表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

05話 2つの初めて


 どのクエストをやろうか。

 といっても、迷うほどクエストが多いわけでもない。


 多分だけど、俺はEランクの中でいえば相当上のレベルに属する方だと思う。

 まあ、Eランクって一番下のランクだし、全体で表せば、下の下の下だから。

 せめて、下の下の上であったくれと願ってでもいないと神に見られることを考えると、恥ずかしくなってしまう。


 ちなみに神は、任意の人の行動を見ることが出来る。

 見ることが出来るというより、把握ができるという方が正しい。

 それも、大雑把に把握するだけ。


 なんというか、神ってすごくて。

 観察したい人を思い浮かべると、その人の今までの行動とか、考えとかが、一瞬で頭に入ってくるんだ。

 

 人間になって分かったが、それってすごい不思議なことなんだ。

 人間は、人の考えがパッと頭に入ってこない。

 俺からしてみれば、逆にそっちの方が不思議だけど・・・。


 テラは多分俺のこと観察してるから、何もしなかったりすると、神に戻った時に殺される。

 だから、俺は神の信仰を広げないといけない。


 さあ。

 とりあえず、一番報酬の高いクエストをやろう。

 ええと。

 

 銅貨3枚に、銅貨8枚。

 銅貨16枚・・・。


 ん?!

 銀貨1枚?!


 一枚のクエストの後ろに隠れていた。

 おそらく相当昔からあって、誰もクリアしていないんだろう。

 危うく、見逃すところだった。

 

 これをやろう!

 そう、気分を良くして、クエストの紙を握りしめて受付のベラロマのところへ向かう。


「あのー。このクエストをやりたいんですけど」

「はい。お! アーサーさん、早速クエストですか。どれでしょうか?」

 やっぱりいい。

 可愛いし、俺にも優しくしてくれる。

 受付の他の2人には、胸の大きさは負けるけど、特に問題はない。

 俺は貧乳でも大丈夫だ。


「え? 本当にこれでいいんですか?」

 と、そう確認されるが、一番それが報酬がいいんだ。

 もちろんそれをやるに決まってる。

 なんたって、それじゃないと俺は住む家がなくなっちゃうんだ。


「はい。もちろん!」

 俺は、やる気満々で返した。


「で、でも。私アーサーさんが死んじゃうの嫌です」


キュン!!


 この瞬間俺のハートは射貫かれた。

 ベラロマによって。


 でも、複雑な気持ちだ。

 俺のことを心配してくれて、あんなことを言ってくれたのかもしれないが、裏を返せば俺がこの魔物に負けるような男に見られているということだ。

 それはいけない。


 このアーサーの男魂に火をつけてしまったなベラロマちゃんよ。

 一層、このクエストをクリアしたい気持ちが増した。


「いや、そのクエストでお願いします」

「え、本当に?」

「本当に!」


「ほんとにいいの?」

「はい」

 ちょっとしつこく感じた。

 しつこい女は嫌われるぞ。

 でも、そんなに可愛かったら、大丈夫ですけど。


「分かりました・・・」

 少し下を向きながら、声を落としていった。


「でも、絶対に死なないようにしてくださいね」

「大丈夫ですって」

 何度も、保険を掛けられた。

 それもそうか。


 今から俺がクリアしようとしてるのは、草刈りだ。

 もちろん、草刈りが大変なわけではない。

 草刈りだけだったら、こんなに報酬は高くならない。

 

