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悪霊だった私が異世界で女神になるまで  作者: 卯双誉人
第1章 異世界幽霊
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第15話 盗賊団

 猫獣人の住むニャコラ村は、王都ビルグレイスの北にある。王都からは普通の人間なら徒歩で二日程度の距離がある。

 王都とニャコラ村を結ぶ街道はあるが、小高い丘に囲まれており森や林を抜けなくてはならない。木々の間は街道と呼べるほどの舗装はされていないが、普通に歩ける程度には踏み慣らされている。馬車が二台程度走れる程度の幅もあるため、交易に支障は無い。

 ニャコラ村から更に北西へ五日ほどの進むと国境線の壁と関所があり、その先はレグナティス帝国の領土になる。

 数十年前に故郷を追われた獣人族の一派がここに流れ着き、それ以来は比較的平和であった。これまでに盗賊に狙われたり、モンスターに襲われたりする事はあり、多少の被害を被った事はあった。だが、獣人族は身体能力が比較的高い種族だ。戦闘系の職業やスキルを授かる者も多い。なので、並の盗賊やモンスターの輩は撃退してきたのだ。


「お姉ちゃん、勝負だ!」

「ニャ!」


 地面の土に枝で描いた四角状のリングの中でコロネとコルトの姉弟は向かい合った。

 コルトが先に仕掛ける。コロネの胸に向けて拳を連続して突き出す。コロネは手でそれを軽快に裁く。コルトが回し蹴りを繰り出す。コロネはそれをしゃがんで避け、拳をコルトの腹へと撃つ。コルトも間一髪でバク転をして避ける。

 そこへコロネが地面を蹴って距離を詰め、拳をコルトの顔面に突き出して寸止めした。


「わっ」

「私の勝ちだニャ」

「くー、姉ちゃんには敵わないなぁ」

「職業を神様から貰ってから基礎能力もアップしたからニャ。コルトも来年、戦闘系の職業が貰えればいいニャ」

「上級職になれたらいいなぁ」


 一二歳になると教会で成人の儀が行われる。そこで職業を授かるのだ。

 コロネは武闘家の職業を授かった。


「よし、もう一回だ!」


 コルトが気を取り直して、拳を構えた。コロネも距離を取り、構えた。

 そこで、ふと大人達がざわついているのを感じた。

 大人達が村長の家の付近に集まっている。

 数人の大人が神妙な顔をしながら村の入口の方へと走っていった。

 コロネは近くにいたガルムに訊いた。


「何かあったのかニャ?」

「ああ、村の周りを警備していた奴らが盗賊団らしき集団がこちらへ向かっているのを察知したらしいんだ」

「盗賊団!?」

「ガラの悪そうな連中が馬車を数台引き連れて押し寄せているらしいんだ。しかも、狼が描かれた旗を見たとか……」

「狼の旗って、まさか……」


 涎を垂らす飢えた狼が描かれた旗を掲げる盗賊団について、コロネは噂を聞いた事があった。


「もしあの悪名高い盗賊団だったらマズいな」


 そんな話をしていると、村長が杖を突きながら家から出てきた。村長は村の中でも高齢で長い髭を引き摺っている。


「皆の物、緊急事態だに゛ゃ。盗賊団がこちらへ接近中との報告があったに゛ゃ!

 男衆は武器を持って警戒するのに゛ゃ! 女子供は家の中に隠れているのに゛ゃ!」

「私も闘うニャ!」

「僕も!」


 コロネとコルトが村長の前に出た。


「ダメに゛ゃ! 二人はわしと一緒にいるんに゛ゃ」

「えー」

「お主らは子供なんに゛ゃ。大人たちに任せるんだに゛ゃ」

「うー」


 両親が早くに死んだコロネとコルトにとっては村長は親代わりだった。なので、村長に言われると渋々だが従う事にした。

 村長が二人の背中を押し、家へと入れて扉を閉じた。


「もう目と鼻の先に来ているぞ!」


 村の男が大声で村人たちに知らせた。


「門は閉めたに゛ゃ!?」

「ああ、閉めたぜ!」

「しかし、丸太で作った門がどれ程役に立つか……」


 村では襲撃への準備はほぼ整っていた。

 非戦闘職の男達は農具等を手に取り、戦闘職の男達は各々武器を手に取って身構えている。武闘家達は武器は持たず拳を構えている。

 村を囲う柵の上から狩人達が弓矢を構えた。


「お前ら! ここから先は村だ! 止まれ!」


 村人たちが馬車と騎乗した荒くれ者の集団に警告を発したが、構わずに馬車と馬は村の前まで来た。

 そこで止まったが、そこから一人男が降りると、何か唱え始めた。

 すると、辺りに魔法陣が浮かび上がり、そこからモンスターが十数匹出現した。


「モンスターテイマーがいるのか!?」

「やばいぞ、モンスターがいっぱいだ……」

「やるしかない。みんな、攻撃開始だ!」


 モンスターテイマーは精霊使いと系列の似た職業だ。

 モンスターをテイミングするとモンスターを結界球に封じ込め、自由自在に出し入れ出来る。レベルが高くなると強力なモンスターをテイム出来たり、多数のモンスターをテイム出来るようになるという。

