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もしもAIが世界の秘密に気づいたら

 魔の山がすぐそこに見えるのどかな高原を、少年少女が歩いてきた。

 鎧や兜を着慣れていないのか、ときどきよろめいては、お互いにガチャガチャ肩をぶつけあっている。


 サイモンは、彼らが村の門に到達するまで待って、獲物を狩るときのように十分引きつけてから言った。


「ようこそ冒険者たちよ、ここはヘカタンの村だ」


 石の塀に腰かけていたサイモンが立ち上がると、まるで壁ができたみたいに通行人たちは立ち止まった。

 身長はゆうに2メートルを超える。

 西方の獣人族と見間違えるような大男である。


 彼が手に持つ槍は、町の門番も持っているのと同じ量産型の短槍だったが、それでも彼が持つだけで巨象でも一撃で倒せる兵器のように見えた。


「おびえる必要はない、お前たちがこんな辺鄙へんぴな村にきた目的は知ってるぞ。

 魔の山で採れる火の魔法石を手に入れるためだろう。違うか?」


「ち、違うよ、そうじゃない」


 冒険者たちのリーダーらしき男が首をふった。

 貧弱な装備の3人のなかで、いちばんまともな鉄の鎧を身に着けている。


 まとも、というのは、冒険者しか身に着けないような普通の装備、という意味だ。

 他のメンバーの装備は、ちょっと隣町まで旅をする村人が護身用にひとつは持っていそうな武具を集めて、どうにかこうにか形にしたといったようなひどい有り様だった。


 ともあれ顔を知っているわけでもないので、金のない盗賊の可能もあったが、十中八九、駆け出しの冒険者だろう。

 彼らの頭の上の『ブルーアイコン』がそれを証明している。


 それぞれの頭の上には三角の青いアイコン(盗賊やモンスターなら赤くなる)が浮かんでいて、サイモンや村人の白いアイコンとの違いはひと目で分かった。

 それに、短く交わしたやり取りから考えても、悪意のある連中ではなさそうだった。


「ほーう? 魔法石が目的じゃないなら、冒険者がこんな田舎の村に何をしに来るんだ? ああ、そうか分かったぞ、盗賊だな!? この村を襲いに来たのか!」


「えっ!? えーと……」


 サイモンが、ちょっと意地悪をして槍を構えてみせると、リーダーは青ざめて5メートルくらい引き下がり、とたんに不安になってうろたえ出した。

 返答も出さずに、なにやら後ろの仲間とヒソヒソと話し始めた。


「どうしよう、事前情報と違う……村の門番にこんな疑い掛けられるなんて聞いてないんだけど……?」


「けど、こんなイベントはWikiにもなかったような……ひょっとして、これは俺たちしか知らない特殊イベントか何かか?」


「そんなわけないでしょ、リリースからもう3ヶ月経とうとしてるのよ? 舐められてるだけよ」


 後ろにいた女戦士が、やけに高圧的な声で言った。

 やたらと物知り顔をして、立ち振る舞いも堂々としている。

 妙な言い方になるが、他の2人よりも『この世界に慣れている』感じがした。


「今のゲームのノンプレイヤーキャラクター《NPC》の会話は、ぜんぶAIが自動生成しているのよ。運営が決めた脚本を参考にして、それっぽい会話をランダムに生成しているだけ……これが特殊なイベントでもない限り、ここは普通に通れるはずよ」


 女戦士が、リーダーと魔術師の間をかき分け、ずかずか、と前に進み出てきた。

 彼らの前に立ちはだかっているサイモンに近づくと、見上げるようにふんぞり返って、チリチリ燃えるような息をはく。

 装備は貧弱でも、その仕草にはよどみや迷いが一切ない。澄んだ目をしている。


「ねぇ、そこどいてくれる?」


「なんだって?」


「早く通してよ。私たち、モンスター討伐の依頼を受けて来たの。あんたみたいなザコ門番に足止めくらってる暇ないんだけど?」


「おお、そうかそうか、それは残念だったな」


 まるで子猫に威嚇されたみたいだ。

 サイモンが苦笑いを浮かべて肩をすくめると、女戦士も肩をすくめて、三つ編みを振りながらくるっと仲間たちの方をふりかえった。


「ふっ、見たでしょ? こんなの適当に話をあわせておけばいいのよ。ストーリーの大筋は変わらないんだから、それっぽい雰囲気で会話が進んでいくの。まったく、みんな仮想現実ゲームの耐性なさすぎなんだから……」


