竜の力
冒険者たちは、数に物を言わせて国王軍を蹴散らした。
騎士団長アスレを捕縛し、ひとまず戦闘が終わると、彼らは物々しい議論をはじめていた。
「なんだって、どういう事だ!? 『ドラゴン』を倒さないって!?」
「『ドラゴン』が出現したりしなかったりするのは、攻略に関係ないからだって!」
「本来は『ジズ』を倒すべきだそうだ! そこのNPCが言ってたんだ!」
「そこのNPCかぁ~! じゃあ信じるっきゃねぇな!」
そこのNPCであるサイモンは、内心ひやひやしながら彼らの話を聞いていた。
新しく増援に来てくれた冒険者たちも、一応サイモンの話を信じてくれているみたいだったが。
もしも「そこのNPCの言う事を本当に信じられるのか?」などと疑い始める者がこの中に一人でもいれば、どう言い訳をしようか、とばかり悩んでいた。
だが、彼ら冒険者は見事に「NPCが言っていた」でその情報を信じている。
サイモンには信じがたい事だったが、ブルーアイコンからみたホワイトアイコンは、絶対にウソの攻略情報を流したりしないものらしい。
「どっちも倒せばいいんじゃねぇか? 『ドラゴン』討伐は正規のクエストにもあるんだから」
「そうそう、『ジズ』の前に、『ドラゴン』を倒しておかないといけないって話になったんだ!」
「どっちなんだよ! さっきのやつ逃がしたじゃないか!」
「だからちっこい『ドラゴン』がこの山にちらほら現れてるんだ」
異大陸を旅してきた冒険者たちは、独自の攻略情報を持っており、『ドラゴン』を討伐しておけば、『ジズ』に対して攻撃をする機会が生まれる、という両者の関連を理解するのははやかった。
『ドラゴン』を倒し、さらには世界の果ての島に行く必要がある。
これに関しては、サイモンも実際に何度か見ている。
「あれ? さっきの『ドラゴン』は? 誰も見てなかったのか?」
「だって騎士団長アスレがいたから、邪魔しとかないとと思って」
「『ドラゴン』はどうせ山を探したら見つかるだろ? けれど騎士団長アスレをボコれるイベントなんてそうそう見つからないからな」
「みんなこのゲームの主人公嫌いなんだな……誰一人として異大陸に連れていかなかったもんな」
ちなみに、シーラは引く手あまただったが、なぜか誰も仲間にできなかった。
騎士団長アスレは捕縛され、地べたに座り込んで、悔し気に歯噛みしていた。
「くっ殺せ!」
「みんな、騎士団長アスレがなにか言ってるぞ! 聞いてみよう!」
「この汚らわしい冒険者どもめが! このままただで済むと思うな!」
「うわきた」
「うーん、騎士団長アスレが女の子だったら全俺が歓喜なんだが。忍者お前そういう系のスキルもってねぇ?」
「無茶言うなでゴザル」
そのころ、冒険者たちが追いかけていた『ドラゴン』のオカミは、子どもの姿に化けていて、サイモンの背中に隠れてがたがた震えていた。
「助かったよ」
『主様、怖かったです』
サイモンに鼻をひっつけて、ぶんぶんトカゲのしっぽを振っているオカミ。
しっぽを見られると『ドラゴン』が化けていることに気づかれそうなものだったが、あいにくホワイトアイコンの彼らには、そういうお約束の発想がない。
背後からその様子を見ていたドルイドが、こっそりオカミに近づいていった。
ドルイドはオカミに後ろからがばっと抱きつくと、トカゲのしっぽに自分のローブの裾をかぶせて隠してあげていた。
どうやら保護するつもりらしい。
「えっへっへ~、可愛い子みつけた~」
『むっ、あやしい羊人め、主様に指一本ふれてはなりません』
「ドルイド、お前は相変わらず距離が近すぎだ」
「ひどい~。私がどれだけいい事してあげているか、貴方たちはぜんぜんわからないんでしょうねぇ~?」
「わからん」
『主様が困惑しておられるではないか、ぶれいものめ』
「もう可愛すぎかよ~」
どうやら、ドルイドは『ドラゴン』だとわかっても、徹底してサイモンの味方をしてくれるみたいだ。
騎士団長アスレは、きっとサイモンの方をにらみつけ、吐き捨てるように言った。
「その男を信用するな! そいつは『ファフニール教団』の者だ!」
「『ファフニール教団』? それ大昔のやつじゃなかったっけ?」
教祖ファフニールを筆頭に、彼の魔法を継承したと言われている古代の教団のことだ。
七人の使徒それぞれが竜化を成功させ、今日までその血統を引き継ぎ、最強種『ドラゴン』として世界に君臨し、現代までに生まれた新しい竜種は七十二種あると言われている。
騎士団長アスレは、うめくように言った。
「『ファフニール教団』は古代の教団などではない……長い時を経て復活しているのだ……奴らは人である事と引き換えに、強さを求める邪教徒だ……」
彼らが現代にも存在しているという事に、サイモンには、心当たりがあった。
この世界には、ファフニールの古代魔法『変身』を継承している者がいる。
少なくとも、冒険者ギルドにいたギルドマスターとメイシーはそれを使いこなしていた。
「騎士団長アスレ、お前も『ファフニール教団』を知っているのか」
「お前が知らないはずはない、お前のように強さを求める者の前に……『ファフニール教団』は必ず現れる」
騎士団長アスレは、言った。
その表情は、不気味な出来事を思い出すかのように、わずかにくもっていた。
「そうだ、俺の前にも現れた……レベル上限に到達したので、俺はもうこれ以上強くなれないと……竜の力を借りるしかないと言っていた」