表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HERO Planner  作者: 武海 進
25/26

オープンー⑨

 突如左肩、正確には肩の付け根辺りが強い衝撃と共に激しく痛んだアリスは何が起こったのか分からずに混乱した。


 だが、耳に残っていた銃声から直ぐに自分が撃たれたのだとアリスは理解する。


「アリス君、スーツが防いでくれているから痛みはするだろうが大丈夫だ。それよりも早く動かないと不味いぞ。とにかく懐に潜り込んで銃を封じるんだ!」


 初めての被弾による混乱から立ち直る間もなく、ラッセルの指示に従いアリスはマフィアたちに向かってジグザクに走り出す。


 銃を持った相手に真っすぐに突っ込んではいけないと散々ジャックに教え込まれていたアリスが不規則なリズムでジグザクに動くのでマフィアたちは上手く照準が合わないのか、引き金を引きながら苛立ちの声を上げる。


 初めての被弾のせいか脳が活発にアドレナリンを分泌しているらしく、不思議と恐怖心が湧かないアリスは自分に向けられ火を噴く銃口に怯まない。


 それが良いのか悪いのかはさておき、マフィアたちが当たらないことに焦り、やけっぱちで闇雲に撃った銃弾が数発体を掠めながらもアリスはマフィアの一人に肉薄し、ブラックスタッフで電流を叩き込んだ。


 その様子を監視カメラで見ながらラッセルは笑う。


 自らに降り注ぐ銃弾を恐れず近接戦に持ち込み大暴れするその姿は、自分がそうなるように仕向けたとはいえ、正にかつての厄介で最高な宿敵そのものだったからだ。


 一方のマフィアたちは笑えない状況に陥っていた。


 単身の敵に肉薄されてしまった銃を持つ集団は同士討ちを恐れるせいで武器と人の数という数的アドバンテージを失ってしまうもので、彼らも例に漏れず銃が使えなくなってしまう。


 さらに元々自分たち以外全滅したことで半ばパニック状態だったのも手伝い、真面に抵抗出来ず次々に部下たちは電流によって瞬く間に気絶させられ、サンドレだけが残った。


 元々腕っぷしよりも知略で今の地位までのし上がったサンドレに、部下が全滅したこの状況から逆転出来る手立ては残されていない。


 寧ろサンドレは気を失い部下が誰一人として自分を見ていないのを良いことに、銃を捨て両手を上げると降伏の意思を示す。


「部下の暴走は謝る。改めて降伏について交渉させて貰えないだろうか。例えば修繕費全額と、開院後我々がこの病院のバックに付くというのはどうだ? 悪くない条件だと思うんだが……」


 流石に降伏した相手に電流を流す訳にはいかないアリスは、ブラックスタッフを突きつけながらもどうするべきかラッセルからの指示が来るのを待つ。


 だが、ラッセルの指示は待てど暮らせど来ず、代わりにパトカーのけたたましいサイレンが耳に入ったアリスは突入して来た警察官たちに捕まる前にその場を後にしたのだった。


 こうしてクレバスファミリー全員が豚箱行きになった病院襲撃事件から二週間後、アリスは病院の前で再び開かれた開院セレモニーの壇上に立っていた。


「今回の事件で私は改めて当院の必要性を感じました。誰にでも分け隔てなく医療を提供する場所さえあれば襲撃犯、クレバスファミリーのような存在をのさばることは無かったはずだからです。そして当院を救ってくれたヒーローにこの場を借りて感謝を伝えさせていただきます。ありがとう、フロイテッドシティの守護者を名を受け継いだ新たなブラックガーディアン」


 フロイテッドシティのローカル局だけとは言え生放送されたこのセレモニーは賛否両論ながらもSNSなどのトレンドを独占した。


 スラム街での慈善活動としての廃病院再建や反社会的勢力に屈しない姿勢は評価されたが、いくつか事件を解決したとはいえ、まだまだひよっこと呼ぶべき街の英雄を模した格好のヒーローをブラックガーディアンとして認めた発言をしたアリスに否定的な声が多く上がり、ネットでは喧々諤々の論争が巻き起こった。


「そりゃそうですよ。私だって一ファンとしてはブラックガーディアンへの侮辱だ! 絶対認めない! って思いますもん」


「ハハハハ、ヒーロー本人がヒーローオタクだとそんな矛盾を抱えるものなんだね」


 並みのヒーローの名前ならばここまでの事態にはならなかったろうが、アリスが名乗る名は余りにも重すぎるのだ。


 更に過去には幾人もその名を利用しようとした不逞の輩が多く出た影響もあり、皆がアリスのことを同じような輩なのではと懐疑的に見るのも致し方のないことなのかもしれない。


 ヒーローオタクが集う掲示板の「ブラックガーディアンコスプレ女を二代目として認めるか否か」というスレッドで繰り広げられる不毛な論争に爆笑しているラッセルを見ながらアリスは肩を落とす。


「だがそんな肩を落とすことはないさ。全員が全員君を否定している訳ではないのだし、これから地道に実績を積んでいけば肯定派は増えていくだろうからね」


 言うだけ言うと再び腹を抱えて笑い出すラッセルの言葉を真に受けていいものか悩みながら痛む肩の付け根辺りを摩る。


 撃たれた時、スーツによって弾丸から守られたとはいえ、衝撃までも全て防げる訳ではなかったらしく鎖骨の一部に罅が入ってしまったのだ。


 アリスは撃たれた時、いや、その後の自分の行動を思い出して冷や汗をかく。


 弾丸を次から次へと吐き出す銃を持った集団相手にアリスは突っ込んだ。


 いくらスーツが防弾とはいえ、当たれば骨が折れるほどの衝撃が走るのだから、辺りどころ次第では気絶、下手をすれば死んでいただろう。


 いつものアリスならばそのことを考えて二の足を踏んだ後慌てて物陰に隠れる筈なのに何故あんな無茶したのか本人にも分からない。


 あの時アリスは被弾した瞬間に頭の中で何かが弾けた感覚に襲われてから先、恐怖心が一切なくなり、今までにないほど冷静だった。


 ラッセルが言うには被弾したことで生存本能が刺激された結果、一種の過剰な集中状態、スポーツなどで言うところのゾーンに似た状態になったらしい。


「ヒーローの多くが危険に身を晒しても冷静に行動出来るのは精神がある種異常で元々恐怖をあまり感じないか、自分で極度の集中状態をコントロールすることで恐怖を殺しているかのどちらかさ。君もこの先のことを考えると集中状態のコントロールは習得すべきだからあの時の感覚を忘れないようにすると良い」


 そうは言われてもあの時のことを思い出すだけで膝が笑い出すというのに、そこから何か技術を得ようなど夢のまた夢だ。


 それでもアリスは自分にヒーローとして必要な技術が一応は宿っていることに一先ず感謝しながらも、増えた課題に頭を悩ませるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