07話 旧神魔法
帰ってきた、エトルフに聞く。
(何でオークのやつらは俺を襲わなくなったんだ?
何をしたんだ?)
(え? ああ、アーサーは悪いやつじゃないって言ったんだ)
ほう。
つまり、君は相当な権力者ということか。
今まで人間に何人も殺されてきたのに、たった一言で人間である俺を殺さないなんて。
エトルフが、すごい権力者か。
それともオークが優しいだけか。
あるいはどっちもか。
(そ、そうなんだ。すごいな)
(だろ!)
---
すると、エトルフに案内されて、洞窟の奥の方へと連れていかれた。
そこには、長机が一つ置かれていた。
椅子は、全部で7個、長机の周りに置かれていた。
王様席には、オークが一人座っている。
俺とエトルフは隣同士で、王様席から向かって右側に座った。
立ってるのと、座ってあたりを見るのでは全く感じ方が違う。
改めて、見てみると技術力の高さに驚く。
ゴブリンが力仕事が得意なら、オークは施術力の高さが売りなのだろう。
ここは洞窟の中でも相当高貴な部屋なんだろうけど、すごい。
この部屋のいたるところに、技術力の高さがにじみ出ている。
壁を掘ってる掘り方も繊細だし、木で作られた椅子にも綺麗な模様が刻まれている。
こんなにまでして、ここに住んでいるんだ。
これは、譲ってくれそうにないな。
(君がアーサー君かね?)
王様席に座っていた、オークのリーダーと思われる、老人が話しかけてきた。
その貫禄と、力強さに一瞬引けを取ってしまった、
それほどの、迫力があった。
(そうです!)
この貫禄に、負けていてはいけない。
こんなところで怯えた姿を見せていたら、後々の話し合いにも影響が出てしまう。
(相当若いように見えるけど、年はいくつかね?)
(17です)
(そうかそうか。17の若造か。はっはっは)
こういう時は、大体「若いのー」とか「子供がでしゃばる出ない」とか言ってくると思っていたのだが。
この人からは、その人自身の本質で人を見極めようとしているのが感じられる。
決して、年齢で人を判断しないような人で良かった。
(ちなみにおいくつなんですか?)
一方的に俺だけ、質問されてばっかでは弱く見えてしまう。
ここは思いっきり、質問しに行くことが大切だ。
でも、敬語は忘れずに。
(86じゃよ。もっとも記憶だけでいうなら、1000は言っておるけどのう)
意味深なことを言っていた。
86年間生きていて、頭がこんがらがったのか?
と言いたいところだが、本当に言ってしまうと殺されそうなのでやめておいた。
(では、このおいぼれから一つ質問してもいいかね?)
今まで何個も勝手に質問してきたのに、今回だけは俺に許可を求めてきた。
まあ、どうせ断っても聞いてくるんだろうけど。
(なんでしょうか? それと、おいぼれではないじゃないですか。かっこいいですし、筋肉もいいですし。ね!)
俺は、気分を取りに行った。
(はっはっは。やっぱりそう見えるじゃろ! わしの仲間に聞いても、じじい、とかおいぼれとかしか言われないんじゃよ。おぬしはわしのカッコよさが分かるじゃろ)
よく笑う人だ。
そして、この人はお世辞というものが通じない人だ。
次からは、気を付けて喋ろう。
(それで、質問とはなんでしょうか?)
(ああ、忘れとった忘れとった。君は平和を望むかね?)
急にぶっ飛んだ、質問だ。
もちろん俺の答えとしては『当たり前』だ。
逆に、「いいえ」という人はいるのかと思ってしまう。
(当たり前です)
(なんで?)
俺がそう返すと、次は理由を聞いてきた。
すこし、にやにやとした表情だった。
(種関係なく、互いが目先の利益のために多くの無駄な血を流す。それが嫌だからです。それに理由なんてありません)
(では、平和は実現すると思うかね?)
(はい、すると思います)
(じゃあ、どうやって?)
すると今度はさっきよりもにやにやさせて聞いてきた。
暫く、考えてアーサーがしゃべりだす。
(偏見をなくす事です。姿も違えば、肌の色も違う。身長も違えば、体重も違う。でもその根底にあるのは意思疎通ができないということ。互いに共通の言葉がないから、互いの良さを知ることが出来ない。だから、俺は旧神魔法を広めて、人間が〈思念〉を使えるようにしようと思っています)
(はっはっは)
笑われた。
笑われたというより、興味を抱かれたという方があっている気がする。
(そうだったのか。君は旧神魔法の使い手か。今の時代にまだ使い手がいたとは思いもしなかったよ)
(旧神魔法を知っているんですか?)
