第13話 死の呪い
ドドルガスが不敵な笑みを浮かべている。
ドドルガスとの戦いは他の冒険者たちと違って油断できない。
今まではフィーラの事も見ながら戦えていたが、無理そうだ。
「フィーラ、これからの戦いは派手になりそうだ。
とばっちりを受けない様にギルドから出な!」
フィーラは震えながらも立ち上がり、ドアの方へと向かっていく。
「逃がさねえぜ!」
冒険者の一人がフィーラに立ち塞がる。
「ひっ」
ルーコはその冒険者に向かってダークブレイドを放った。
ドサリと半身が崩れ落ちる。
「きゃあっ!」
フィーラは悲鳴を上げつつも、その冒険者の亡骸を避けながら外へと向かった。
「フィーラの邪魔をする奴には容赦しないぞ!」
ルーコが宣言すると、フィーラの邪魔をするものはいなかった。
「あの女は放っとけ。こいつを倒せばあとはどうとでもなる」
ドドルガスが吐き捨てる様に言う。
フィーラが外へ出るのを確認すると、ドドルガスが声を上げた。
「ディズリー! 生き残った冒険者の武器に何でもいいから魔法を付与しろ!」
「はい!」
ディズリーと呼ばれて返事をしたのは受付の女性だった。
ディズリーは何やら呪文を唱えて手を広げた。
「アイスエンチャント!」
ディズリーの掌から青白い光が放たれ、冒険者たちの武器を光が纏った。
まずいな、とルーコは思った。これで生き残り全ての冒険者の攻撃が私に通ってしまう。
ドドルガスが彼女の魔法が効いたのを見届けると同時に号令を掛けた。
「お前ら、総攻撃を仕掛けるぞ!」
冒険者たちが雄叫びを上げながらルーコへと武器を手に飛び掛かってきた。
ドドルガスもハンマーを手に迫ってくる。
フィーラの話もルーコの話も聞かず、一方的にフィーラを断罪して暴力を使い襲ってくる彼らにルーコは怒っていた。
「ダークバインド!」
ルーコは両手を前に出す形で唱えた。
すると、ルーコの髪の毛が一斉に伸び、冒険者たちとドドルガスの体や手足に巻き付いた。
髪の毛の辺りから伸びているが、黒いエネルギーで出来た縄のようなものだった。
「うっ。動かねえ!」
「誰か、何とかしろっ!」
ドドルガスが叫んだ。
そんな隙は与えるつもりはない。ルーコの中に怒りの炎が滾っていた。
ルーコの足元から炎が放射状に這って行き、冒険者たちの足元から一斉に火柱が噴き上がった。
「怒りの炎よ、悪人どもを焼き尽くせエエエ!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁ!」
身動きを取れないまま冒険者たちは燃えていた。
阿鼻叫喚の叫び声がギルド内に轟いた。
「ウォーターフォール!」
ディズリーも炎に焼かれながら魔法を唱えた。
大量の水がギルド内に降り注いだ。
冒険者たちの身体から炎が消えていく。
更に魔導士風の女が何か魔法を唱えた。
「プリフィケーション(浄化魔法)!」
光の渦が冒険者たちを包んだ。ダークバインドの黒い縄が溶ける様に消えていった。
そういう魔法もあるのか……。
相手は多勢だ。このままだと負けるかもしれない。
逃げた方がいいかもしれないとルーコは思い始めた。しかし、生かしておくと追ってくるかもしれない。物騒だから使わずにいたが、あれを使ってみようか……。もう既に何人も殺しているのだ。殺人に関して言えば今更だろう。
ルーコは意を決した。
――死の呪い!
ルーコはこの場にいる全ての者に対して呪いを発動した。
「な、なんだ? この禍々しくどす黒いオーラは!?」
再びルーコの髪の毛がうねった。そして、髪の毛が冒険者たちに飛んでいく。髪の毛は冒険者たちの体の中へと吸い込まれていった。髪の毛が彼らの心臓に巻き付いた感覚があった。
「お前たちに呪いを掛けた。死の呪いだ……」
「なんだって!?」
冒険者たちは狼狽した。
「さらばだ……!」
ルーコは捨て台詞を吐いて天井へと飛んで外へ出た。
ギルドの外でおろおろしているフィーラが見えた。ルーコはフィーラの元へ飛んでいった。
「フィーラ! 逃げるぞ!」
「えっ? あっ、はい!」
フィーラは走り出したが、遅い。魔導士だから体力は無いのだろう。
どうする? フィーラの速度だと、冒険者が追ってきたらすぐに捕まってしまうだろう。
ダークハンドを使うか……?
いや、ダークハンドは触れたものにダメージを与えるのでフィーラには触れない。
ルーコが少し悩んでいると、ギルドのドアが勢いよく開いた。
冒険者の男だった。
「いたぞ!」
「まずい! 早く!」
「これでも、結構頑張って走ってるよ!」
ルーコはふと思いつき、念動力を使う事にした。どの位の重さまで持ち上げられるか分からないが、やるしかない。
念動力でフィーラを持ち上げると、そのままルーコは飛んだ。目指すは街の外だ!
「ひゃあああああああっ!」
高いところまで人間を持ち上げて飛ぶことは無理そうだが、低空飛行なら何とかなりそうだった。
地面から数十センチ位、フィーラを浮かせたまま引きずる感じで飛んだ。
ルーコは構わずに一気に街を抜けていった。