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HERO Planner  作者: 武海 進
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ヒーローデビュー②

「ヒャッハー! 金に宝石、何もかも全部奪っちまえ野郎共! 今夜は夢だったバスタブ一杯の金と女でパーティーだ!」


 ピエロの面揃って付けた背の高いやせ型の男が、偉そうに部下と思しき他のピエロたちに指示を飛ばし、雑誌裏の胡散臭い開運アイテムの宣伝で見るような夢を叫びながらショーケースを次々と割っていく。


 彼らが今襲っているのは左程大きくもなく有名な宝飾店という訳でもないのだが、売り上げや商品である宝飾品はそれなりにあり、総額にすれば数千万分はあるだろう。


 店が荒らされ金品が次々に奪われて行く様を店主はただ見ていることしか出来ない。


 常駐している警官上がりの小太りな警備員はあっさりとやられてしまい床で伸びており、店主自身も銃を突きつけられている状態で指一本動かせない状況だ。


 せめてカウンターの下にある緊急通報ボタンを押せれば警備会社から警備員の増援が直ぐに来るのだが、そんなことをすればもちろん店主は体中に穴が空くだろう。


 一応騒ぎを聞き付けた誰かが警察へ通報してくれるのを願ってもみてはいるが、万年人手不足の警察が直ぐに対応してくれるかは怪しいものだ。


 もし今誰かが通報してくれているとしても、警察が駆け付けた頃には強盗たちはとっくに逃げているだろうし、下手をすれば自分の命も奪われた後かもしれない。


 後はヒーローたちにも期待したいところではあるが、最近のヒーローたちは自己顕示欲が強く、派手で目立つ事件を優先する者ばかりなのであまり期待は出来ないだろう。


 この際、被害額など気にしないことにして、命だけでも助かるようにと店主が願った時、期待していなかった存在が現れた。


「貴方たち、そこまでです!」


 割られたガラス製の自動ドアから、破片を踏まないように恐る恐る入ってきた黒づくめの女に、店内にいたピエロたちの注目が集まる。


 その中の一人が気づく。


 女が黒ずくめの全身に、騎士の兜をイメージしたかのような特徴的なマスクというフロイテッドシティでは知らぬ者はいないヒーローそっくりの格好をしていることに。


「なんだお前、もしかしてブラックガーディアンのコスプレか? 嬢ちゃん、下らねえことやってないでさっさとおうちに帰んな。おじさんたちはお仕事中なんだよ」


 そう言いながら変わったコスプレ女と油断したのか、折角の銃も構えず近づいて来たピエロにアリスはベルトにマウントされていた警棒らしき物を抜くと、少し膨らんだ先端を押し当てる。


「こんなの仕事でも何でもない、ただの犯罪ですよ」


 殴ってくるわけでもなく、ただ警棒を押し当てられたピエロは首を傾げて不思議そうにしていると、突如走った電流におかしな声を上げながら体を震わせた後、倒れこんだ。


 ブラックスタッフ。


 丸腰では流石に不味いと、ヴィランをやっていただけあって豊富に武器の在庫を抱えていたラッセルがこれならばアリスでも扱いやすいだろうと選び渡した物だ。


 元々は暴徒などの鎮圧用に開発された特殊な警棒の試作品だったのだが、威力と耐久性に難ありと、とある軍需企業が倉庫で眠らせていた。


 それをラッセルがDr.スマイルだった頃に他の眠っていた試作品諸共盗んだものの、使い道がなく同じように倉庫で眠らせていたらしい。


 もちろんボツになった試作品そのままという訳は無く、実戦で十分使い物になるようラッセル自身が改良しており、ある意味一点物とも呼べる二代目ブラックガーディアン専用武器なのだ。


 ちなみに名前が無かったので、ブラックスタッフという名前はアリスが移動の最中に付けた。


 ブラックスタッフの握り手部分にはスイッチが付いており、押すと先端からスタンガンのように電流が流れる仕組みになっている。


 当てさえすれば大概の人間を無力化出来る威力があり、正にヒーロー一年生にはぴったりの武器と言っても過言ではないだろう。


 仲間が倒れたことに驚き物色する手を止めていたピエロたちであったが、仲間がやられたと理解した彼らは一斉に銃を構えるとアリスに向かって乱射し始めた。


 敵を一人倒し、本人的には胸を張った堂々としたポーズを取っていたつもりのアリスの化けの皮は一瞬で剥げ、ヒーローには似つかわしくない可愛らしい悲鳴を上げながらショーケースの陰に隠れる。


