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HERO Planner  作者: 武海 進
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サイキックー③

「その通り。半年もすれば力を蓄えたヴィランや引退を選ばなかったヒーローが復帰していつもの爆発音と銃声が木霊する愉快で危険なフロイテッドシティに戻ったのさ」


 正確に言えば復帰したヴィランやヒーローだけではなく、大物ヴィランがいなくなったことで勢力図に空いた穴を狙い、新たに街にやって来た犯罪者がヴィランへと変わり台頭したり、能力と覚悟が伴っていないない自称ヒーローが多数現れたことで失意の日以前以上にフロイテッドシティでは事件が多発した。


 初期段階で対策を打てなかった警察や行政には最早手の付けようがなく、今も犯罪件数と自称ヒーローやヴィランの出現は増加の一途辿っている。


「平和のままだったら良かったのに……」


 平和だったのなら、母はヒーローを悲劇で生み出す等と狂った計画を思い付きはしなかったろうとアリスは思った。


 狂った計画が生まれた原因は生半可な気持ちでヒーローを名乗る者が多過ぎるからなのだから。


「アハハハハハハ、確かにそれなら君は今も安穏と部屋に閉じこもって鬱屈した気持ちで人生を浪費していられたろうね。だがね、アリス君、平和を維持しようにもこの街はあまりに魅力的で美味し過ぎるんだ」


 ラッセルの言葉の意味が分からずアリスが首を捻っているとラッセルが説明し始める。


 アリスはおろかラッセルが生まれるよりも昔、世界中の国家や企業、研究所などが合同で建造した人工島、それがフロイテッドシティの始まりだ。


 建造理由はどの国家や勢力にも属さない中立の特区を作り、そこで何者にも縛られず自由な経済活動や研究を行い、それぞれを飛躍的に発展させる為だ。


 つまりフロイテッドシティはある種、巨大な実験場とも呼べるだろう。


 フロイテッドシティが本格的に動き出して以降、当初は目論見通りの発展を遂げてはいたのだが、一つ予想外のことが起きた。


 順調に結果が出ていることが原因で、世界中から金と技術が集まり過ぎてしまったのだ。


 それにより犯罪者たちからしてみれば、フロイテッドシティはご馳走が並べられたビュッフェと言えるべき状態になってしまった。


 案の定徐々にフロイテッドシティでは犯罪者の数が増加し、治安は悪化の一途を辿った。


 しかし、そんな日々危険が高まる状況でもフロイテッドシティから撤退する企業や研究所は少なかった。


 一つ所に金と技術が集まるのは犯罪に巻き込まれることの損失を差し引いてもあまりにメリットが大きかったからだ。


 更に、ヴィランたちに直接依頼することで他企業、研究所の資金や機密情報、研究成果に技術を奪うことが簡単に出来てしまうのも都合が良かった。


 普通ならば犯罪都市とも呼ぶべき街となったフロイテッドシティは閉鎖ないし、どこかしらの勢力、国家からの介入があってもおかしくないのだが、汚職に手を染めた政治家や違法行為を隠したい企業や研究所、そしてご馳走を食いっぱぐれたくないヴィランたちの思惑が一致した結果、幾度かの閉鎖、介入の危機を奇妙な連帯で乗り越え街は存続し続けた。


 こうしてそれぞれの思惑渦巻くフロイテッドシティは当初の目的を正しいとは言えないやり方を織り交ぜながらも果たし続け、その代償として世界で最も発展した街という称号と共に最も治安の悪い街とも呼ばれる歪な街へと育ったのだ。


「ヴィランやヒーローが生まれたのもこの街のおかしな特性が故と言えるね。余所の数倍は発展した技術が露店でアイスクリームを買うのと同じくらい簡単に手に入るし、活動資金だってその辺に豊富に転がっている。だからどうやったってこの街では永遠にヴィランやヒーローが生まれ続け、平和なんて尊くもつまらないものが訪れることはないだろう」


 では父が命を擲ってまでやってきたことに意味があったのだろうか、そんな考えが脳裏にヘドロのように張り付いてしまったアリスは顔を曇らせる。


「アリス君、何やら考えこんでいるようだが今はそんなもの、脇に置いておくといい。今君が考えなければいけないことはただ一つ、御母上の凶行を止めることだけだ」


 そう言ってラッセルはアリスの気を逸らせるかのようにコンピュータを操作するとモニターに空港の監視カメラの映像を映し出す。


「先程情報が入ってね、ジェシカ・ゴードンが街に戻って来たらしい」


 セシリアの次の狙いであるサイキック、ジェシカ・ゴードンは不倫調査で街を離れていた。


 ラッセルはセシリアの計画上、彼女が街に戻ってくるまでは手を出すことは無いだろうと踏んではいたものの、念のために行方をずっと監視していた。


 しかしジェシカの調査は随分と難航したらしく、ずっと街の外を飛び回っており中々帰って来ず、アリスたちが計画を知ってから既に一週間程過ぎてのようやくのご帰還だ。


 その間、病院再建業務と監視の並行作業をしていたラッセルはそれなりに忙しくしていたのだが、一方のアリスは特段普段やっていること以外にすることが無かった。


 だが、ラッセルが時間を無駄にする訳が無く、アリスはジャックの手が空いている時は武器の扱いを学ぶように指示され、軍隊仕込みの猛特訓を受ける羽目になった。


 厳しさとは裏腹にジャックの手解きは分かり易いらしく、アリスの生来の身体能力高さも相まって僅かな期間にヴィランを相手取るにはやや不安が残るが、その辺のチンピラ程度ならば問題なく倒せる程度には武器を扱えるようになっていた。


「さて、君の御母上の計画から察するに、ジェシカの母親が狙われるのは明日の退院以降だろう」


「退院するんですか? 資料を見た限りとても退院できるような状態じゃないですよね」


 ジェシカの母親は難病を患っており、体を真面に動かすことが出来ないほどに病状は深刻なようだ。


「その通り、正確には退院ではなく追い出されるようだ。金の切れ目が治療の終わりという訳さ」


 フロイテッドシティの医療費は特別高い訳では無く、企業や研究所によっては福利厚生の一環としてその殆んどを負担するところもある。


 しかしジェシカは残念ながらどこかの企業お抱えというわけでは無くフリーの探偵なのでそういった支援を受けている訳でない。


 探偵としての腕は優秀なようだが、不倫調査やペット探しだけでは莫大な治療費を賄いきれないようだ。


 おまけにジェシカの父親は既に他界しており、頼れる身内もいない。


 ラッセルが病院の記録を調べたところ既に数か月分の治療費が未納になっており、いよいよ追い出されてしまうことになったらしい。


「ジェシカの方は足取りを追うのは左程苦労しないが問題はコドクだ。奴はここ数か月間全く姿を見せていない。多分グルメな彼の舌に合う獲物が見つからないのだろう」


 事件を起こさない限り尻尾を掴ませない辺り、流石はヴィランと言うべきだろう。


「じゃあどうするんですか?」


 アリスの質問にラッセルは笑いながら指を鳴らすと、ジャックが何やら人型の物、マネキンか何かに布を被せた物を台車に乗せて運んできた。


「古典的な方法だが、居場所が分からない相手を見つける確実な方法がある。どこにいるか分からないのなら、確実に現れる場所を見張ればいいのさ。それを着てね」


 台車に近づいたラッセルは布を豪快に取り払う。


「……やっと出来たんですね、スーツ」


 アリスの目に、待ち望んだ物がようやく映った。


 仮初では無い、本物のヒーローのスーツが。

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