04話 冒険者になろう
冒険者ギルドに、行くために外へ出る。
ちゃんと鍵をかけて、一度鍵がかかったことを確認し。
その鍵を右のポケットに入れる。
冒険者になるということは、生活をしていくうえで、一番といっていいほど重要だ。
クエストをクリアすれば、お金が手に入るし、強くもなる。
でも、やっぱり一番は、友達ができる事だろう。
同じ冒険者の人と仲良くなって、そうしてパーティーを組む。
これこそ、冒険者の醍醐味だろ。
もちろん、パーティーにはかわいい女の子を沢山入れて「アーサーさん、さすがです!」なんて、言われたい。
そのためには、早く強くなんなきゃいけないんだが。
それに、フィールは冒険者カードを持ってたから、冒険者とて活動していたらいずれ出会えるだろう。
その時は、フィールを俺のパーティーに入れてあげよう。
きっと喜んで、笑顔になるぞ。
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冒険者ギルドに向かおうと、いざ右足を前に出すが、それに続いて出した左足が宙に浮いた状態で止まる。
てか。
冒険者ギルドってどこだ?
如何せんこの街に来て2日目なので、ギルドの場所が全く分からない。
ギルドの場所というか、何にも分からない。
大体ギルドとかそういう中枢機関は大きな建物で、町の中央に立っていそうだが、どこが中心かもわからない・・・。
でも、まあずっと立っているわけにもいかないし、壁と反対の方に向かおう。
太陽がまぶしい。
熱いし、ムシムシしてる。
家の中からは、あんまり感じなかったが外に出てみると案外日差しが気になる。
(森って・・・すごいな・・・)
道はきちんと整備されていてその道なりに進んで歩いていく。
馬車が通る道を、俺も歩きで通る。
馬車が行きかっている。
縦横無尽に。
少しでも注意を怠ったら轢かれそう。
馬車同士も、よくぶつからないもんだ。
常に、すれすれで交差していく。
馬車の大きさからすれば、この道も意外と狭いのかもしれない。
馬車2台と、人ひとりがギリギリ横並びで入れる狭さ。
馬も、思い通りに動いてくれるわけではないんだから、相当この関連の事故も起きているのではないか。
もっと、道路を広げればいいのに。
でも、そんな簡単な事じゃないか。
それにしても建物の雰囲気が変わった。
ライム荘を含めた、宿や宿舎が多かった城壁付近から中心に向かうにつれて、店が多い街並みへと移った。
ご飯屋に、防具屋そしてガールズバー。
特に、ガールズバーが目を引くが、まあ置いておこう。
とにかく、適所適所に見合ったお店が展開されていて、統制のとれている町だということだ。
この感じからして、この街は商業が盛んな雰囲気がする。
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(全くわかんねー。)
歩き始めてから、30分ぐらいたった。
もう、帰り道がわからなくなるまで来てしまった。
このまま歩いていても、時間の無駄だと思い、くだらないプライドを捨て、人に聞くことにする。
さっさとそうしてればよかった・・・。
さあ。
それにしても、どの人がいいだろうか。
できれば優しそうな人。
大男とかだけは避けたい。
今のアーサーの周りには、馬車が数台。
縦横無尽に駆け回り、それにいつあたってもおかしくないような距離を躊躇なく歩く人が一人だけ。
どうやら、選択肢は一つしかないそうだ。
20代前半の髪の長い女性。
くりくりとした目に筋の通った鼻が特徴的な女性。
付き合ってくれと言われたら、すぐにでもオッケーをしてしまう。
何なら、こっちから告白してしまおうか。
いや、でも、初対面のうちはやめとくか。
「──すみません」
「・・・」
ん?
声が小さかったか?
聞こえてない模様。
「あ、あのー、すみません。」
今度はもう一度、さっきよりも大きい声で。
「私、彼氏いるのでやめてください」
彼女は一言だけ言って、俺の方を見向きもせずに、歩き続ける。
ん?
え?
はぁぁぁぁぁぁぁ!!
これって、俺ナンパだと思われてるってやつ?
早く、誤解を解かないとやばいやつ?
まあ、別に彼氏持ちでも俺は良いんですけどね。
って言ってる場合かっ!