「アハハハハハ、無様で最高に笑えるよアリス君。御父上なら銃など恐れずに立ち向かっていただろうに」


 頭を手で覆って防御姿勢を取るアリスをあざ笑う声が聞こえてくる。


 マスクには通信機が仕込まれており、いつでもラッセルと通信が出来るのだ。


 どうやって自分を監視しているのかアリスには分からないが、一つだけはっきりしていることがある。


 ラッセルが今ブラックベースのモニターで自分を見ながらポップコーンを食べていることだ。


 彼の性格と通信に交じるポリポリと小気味い租借音がその証拠だ。


「パパと違って私が着てるのただのウェットスーツですよ! アーマー以外に当たったら下手したら死んじゃうんだから無茶言わないで下さい!」


 自分を映画代わりしているラッセルに腹を立てながらアリスはピエロに聞こえぬよう小声で怒鳴る。 


 仮に全身を防弾のスーツで覆っていたとしても、戦闘経験どころか訓練もしたことの無い引き籠り脱却したてのアリスに、銃を持った相手に立ち向かえなど無茶な言い分ではあるのはラッセルにも分かっている。


 だが、短期間でアリスをヒーローに仕立て上げる為には無茶だろうが無謀だろうが気にはしていられない。


 獅子は我が子を強くする為に谷へ落とすと言う。


 ならば自分はアリスを犯罪現場で、実戦を通してアリスを鍛え上げようとラッセルは考えて今回の事件に送り出したのだったが、肝心の彼女が隠れてばかりで何もしないのでは話にならない。


 仕方なくラッセルは、抱えていたポップコーンバケットを机に置くとサポートすることにした。


「いいかいアリス君、幸いなことに彼らはお揃いのサブマシンガンで武装している。そしてバカスカと何も考えずに同じタイミングで撃ち始めた。さあ、私が何が言いたいか分かるかな?」


 この非常時にクイズ方式にせず直ぐに答えを教えろとアリスはキレそうになるが、命が掛かっているので必死に考る。


 だが、答えはアリスが思いつくよりも先に向こうからやってきた。


 鼓膜が破れそうな程の銃声が止んだのだ。


「時間切れだアリス君。正解は全員同じようなタイミングで弾切れを起こす、だ。」


 恐る恐るアリスが頭を上げると、ピエロたちは一様にポケット弄り予備のマガジンを出そうとしていた。


「何をぼさっとしてるんだい。マガジンの交換が終わる前に片づけないと今度こそ君はハチの巣だよ」


 自分が穴だらけになって血を噴き出す様を想像してしまったアリスは、恐怖に駆られ半狂乱になりながらピエロたちに突撃する。


 やたらめったらにブラックスタッフを振り回すアリスにピエロたちは慌ててマガジンの交換を急ぐが、人間焦ると何事も上手く行かないものでマガジンをうっかり落としたり上手く銃に装填できなかったりと対応が遅れる。


 中には少しは頭が働く者もいたようで銃を捨ててアリスに殴り掛かるピエロもいたが、元々の身体能力の高さのお陰で辛うじて大振りのストレートを躱してアリスは電流を流し込む。


 大の男たちが簡単に倒れていく様に段々とアリスは調子に乗り始め、次第に恐怖よりもヒーローとして戦えている自分に酔い始めた。


「さあ、観念して大人しく警察に自首しなさい!」


 最後の一人、リーダー格のピエロにブラックスタッフをアリスは突きつける。


 仲間を全員倒されたリーダー格のピエロは、焦りつつもブラックガーディアンのコスプレ娘が油断しているのを感じ取った。


 リーダー格のピエロは持っているサブマシンガンを捨てるフリをしながら、咄嗟に腰の後ろのベルトにねじ込んでいた拳銃を抜く。


 銃口が自分の額に向いているのを見たアリスは、恐怖のあまり頭の中が真っ白になりその場で固まってしまう。


 リーダー格のピエロが躊躇わず引き金を引こうとした瞬間、彼の手から拳銃が吹き飛び、激しい痛みが走った。


 手を抑えながら悶絶するリーダー格のピエロに、我に返ったアリスは急いでスティックを押し当て気絶させる。


「い、今、何が起こったの?」


「そんなことよりアリス君、面倒に巻き込まれる前に早く撤収しなさい。まもなく警察がやって来る」


 ラッセルからの通信に、アリスは大慌てで店から立ち去るのだった。


 気絶したピエロたちと現場に残された店主は、呆然と銃の乱射で滅茶苦茶になった店を眺める。


「これ、保険効くのか?」

マイペース投稿ですがお付き合い頂けると幸いです!


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