06話 Dランク冒険者
無事、フーリエについた。
検問所では、冒険者カードを見せたらすぐに通してもらえた。
そして、俺はその足で、冒険者ギルドに向かった。
検問所から、冒険者ギルドまで、地図と探知魔法を駆使して、やっとの思いで到着した。
そして、俺は受付のベラロマを見つけて、その列に並ぶ。
結構人気なんだ。
他の2人よりも列が長い。
やっぱみんな考えることは一緒か。
でも、俺が勝ち取って見せる。
誰にも負けないからな。
俺が一番ベラロマの隣に似合っているから。
この時間(6時ごろ)になると、冒険者ギルドの中は、冒険者でいっぱいになる。
クエスト終わりのソロやパーティーの人が報酬をもらいに来るのだろう。
そして、アーサーもその一人。
そのほとんどがもらった報酬を使うために、3階にあるバーへと向かう。
俺もいつかはそういうことをやってみたいとは思うが、今日はだめだ。
何なら寝ないで、クエストに取り組んでもいいほど切羽詰まっているのだから。
銀貨一枚で、どれぐらい生活できるかは定かではない。
銅貨一枚で、パン一個。
大体そのぐらいなのは知っている。
銅貨100枚で、銀貨1枚。
銀貨100枚で金貨1枚にもなるらしい。
そう考えると、銀貨一枚は結構な金額になる。
それに、草刈りだけだしな。
相当な、儲けもんだ。
でも、宿で一泊するのに必要な金額の相場が分からない。
俺の予想では、一泊銅貨30枚程度だと思っている。
そうだったら、3泊はできるから、今後の生活に少し余裕ができるのだが。
それに、俺には関係ないと思われるが、食事も別で買わなければならない。
この、食欲皆無状態がいつまで続くか分からなから。
急にお腹がすきだすこともないとは言い切れないから、困ったもんだ。
もしその時は、クエストの量を増やさないといけないから、重労働が予想される。
いやだ。
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「お。アーサーさん。どうされたんですか?」
「クエストをクリアしたので、報酬を貰いに来ました」
驚いていた。
というか信じていなかった。
「アーサーさん。嘘はよくないですよ」
笑顔で、言ってくる。
嘘ではないのに。
まあ、確かに今の俺の状況からして、信じろという方が難しいか。
「でも、終わったんですよ。雑草も刈ったし、ちゃんと片付けもしたし、燃えた灰もきれいに集めました」
強く、訴えてみても、変わることはなかった。
すると、意外の事実が告げられた。
「あれはDランクのクエストだったの。
誰かが勝手に動かしちゃったみたいで。
相当昔からあるクエストだから気づかなかったの。ごめんなさい・・・。」
「え? はい!?」
なんとなんと。
あんなに簡単なクエストがDランク?
心から、謝ってもらってるんだし許さない以外の選択肢はないが・・・。
それに、終わった今だから言えるけどDランクだったのか。
どうりで、広すぎると思った。
「でも、クリアしたのは事実ですよ。ちゃんと草刈りしましたからね」
ベラロマは困った表情を浮かべていた。
それでも、まだ信じていなかったから、俺はそこに追い打ちをかけた。
「そこを何とか、確認だけでいいので。ね?」
すると。
やっと、思いが伝わったようで。
「そ、そこまで言うなら。
今回は私のミスが引き起こしてしまったので、確認だけはします。
確認だけですよ。
ここから、近くなので」
「ありがとうございます!」
流石は、ベラロマだ。
心が広い。
「今から、馬を走らせて確認させに行きますので20分ほど、お待ちください」
「分かりました」
さあ、ここから20分。
何をしたものか。
この20分もお金稼ぎに使いたいところだけど、残念にも20分でクリアできるようなクエストは存在しない。
じゃあ、俺はギルドの端っこでひっそりと座ってでもいよう。
まあ、俺は神の時から、そこまで人と話すのは得意ではなかったから。
ただ、テラと仲が良かっただけで、それ以外で話したことがある神なんて数人だけ。
転生してもコミュ障はなくならないみたいだ。
それもそっか。
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20分ほどが経った。
さっき俺の、クエスト状況を見に行くためにここから出て行った騎士の人が戻ってきた。
やっぱり、馬のすごさを実感する。
俺は、受付のベラロマの横に行った。
まだ呼ばれていないが、すぐに報酬をもらうためだ。
ベラロマと、騎士との会話がこっそりと聞こえてくる。
「どうだったー?」
「それが・・・指定の範囲外まで。
あそこらへんの一帯なんですけど。
雑草は燃えてその灰だけが、山積みになってました」
「嘘!? それほんと!?」
と、少し大きな声で言っていた。
びっくりしていた。
ベラロマにとっては予想外だったそう。
そしてそれは、俺も一緒。
範囲外まで?