 じゃあ、なぜそんなに報酬が高いのか。

 それは立地に原因がある。

 今回、クエストの場所は魔物が多くいるそうで。


 魔物は別に強いわけではない。

 ただ、数が多いそうだ。

 それが、問題なのだ。


 いくら、弱くても数で制圧してしまうということだ。

 魔物たちは。

 数の暴力というやつだ。


 それはきちんと、クエストの紙にも書かれていた。

 アーサーもそれは知っている。


 でも、今回はちゃんと、倒す手立てはある。

 なんたって、今の俺には旧神魔法がある。

 ベラロマにかっこいいところを見せてやるんだ。


 物事に女性がかかわってくると、頭の回転が速くなるアーサー。

 いつもそうであってほしい。


「では、このクエストはクリアまでの期間が一週間ですので、それまでには、クリアするようにしてください」

「ありがとうございます」

「お気をつけて」

 俺は、後ろを振り向かず、前だけを見て颯爽(さっそう)と、ギルドを出ていった。

 出来るだけ、カッコよく。


 期間は、一週間になってるけど一日でクリアしないと明後日までに宿に泊まるだけの金が手に入らないから、実質期間は今日中みたいなものだ。


 一応、ベラロマからは、地図をもらった。

 結構わかりやすく、書かれている。

 手書きだ。

 

 この地図によると、ここから、草刈りの場所まではそう遠くない。

 といっても、街の外へ行かなくてはいけないが。


 てか、ここ街の中心じゃないの?

 絶賛迷子中だから、今どこかもあんまりわからない。

 街の中心に来てるつもりだったのが、実際は街の端っこでしたと。

 だっさいなぁ。


 それに、よく見ればすぐそこに城壁があるじゃん・・・。

 何で気づかなかったんだよ。


---


 じゃあ、早速目的地へ向かいますか。

 この地図案外便利だな。

 検問の場所まで書かれてる。

 

 この地図によるとここらへんが検問だ。

 お。

 あった。

 

 俺が、前に通ったところとは違う検問所だった。

 それでも同じところと言えば、2つに分かれているところぐらいだ。


 中から、外に出るには、これといって検査等はされなかった。

 街を出てからは、一瞬だった。

 目と鼻の先だ。


---


 常に迷子にならないように、気を付けて歩いてきたつもりだ。

 多分大丈夫。

 それに、今の俺には広範囲探知魔法があるんだ。


 轢かれそうになった彼女を救ってあげた時に、なんでか知らないが、旧神魔法が使えた。

 もちろん、旧神魔法は俺が神だった時に、何度も使ったことがある。

 ばんばん使ってたからなぁ。あの頃は。

 テラとどっちがたくさん魔法を打てるか勝負してたっけ。

 

 てか、あの頃はちゃんと、旧神魔法を使ってたつもりだけど、今思えば自分のマナを使ってたことになるから普通の魔法と何ら変わりはないのか?

 だから、人間になっても使えたのだろうか。

 いまいち、使えるものと、使えないものの違いが分からない。


 それも、はっきりさせないと後々困ってくるのは自分だから。

 まあ、はっきりさせる術がないから困ってるんだけど・・・。


---


 地図に書かれてる通りだと、ここがクエストの場所らしい。

 確かに、雑草が多い。

 でも、はっきりとはわからない。


 地図も大雑把で、ここら辺と言わんばかりに丸が付けられているだけだし。

 それに、ここが地図に書いてある場所と同じなのかも定かではない。

 でも、あってると信じよう。

 そうすることしかできないし。


 この雑草も相当なもので。

 俺の太ももぐらいまでは育っている。

 高い物は、腰の部分まである。


 透き通った、緑色。

 目にやさしい。


 それにしても、ここら一帯全部やるのか。

 思ってたより広いな。


 この広大な範囲を、一日でやるのは結構きつそうだ。

 もとより、魔法に頼るつもりだったけど。

 魔法がないと、きついぞこれは。


 俺だから、まだしもこんなクエストがEランクにあっていいのか?