俺から、離れていくように歩き続ける彼女を、小走りで追いかる。
馬車に当たらないように気を付けながら走るのは案外難しい。
やっとの、思いで彼女のもとへ追いついた。
彼女は、追いかけてきているとは気づいていないようだった。
ここら一帯は、馬車が多いから、俺の荒い息と足音は「パカラッ パカラッ」という、馬の足音でかき消された。
俺は、彼女の歩みを止めようと肩を掴む。
だが、それが逆効果だったようで。
「きゃあぁ!」
「この人、痴漢です!」
と、大声で叫ばれてしまった。
ナンパ呼ばわりされた後は、痴漢魔かよ。
それにしても、これは、やばい。
本当にやばいぞ。
今すぐ、逃げないと。
悪いことはしてないのに、逃げようとするアーサー。
彼女も、アーサーと逆の方へ逃げていく。
2人とも、全力疾走で。
誰かが、追ってきていないかを確認するために、後ろを振り向きながら逃げる。
すると。
彼女の、元へ馬車が近づいてくる。
真正面から。
俺は、嫌な未来が頭によぎった。
彼女が馬車にひかれるという。
そのまま、足を止め彼女と馬車に目をやっていると、その未来が、実現しそうで。
馬車はスピードを緩めない。
彼女に、気づいているのかもしれないが今からではもう間に合わない。
さっきの叫び声を聞いてか、数人、彼女の周りにいるが誰も助けようという様子はない。
そいつらが今助けに行けば、間に合うのに。
絶対に。
でも、案外その状況になってみれば行動できない。
そして、俺は頭を回転させる。
旧神魔法の使い方は?──結構昔だったからうろ覚えだ。
けど大丈夫きっとまだ使える。
発動時間は間に合うか。
詠唱はなしだ。
彼女の前方を、小さく、集中的に。
これ以上何も考えず、俺は右手を彼女に向け、彼女が助かる未来をしっかり想像して魔法を打つ。
無詠唱で。
〈魔盾!〉
使えるか、分からない魔法だ。
人間になって、初めて使った。
魔法を使った刹那。
急に使ったことから来る反動と、魔法を打つことへの躊躇いから目を閉じた。
恐る恐る、目を開けてみると・・・
彼女の前方に、盾というより壁に近い魔法が発動されている。
そこへ、馬が思いっきりぶつかる。
馬は、その場へ倒れこむ。
幸い、その馬はしばらくして、自分の力で立った。
良かった。
どっちも救えて。
やっぱり、馬ってすげーな。
馬に感心していると、彼女と目が合った。
突っ込んでくる、馬に驚いて、その場に倒れ込んだままでいる。
どうやら、俺が魔法を使ったことに気づいたらしい。
魔法の詠唱は、急いでいて案外小声だったから、周りにいる人には聞こえていなかった(無詠唱とはいえ、『魔盾』とは言っていた)。
じゃなんで彼女には聞こえていたのかという疑問は残るが、一応よくやったぞ、俺!
と、ほめておこう。
御者はだれにも何も言わずに、その場を去っていった。
そして周りの野次馬もそれに続いて、引っ込んでいった。
そして、そこには、また俺と彼女だけの空間が広がる。
「ありがとうございます」
すぐに、逃げてしまうと思われたが、こちらによって来て、感謝された。
「いえいえ。それと、僕ナンパじゃなくて、ギルドの場所を教えてほしいだけなんです・・・」
感謝されたら、それに応えるのが道理。
ついでに、ナンパでないことも、ぼそっと言っておく。
「そうだったんですか! それはごめんなさい。私の感違いなのに・・・。それに命まで救ってもらって。どうやって、恩を返せばいいか」
もちろん付き合ってくれれば、それがいちばんの恩ですよ。
でも、物事には優先順位がある。
今俺がいちばん求めているのは、ギルドまでの道だ。
「じゃあ、ギルドまでの道を教えてもらえませんか」
なんだか、もったいない気もするが、これもこれでかっこいいから良しとしよう。
「そんなことでいいんですか?」
「はい」
「分かりました。冒険者ギルドは、この道をまっすぐ行って、二番目の角を右に曲がると左側に3階建てぐらいの建物が見えるから、その2階が冒険者ギルドです」
丁寧に教えてくれた。
「ありがとうございます。助かりました」
人助けっていいな。
英雄みたいだ。
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言われた通りにギルドまで進む。
ギルドに向かうにつれて、人の数が増えてきた。
すると、大勢が出入りする建物がある。
冒険者ギルドだ。
1階が鍛冶屋で、2階がギルド本部で、3階がバーだそうだ。
洒落てるな。
外にある階段を登って中に入ってみる。
右手で、扉を掴み、いざあける。
すると、そこには老若男女問わず、いろんな人が。
すごい、みんな強そうだ。
身に着けている防具をぴかぴかと輝かせている人もいれば、薄っぺらい服で杖を持っている人もいる。
中には女性もいる。
そうでなきゃ。
そして俺は一度、周囲を見渡した後、冒険者の登録をするためにカウンターへ向かう。
カウンターは3個あって、その受付は全員女性だ。
全員が可愛い。
ここの、仕事の募集は、可愛い人じゃないと通りそうにないな。
そうして、俺は、一番右の。
一番かわいい人のところへ行った。
「すみません、冒険者の登録をしたいんですけど」
そういうと、その女性はこちらへにっこりと笑みを浮かべて(営業スマイル)言ってくる。
「わかりました。では魔力測定を行うのでついてきてください」
受付に座っていた女性は2つ返事で何の確認もなく、魔力の測定に移動した。
こんなにあっさりしたものなのか?
