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HERO Planner  作者: 武海 進
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父と母の秘密-③

「や、止めて! ブラックガーディアンを! パパを殺さないで!」


 アリスはヴィランたちに取り囲まれ抵抗する隙も無く襲われるブラックガーディアンを、父を助けようとするが、まるで地面に足が縫い付けられたように動けず、ただ叫ぶことしか出来ない。


「やあ、ブラックガーディアン。君がいると私たちは笑えないんだ。だから死んでくれるかい」


 全身傷だらけで、立っているのもやっとな状態のブラックガーディアンに、ピエロの仮面を付けた白衣の男がゆっくりと近づくと、懐から取り出したナイフで腹部を抉るように刺した。


 ブラックガーディアンは刺された箇所を抑えながら倒れこむと動かなくなる。


 次第に大きくなる血の海がもう彼が助からないことを物語っており、アリスの目から止めどなく涙が溢れた。


 ピエロは笑う。


 偉大なヒーローの頭を踏みつけ、勝利に酔いしれ声高らかに。


「嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌、パパ、パパーーー!」


 アリスは叫びながら目を覚ますとベッドから転がり落ちた。


 何が何だか分からずに混乱していると、赤毛の白衣の男が杖を突きながらアリスの元へやってきた。


「お嬢さん、落ち着きなさい。ここは病院だ。と、言っても閉鎖された病院だがね。とりあえず水でも飲むといい」


 渡されたボトルをアリスは一気に飲み干した。


 全身びっしょりと寝汗を描いたらしく、喉がカラカラだったのだ。


「あ、あの私、何でここに……」


「君は勇敢にも、いや、無謀と言うべきか。暴漢に襲われていた女性を助けようとして返り討ちにあったのさ」


 赤毛の男の言葉にアリスは記憶が段々と戻り始める。


「理由は知らないがうら若い女性が無茶をしたものだ。流石はブラックガーディアンの愛娘と褒めるべきか、危ないことをしてはいけないと大人として叱るべきか、悩ましいところだよ」


 赤毛の男の言葉にアリスは凍り付く。


 何故、自分も今日知ったばかりのことを彼が知っているのか、アリスは疑問と得体の知れない恐怖心に苛まれ、血の気が引いて行くのを感じた。


「おっと、何故自分の父親の秘密を知っているのか、という顔をしているね。それはね、こういうことだからさ」


 男は髪をかき上げると、懐から気持ち悪い笑みを浮かべるピエロの仮面を取り出し顔に当てた。


「そ、その仮面は! Dr.スマイル」


 全ての人間を笑顔にするをモットーに、独特な犯罪を行う白衣にピエロの仮面を付けたヴィラン、Dr.スマイル。


 その名をフロイテッドシティで知らぬ者はいないだろう。


 彼は幾度にも渡りブラックガーディアンと激しい戦いを繰り広げ、互いに宿敵と呼び合う仲であり、そして、ヴィランたちを先導してブラックガーディアンを殺した主犯格と言われているヴィランだ。


 アリスは訳が分からず、とにかく逃げようとドアに向かおうとするが、動揺と恐怖のせいか体が上手く動かない。


「落ち着きなさい。別に君に危害を加える気はないさ。そんなのは笑えないからね。ただ、少しだけ私とお喋りしないかい?」


 仮面を懐にしまったスマイルは柔和な笑みを浮かべながらベッド脇の椅子に腰かけると、アリスにもベッドへ座るように促す。


 下手に断れば何をされるか分からないと考えたアリスは、深呼吸をして少し気を落ち着かせると何とかベッドに座った。


「さて、まずは君が一番聞きたいであろうことから話そうか。でないと君とは真面にお喋り出来そうにないからね」


 椅子の隣の机に置いてあったティーポッドから、匂いだけでも少し気分がリラックスする程、良い香りのハーブティーを入れながらスマイルは語りだす。


 失意の日の真相を。


 その日、スマイルは摂取すれば愉快な気分になるオリジナルのドラッグを作成する為の材料の買い付けで街を離れていた。


 商談は上手く行き、上機嫌で鼻歌交じりに帰って来たスマイルは部下からの報告で仮面の下の笑顔を失う。


 フロイテッドシティで活動するヴィランたちが徒党を組んでブラックガーディアンを襲ったというのだ。


 大事な宿敵をむざむざ死なせられないと、急ぎブラックガーディアンを救う為に現場へと向かったスマイルだったが、時既に遅し。


 そこに居たのは見るも無残な姿になり果てたブラックガーディアンと、ボロボロになりながらも数の力で勝利をもぎ取ったことを喜ぶヴィランたちだった。


「見ろよドクター、俺たちは遂にこの騎士気取りのクソ野郎を仕留めたぜ。いつもみたいに耳障りな笑い声を上げろよ」


「それは素晴らしいね。今まで私たちを散々苦しめてくれたお邪魔虫がいなくなった訳だ。だが、私は笑えない」


 初めて聞く、普段の常に大笑いしているスマイルからは想像できない怒気を帯びた声にヴィランたちは怯む。


 しかし次の瞬間には武器を構え、ブラックガーディアンと同じようにスマイルを殺そうとした。


「足が不自由なのはその時の傷が原因でね。まあ、そんな訳で私は君の御父上を殺してはいないのさ」


 アリスは狼狽える。


 あの日以降、ニュースやネット、警察の公式発表ですらブラックガーディアン殺害の主犯はDr.スマイルだと報じ、アリスは憧れのヒーローを殺した犯人だとスマイルを憎んできたのだ。


