第6話 レベルアップ時には脳内にメッセージが届くのが常識?
転送魔法陣に入ると、ふっと身体が飛ぶような感覚があった。
そして、一瞬で景色が変わる。石造りの建物の中に移動したようだ。
ルーコとチルリーが魔法陣の光の柱から出る。先に移動したフィーラが微笑んだ。
「どうでした? 初めての転送魔法陣は」
『不思議な感じだったな。
一瞬で場所を移動できるなんて、すごいなこれは』
ルーコは異世界の技術に感心した。
『で……、ここが地下四階層?』
「はい。そうですよ」
先程の森林が地下五階層だったようなので、上がってきたとすれば地下四階層なのだろう。転送が一瞬なので階を上がった実感がない。
『ふーん。実感が無いんだが、ダンジョンっていうのは地下に伸びている感じなのか?』
「いえ、ダンジョンによります。
魔法陣で移動するタイプのダンジョンでは便宜的に地下と呼んでる感じですね。
階段があるわけではないので、実際には上下の区別はありませんし。
ダンジョンは異空間なので、人間界の感覚とは違うんです。
だから、階層という表現をしているみたいですね」
『なるほどね』
石造りの通路をルーコたちは進んでいく。
壁には所々に灯りを放つ道具が刺さっている。
『結構明るいね。これはダンジョンに元々備わってるものなのか?』
「場所によりますね。元々ある場合もあれば、冒険者たちが照明魔導具を仕掛けていく事も多いです。ここの灯りは冒険者たちによるものみたいです」
『へえ。魔導具って?』
「魔導具は魔法を封じ込めた道具ですね。武器としての魔導具もあれば、日常品としての魔導具もあります」
ルーコは魔導具は機械のようなものだと理解した。原動力が電気か魔法かの違いがあるが、似ている気がしたのだ。
自分自身の記憶は殆ど無いが、元世界の物や文化などは何となく記憶がある。
話をしながら進んでいくと、角の生えた大きな兎が曲がり角から現れた。
「ルーコさん、あれはホーンラビットです!」
『でかい兎だね』
イノシシ位の大きさの兎が突進してきた。角は鋭いので生身だと結構危険だろう。
ルーコはダークハンドを使い、平手打ちにした。
「キュウッ……」
ホーンラビットは勢いよく壁に叩きつけられて、呻き声を上げた。
先程、ゴブリンを倒した際に新しいスキル〈ダーククロウ〉を覚えたので使ってみる。
気絶している兎の首を、ダーククロウで切り裂いて止めを刺した。
ダーククロウはダークハンドの指先が鋭い爪状に変化したものだ。ナイフ程度の切れ味を感じた。
生身の人間にとっては角を持ち突進してくる獣は脅威だろう。だが、直接攻撃が無効なルーコにとっては脅威でも何でもない。
フィーラがホーンラビットの魔石を取り出す。更に角を切り取った。
『角は素材になるのか?』
「はい。ホーンラビットの角は武器の素材になりますね」
『ふーん。毛皮とかも使えそうだがな』
「そうですね。ルーコさんの言う通り、毛皮は服の素材になるんですが、皮を剥ぐのは大変なので低ランク冒険者には敷居が高いんです」
『うん? 低ランクでも高ランクでも面倒臭さは変わらなくないか?』
「高ランク冒険者はマジックバッグやアイテムボックスのスキルを持っていたりするので、死体をそのまま入れる事が可能なんです。
なので、ギルドに死体をそのまま持って行けば、ギルドには解体屋がいるので解体してくれます。手数料は引かれますが、高ランク冒険者のクエスト報酬からすれば微々たるものなので、彼らはそうすることが多いです。
〈野獣の牙〉もマジックバッグを持ってました」
『えっ。この大きなモンスターが入るのか?
しかし、奴らは大きな鞄は持っていなかった気がするが……』
「マジックバッグも大小ありますが、見た目は小道具入れ位な物が多いです。
それでもホーンラビット位なら数十体は入ると思います。高価で高性能なマジックバッグならもっと大きなモンスター、ドラゴン等も入ってしまう位なので」
『まじか。マジックバッグって凄い技術だな』
フィーラが素材を布袋に詰めた。フィーラの布袋はスーパーのビニール袋Mサイズ程度の大きさで、マジックバッグではない。
布袋に素材をしまって背負っていたバックパックに入れる。
更に進んでいくと、ブヨブヨした丸いものが二体、通路の壁にくっついているのが見えた。
「あれはポイズンスライムです! 毒液を吐き出す厄介な奴です。
外側はゼリー状なので打撃が通りにくいんですが、内部の赤い核を壊せば倒せます」
『ふーん。確かに、液体状だから殴っても効かなそうだね』
ポイズンスライムもこちらに気が付き、うねうねと動きながらこちらに向かってきて、ぴょんと飛び跳ねた。
ルーコはダーククロウでポイズンスライムの内部にある核を引っ掻いた。
プチっという音を立て、核が弾ける。すると同時にブヨブヨの部分もびちゃっと弾けて床に落ちた。
もう一匹は毒液を吹いてきたが、幽霊であるルーコには効かなかった。すかさず核を破壊して倒した。
物理攻撃も毒も効かないので、ずっとルーコのターンだ。
スキルレベルアップを告げるアナウンスが聞こえた。
『チルリー。スキルレベルがアップしたって聞こえたんだけど、チルリーにも聞こえたか?』
〈野獣の牙〉を撃退した時もあった現象だが、その時はごたごたしていて聞き忘れていた。
「あー。それは本人にしか聞こえないよ。
スキルを使うと新しいスキルを覚えたり、スキルレベルが上がっていくんだー!」
「この世界では普通の事ですよ。レベルアップ時には脳内にメッセージが届くんです。
ルーコさんの元いた世界では無かったんですか?
だとしたら、自分の成長が分からなくて不便な気がしますが……」
『えっ。自分が成長したかどうかなんて、感覚じゃないのか?』
ルーコとフィーラはお互いにカルチャーショックを受けた。
確かに、成長が目に見えて分からないとどの程度成長したか不明だし、数値などで比較できないと他人との優劣も分かりにくい。言われてみれば不便だなとルーコは思う。
しかし、明確に分かってしまうのも残酷ではある気がした。
その後もホーンラビット、ポイズンスライム、噛みつきコウモリ等のモンスターがちょくちょく出現したが、ルーコがあっさりと倒した。
『このダンジョンも地味に広いな。転送魔法陣はまだなのか?』
「あともう少しだよー」
地下4階層は曲がり角が多く、グネグネとした構造をしている。
とは言え、分岐は特になくほぼ一本道だったので迷う事は無さそうだった。
しかし、ずっと代り映えのしない通路が続くので、実際よりも長く感じるのかもしれなかった。
「見えたよー」
転送魔法陣がようやく見え、ルーコたちは地下三階層へ難なく到着した。