 まあいいや。

 そんなことを考えている暇が、あるんならさっさと取り掛かろう。


 一人で黙々と、太陽の下で。

 作業を始める自分の姿を想像するとなんだか寂しくなってくる。


 これをパーティーを組んで、何人かでやったら楽しいんだろうけど。

 そんなこと今の俺にはできそうにないから。

 余計、悲しくなってくる。


 さあ、今回の目的の草刈りだが、2つの魔法を組み合わせて、やろうと思う。

 1つ目が、(カット)

 そして2つ目が、炎玉(ファイアボール)だ。


 作戦としては、(カット)で雑草の付け根を切る。

 そうして、そこらへんに散らばった、雑草を炎玉(ファイアボール)で一気に燃やす。


 そうして終わらせる予定だ。


 もし、それをしてる最中に魔物にでも襲われたら、しっかりと倒す。

 フィールが倒したみたいに。

 魔物を、焼き尽くす。


 話によると、魔物は高く売れるって聞いたし、できるだけ傷をつけないように殺すことを意識しよう。

 まあ、もっとも。

 俺はマナ量13だし、魔物が襲ってくるかわからないんだけどな。


---


 早速、始めよう。


(カット)

 俺の手付近から刃のようなものが飛び出した。

 そして、一定の距離飛ぶと、それは消えてしまった。


 元気よく太陽に向かって、まっすぐ伸びていた雑草も、俺の一言でその場に倒れ込んでしまった。

 そして、雑草が風に乗って飛んでいかない前に、続けて


炎玉(ファイアボール)


 と、勢いよく魔法を打った。


 炎玉(ファイアボール)は、文字通り炎の玉で、それを地面に向かって打つことで一気に雑草を燃やした。

 ほとんどは、炎玉が当たった衝撃で、燃えて灰となってしまったが、炎玉(ファイアボール)が行き届かない端っこにあった雑草は、爆風によってどこかへ飛んで行ってしまった。


 結構いい感じにうまくいった。

 ほとんど予想通りだった。

 ただ、一つを除いて。

 

 それは、炎玉(ファイアボール)で燃やした雑草が灰になって、そこの景観が悪くなってしまった事だ。

 街の外だから、そんなの関係ないとは思うが、一応。

 念のため。

 あとで、灰も綺麗にしておこうと思う。

 

 やり遂げた感を出してるが、実際、今刈った雑草は全体の5パーセントにも満たない。

 つまり、あとこれを20回以上やらなくてはいけないということだ。

 先が思いやられる。


 でも、これも銀貨一枚のため。

 明後日からの、俺の家のため。

 頑張らないといけない。


 でも、やっぱ嫌だなぁ。

 ここまでくると、住む家なくてもいいか?

 と思ってきてしまうが、ちゃんと安全に暮らすためだ。

 そこだけは譲らないようにしよう。


---


 よし。

 これで3回目。

 まだ余裕―。


 6回目終わったー。

 まあ、いけるかな。


 やっと、半分。

 10回目―――!

 頑張れ、俺。


 きたー!

 15回目。

 あと5回。


 19回。

 もう無理ぃ。


---


 20回目。

 これが、最後だ。

 よっしゃあ。

 これで終わる。


(カット)

炎玉(ファイアボール)

 

 この2つの魔法も使い慣れてしまった。

 寝ながら使えといわれても、問題なく使える。

 なんせ、20回もこの魔法を使ってきたんだから。


 それにしても、思ったより早く終わったもんだ。

 5・6時間はかかると思ってたのに1時間ちょっとで、終わってしまった。

 これはこれで、ラッキー。

 

 帰りに、魔物でも倒して帰ろう。

 死なない程度に。

 今の自分のレベルも知りたいところではあるし。

 

 それに、倒した魔物も売れるし、一石二鳥。

 

 でも、その前に問題が一つ。

 この、辺り一帯に、敷き詰められてしまった灰をどうするかだ。

 

 さっきから、考えているんだけどまったく方法が思いつかない。

 いっそのこと、このまま帰っても、いいんじゃないかとも思うが、もしこれでいちゃもんをつけられたら、それはそれで厄介だから避けたい。

 

 灰を一気に片づけられる魔法。

 そんなのないかなぁ。

 まあ、そんな都合のいい旧神魔法がある方がおかしいか。



 ここは潔く、手作業で集めることにしようか?