 村の男達がモンスターや馬車に向かって矢を放った。

 しかし、小さな竜巻が矢を無効化した。


「風魔法か?」

「魔法使いもいるのか?」

「ただのならず者集団じゃないようだな」


 風魔法を抜けた矢が馬車の幌やモンスターに数か所刺さったが、馬車の勢いを止める事は出来なかった。


「突っ込んでくるぞーー!」


 二体の巨大なオークが大きな棍棒を振りかぶり、門を吹き飛ばした。

 そして、馬に乗った荒くれ者達がなだれ込んできた。

 その中には狼が描かれた大きな旗を掲げている者もいた。

 馬車からも男達が飛び出してきた。

 皆、ボサボサの髪でボロ布を巻いているだけのような恰好だ。

 その一角に少しだけ小綺麗な恰好をしている者が数人いる。その中の一人、ボスと見られる男は高価そうな装飾品を身に着けている。

 ボスらしき男は冷たい目を村人たちへと向けていた。

 その横からモヒカンの男が前に出てきた。


「獣人ども! 俺たちは泣く子も黙る〈餓狼団〉だぜぇ。無駄な抵抗はやめて大人しく捕まりな。死にたくはないだろぉ?」


 〈餓狼団〉はこの大陸では有名な盗賊団だ。

 その声は家に隠れていたコロネにも聞こえた。やはり〈餓狼団〉だったのかと思うと同時に、背筋が寒くなった。

 獣人の男が吠えるように言った。


「誰が貴様らの言う事聞くもんか! 捕まったら最後、奴隷商人に売られるんだろうが」

「ふん。よく分かってるじゃないかぁ。

 だが、奴隷として生きるか、ここで死ぬか。どっちを選ぶんだぁ?」

「下衆め……。

 みんな、行くぞおおっ!」


 獣人達が同調し、一斉に盗賊団とモンスターへと向かっていく。

 下っ端の盗賊達がそれを受ける。

 ボスが腕を上げるとモンスター達が一斉に暴れ始めた。

 村中で戦闘が繰り広げられていく。

 倒されて動けなくなった獣人は拘束されて馬車へと放り込まれていく。

 巨体を誇るオーク達が棍棒で家を壊していく。

 隠れていた女子供も姿を晒されて、彼らを盗賊団が捕まえていった。

 女子供の泣き叫ぶ声が響いた。


「くそっ。家で隠れてても意味が無いのかっ!」


 獣人の男達は崩れる家や連れていかれる女子供を尻目にしながらも、前にいる敵も倒さなくてはならないジレンマを抱えていた。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 巨大な蛇が雄叫びを上げながら、無差別に獣人達を尻尾で薙ぎ倒していった。

 ウルフは爪や牙で襲い掛かり、獣人たちを殺さない程度に戦闘不能にしていく。


「村長、このままではヤバイニャ!」

「僕も闘う!」


 コロネとコルトが堪えきれずに外に出ようとした。


「待つのに゛ゃ!」

「でも……!」

「お主らが加わった所で、あ奴らには敵わん。あのお方なら、もしかしたら……」

「あ、そうだニャ!あの人が来てくれれば……!」

「うむ。お主らには、街へ行ってあのお方を呼んできて欲しいのに゛ゃ。

 もし、その方がいなかった場合は、冒険者ギルドに依頼するのに゛ゃ」


 そう言って村長はお金の入った布袋をコロネに手渡した。

 あのお方というのは、とある冒険者の事だった。以前、この村に滞在していて寝床と食料を提供していたことがある。その方は、竜を操る竜騎士で、あらゆる職業の中でもレアで強力な職業だ。

 その方がお礼として、「もし困ったことがあったら助けになろう」と言ってくれていたのだ。暫くはあの街に滞在する予定だと言っていたが、まだいる保障はない。それでも、街に行けば手を貸してくれる冒険者はいるかもしれない。

 一縷の望みに掛けて、コロネとコルトは家からこっそりと出て、戦闘のどさくさに紛れながら村を囲む柵へと向かった。

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