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AIがアイテム収納ボックスの存在に気づいたら

「じゃあ、私は行ってくるから。サイモン、あとはよろしく頼んだわね」


 シーラは、風よけのケープを体に巻き付けると、玄関から出ていった。


 オーレンが軽く手を振って、サイモンは「ああ」と返事をする。

 4週目のループに入ったサイモンは、朝早くシーラの家で朝食をご馳走になっていた。


 メニューはシンプルで、根菜をふんだんに煮込んだシチューに、硬いパンとバターが少々。

 アイテム一覧表から見ると、『シーラの手料理:体力微上昇(10分)』とあった。


「シーラが作ったのにしてはうまいじゃないか」


「姉さんは薬草の使い方はうまいよ。料理はボクが教えてるし」


「納得だ」


 オーレンの父は街で料理人をしていたらしく、食事にはうるさかった。

 今でも家の棚には様々な香辛料が並んでいて、父親の血を受け継いだオーレンは、小さい頃から料理が得意だった。

 メインの食材に関しては、ご馳走になるサイモンが持ち寄ったものを使っているのだが、それがなくても十分料理店でやっていけそうな食事を出してくれた。


 年若い少女とその弟の二人暮らしならば、もう少し質素な内容の食事でもいいような気がする。


 やはり、シーラがやっているギルドでのバイトが関係しているのだろうか。

 トキの薬草にかける懸賞金と言い、周囲の村人たちに頼らず生きている姿勢といい、若干お金に余裕があるように感じられる。


 ……まさか。


 サイモンは、かちゃりとスプーンを置いた。


「……オーレン、後片づけを任せられるか?」


「どうするの?」


「今日はちょっと、街まで行ってこようと思う……久しぶりに、冒険者ギルドに顔を出そうと思って」


 そう、サイモンもかつて、冒険者ギルドに通っていた冒険者だったのだ。

 久しぶりに古巣に顔を出して、なにが悪いというのだろう?

 

 それを聞いたオーレンは、にんまりと笑った。


「行ってらっしゃい。姉ちゃんに会ったらよろしくね」


 ***


 オーレンの家を出たサイモンは、そのまま村長宅に向かい、一日門番の仕事を開ける許可をもらった。


 村長は「そのまま帰ってこんつもりではないのか?」と疑り深そうだったが、怪我もまだ完全に癒えていないので、どのみち村に戻ってくるしかないと言って、なんとか説き伏せた。


 その足で市場に向かい、商人のアッドスから、携帯食料としてサバの香草焼きを2匹買った。

 話を聞いてみたが、やはり、あれ以降エアリアルの被害は起きていないようだ。


「あと、ポーションと、毒消しと、松明はあるか?」


「山から降りるのかい?」


「ああ、そうだ」


 馬で半日の距離だが、地元民だったサイモンなら、徒歩でも日没までには街に着けた。


 ずっと門の前でブルーアイコンの冒険者たちを待っていたところで、どうせ来なかったら同じだ。

 それよりも冒険者ギルドに行けば、また別のブルーアイコンの冒険者たちがいるかもしれない。


 ブルーアイコンは、あの冒険者だけではない。彼らにも話を聞いてみるべきだ。

 どうせまた同じ一日を繰り返すのなら、その方がよっぽどましだろう。


「最近、山でオーガが出るようになったって噂だ、気をつけなよ」


「わかった、ありがとう」


 サイモンは、軽く頷いて、アッドスから手渡された包みを受け取った。


 山を降りる前に、丘の上から一度道を確認してみた。


 ちょうど山道の途中に国王軍の姿が見える。

 上りの乗合馬車は、すでに街を出発していた。

 村から下る乗合馬車と、ほぼ同時だ。


 シーラに気づかれては意味がない。

 追いつかないよう、慎重に行かなければ。


「よし、降りるか」


 ***


 山を降りるのは非常に楽だった。

 視界の隅に『マップ』を開いたままなので、モンスターがどこにいるのか確認し、エンカウントを避けながら動けるのだ。

 マップ上に浮かび上がるレッドアイコンの赤いマークに注意さえしていればいい。


「こりゃ楽だ。昔の自分に教えてやりたかったな……おっと」


 サイモンは、腰から短剣を引き抜き、すっと身をかわした。

 積もった落ち葉の山に、レッドアイコンが突然浮かび上がったのだ。

 それに傍記されている名前は、『ジャイアントスネーク』と読めた。


 落ち葉を周囲にまき散らしながら、巨大なヘビが飛び出し、サイモンに躍りかかった。


 この道中によく出現するモンスターである。

『潜伏状態』だとアイコンが隠せるのは、どうやらマップでも同じようだ。


 いくら怪我をしていると言っても、こいつを倒せなければこの山では生きていけない。

 サイモンは短槍の柄で『ジャイアントスネーク』の牙を受け止めると、短剣の先端で目と目の間を一突きにした。


 アイコンをぐるりと取り囲む緑の円環、『体力ゲージ』がみるみる減ってゆき、やがてなくなってしまうと、ぐてっと横になるジャイアントスネーク。

 禍々しいアイコンの色も赤から緑に変わり、よく見るとその名称も変わった。


【ジャイアントスネークの牙】×2

【ジャイアントスネークの肉】×3

【ジャイアントスネークの皮】×1


 それは、モンスターを倒したときに入手できる、素材の名称だった。

 サイモンは、このとき現れた名称を『選択できる』事に気づいた。

 メニューにある文字と同じである。


 普通、これらの素材は、この場でモンスターを解体して必要な部位を手に入れるか、ギルドまで持っていって解体してもらうかしないと手に入らないものだったが。


 ためしに、【ジャイアントスネークの牙】を選択すると、ジャイアントスネークの体はすうっと消えてしまった。


『【ジャイアントスネークの牙】を手に入れました。手に入れたアイテムは、メニューのアイテム一覧からいつでも取り出せます』


 またメニューと同じ解説が出てきて、初心者のサイモンは助かった。

 アイテム一覧を開いてみると、確かにアイテムが増えているみたいだった。


【ジャイアントスネークの牙】×2


 ためしに【ジャイアントスネークの牙】を指で押してみた。

『使う』、『鑑定する』、『取り出す』とあったので、『取り出す』を選ぶと、すうっと魔法のように牙が手元に現れた。

 名称をぽちっと指で押すと、すうっと消えて、アイテム一覧に戻ってしまう。


「ウソだろ……こんな便利なスキルがあったなんて……」


 彼が若い頃にこのスキルを持っていたら、いったいどれだけ活躍できただろう。

 サイモンは、ブルーアイコンの冒険者たちが少し羨ましくなったのだった。

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