 

 ──正直言って、俺は旧神魔法なんて全く知らないんだ。

 知ってるものの方が圧倒的に少ない。


 防御魔法 〈魔盾(マジックバクラー)

 攻撃魔法 〈炎玉(ファイアボール)〉 〈(カット)〉 〈業炎(バーストファイア)〉 〈激浪(ライジング)

 回復魔法 〈治癒(ヒール)〉 〈完治(ヒーリング)

 伝達魔法 〈思念〉

 そして。

 探知魔法 〈探知(ディテクション)

 だ。


 おそらく、旧神魔法の数は全部で優に100を超えてくる。

 そう考えると、俺が知っている旧神魔法の数なんて雀の涙ほどにしかすぎないということだ。

 ちなみに、俺が今使える旧神魔法の中で、一番強いのは火属性魔法の〈業炎〉で、一番簡単に使えるのは〈探知〉だ。


 これについても、早く書庫とかで調べたい。

 おそらく、古い書物には、旧神魔法のことがたくさん書かれているだろうから。

 まあ、フーリエに書庫があるのかはわからないが。

 

 とりあえず、今は灰を集めるのが先だ。


---

 

 灰を、集めて早3時間ほど。

 ちなみに、ひとえに灰といっても、雑草の原形をとどめている灰だ。

 手でつかもうと思えばつかめる。

 ただ、手は真っ黒になるが。


 そうして、手を真っ黒にしてようやく、半分ほどが片付いたころだった。

 近くから、2人の話し声が聞こえてきた。

 

 人間の声?

 

 俺はとっさに、山積みになった灰の後ろの方へ隠れた。

 盗み聞きをする形になってしまったが、一切そんな意思はなかった。

 半分、不可抗力だった。

 

 それにしても、灰が臭い。

 当然だが、焼け焦げたにおいが俺の鼻を襲ってくる。


 俺はそれに耐えられず、右手の親指と人差し指で両方の鼻をつまむ。

 匂いは消えたが、鼻をつまんでいるため、口で呼吸をする。

 すると、不思議なことにも口から焦げたにおいが感じられる。

 なんでだ?

 

(はあ、疲れたな。今日も)

(そうですね)

(それにしてもあいつらどこ行っちゃったんだろうな?)

(死んでないといいですけど)

 どうやら、パーティーの仲間とはぐれてしまったらしい。

 お気の毒に。

 死んでしまったかもしれないってことは、相当高いランクの高いクエストにでも行っていたのだろうか。

 いや。 

 どのランクでも、クエストは死と隣り合わせか。


 とりあえず。

 今、人と絡むと結構時間的にきつくなるから。

 このまま、こいつらが、通り過ぎるのを待とう。


(あれ、てかここら辺むっちゃ雑草生えてなかったっけ?)

(そういえば、確かにそうだな)


 よくぞ気づいてくれた。

 これは、俺が一生懸命に刈ったんだぞ。

 すごいだろ。

 と言ってやりたかったけど、やめておこう。

 

(まじかよ、人間が刈ったのか?)

(ふさふさして、気持ちよかったのに)


 なに?!

 俺が一生懸命刈ってやったってのに文句か?

 ひどいぞ。

 俺の気持ちにもなってみろ。

 

 しかも、ふさふさで気持ちいいってなんだよ。

 雑草と違って、お前は気持ち悪いよ。

 ぷんぷん。

 誰かは分からないが、文句を言う。


 すると、続けて。

 

(しかも灰になってるじゃん)

(ってことは、誰かが焼いたってこと? 許せない! 俺たちの食料を!!)

 そうだよ。

 焼いてやったよ。

 灰にしてやったよ。


 お前たちの。

 ()()を・・・??

 

 雑草が食料?

 ん??

 

 ()()が刈った?

