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悪霊だった私が異世界で女神になるまで  作者: 卯双誉人
第1章 異世界幽霊
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第16話 森を駆ける姉弟

コロネが身を低くしながら、周囲を確認しながら家や小屋などに隠れながら進む。

 弟のコルトもそれに倣って続いているのを、コロネはちらりと確認して更に進んだ。

 村のあちこちでモンスターの叫び声や何かが壊れる音が聞こえてくる。

 コロネは拳を握り、歯を食いしばった。

 自分の生まれ育った村が蹂躙され、村の人たちが傷つきながら闘っている。自分も一緒に闘いたいという気持ちを抑える。

 村の東の端に辿り着くと、先を尖らせた丸太を繋げた柵がある。大人二人分くらいの高さがあるので、子供であるコロネ達にとってはかなり高い。しかし、二人は軽々と登っていった。

 そこで背後から叫び声が聞こえた。振り返ると、オークが二人に視線を送っていた。

 目が合うと、オークが柵の方へと駆け寄ってきた。それは突進に近かった。

 

「やばいニャ!」

「さっさと行こう!」


 コロネとコルトは柵から飛び降り、平原に着地した。

 ほぼ同時に、オークの突進と棍棒による打撃で柵が破られた。

 コロネの数十倍はありそうな図体のモンスターだ。コロネ達は到底敵わないと悟った。

 オークは雄叫びを上げた。すると、二体のオークが更に集まってきた。


「あれは無理だニャ! 森まで行くニャ! 森の中ならあいつよりも私たちの方が身動きは取りやすいはずニャ!」

「うん。分かった」


 二人は森へと向かって走り出すと、オーク達も二人を追ってきた。

 オーク達は見掛けによらず動きが早かった。平原を駆け、攻撃を躱しながらコロネ達は森の中へと入った。


「お姉ちゃん、木の上を行こう! 上ならあいつらも手を出せない筈だよ」

「お、頭いいニャ!」


 二人は軽やかに木を登り、枝から枝へと飛び移りながら移動した。

 オークを少し引き離したが、暫くするとオークは木々を薙ぎ倒しながら進んできた。

 木が倒れると周辺の木へとぶつかる。木々は密集しており、衝撃はコロネ達にも伝わった。

 二人は揺れる枝の上で一瞬、踏み外しそうになるが踏み留まった。


「木の上も結構危険だニャ……」

「でも、下を行くよりはマシだよ」

「それもそうだニャ」


 二人は木が揺れるのを用心しながら、更に進むことにした。足場に気を付けながらなのでペースは落ちた。

 しかし、三体のオークも進撃の手を緩めることなく追ってくる。

 オークがコルトのいる木を薙ぎ倒した。


「わあっ!」

「コルトーーッ!」


 コルトはゆっくり倒れていく木の上で枝にしがみついた。そのまま木は地面へと倒れていく。

 木が地面に叩きつけられる前にコルトは地面へとジャンプして着地したので無事だった。

 コロネは木から降りてコルトの所へ向かった。


「大丈夫ニャ?」

「うん、大丈夫」


 コロネはほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、そこに黒い影が覆い被さった。


「ブギュルルル……」


 オークが鼻息を荒くしながら二人を見下ろしている。

 棍棒が振り下ろされたが、間一髪避けて二人はすぐさま駆け出した。

 オークとの距離は余り縮まらない。コロネたちは少し息が切れてきた。


「ハァ……。コルト、私が囮になるニャ。だから、コルトは街に向かうニャ」

「えっ。大丈夫?」

「大丈夫ニャ」


 そう言うとコロネはお金の入った布袋をコルトに託した。


「分かった。死ぬなよ姉ちゃん」

「当たり前ニャ」


 コロネとコルトは二手に分かれた。

 オークの一体はコルトの方を向いたが、コロネは咄嗟に拾った石を投げつけて注意を引いた。

 ダメージは無かったが怒り狂ったオークは三体ともコロネの方へ向かってきた。

 コロネはジグザグに走ったり、円を描くように森を走った。

 自分でも何処を走っているのか分からなくなってきたが、コロネはひたすら走った。

 しかし、このままでは逃げ切るのは難しそうだ。体力に自信はあるが、限界はある。

 そこでコロネは大きな岩を発見した。

 一旦、あの裏で隠れよう。コロネは木の上に上がり、オークの視界から消える事にした。

 そして、大きな岩の辺りに移動して降り、岩に隠れた。

 走りっぱなしだったので息が切れているが、なんとか息を整える。

 このまま少し休み、頃合いを見て街へ向かおうとコロネは考えた。

 岩の横から少しだけ顔を出してオークの様子を窺うと、オークの中でも毛色の違う個体が魔力のようなものを纏っているのが見えた。そして、その魔力を周囲に放った。


「ブォオオオ!」


 雄叫びが聞こえたが、特に衝撃などは感じなかった。しかし、その瞬間、オークの眼がぎょろりとコロネの方を捉えた。

 しまったとコロネは思った。おそらく、気配察知スキルを使用したのだと気が付いた。

 コロネは再び森の中を駆け出した。オークがそれを追う。鬼ごっこの再開となった。


「もう勘弁して欲しいニャァ……!」


 気配察知スキルがあるなら、隠れても無駄だ。逃げるしかないが、いつか追いつかれる。

 村に戻るか、このまま街へと向かうか……。

 コロネは走りながら考えたが、どちらも良案とは思えなかった。

 すると背後で何かが砕けるような音がして、コロネの背中に衝撃が走った。


「ニャアアアアアアアアッ!」


 コロネは悲鳴を上げて膝をついた。辺りに拳大の石が散っている。

 オークの方に目を向けると、先程コロネが隠れていた大岩が砕け散っていた。

 オークが棍棒で大岩を砕き、その勢いで石の散弾を飛ばしたのだ。

 オークたちは弱っているコロネを見ながらニヤニヤと笑っているようだった。

 コロネは立ち上がると、痛みを堪えながら闇雲に走った。

 おそらく、その内体力が尽き、オークに殺さるだろう。そんな最悪な状況が頭を過ぎる。

 

 神様、助けて下さいニャ――!

 

 コロネは心の中で神に祈った。

 無我夢中で走ると、視界が明るくなってきて森の端が見えた。特に何か考えがあったわけではないが、そのまま走った。

 すると、人影のようなものが見えた。強そうな冒険者だったら助けてもらえるかも、と一瞬思ったが、はっきり姿が見えて落胆した。

 魔導士風の女性が一人だったからだ。

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