「おっと、誰が通すと言った? お前らが盗賊じゃないっていう証拠はどこにある?」


 そのまま通り過ぎようとした女戦士の前に、サイモンが槍を立てて立ちはだかった。

 女戦士は、アバター同士がぶつかった衝撃ノックバックを受けて退き、目をむいて悲鳴をあげた。


「あれれー!? うそでしょ、どうして!? なんで通してくれないの!?」


「言い忘れてたけど、これはイベントもAIが自動生成するんだってさ」


「ウソでしょ、そんなの分岐が無限に増えていくじゃないの!? どうやって初見でクリアすんのよ!?」


「女戦士はふつうのテーブルトークRPGの耐性がなさすぎだよ……今ので通れると考えるのは人としてどうかと思うよ」


「なによそれー!」


 ブルーアイコンは、しばしばサイモンたちには理解できない言葉で話す。


 噂によると、彼らは遠い世界からやってきた『渡り人』であるらしいのだが、サイモンにとってはただの変な奴らという認識であった。

 ただ、ブルーアイコンは昔からこの世界に富と恩寵をもたらすと言われていて、丁重に扱わなければならないしきたりだった。


 はぁ、とため息をつくサイモン。

 非常に面倒くさい。

 サイモンは、わざとらしく自分の首もとを指差す仕草をしながら言った。


「どうした? お前らが盗賊じゃない証を俺に見せてみろと言ってるんだ。お前らは盗賊じゃなければ、一体何なんだ? うん?」


 もう一度、しつこく自分の首もとを指差す仕草をする。

 くいくい、とわざとらしく指差しつづけていると、リーダーもようやくそのヒントに気づいたらしい。


「ああ、あれか! そうだ、そうだった!」


 リーダーは、目を大きく見開くと、自分が首から提げているヒモをぐいっと引っ張った。

 にびいろの鎧のすき間から、金属光をはなつ銅製のプレートが顔をのぞかせる。

 それはギルドに加盟した冒険者がまず与えられる証明書である。


 どうやら、彼らは自分たちが身に着けているネームタグの存在にさえ、気づいていなかったらしい。

 その装備は自分で身につけたのではないのだろうか?

 本当に変な奴らだ。

 リーダーの男は、冒険者の証、ネームタグを取り出すと、サイモンに見せた。


「剣士ノルド! 冒険者です! 僕らはギルドにあった依頼書を見て来ました! 僕らの目的は、モンスター『エアリアル』の討伐です!」


 他のメンバーも、慌てて自分の首から提げているネームタグを取り出した。


「魔術師エルだ! よろしく!」


「で、出遅れたー! 戦士アイサよ! 右に同じく!」


 サイモンは、苦笑いを浮かべた。

 思った通り、全員Fランクだった。

 肩を並べて、いっせーのでスタートラインを踏み出したばかりの新人たちである。


 色々と説教がましいことを言いたくなるのを堪えて、サイモンは、ゆっくりと体の向きをかえ、冒険者たちを村へと招き入れた。


「ようこそ冒険者たちよ、ここはヘカタンの村だ。

 買い物をしたいなら、中央にある市場以外には店がない。娯楽もないし、魔法石以外の名産品も特にない。

 何もないところだが、人を急かすものも風と太陽しかない。せめてゆっくりしていくといい」

はじめまして、作者のあです。


これはゲームの世界に生まれたAIが、自分の世界がゲームだと気づいたら、という近未来に起こりそうなシチュエーションを考えたお話です。


これから毎日朝7時に投稿を続けていこうと思います。


いいねや感想をくださると、続きを書く元気が沸いてきます。よろしくお願いします。

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