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HERO Planner  作者: 武海 進
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父と母の秘密-①

「今日で私たちは、偉大なヒーローであるブラックガーディアンを失ってから三回目の失意の日を迎えます。そこで当番組では改めてブラックガーディアンの栄光を振り返っていきたいと思います」


 ベッドに横たわり、無気力な顔でテレビから流れるニュースを見ていた彼女は顔を歪めるとチャンネルを回す。


 だが、どの局もブラックガーディアンに関する番組ばかりで、彼女の気分はより一層陰鬱になるだけだった。


 テレビを消してぼんやりと天井を眺めながら彼女はあの日を、憧れのヒーローと最愛の父を失った日のことを思い出す。


 テレビやSNSは半ばパニック状態でこの街を、フロイテッドシティを守り続けた平和の守護者、ブラックガーディアンの死を叫んでいた。


 リビングのテレビで知った憧れのヒーローの死に涙し、母に慰められていた彼女に執事が更なる悲劇を伝えに来た。


「奥様、お嬢様。今警察から連絡がありまして、旦那様が交通事故に逢われたと……」


 そこから先のことはあまり彼女の記憶には無かった。


 ただ、涙が枯れても泣き続けたこと、全てが嫌になり、世界選手権出場が決まっていた新体操も親友がいる学校も全て投げ出し、部屋のカギを締めたことだけは覚えている。


 あれから三年間、一度も部屋から出ることも、実の母に顔を合わせることすら出来ずに生きてきた。


「お嬢様、お食事をお持ち致しました。ご気分は如何ですか?」


 いつの間にか出ていた涙を拭きながら、彼女は扉の方を見る。


 執事のウォルターは扉の向こうで返事を待っているようだが、彼女は何も答えることが出来ない。


「……今日は旦那様を偲ぶ会が別宅で行われます。私やメイドたちも皆そちらに向かいますので、申し訳ございませんが屋敷にはしばらく誰もおりません。ですがもし何か御座いましたらいつも通り携帯でメッセージを送って下さい」


 本来ならば彼女も出席すべき会なのだろうが、ウォルターは出るべきだとは言わずにその場を後にする。


 それは彼なりの気遣いなのか、ただ諦めているだけなのかは分からないが、彼女は前者の方だと思いたかった。


 足音が聞こえなくなってから扉をほんの少しだけ開けた彼女は、カートに乗せらている食事とミネラルウォーターのボトルを取るとまた扉を閉ざす。


 小ぶりなサンドウィッチには瑞々しい野菜とハムが挟まれており、少量でも栄養価が高そうな物だ。


 真面に食事を取りたいとすら思わず、不規則に少量食べる彼女に合わせて作らているのが見て取れるメニューと言えるだろう。


 そんな気遣いの塊であるサンドウィッチを無理やり口に押し込み、水で流し込んだ彼女は再びベッドに横になる。


 毎日気分が晴れない日々を送る彼女にとって、今日は殊更に気分が重い日なのだ。


 さっさと眠って今日を終わらせるために彼女は瞼を閉じた。


 しかし、中々睡魔が襲ってくることは無く、何度も寝返りを打ち、ふと瞼を開けると二枚の写真が目に入った。


 一つは幼い頃家族三人でビーチで遊んだ時に撮った写真。


 日々忙しい両親に駄々をこねて無理やり連れて行ってもらったのをよく覚えている。


 もう一枚はまだきちんと学校に通っていた頃に、偶然街中でヴィランを捕まえてどこかへ消えようとしていたブラックガーディアンに出会い、必死にせがんで取ってもらったツーショット写真だ。


 今はどちらも見たくはない写真ではあるのだが。


 それでも彼女は大切な宝物でもあるそれを処分することが出来ず、写真立てを伏せて視界に入らないようにすら出来ずにずっとそのままにしていた。


「……パパ、ブラックガーディアン、何で死んじゃったの」


 もう何百、何千回とも呟いた言葉を彼女はまた呟く。


 必死に忘れようとも、乗り越えようともした二人の死の記憶を反芻してしまった彼女はとてもではないが眠ることなど出来ず、ベッドから起き上がった。


「今日は誰もいないんだよね」


 今までは一度もそんなことは思わなかったが、どうしても父親の温もりが恋しくなった彼女は扉を開けると、三年ぶりに部屋から一歩踏み出した。


 そのまま彼女は足早に廊下を進むと、父の書斎へと入った。


 中は母がそのままにしていたらしく、一切何も変わってはいなかった。


 暖炉の前に置かれた安楽椅子に腰かけた彼女は、幼い頃に父の膝の上でよく本を読んで貰っていたことを思い出し、ほんの少しだが、父の温もりを感じた気がした。


「そういえばパパ、あそこの棚の本はまだ難しいからダメだって一度も読んでくれなかったな」


 大きな本棚の一番下の段は絵本や児童向けの文学書が置かれているが、そこから上は全て辞書や哲学書などの確かに幼子にはタイトルだけでも理解不能な本がみっちりと収めらていた。


