第5話 ルーコの腕試し
ルーコは怨念動力を発動した。周囲の地面から複数の小岩が浮き上がる。
ターゲットにした物体を見えない糸で吊り上げるようなイメージだ。
それをゴブリンの群れへ向けて散弾のように飛ばした。
小岩はゴブリンの腕の肉を削り、腹の肉にめり込んだ。しかし、胸や腕の中央は表面を傷つける程度だった。骨を貫く威力は無いようだ。
ゴブリンたちが眼を血走らせて襲ってくる。
「キイイィィィィ!」
ゴブリンが叫びながら棍棒を振り下ろすが、ルーコの身体を通り抜ける。
ルーコは新しいスキルを使ってみる事にした。
先程、〈野獣の牙〉の男達を撃退した際にルーコのレベルが上がり、新しいスキルを覚えたりもしていたのだ。
「暗黒刃!」
ルーコの掌から黒い刃状のエネルギーが放出された。
ダークブレイドは二体のゴブリンを一気に真っ二つにした。ボトボトと上半身や腕が地面に落ちる。
もう一体はその光景に恐怖したのか、逃げようとした。
しかし、ルーコはダークハンドでその一体の胴体を掴んだ。
「グギャアアアアアアアアアアッ!」
ダークハンドで掴んだ部分が溶け、黒い靄が立っている。
強酸で溶かすような感じに似ているとルーコは思った。
暫く掴んでいると、ぐちゃりと下の部分が落ちて内臓も地面へと零れた。
『まあ、大したことは無かったな』
「ルーコには物理攻撃効かないし、魔法を使えないモンスターなら一方的だもんね!」
「さすがルーコさんです! 私のようなしがない精霊使いが出る幕なんてありません。
次からは全部お願いします!」
『えー。他力本願は良くないと思うよ?』
「いえいえ、元々、この階層は今の私の力では無理なんです。だから〈野獣の牙〉のメンバーも私が自力で帰れない階層まで連れて来てから襲ったと思うので』
『ふーん。何層くらいなら一人で大丈夫なの?』
「そうですね……。第一層、ギリギリ第二層って所ですね」
悩みつつ首を傾げながら、フィーラが答えた。
『なるほど。分かった、とりあえず、第三層までは私がやってやるよ』
「えっ……。二層からは私がやる感じですか?」
不安と驚きの混じった声でフィーラが聞き返した。
『だって冒険者でしょ? だったら冒険者としての仕事をしないと意味なくない?』
「いや、まあ、それはそうなんですが……。
先程も言いましたが、私は基本的にサポート役なんですよ。他の冒険者と同行して、敵の動きを邪魔したり、味方が傷つけば回復したり……」
『でもさ、戦えばレベル上がるんでしょ? 私も上がったし。レベル上げて強くなって一人でも戦えるようになった方が良くない? 〈野獣の牙〉みたいな下心ありまくりな野蛮な奴だっているわけだしさ』
もっともな意見だった。だが、誰にでも得手不得手はある。それぞれの長所で短所を補い協力し合うのが仲間でありパーティでもある。
「あっ、そうだ。ルーコさんが私と契約してくれればいいんじゃないでしょうか?
そうすれば、私がルーコさんを使役することで間接的に私が戦ったことに……!」
名案が閃いたという風にフィーラが言う。
『何ぃ?』
ルーコはあからさまに嫌な声を出した。
するとフィーラは少したじろいだ。
「あ、すみません……。調子に乗りました」
『でも、私は精霊じゃないから契約できないんじゃないの?』
「そうだねー。精霊に近いけど今は精霊じゃないから出来ないと思うよー。
それにルーコが精霊になったとしたら中精霊くらいのレベルだと思うから、今のフィーラでは契約出来ないんじゃないかなー?」
ルーコはふと疑問を口にするとチルリーが答えた。
『へー、今は精霊じゃないけど精霊になることも可能なの?』
「うん。可能だよ。神様から認めてもらえればだけど」
『なるほど。あと気になったのは、私って中精霊レベルだったのか?』
ルーコとしては少し不服だった。中途半端な感じがしたのだ。
それに、自分が割と強いという自覚もあった。
現にCランクパーティとゴブリンは小手先程度の力で圧倒出来ていたからだ。もう少し強い敵でも勝てたんじゃないかと思っている。Cランクがどの程度か分からないが、あの程度でCランクならAランクで互角程度なのではと感じたのだ。
「そうだねー。精霊の格は強さだけで決まるわけじゃないからね。もちろん、中精霊よりも大精霊の方が強い傾向はあるけどねー!
大精霊は多くの人に認知されて崇め奉られないとなれないからー」
『そうなのか……。じゃあ、仕方ないな』
強さ以外の指標があるな仕方ないと、ルーコは溜飲を下げた。
ルーコとチルリーが目を離していたら、フィーラはナイフを取り出してゴブリンの腹を割き始めた。
『うわっ。何してるんだ?』
「えっ。せっかく倒したし、魔石を取り出してるんですよ。討伐証明にもなりますし。
冒険者にとっては必要なものなんですが、頂いちゃっても良いですか?」
『構わないけど。魔石って何……?』
「モンスターの素になっているとか、モンスターのエネルギー源であるとか、またはモンスターの魔素が体内で蓄積して固まったものだとか、諸説あります。
なので、モンスターの体内には例外を除いてだいたい魔石が入っていて、アイテムの生成に使ったり、燃料に使ったりするんですよ。討伐証明にもなります。
ゴブリンから採れる素材は魔石以外には無いんですが、ウルフやオークからは魔石以外にも牙なんかも採ったりしますよ」
説明しながらフィーラは手際よく魔石を取り出している。
若くて可愛らしい女性がモンスターの腹を割き、内臓の中に手を突っ込み、手を血で汚している姿にルーコは衝撃を受けた。
魔石を採り終わり、ルーコたちは更に進んだ。
暫くしてチルリーが指を差した。
「ほら、あそこだよー」
チルリーが指示した方向を見ると、地面に魔法陣が描かれていた。直径2メートル程度だろう。そこから円柱状に淡い光が立ち上がっている。
転送魔法陣というもので、ダンジョンの移動はこれで行うらしい。ダンジョンによっては普通に階段で昇降する場合もあるという。
『この光の柱の中に入ればいいの?』
「はい。こんな感じで」
そう言うとフィーラは光の中に入っていき、身体がひゅんと消えた。