 

 もしかして。

 俺が今聞いてんのって人間じゃないの?


 じゃあ誰?

 

 不思議に思って、すぐに、灰の裏からこっそり顔だけを出して、声の聞こえる方を覗いてみる。

 

 あれ、てか。

 どこから声聞こえてるんだ?

 

 というかこれって。

 〈思念〉じゃね?

 発動した覚えはないけど・・・。

 

 それよりも今は、誰がしゃべっているかの確認だ。

 そうして、辺りを見渡すと、ゴブリンが2匹。

 横に並んで、のんきに歩いていた。

 

 ゴブリンの会話?

 人間じゃなかったのか?

 

 すると、そのうちの1人と目が合ってしまった。

 

(はは。こんちゃー)


 どうすればいいか分からなくて、俺はとりあえず挨拶だけした。


(おう、こんにちは、初めましてー)


 ちゃんと、返してくれた。


(っておい! お前人間か?)


 正気を取り戻したようで、焦って聞いてきた。


(お、おうそうだよ!)


 びっくりしてたから、ちょっと強めの口調になってしまった。

 ゴブリンはそれにびっくりしたのか、一歩後退しながらまた言ってきた。


(何で、人間が俺らの言葉分かる)


 当然最初はその疑問だよな。

 でも残念ながら、俺にもわからないんだよ。

 それが。


(いや。なんとなくっていうか・・・。運命ってやつですよ。はは)


 なんといえばいいか、困りに困って導き出した結果がこれだった。

 こんなんじゃ、納得できないよな。

 俺も納得できないもん。

 

 とりあえず、今ここで殺し合いになるのは嫌だ。

 だって間違いなく俺が、勝っちゃうし。

 それだけは絶対に避けないと。

 

 それに、魔物が会話をしていること自体が驚きだ。

 今まで、そんなこと聞いたことなかった。

 もちろん、そんな噂も。

 

 これが、本当だとしたら、世界がひっくり返るぞ。

 やばいことになるぞ。

 とりあえず落ち着いて、冷静になろう。


(お前ら、殺すぞ! いいのか?!)


 すると、声(?)を荒げて言ってきた。

 もちろん俺を殺すことなどできないが、今はそれを自慢する時ではない。


(落ち着け。一回落ち着いてくれ。俺はお前らを殺すつもりはない。ほら、俺武器持ってないだろ、殺す方法がないじゃないか)

 これで、殺意がない事は伝わっただろうか。


(でもお前、魔法使えるだろ、それに人間が俺たちを殺さないわけがない!)


 やっぱりか。

 言葉一つで、今まで人間が殺してきた魔物分の大量の恨みが消せるわけがないか。


 どうすればいいだろうか。

 神だとばらすのは? 逆効果になりそうか。

 どうにかして、今ここで殺意がないことを伝えないと。

 

(わかった。じゃあ、俺は何もしない。

 今ここでうつ伏せになる。だから煮るなり焼くなり好きにしろ。

 ただし、それが終わったら。もし俺が死んだとしても、その時は俺は敵意がない人間だったんだと思っていてくれ)


 ここで、人間生活が終わってもいい。

 神としての、生涯が終わってもいい。

 それだけの覚悟が俺にはあった。


 初めてだった。

 初めて、うつ伏せになった。

 動物が、仰向けで寝るのは警戒心がない人の前でだけだ。

 俺のうつ伏せもそんなもんだ。


 俺は、元神として。

 いくら魔物に、しゃべる能力があることを知らなかったとしても、俺は人間が魔物を殺すのを黙認していたんだ。

 実際は、意志あるものが意志あるものを殺していたのに。


(くっ)

(殺さないんですか? 人間ですよ。今まで、大量に友達を殺してきた人間ですよ)

(殺したいけど。でも、あいつは今までのやつらとは違う感じがするんだ。あの人間は俺に命を渡してきたんだ。そんなこと俺にはできない)