範囲外って。
嘘・・・。
それって、俺。
余計なところまでやっちゃったってこと?
まじかよ。
時・間・の・無・駄
てか、これに関しては、地図が悪いだろ、地図が!
まあ、でも、ベラロマちゃんの手書きだし。
今回だけ、今回だけ許してやろう。
「は、はい。すぐ近くですし、決して場所を間違えてなんてことはないと思います・・・」
「そ、そう。アーサーさんは嘘をついてないということなのね?」
「はい・・・多分」
「分かった。ありがと」
良かった、これで報酬をもらえそうだ。
すると、案の定、俺が呼ばれた。
「アーサーさん、アーサーさんー」
ギルド内に響き渡る声で。
みんなに俺の名前が知れ渡ってしまった。
困った困った。
有名人は、困っちゃうなぁ。
「はいー!」
受付の、隣にいた俺はすぐに返事をした。
「あ、あのー。
クエストのクリアが確認できましたので、こちらが報酬の銀貨1枚になります・・・」
申し訳なさそうに、言っていた。
まあ俺は、許してるけどね。
「ありがとうございます。では」
そうして、気分ルンルンで帰ろうとしたところ。
追加で、何かを渡してきた。
まさか、ベラロマさんの住所?
でも重さは、紙の重さではなかった。
それよりももっと重かった。
「あのー。疑ってしまってすいません。
そしてこれは追加の報酬です」
「え? 別に俺何にもしてませんよ。
それに疑われて気分悪くなんてなってませんから大丈夫ですよ」
ちゃんと、俺が許しているのも、言ってあげた。
そうすると、ベラロマに似合う笑顔が一層増した。
「ありがとうございます。
それとこの銅貨50枚は、余分な敷地の草刈りまでやってくださった分です。
本来であれば、この2倍はしてもおかしくないんですけど、もともとクエスト設定されていなかったので、この額しか出せません。」
「それだけでも、十分です。ありがとうございます」
惜しい。
すっごく惜しい。
運が良ければ銀貨2枚稼げていたってことか。
それでも、本来より50銀貨も多く手に入れることが出来たんだ。
ツイてると考えよう。
そうして、俺は冒険者ギルドを後にした。
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5分後
「すみません、ベラロマさん。ライム層ってどこだかわかりますか?」
「え? アーサーさんじゃないですか。帰ったのではないんですか」
「いえ、それが俺自分の家がどこだか分からなくなってしまって・・・」
迷子中だということを忘れていた。
帰る家がどこか分からないんだ。
恥ずかしい。
カッコよく、出ていったつもりだったのに・・・。
結局、ベラロマに頼ることにした。
やっぱり、人に聞くのが一番だ。
「そうだったんですね。ライムそうですか・・・。」
「知らないのであれば、自分で歩き回るので大丈夫です・・・」
何かを考えているようだった。
気を悪くしてしまったかと思い俺は、すかさず付け足しておいた。
「いや、分からないわけではないんです。
でも、ここからはちょっとばかし遠いんですよ。
地図を描くのも難しいですし。
どうしましょう」
「そうですか」
おかしいな。
そんな遠いところではないと思うんだけど。
これも、迷子の錯覚か・・・。
「アーサーさん。少しだけ待ってもらえます?」
どうしようかと考えていると、待っていてくれと言われた。
地図でもなくて、口頭の説明でもないってことはどういうことだ?