 それなのに本人が突然目の前に現れ、自分は無罪であると言い出せば狼狽えるのも仕方ない。


「……嘘じゃないって証拠はあるんですか」


「仮にあるとしても犯罪者が用意した証拠なんて君、信じないだろう。だが、過去に私が起こした事件の傾向や被害についてブラックガーディアンの超が付くほどのファンの君ならば、少し考えれば答えは見えてくるはずだ」


 手渡されたハーブティーを受け取りながらアリスは、思い出したくはないブラックガーディアンに纏わる記憶の中からDr.スマイルとの戦いを思い出す。


 Dr.スマイルは他のヴィランに比べ、人命を奪うような事件は殆ど起こしていない。


 一切殺しをしていない訳ではないが、被害者はどうしようもないヴィランたちや犯罪者ばかりで一般人には手を出したことは無い。


 それに彼の起こした事件は、悪徳議員を誘拐してブリーフ一丁で罪を謝罪させる配信を行ったり、街中に笑気ガスが詰まった爆弾を仕掛けたりといった少々過激だがイタズラめいたものが多い。


 ブラックガーディアンとの戦いも今思えば命を奪おうというよりも、わざわざテレビや一般人の注目を集めて一種のショーのように見立てて戦っていた気がする。


 何なら災害時にはブラックガーディアンと休戦して、人々の命を助けたことすらあった。


「確かに貴方が主犯と言うのは違和感があります。でも、それなら一体誰がパパを殺す計画なんて立てたんですか?」


 ヴィランの数だけ候補は居り、個人や数人がチームを組んでブラックガーディアンを殺そうとしたことは幾度もあった。


 しかし、街中のヴィランたちが徒党を組むなど今までになかったことだ。


 何故なら我の強いヴィランたちは互いに商売敵であり、憎みあったりしている者たちすら居り、常に険悪な関係だからだ。


 そんなヴィランたちが共通の目的の為に協力し合うなど不可能に近く、余程力を持つ者か知恵が働く者でないと彼らを纏められないだろう。


「私もずっと探しているが未だに尻尾すら掴めていない。だが、必ず背後にヴィランたちを唆した真犯人がいると私は確信している」


 貼り付けたような笑顔を引っ込め、冷徹な顔で語るスマイルに、アリスは彼が嘘を付いているようには思えなかった。


「……パパを殺した犯人じゃないっていうのは信じます」


「ありがとう。では、今度は君が話してくれるかな。三年も引き籠ってた君が何故あの路地裏に居たのかを」


 アリスは話すかどうか悩む。


 話してしまえば母が犯罪を企てていたことを知られてしまうからだ。


 だが、今回の件でアリスは自分一人ではどうしようもないことを痛感した。


 本当は目の前の犯罪者に話さずに警察に駆け込むのが一番良いのかもしれない。


 しかしアリスは、何故だか目の前の男を、父の宿敵を信じてみたくなった。


 目には目を、犯罪には犯罪を、と思ったのか、自分を救ってくれた彼をヴィランではなく、ヒーローに思えてしまったからなのか、答えは分からない。


 心の整理がつかぬままにアリスは全てを語る。


 母が素質ある人間に悲劇を与えることでヒーローとして覚醒させようと計画していることを。


 その為ならば如何なる手段も、殺しすらも厭わないつもりなのだと。


 全てを聞いたスマイルは頭を抱えながら天を仰ぐ。


「君の御母上は私が言うのもなんだが狂っているな。確かに最近は粗製乱造のロクなヒーローがいないとは言え、どう考えてもやり過ぎだ。全く笑えない」


「私、どうすれば良いんでしょうか?」


 アリスは縋るような顔でスマイルを見る。


 流石のスマイルも簡単に答えが出せる問題ではないらしく、腕を組んで考え込んでしまう。


 長い長い時間考え込み、ハーブティーがすっかり冷めてしまった頃、スマイルは笑い出す。


「アハハハ、こいつは傑作だ。我ながら良いことを思いついたもんだ。アリス君、君、二代目ブラックガーディアンになる気はないかい?」


 急に笑い出したスマイルに驚きハーブティーを零しかけたアリスは、スマイルの提案に再び驚いてしまい、結局盛大にハーブティーを零してしまうのだった。

マイペース投稿ですがお付き合い頂けると幸いです!

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