この時代に旧神魔法を知っている人がいたなんて。
使えないかもしれないけど、情報をもらえるだけでもうれしい。
聞く価値はある。
(ああ、もちろんだとも。さっき言ったであろう。わしの記憶は1000年以上生きていると)
ああ。
確かにそんなことを言っていた。
あれ、ほんとだったんだ。
それにしてもどう意味だ。
記憶が生きてるって。
(記憶が生きているってどういう意味ですか?)
(言葉のままじゃよ。体を持たないで、ただ記憶だけで生きていたんじゃ)
ほう。
さっぱり分からん。
(まあ、簡単に言えば、わしは魂だけで生きていくことが出来るんじゃ。そこに実態としての体がなくとも。だからは、わしは1000年も前の記憶を持っているというわけじゃ)
俺の理解し難い顔を見て、説明してくれた。
そのおかげで、大体のことは理解できた。
(ちなみに、旧神魔法についてはどのぐらい知っているんですか?)
今の俺には、旧神魔法につて理解し、それを使えるようにすることが必要とされる。
それには、知っている人から聞くのがベストだ。
(それがのぉ。相当昔のことだから、ほとんど覚えておらぬのじゃよ)
(そうですよね・・・)
まあそうか。
もう何年も昔だ。
知ってる方がおかしいよな。
(でもあれじゃ。あんたはフーリエの冒険者じゃろ?)
(は、はい。そうですけど)
(そうか。なら、大図書館に行けば旧神魔法についての書物があるはずじゃ)
(ほんとですか!)
(ああ。わしも昔一回行ったことがあってのぉ。はっはっは)
この人は不思議だ。
記憶が1000年も生きていたり、昔に人間の街に行ったことがあったりと。
でも、俺にとって有益な情報を教えてくれた。
これだけで。大収穫だ。
ここを譲ってもらうのはあきらめよう。
そして、早く大図書館に行ってみよう。
(では、まだ少ししか喋ってませんが、大図書館へ行こうと思うので、もうそろそろしたら町へ帰りたいと思います)
身勝手ではあるが、一言言ってから俺は帰ろうと思う。
エトルフにも申し訳ないが。
何より俺には、いち早く平和を実現させることが求められているんだから。
(それは、残念じゃのぉ。おぬしと喋ってると楽しかったのに・・・)
(でも、またすぐにでも遊びに来ますので、待っていてください)
悲しそうな、表情だったから俺は、そう言っておいた。
(はっはっは。それまで楽しみにしておくとしよう。それと、この洞窟は明日にでも、出ようと思っているからのぉ)
(え? 洞窟から出るのですか?)
(ああ、そうじゃよ。おぬしが出てくれと頼んできたのではないか)
(そ、そうなんですけど・・・。ほんとに出ていくとは思わなくて)
ここから、出て行ってもらえるのは、ありがたいことだが、ここまではっきりと言われてしまうと、申し訳なくなってくるもんだ。
でも、好意はありがたくもらっておくに越したことはない。
(ありがとうございます。住んでいるところから出させてしまって。)
(はっは。最終的にはわしが決めたことじゃから、礼は不要じゃよ。それに、おぬしには平和を作ってもらいたいからのぉ。頼むぞ)
(任せてください。平和を実現させますんで)
(楽しみじゃのぉ)
そして、俺はオークの住処を後にした。
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エトルフとも別れて、フーリエに戻った。
オークたちは、明日住んでる場所を出るといっていたから、クエストのクリアほうこくは明日する予定。
そして、今日の残りは大図書館に行って過ごそうと思う。
大図書館の位置は検問官に聞いた。
丁寧に教えてくれた。
そして、俺は今大図書館の前にいる。
冒険者ギルドの10倍以上の広さはある、このシンメトリーの建物。
フーリエ大図書館だ。