「え、はい」
返事をしたら、ベラロマは受付の奥の部屋へと行ってしまった。
すると、暫くして私服に身を包んだ、美しい女性。
ベラロマが俺の方によって来た。
私服のベラロマは、またさっきまでの仕事着姿(?)とは違った雰囲気がある。
これもこれでいい。
「ど、どうしたんですか」
俺は、顔を赤くして、言った。
「いや、ちょうど仕事も終わったので、案内してあげようと思って・・・駄目ですか?」
「いや、大丈夫ですよ、おねがいします!」
大歓迎。
オフコース。
「では行きましょうか」
「はい」
顔を真っ赤にしながら、ベラロマの隣を歩いていく。
これは、傍から見れば付き合っているとか、思われるのかなぁ。
至福の時間を過ごしてるなぁ、今の俺。
もう、ほとんど夜だ。
月明りで、相手の顔が見れるか見れない程度の絶妙な明るさ。
人通りは当然少なく、馬車もほとんど通っていない。
ライム荘に帰るまで。
そのほとんどが、辺りに2人っきりの状態だった。
こんな状況では、やっぱり聞くしかない。
あれを。
「すみません、ベラロマさんって彼氏とかいたりするんですか?」
「え、はい。いますよ!」
笑顔で、言ってきた。
ガ―――ン
「へへ、そうなんですねー」
この瞬間俺の、初恋は儚く散った。
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あれから、ほとんど会話はなく。
ライム層までついた。
2人とも、もう夜で眠そうな顔をしていた。
そして、その後も何かあるわけでもなく。
「ありがとうございました」
「いえいえ、ごゆっくりー」
ありきたりな挨拶だけをして、散っていった。
「俺んちに泊まっていきます」と言おうか迷ったけど、すぐに拒否られるだろうと思い、やめた。
拒否された時が恥ずかしいから。
俺は、そのまま家に帰った。
右のポケットに入ってる鍵を使って家に入ると「はぁ」と、一回ため息をついて、ベットに横になった。
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朝が来た。
すぐに起きれた。
そうして、俺は冒険者ギルドへ向かった。
ちゃんと、昨日帰る時に道を覚えておいたから特に問題なく行けた。
不思議にも、一夜が明けると失恋した事への悲しさはなくなっていた。
それが原因で、今までと何かが変わるなんてこともない。
ベラロマは特にかわいいけど、同じぐらいかわいい人はこの世に何人もいるんだから。
そして、クエストを見ていると、俺はベラロマに呼ばれた。
「アーサーさん!」
今までにないほどの、満面の笑みだ。
何だろう。
「何ですか?」
そう聞くとベラロマは間髪入れずに言ってきた。
「アーサーさんやりましたね! Dランクに昇格ですよ!」
まずは普通挨拶とかだろ。
と、思ったんだが、言ってきたそのセリフの意味を考えると、疑問と納得。
そして、困惑が現れた。
「え? 何でですか?」
俺の思っていることが正しければ相当な朗報だ。
すぐにその理由を聞いた。
「私たちの手違えとはいえ、昨日クリアしたクエストがDランクだったからですよ」
「ほんとですか? よっしゃー!」
そう聞くと、うれしくなってつい言葉が漏れてしまった。
「やりましたね!」
「はい!」
俺は、いかにも子供っぽく喜んだ。
うれしかった。
何がうれしいって?
より金が稼げるようになったことだ。
これで、金に苦しむことはなくなる。
これほどうれしいことはない。
「すごいですよアーサーさん。
EランクとD ランクの間は数字で見ればほんのわずかの違いですけど、Eランクははっきり言って才能のない人ですから、Dランクへの昇格っていうのはすごいことなんですよ」
言い過ぎでは?
とは、思ったが、褒め言葉として素直に受けとっておこう。
俺はそのまま冒険者カードを渡してDランクの登録をしてもらった。
俺の、冒険者カードにはDランクと。
そう刻まれていた。
そして、せっかくDランクになったことだしと思い、Dランククエストをやってみることにした。
Dランククエストには、ついに魔物狩りが加わる。
俺はそのクエストを受けようと思った。
もちろん、その魔物を狩るつもりは一切ない。
じゃあ何をするか。
交渉をする。
このクエストのクリア条件。
敷地内から、魔物を排除する。
つまり、殺さなくてもいいということ。
ただ、そこから魔物をどかせばいいという簡単なお仕事。
そうして、俺は例の如くこのクエストの申請をした。
そしてこのクエストも期間は一週間だった。
俺にはそんなもの関係ないが。
一日だ、一日。
---
そして、今回クエストに行く前に、エトルフたちのもとへ行かないといけない。
今回の討伐はオークだ。
まだ、ゴブリンならある程度知ってはいるがオークに関しては全くの無知だ。
だから、エトルフたちに聞いてオークの情報を知る必要がある。
そして、あわよくば、エトルフたちから頼んでもらいたい。
人間の俺から言うより、同じ魔物のゴブリンから言ってもらった方が受け入れやすいだろうから。
まず、オークが〈思念〉を通じて俺たちやゴブリンと会話ができるのかも分からないから。
それが出来ないと、今回のクエストでオークを討伐することになってしまうが。
そんなことなら、クエストを失敗する方がいいんだけど。
まあでも、何とかして誰も殺さずに、クエストをクリアしたい。
---
深い森の中。
人里離れた場所。
教えられてなかったら、到底ここに着くことはできない。
ゴブリンの村。
木で作られた家が立ち並ぶ。
立派な家だ。
人間が作ったのかと思うほどだ。
力を持っている分、何かを作るのは得意なのかもしれない。
そうして、恐る恐るその家が立ち並ぶ方へと歩いていく。
今の俺は、訪問者だ。
しかも人間。
いつ襲われてもおかしくない。
すぐに魔法を展開できるように集中しておく。
もちろん、防御魔法だ。
すると、前方から1人の老婆が。
襲ってくると思って、手に力を込めたが、意外にも俺に話しかけてきた。
(こんにちは、お客さんかい?)