 ふと、父の本の趣味が気になった彼女は、成長した今だから手が届く段にあった本を適当に取ろうとした時、カチリと音がした。


「え、な、何! 本棚が動いた!」


 本は質感は古い本に見えたが、本物の本ではなく、本棚の隠し扉としての機能を起動させるためのダミーだったのだ。


 この書斎には何度も出入りしていた彼女も本棚にこんな秘密があったとは知る由も無く、ただただ驚くことしか出来ない。


「何でパパ隠し部屋なんて作ったの? 家族の間で秘密は作っちゃダメだっていつも言ってたのに」


 彼女は背筋にうすら寒いものを感じた。


 この街に何故、ブラックガーディアンというヒーローがいたのか、理由は簡単である。


 平和を脅かす大勢のヴィランがいたからだ。


 こんな隠し部屋を持っているということは、父も又、何か人に言えないようなことをしていたのではと彼女は思ってしまう。


 もちろん、あの誰にでも分け隔てなく優しく、皆から尊敬されていた父が悪事に手を染めていただなんて思いたくはない。


 だが、それではこんな部屋を持っている理由が説明出来ない。


 本を元に戻せば、きっとこの隠し扉は再びただの本棚に戻るだろう。


 そして何も見なかったことにすれば父の尊厳は守られ、自分も傷つかずに済む。


 それが一番良いと思いながらも彼女は、一歩、隠し扉の奥へと続く階段に踏み出していた。


 例えそこにどんな秘密があったとしても、知りたいという衝動に勝てなかったからだ。


 薄暗い階段を下りきった先に有ったのは、大きな会議室位はありそうな空間に所狭しとコンピュータや工作機械が置かれた部屋だった。


 一体ここで父が何をしていたのかと探ろうとした彼女の目に、信じられないものが映った。


「これって、ブラックガーディアンのスーツ!」


 ガラスケースのマネキンに着せられていたのは、ボロボロで半ば原型を留められていないブラックガーディアンのスーツだった。


 黒いせいで分かりづらいが、よく見れば赤黒い染みが大量についており、恐らくブラックガーディアンが死んだ時に身に着けていたスーツなのだろう。


「な、なんでブラックガーディアンのスーツここにあるの……」


 動揺とトラウマのせいで倒れかけた彼女が偶然キーボードに手を突くと、スリープ状態だったコンピュータが立ち上がり、動画が再生され始めた。


「セシリア、君がこれを見ていると言うことは私がもうこの世にいないのだろう。察しの通り、私がブラックガーディアンだ。本当は君にも打ち明ける気は無かったんだが、ウォルターにそれでは事後処理が大変だと怒られてしまってね、ブラックガーディアンとしての遺言も残すことにしたんだ。詳しいことはファイルに纏めてあるからそれを見て欲しい。ただ、どうしてもこれだけは伝えたかったからこの動画を撮ったんだ。君を、アリスを心の底から愛している。だが、アリスにだけはブラックガーディアンが私だとは伝えないで欲しい。憧れのヒーローが父親だなんて、ショックを受けるだろうからね。それにヒーローの正体は謎のままが一番カッコいいだろう」


 冗談めかしたウインクをする父の笑顔で動画は終わった。


「パパが、ブラックガーディアンだったなんて……」


 ショックを受けながらも、アリスの頭の中で次々と点と点が繋がっていった。


 突然仕事だと夜の夜中やパーティーの最中に消えたのも、しょっちゅう転んだり事故や喧嘩に巻き込まれて怪我をしていたのも、ブラックガーディアンと同じ日に死んだのも全て、父がブラックガーディアンなのだと分かれば辻褄が合うからだ。


 アリスはもっと父のことを、ブラックガーディアンのことを知りたい衝動に突き動かされ、コンピュータ内のフォルダを次々に見ていく。


 フォルダの中身の殆どは事件やヴィランについて纏めたものや装備の開発レポートばかりであったが、一つおかしなフォルダがあった。


「これ、更新日が今日の日付になってる。どういうこと?」

マイペース投稿ですがお付き合い頂けると幸いです!

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