何人もの人が出たり入ったりしている。
相当人気の場所らしい。
中に入るための扉の傍には、警備員が立っている。
俺は、周りの人に続いて中に入っていった。
その広い建物の中いっぱいに本で埋め尽くされている。
確かにこんだけ大量の本があるなら、旧神魔法のことが書かれていてもおかしくはないか。
じゃあこの広い中から、旧神魔法の本を探しますか。
とりあえず、まずは魔法の分野から。
魔法関連の本は多分ここにあるはずだけど。
『現代魔法の基礎講座』
『楽しく学べる現代魔法』
『現代魔法はかっこいい』
『みんな大好き現代魔法』
・・・
ほぼ全部、現代魔法じゃないか。
これじゃあ、見つかる気配がない。
こういう時は、やっぱり一番上だよな。
背を伸ばしただけじゃ届きそうにない。
梯子を持ってきて、それで探そう。
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『強いよ、旧神魔法』
『旧神魔法の歴史』
『時代の先端、旧神魔法』
予想的中。
やっぱり一番人気のなくて、古い本は上に置かれるよな。
早速読もう。
最初のページには目次が乗っていた。
そして俺はその目次の通りに『旧神魔法一覧』のページにとんだ。
すると、そこには、見開きの一ページを優に超えてくるぐらいたくさんの魔法の種類が記されていた。
どうやら、旧神魔法にはランクというものがあるらしく。
『Sランク:〈業炎〉〈完治〉
Aランク:〈思念〉〈激浪〉
Bランク:〈魔盾〉〈治癒〉
Cランク:
Dランク:〈炎玉〉
Eランク:〈刃〉
Fランク:
Gランク:〈探知〉 』
俺が知っている、魔法だけでもこんなもんらしい。
案外、俺の魔法って上級寄り?
そのほかにも、俺の知らない魔法が莫大に広がっていた。
ぺらぺらとページをめくっていくと、後ろの方にはそれぞれの魔法の使い方が乗っていた。
便利なことに。
俺は、それを利用させてもらった。
優に100を超えてくる魔法。
それを、俺は1夜をかけて全部覚えた。
まじで大変だった。
今にも寝そうだ。
早く帰ろう。
そうして、俺は温かい家へと帰るのであった。
---
おい!
嘘だろ・・・!
何で。
何で俺んち空き家になってんだ。
困惑していると例の検問官が声をかけてきた。
「やっと帰ってきたか。これで3日だ。ちゃんと鍵を返してもらうぞ」
「え? そんなぁ。まだ2日じゃないんですかー-!」
今にも、泣き出しそうなうるうるとした表情で訴える。
「何言ってんだお前。ちゃんと3日たっただろ」
「そんなことないですよ! だって俺、ちゃんと数えてましたもん」
「そんなこと言われてもな。約束は守るもんだろ。さあ、鍵を渡せ!」
そんな俺の訴えなんか気にせずに手を差し出してくる。
「やだ!やだやだ! 俺は絶対に渡さないぞ!」
そうはいったものの、検問官に一瞬で取られてしまった。
(暴力反対! 暴力反対!)
そうして、俺は家がなくなったのであった。
夕日が俺を照らしてる。
悲しい。
どうにもならないから、宿でも借りるか。
銀貨一枚あるんだし。
---
できるだけ、冒険者ギルドから近くの宿を見つけた。
一泊、銅貨36枚。
ぼちぼちといったところ。
まあ、ちょっと1人で過ごすには広いかと思ったが、広いに越したことはない。
ちょっぴり、贅沢をしても罰は当たらないだろう。
2人で、寝ても大丈夫な広さのベットが1つ。
木でできたおしゃれな机といすが1つずつ。
自分の姿が見える等身大サイズの鏡が一つ。
そしてここにも、大きめの窓が1つ。
その窓からは、冒険者ギルドが直視できる。
それだけ近いのだ。
これだけ、近ければ疲れていてもすぐに帰れる。
この上ない物件に出会ってしまった。
この家って魔法打っていいのかなぁ?