人間の俺にここまで躊躇なく話しかけてくる姿に俺は驚いた。
そして、少しうれしくも感じた。
(はい、エトルフに会いに来たんですけど・・・)
そういうと、そのゴブリンは親切にも一つの家に案内してきた。
「エトルフはここにいるのか?」と聞きたかったが、何も言わないままどっかへ行ってしまった。
御礼すらできなかった。
何も言われずに、ただここに案内されたから、まったくわかんない。
不気味―。
そうしてじっとしていると、目の前のドアが開いた。
そこには、エトルフとヴァネリアが。
中に入ってこい。
と、手でジェスチャーされたので俺は入っていった。
中には、2人のほかにあと3人いた。
誰だろうと考えていると、エトルフから紹介があった。
(こっちは俺のお父さんで、こっちが俺のかあさん。んで、こいつは俺の妹。よろしくしてくれよな)
(((お願いしますー!)))
3人にあいさつされたので、俺も一応返しておいた。
(てかさ、なんでこの町の人達は俺のことを怖がったりしないんだ?)
さっきの老婆のことを聞く前に、この質問だ。
ここまで、案内してくる最中にも、多くのゴブリンたちに見られたが誰も敵意を見せることはしなかった。
それが一番の不思議だ。
(ああ! それは俺がみんなに言って回ったんだよ!
人間と友達になったから、そいつがここにきても戦うなよって)
なるほどどうりで。
そこまで気をまわしていたとは。
(そうなのか、ありがとな!)
(いいよいいよ)
照れた顔をしていた。
エトルフのお母さんが、茶を出してきた。
魔物にも、『茶』という文化があったことにも驚いたが、それより驚いたのはその色だ。
青い茶だった。
真っ青のやつ。
飲みたくなかったが、意を決して飲んでみると。
案外それは美味しいもので。
てか、人間の知ってる茶よりもおいしんじゃないかこれは。
と思うほどの物だった。
こんだけ森の中におある村だ。
やっぱりおいしい葉っぱとかを知ってるんだろう。
見かけに騙されてはいけないな。
それより、本題だ。
俺はあんまり時間がないから、早めに聞こう。
(あのさ、ここ知ってる?)
俺は、地図を見せそこを指さして言った。
(あー! 知ってるよ!)
(ここってオークが住んでるんだよね。
それでいくつか聞きたいことがあるんだけど。)
(なにー?)
そういうと、俺は聞きたかったことを全部事細かに教えてもらった。
しかもついでに、その場所から移動をしてもらう交渉にも付き合ってもらえることになった。
助かる。
---
そうして俺は、オークの住む土地へ向かった。
ちなみに、オークも〈思念〉を通じてしゃべることが出来て、ゴブリンとは仲がいいそうだ。
(ひさしぶりー。
お邪魔しまーす)
エトルフがそういうと、洞窟の中から(おひさー)だとか(うぇーい)だとか、やけにテンションの高い声が飛び交った。
この様子から見て、オークは元気に満ち溢れた種なのだろう。
そうして、エトルフが中に入っていく。
俺も入ろうか迷ったけど、ついていくことにした。
すると、案の定。
(人間だー!! お前ら早く!! 早く武器を持て!!)
と、みんなが叫びだした。
やっぱり、そうなるよな。
出来れば、命を投げ出す賭けのようなことはもうしたくないのだが。
俺は一瞬にしてオークに囲まれてしまった。
エトルフと一緒に。
でも、エトルフは全くビビっていなかった。
すると、エトルフがオークのリーダーらしき者のところへ行った。
そんで、何かを話している。
その話している間、俺とオークはずっと向かい合っていた。
俺は、変顔をして笑かしに行ったんだが全く笑っていなかった。
それもそっか。
状況が状況だもんな。
そんなことをして、5分ぐらいたった。
ようやく2人の会話が終わった。
すると、見る見るうちに俺の周りを囲っていたオークの集団は、武器を下ろし、俺に背を向けてどっかへ行ってしまった。
何があったんだ?
実はエトルフって意外とすごいやつだったりする?
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