け付けなくなると、今度は着陸した『ジズ』に攻撃が集中した。

 プレイヤーたちは『ジズ』の足をひたすら攻撃しているが、魔の山に登れなかった初級プレイヤーたちも参戦しているらしく、まるで効いているようには見えない。


 さらにマズい事に、『ジズ』は彼らを攻撃する様子がない。

 上級冒険者たちは、次々とスキルを使って背中に飛び乗っていくが、飛び登れなかった冒険者たちが足元に大量に残って、渋滞を起こしていた。


「おいおいおいおい! どうなってるんだ! 主戦力が背中に乗れないぞ!」


「まずい、完全にやり方をミスった」


「あはははは! どうする? ここで80分くらい順番待ちする?」


 いまだ船から上陸すらできない上級冒険者たちは、せっかく島にたどり着いても攻撃することが出来ず、いら立ちの声を上げていた。


「フレイムドラゴン戦のときは、こんなことなかったよね?」


「しまった、フレイムドラゴン戦の時は、ボスが前に群がった雑魚を消し飛ばしてくれてたんだけど……」


「『ジズ』戦では雑魚が生き残って、そのまま肉の壁になるのか……めんどくせぇ」


 本来、レイド戦を想定したモンスターは、プレイヤーにストレスがかからないよう、戦いやすく設計されているのだ。

 だが、『ジズ』はそんな想定がされていないし、むろん戦いやすい設計などされていない。


 背中に飛び乗ることも想定されていない。

 何もかもが手探りの状態での戦闘だった。


「さっきの宣伝を一回取り下げて、もう一度新しい情報を流さないといけない」


「だけど、もう切り抜き動画まで大量に作られていて、手に負えないぞ。もう一度流したところで、勝てるのか? くっころ騎士団長アスレの拡散力に」


「ちくしょう……あいつ、なんであのタイミングで……」


忍者シャドウ、ここから『ジズ』の背中に飛び移られる? できたらカッコよく」


「無茶言うなでゴザル」


 忍者シャドウは、むん、と印を結ぶと、なにやら足元に梵字の形をした魔法陣を浮かび上がらせ、スキルを発動した。


「カッコよくは無理でゴザル」


 どろん、と忍者の足元から煙がふきあがった。

 ジズの背中に同様の煙がふきあがり、短い距離だったが瞬間的に移動していた。


「うおっ! どうしてここに……!」


 逆に、忍者のいた場所には、『ジズ』の背中にいた別のプレイヤーが移動していた。


 忍者シャドウスキル第五階梯、【変わり身の術】。


 視界に映る別のプレイヤーやモンスター、障害物と場所を入れ替えるスキルだ。


「ひゃっはー! そこ動くなよ!」


 鎖鎧戦士チェインアーマラーは、両手で一条の鎖を投げ放ち、『ジズ』の巨体を引っ張っていた。


 鎖鎧戦士チェインアーマラースキル第二階梯、【第二の戒め(ドローミ)】が発動する。


 対象を自分の手元に引き寄せる、押し戻しとは逆方向に力の働くスキルだ。


 凄まじい重量の『ジズ』は、押し戻し(ノックバック)耐性を持つため、戦士の方が宙に浮かび上がり、空に飛び上がった。


 ジズの背中に着地すると、鎖を体に巻き付けて収納し、大声で宣告した。


「おいお前ら! 定員オーバーだ! 俺はこれから雑魚を『ジズ』の背中から落とす! まず現在のレベル上限40に満たない奴らは降りろ! 最強装備でない奴も降りろ! 落とされたくない奴、文句のあるやつは、片っ端から俺にかかってこい!」


 あわあわと、自分から飛び降りてゆくプレイヤーたち。


 上級冒険者たちは、様々なスキルを駆使して『ジズ』への乗船券を手に入れていた。

 やがて『ジズ』の背中には、精鋭たちが集まっていた。


「……お前も来たか、NPC」


 サイモンも、【紫電突】を2、3回連続で発動し、ジズの背中に飛び乗ることに成功していた。


 上限レベル40に満たず、とくに最強装備でもないサイモンは、上級冒険者たちと向かい合って、憮然としていた。


「俺も降りないとダメか?」

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