第4話 モンスターが現れた!
ルーコたちがダンジョンの森を進んでいた。
チルリーが言うには上の階層への魔法陣までの距離は結構あるという。と言っても徒歩三十分くらいらしい。
ルーコとチルリーだけなら飛べるので一瞬で行ける距離だが、フィーラが徒歩なので彼女に合わせて進んでいるのだ。
「あの……ルーコさん。ルーコさんって精霊ではないんですよね?」
『えっ。そうだけど。何で?』
最初に話した時も精霊かどうかを訊かれたなとルーコは思い返した。
「えーと、私って精霊使いなので、精霊感知スキルがあるんですよ。
それで、ルーコさんから微かにですが、精霊反応があるんですよね……」
『えっ?』
何かの間違いではないかとルーコは思った。
すると、チルリーがフィーラの顔の辺りにふわっと飛んできた。
「そうそう、ダークスピリットはモンスターと精霊の中間辺りの存在だからね!
精霊反応はあるかもね!」
『そうなの? チルリー、私の事を悪霊って言ってなかったっけ?』
「いやー、悪霊には違いないよー!
鏡見てみてよ! 鏡には映らないと思うけど!
真っ黒いオーラに包まれてて、どこからどう見ても悪霊だよー!?」
『おい!』
ルーコは指でチルリーを突いた。
「痛いよー!」
『あ、妖精には触れるんだな』
反射的に突いてしまったが、妖精には触れられるらしい。
「そりゃそうだよー! 幽霊も妖精もエネルギー体同士だからねー!」
普通の幽霊はゴーストと呼ばれ、スピリットの類は幽霊よりも魔力が強く、精霊に近いのだとチルリーが説明した。
「けど、精霊に近いだけで精霊では無いよー!」
『まあ、どっちでもいいけど』
悪霊であろうと精霊であろうと、人間ではないという意味では何も変わらないのだ。
『そういや、フィーラは冒険者って奴なのか?』
チルリーが説明の途中だったが、ダンジョンには冒険者が探索に来ると言っていたのを思い出したのだ。
「はい、そうなんです。私はまだ冒険者になりたてのFランクですが、冒険者の端くれですよ」
そう言ってフィーラが胸元から、首に掛けてあったカードを取り出して見せた。
鉄製のカードのような物に文字らしきものが印字されている。
どうやら冒険者の証明書らしい。身分証明にもなるという。
『冒険者ってのはモンスターと戦うんだろ?』
「はい、そうですね。私はどちらかと言えばサポート役ですが……」
『精霊使いだっけ。精霊ってのはどんな奴らなんだ?』
「私が契約しているのは光の小精霊ウィルポーくんと草の小精霊グラッシーちゃんの二体だけです。私はまだまだ未熟なので小精霊しか契約できませんが、中精霊、大精霊などもいますよ」
『へぇ。ちょっと見せてみなよ』
「今ですか?」
フィーラは困ったような顔をする。
『え、何か問題あるの? 別に嫌ならいいけど』
「いえ、嫌ってわけじゃないですが、精霊たちを召喚するのは何か助けてもらう時なので、特に用事もなく呼ぶのはどうかと思っただけで」
『あー、そう言う事ね。じゃあ、今はいいや。モンスターが現れた時にでも見せてくれれば』
「はい、必要があれば呼ぶことになると思うので」
そんな話をしていた矢先、何かが木の陰から現れた。三体の汚い緑色をした人型の化物だった。
「ゴブリンだよー!」
チルリーが言った。
『おっ、丁度いい所にモンスターが出てきたな』
「噂をすれば何とやらってやつですかー?」
『フィーラのお手並み拝見といこうか』
「私一人でですか? 攻撃も少しは出来ますが、私は基本的にはサポート要員ですよ!」
『分かってるって。危なかったら助けるから、ちょっと小精霊ってのを見せてくれよ』
ルーコは好奇心で小精霊が見てみたかったのだ。
「もー、分かりましたよ!」
ゴブリン達もこちらに気が付き、奇声を上げながら襲い掛かってくる。素手のタイプが一匹、棍棒を持っているのが二匹だ。
泣きそうになりながらもヤケクソ状態でフィーラは杖を構えた。
「グラッシーちゃん召喚!」
フィーラが杖に力を籠めると杖の先の水晶が光り、緑っぽい身体に草のような毛髪を生やした精霊が現れた。
「グラッシーちゃん! ゴブリンを攻撃してください!」
「あいよー!」
グラッシーが何やら唱えると、刃のような草が舞い、ゴブリンへと飛んでいく。草の刃がゴブリンの身体を切り裂き、いくつかは突き刺さった。
『おお、可愛らしい精霊だが、なかなかやるじゃないか!』
ルーコは拍手した。
「ありがとうございます。でも、この位の攻撃では致命傷にはなりませんよ」
ゴブリンはぎゃぎゃあと声を上げながら、迫ってきている。
「もういいですかね? あとは任せていいですかね?」
フィーラが涙目になって助力を求める。
『うーん、ウィルポンくんは?』
「えっ、ウィルポンくんは一応攻撃も出来ますが、回復と補助がメインなので……」
『見てみたい』
「分かりましたよ! ウィルポンくん召喚!」
持っている精霊を全部見るまでは助けてくれなそうだと判断したフィーラは光の小精霊を召喚した。
「ウィルポンくん、ゴブリンを攻撃してください!」
「わかったポー!」
ウィルポンが光り輝き、ゴブリンに対して拳くらいの大きさの光弾を放った。
ゴブリン一体の顔面に命中した。ゴブリンは仰け反ったが、ダメージはそれ程大きくなさそうだった。
「これが私の精一杯ですー!」
『そうか。なかなか面白いものが見れた。私もちょっと色々試してみるか』
戦闘に関しては記憶がないだけの気がするが、ルーコはまだこの世界にも戦闘にも慣れていない。
モンスターという存在は元の世界にはいなかったはずなので、少し興味もある。
スキル様のものは使っていた気がするが、スキルと言う概念もこの世界で初めて知った気がするので、使い方や威力などを確かめたかったのだ。
ルーコは少し、ワクワクしていた。