ふと、そんな衝動にかられた。
それも、そのはず。
さっきまで、超かっこいい魔法の数々を見てきたのだから。
さっきの本を読んでから、まだ魔法は使っていないのだ。
でも、魔法を打てないということはない。
イメージは完璧。
いつでも、魔法を打つ準備はできているから。
そうして俺は打っても被害の少ない、でもできるだけ大きい魔法を打つことにした。
〈透過〉
文字通り。
透明化だ。
鏡の奥を覗いてみると、もうそこには俺の姿はない。
これで、
〈マナ透過〉
を使えば、完璧に近い状態の隠密ができる。
まあ、もっともマナ13の俺は、〈透過〉を使った時点でほぼ隠密状態だが。
使う意味は、いささか感じられない。
が、俺の気持ち的に使っておいた方が良い。
優越感を感じるからな。
これで、街を歩いても人にばれないし、魔物に見つからない。
魔物に関しては元から見つかんないんだけど・・・。
まあ、要するに、パンツが見放題。
部屋に侵入してしまえば、下着も見放題。
とは思ったんだが、テラに見られてると考えると・・・。
はは。
やめておこう。
そしてもう一つ。
俺は使いたい魔法があるんだ。
それは、〈瞬間移動〉だ。
でも、このレベルの魔法はパパっとは使えない。
だから、まずは人間でやるところを魔法で代用してテレポーテーションする。
これで、今まで手付近から出していた魔法も、あらゆる大気のどこからでも発動できるようになった。
じゃあさっそく。
〈業炎〉 そして 〈瞬間移動〉
すると、フーリエの上空を覆うように、耳が壊れるほどの爆発音とともに真っ赤に燃え上がった。
今この瞬間。
フーリエに住むすべての人間が、上を向いていた。
もっとも、この魔法が誰が発動したのかは知らないが。
マナ13のD級冒険者だとは、思いもよらないだろう。
そして、その爆発音はアーサーにも聞こえている。
やっちゃった・・・。
やべー。
大丈夫かな。
俺捕まんない?
怒られないかな?
恐る恐る外を見てみると、みんなが空にくぎ付けで誰一人としてこっちを見ていない様子で一安心。
今度から〈業炎〉は、ほんとにピンチの時しか使わないようにしよう。
そして、俺は冒険者ギルドへと向かった。
---
「あのー、すみません。ベラロマさんクエストのクリア報告に来ました」
さっきの大爆発はアーサーが思っている以上に注目を浴びたようで、今でもギルドのほとんどの話の話題がそれだった。
「え? もうですか? アーサーさんのことを信じてはいますけど、念のため聞きますよ。嘘じゃないですよね?」
「当たり前じゃないですか! 僕を何だと思ってるんですか」
「そうですよね。では今から馬を向かわせるので待っていてください」
前回のことがあってか、すんなりと進んだ。
「分かりました! ちなみに今回はどんぐらいかかりますかね?」
「んー。そうですねー・・・。今回はちょっと遠めなので40分ぐらいかかりそうですね。一回家に帰ってもらっても構いませんよ!」
前回と比べると意外と長かった。
でもまあ、比べなきゃ十分に早いんだけど。
「そうですね。まあ、家に帰っても何にもやることないんで、ここでクエストでも見てます!」
「分かりました。では、準備が出来次第呼びますのでごゆっくりしていってください」
「ありがとうございます!」
そうして俺は、左の方へと向かった。
その途中にもたくさん聞こえた。
「さっきの爆発やばいよな」
「なんなんだあれ?」
と。
「あれ打ったの俺なんだよと」言おうと思ったが、俺はそんなにコミュニケーション能力は高くない。
その代わりに俺は、そいつらの横を違和感に思えるほどに胸を張って、通っていった。
そういえば俺。
今回のクエストの報酬見てなかったな。
どのぐらいなんだろう。
いっても、銀貨2枚ぐらいだろうか。
---
「アーサーさん」
いつも通り、呼ばれる前から隣で待っていた。
「今回もクエストのクリアが確認されましたので、報酬です。
流石ですねアーサーさんかっこいいです」
そして、俺は渡された報酬に目をやった。
銀貨が、1.2.3.4.5.6・・・・
10枚!?
「すみません。これ報酬なんですけど間違ってませんか?」
慌てて、問いた。
「いやそんなことはありませんよ。確かにしっかり銀貨10枚お渡ししたはずですが。足りませんでしたか?」
「え? 10枚もいいんですか?」
「はい、もちろんですよ。あたりまえじゃないですか」
「ありがとうございます・・・」
素直に喜びたかったが、思ってた以上の額で喜べなかった。
でも、こんなに稼げれば、相当余裕ができる。
それに、忘れてはならない。
俺の目的は、旧神魔法を広めて『アス』に平和をもたらすことだ。
それに向けて一週間冒険者活動をしないことにしよう。
そして、その間は知識をつけることにしよう。
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