 と、俺の意志をくみ取ってくれたよう。

 俺の、誠心誠意に伝えたかった思いが通じたんだ。

 伝わってよかった。

 一歩間違えれば、殺されていたのに全く恐怖を感じなかったのは何故だろうか。

 

 今まで、魔物を襲ってきた人間をも許したわけではない。

 ただ、1人の生命体としての俺を受け入れてくれただけだ。


(わかりました。俺は兄貴の言うことなら信じますんで)

(ありがとう)


 もう一人も、許してくれたらしい。

 この判断がどれだけ重いものか俺はわかっているつもりだ。

 もし俺が、逆の立場だったら許していたかはわからない。

 

(俺はあんたのことは許したが、人間全員を許したわけではないからな)

(わかってる。ほんとにありがとう。それと、この雑草焼いちゃって悪いな。お前たちの食べ物だったんだろ?)

(ああ、でももういいよ。雑草なんてそこらへんに生えてるから)

 まだ、何でも話せるようになったわけではないが、少しは心に余裕が出来た。


(それにしてもこれ、燃えたままでいいのか?) 

(え? ああ、今からあと半分集めようと思ってたんだよ)

(そうか。じゃあ手伝ってやるよ)


 快く、雑草の灰の片づけに申し出てくれた。

 もちろん、俺は断る理由もないし、快諾した。


(いいのか? じゃあよろしく! ちなみに、俺の名前はアーサーだ。アーサーって呼び捨てで呼んでくれ)


(おお、アーサーか。俺の名前はエトルフだ。で、こっちの俺の弟がヴァネリアだ。こいつ名前は女っぽいけど、男だからな。ちなみに見てわかると思うが俺も男だ。よろしく!)


 エトルフはムキムキで、右の腰には短剣を装備していて、男っぽい。

 確かに、見てわかる。

 それに対して、ヴァネリア。

 エトルフには見劣りするが、それでも自慢できるほどの筋肉。

 それに、兄弟らしく顔だちも似ている。


(じゃあ、そっちを頼む)

(俺らに任せとけ!)


 あって、数分だ。

 たったの数分なのに、3人の間には硬い絆ができている。

 

 3人にとっては、逆境の状態で。

 自分の判断で選んだ、友達だからこそ種族が違えど、これほどの絆が生まれたのだろう。


---


 ようやく、全部の灰が綺麗な山という形で収まった。

 それも、これも、エトルフとヴァネリアのおかげだ。

 3人でやったからこそ、これだけ早く終わったのだ。

 一人では3時間もかかったのに、3人でやったら、たったの30分で終わった。

 感謝してもしきれない。

 

(よし。終わったな! アーサーはもう帰るのか?)

(うん。今日中に帰ってクエストのクリア報告をしないと、住む家がなくなっちゃうんだよ)

(そうなのか、じゃあ気をつけてな)

(ああ、ありがとう)

 そうして、俺はゴブリンたちと別れることになった。


 一応、あいつらの暮らしてる場所は聞いたし、会おうと思えば、いつでも会いに行けるから、会えなくなる心配はない。

 

 〈探知(ディテクション)


 探知魔法を使って、街の場所を把握できたし今日中にフーリエに帰れそうだ。

 良かった。


 それにしても、今でもまだ鼓動が高鳴っている。

 俺は、魔物と友達になったんだ。

 今まで、しゃべれなくて、知能がないと思われていた魔物とだ。

 

 ゴブリン以外の、魔物も思念でしゃべることはできるのだろうか。

 今度会ったら、エトルフに聞いてみよう。


 魔物と人間が、共存する世界か。

 わくわくするなぁ。

 そんな世界が実現したら。

 いいなぁ。


 平和な世界が訪れたら──いいなぁ。



種族は違えど、心は通じますからね。

自分で書きながら、ずっと思ってました。


良ければブックマークと評価お願いします。

読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