7. 泉
やばい…
急いでゴブリンの巣を出たせいで、街がどっち方向だったかわかんなくなった。
現世じゃ方向音痴だったが、こっちでもちゃんと引き継がれてるんだな。身体能力はめっちゃ上がってるのに。そういうところは変わらないのか。
それに、こっちの世界に来てからまだ何も食べてないし、何も飲んでいない。まだ数時間しか経ってないがもうそろそろ限界が来そうだ。
何か、食料を……
え?ゴブリンの肉があるだろって?
色から食いたくない、いくら飢えてるからと言って流石にそこまではしない。なんか牛の魔物とかいないかなぁ。そして水は、川かなんかを見つけたいかな。
森の中をさまようこと数時間、もうすでに辺りは暗くなっている。夜空には満月が浮かんでいる。そして、俺はやけに神秘的な泉のような場所にたどり着いた。なんか雰囲気で言えば女神の泉みたいな感じだが、この水は飲んでいいのだろうか?
いや、飲めるか飲めないか的な問題ではない。
この神秘的な泉の水を飲んで怒られたりはしないだろうか?
気にしてたってしょうがないか。俺はそっと泉に触れてみる。
そしたら泉の中から光が溢れ出してきた。
その光はどんどん上に登っていくと、つい日常に現れた。
そして俺の目の前に映ったのは、真っ白な衣装に緑色の長いストレートの髪型、整った顔の女性が出てきた。少し眩しい。
やっぱり予想通り女神の泉だった。うん、まあもともとこの森は神秘的だなぁって思ってたし、その中のさらに神秘的な泉って言ったらもうこれしか考えられないよね。
それにしても女神なんて始めてみたなぁ。当然だけど。
現世に神なんて存在しなかったし。
「ようやくここに来たのね?」
女神が俺に話しかける。思わず俺は驚いてしまった。いや、女神が俺に話しかけてくれたことに驚いてるのではない。それだったら姿を表した時点で驚いている。
俺が驚いてる理由はそこではない。
街で出会った人や森で見かけた人、おそらくそれ以外もそうだが、この世界にいる人は皆日本語なんて通じなかったし、喋らなかった。
なのにこの女神は俺に日本語で話しかけてくれたのだ。この世界に来て初めてのことだ。
そして一応訪ねてみる。
「もしかして、日本語が通じるんですか?」
「当たり前でしょ、誰があなたをこの世界に呼び出したと思っているの?」
「ってことは俺がこの世界に来たのって……」
「私のおかげよ」
「そうだったのか、それで、あなたは?」
「ああ、私はこの世界とあなたのいた世界をつなぐことのできる神様、とでも言っておこうかしらね」
まあ、俺の予想通り女神様だったわけだ。それに、俺をこの世界に呼んだと言っていた。
何のために?
いや、呼び出した張本人が目の前にいるんだ。直接聞いたほうが速いよな。
「何で俺をこの世界に呼び出したんですか?」
「今、この世界でちょっと困ったことになっているのよ。それの解決のためにあなたが呼ばれたってわけ」
「でも、何で俺なんだ?俺なんか別に天才ってわけでもないし、身体能力がいいわけでもないぞ?」
「うーん、説明するなら、あなたが異世界についてよく理解してるってことかしらね。それに性格とかも色々……、まあとにかく今は時間がないの。あなたがここに来るまでに結構時間がかかっちゃったから、私も長くここに居れないのよ。とにかくあなたは無造作に選ばれたわけじゃないわ」
なんか、うん、色々あるんだな。俺がこの世界に来たのも、単なる偶然じゃなさそうだ。
「あとそうだ、あなたに渡しておきたいものがあったの」
「これって……?」
泉の女神(仮称)は何か機械っぽい丸い玉のような物を俺に渡してきた。何に使うのかはわからない。
「それじゃあ、一ヶ月後の満月の夜、もう一度ここへ来たら色々話してあげるわ。それじゃあ」
「あ、ちょっと……」
結局この玉が何なのかは教えてくれなかった。まあ、おそらく役に立つだろう。
てか、もうすぐ夜が明けそうだな。目覚めたときは精々午後3時位だったというのに。よく俺生活していられるな。
まあ、なんか色々知れたし、魔物でも探しに行きますか。
《それでしたら、おすすめの魔物を紹介しましょう》
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