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HERO Planner  作者: 武海 進
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オープンー⑧

 ゴム弾の雨霰をどうにか潜り抜け、院内に入ったマフィアたちはサンドレの指示でいくつかのグループに分かれて探索を開始した。


 コスプレ女と狙撃してきた二人、合わせて少なくとも三人はいる敵の排除と、撤退の際に背後から撃たれぬようにセントリーガンを破壊する為だ。


 本来ならば敵地での戦力分散は愚行とも呼ぶべきなのだが、彼らには時間がなく、そうせざるを得なかったのだ。


 時間が経てば経つほどに重い腰を上げた警察や病院が提携している警備会社の人間、最悪の場合ヒーローがやって来てそれこそ大規模全面抗争になる可能性が出てくる。


 おまけに奇襲を受けたせいで、病院を包囲出来なかったので裏口なりなんなりから院内にいる人間が旗色が悪いと判断すれば逃げ出す可能性もある。


 前回の時と同じ様にただ建物を破壊した程度ではアリスが病院のオープンを取りやめないだろう。


 つまり今回の襲撃では必ず誰かしらをあの世へ送って箱入り娘の心を完全に折る程のメッセージをクレバスは送らなけれならないと考えているサンドレにとっては、そうなってしまえば今回の襲撃は失敗と言わざるを得ないのだ。


 だからこそ悪手だとは分かっていながらもサンドレは手下を分散させるしかなかった。


 全員分は無いがいくつか持ち込んでいたトランシーバーからの報告で、セントリーガンの破壊は無事に成功したと報告が入った。


 これで引き上げ時の憂いがなくなったとほんの少し胸を撫でおろしたのも束の間、トランシーバーから聞こえる手下のうめき声と変声機で変えられた女の声にサンドレは戦慄する。


「どうもMrサンドレ。貴方自ら出張ってくるとは思わなかった。私に捕まり今までの罪を悔い改める気にでもなったのか? もしそうなら武器を捨てて投降しろ」


 奪ったのであろうトランシーバーで話しかけてくるコスプレ女への怒りでメキメキと音が鳴るほどに強く握りしめたトランシーバーに向かってサンドレは怒鳴った。


「罪を悔い改めるだと、ふざけるな! 俺は行き場の無い馬鹿共に仕事与えてやっているだけだ。今までは全て上手く行っていたのに貴様のせいで全て台無しだ! 必ず貴様のマスクを剥いで街中を車で引きづり回してやる!」


 サンドレがあまりに大きな声で怒鳴ったせいでトランシーバー越しから聞こえる声は音が割れてしまい、アリスはイマイチ何を言っていたのか理解出来なかったが、とにかく自分にえらくご立腹なのだけは分かった。


「これって逆ギレだよね。絶対ラッセルさんこうなることを分かって話させたんだ」


 トランシーバーをそこらに放り投げながら、理不尽に怒られた気がするアリスは肩をすくめ溜息を吐く。


 廊下に倒れているマフィアたちを踏まないように気を付けながらアリスは次のマフィアたちの元へ向かう。


 監視カメラを使ってのマフィアたちの位置の把握と、院内と言う地の利を生かした戦い方でアリスは次々にマフィアたちを撃破していく。


 その都度ラッセルの指示通りにサンドレを煽る、ではなく、投降を促すが、彼は一向に聞き入れようとはしない。


 冷静な判断力が僅かにでも残っていればサンドレは投降まではいかなくとも、戦える状態の手下の数が半数を切った時点で撤退を選ぶべきだった。


 しかし、マフィアとしての体裁を気にするあまりにサンドレは選択を誤ってしまったのだ。


 本当は自分の失策に気付いてはいるサンドレはひたすらにトランシーバーで檄を飛ばしてどうにかコスプレ女を部下たちに仕留めさせようとするが、返ってくるのはパニック状態の部下たちの悲鳴とコスプレ女からの神経に障る投降を促す言葉だけだ。


 やがて複数のグループに分けた部下たちは全滅したらしくトランシーバーからは耳障りな雑音しか聞こえなくなってしまう。


 サンドレに残された戦力は自分を守る為に、共に入り口に残った数人の部下と自分だけだ。


 ようやくここでサンドレの脳裏に撤退の二文字が過ぎる。


 だが、時すでに遅し。


 彼の目の前に、漆黒の災いが訪れた。


「クレバスファミリーのボス、サンドレ。私はこれ以上貴方たちと争う気はない。大人しく自首すると言うのならこの場を穏便に済ませてもいいと考えているがどうする? その年で部下共々気絶したくはないんじゃないか」


 堂々と腕を組みこちらを見据えてくるコスプレ女の提案に、追い詰められているからこそほんの少しばかり頭が冷えたサンドレは激しく揺さぶられる。


 もしここで下手に戦い、気付いた時には警察の留置場、という状況よりも、自首して意識のあるまま逮捕される方が後々のことを考えて色々と打てる手があるというものだ。


 そうすれば優秀な弁護士に裁判官の知人もいるのだから、檻の中で長々と過ごす必要もないだろうし、弱体化は避けられなくとも必死に育て上げたファミリーも失わずに済む。


 考えれば考えるほどに冷静になってきたサンドレの思考の天秤が自首に傾き始め、言葉にしようとした時、銃声が院内に鳴り響いた。


「馬鹿が! 誰が撃てと言った」


 あまりの緊張感に耐えられなくなったサンドレの手下の一人が引き金を引いてしまったらしい。


 これでは最早自首は叶わぬ夢だろう。


 せめてこれでコスプレ女が死んでくれていればと願うも、コスプレ女は一瞬肩の辺りを抑えただけで、直ぐにこちらに向かって走り出した。


 こうなっては仕方がないとばかりに、自らも口径の大きいリボルバーを抜いたサンドレの怒声と共にクレバス最後の抵抗が始まった。

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