冒険者の登録って。
女性の胸の部分にはネームプレートがある。
この女性の名前は、ベラロマというそうだ。
今後、末永いお付き合いになるだろうから。
(よろしくお願いします)
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ベラロマに言われるがままについていく。
階段を下って地下へ行く。
この建物には地下があるんだ。
地下では何をしているんだろう。
外からではわからなかったが、地下室も相当広い。
階段を降りると、細い通路が中枢となる様、左右に扉がいくつかある。
その中でも一番奥にある扉に案内された。
その中は、一つの部屋のようなつくりになっていた。
質素という言葉がよく似合う部屋だ。
頑丈な壁に囲まれた真ん中にマナの量を測定する機械が、ぽつんと1個おかれてる。
壁も床も、白一色で天井に電球が一つ、ついているだけだ。
「では、ここに手を置いてください。そしたら数字が刻まれるので、その数字があなたのマナ量になります」
心の準備をする間もなく、促された。
どのぐらいのマナ量があるのか、期待に胸を膨らませる。
正直、アーサーにとっては現代の魔法は使えないからマナ量なんて飾りのような物だ。
でも、マナ量が多ければその分、冒険者としての最初のランクが上がるから、多いに越したことはない。
ベラロマに言われた通りに、この機械に右手を置く。
それにしても、現代の技術もすごいな。
手を置くだけで、マナ量が分かるなんて。
それも、一瞬で。
しばらくして「キュピーン」というダサい音に合わせ、魔力測定機の上の部分が光はじめる。
そうして、数字が浮かび上がった。
“13”
「ぷぷっ」
ベラロマが失笑する。
次いで、すぐに冷静になり、またにっこりとこっちを向いて言う。
決して、嘲笑ではない。
「ぼ、冒険者様のマナ量は13なので、Eランクになります。
冒険者としてクエストをクリアしていけば、いくほどランクが上がります。
パーティーを組めば3人以上で一緒に活動することが可能になってきます。
初心者のうちは、簡単なクエストをパーティーでクリアすることをお勧めします」
(がーーーン)
この機械不良品だろ!!
現代の技術なんて、信用できないぞ!!
俺は信じないからな!!
ぷんぷん。
13なんて、そこら辺のミミズのマナ量と同じじゃねーかよ。
いくら関係ないとはいえ、もうちょっとマナ量が多くても・・・。
残念だけど、これが現実なのか?
「マナ量は、場数を踏めば、増えてくるものですし、そこまで心配することじゃないですよ」
すかさずベラロマはフォローする。
今、俺、気使われてるのか?
俺よりも圧倒的に弱そうな女に!
まあでも、しかたないもんな。
マナ量では多分負けてるし・・・。
「ありがとうございます。」
ここは潔く、現実を認め、早くクエストをクリアしてランクを上げることに集中しよう。
魔力の測定が終わると、ベラロマに連れられてまた一階に戻ってきた。
一階に来ると受付へ案内されて、追加の説明を受ける。
「クエストはあそこにランクごとに分けられて貼られているので、やりたいクエストがあったら、そのクエストの紙をここに持ってきてください。
クエストごとにあらかじめ設けられている期間があるので、その期間内にクエストをクリアしてください。
もしクリアできなかったらその分ペナルティーが課せられる場合があるので注意してください」
受付の左手に、クエストの募集が沢山貼られているスペースがある。
そこを指さしながら、言った。
その後、名前と年齢といった、個人情報を色々、紙に書かされて登録が終わった。
受付での諸契約が終わると、俺はクエストを見る為に左の方へ歩き出した。
ちょっとしたアクシデントもあったけど、晴れて今日から俺も冒険者だ!
まあ、今は言われた通りクエストをクリアして、ランクをあげていこう。
今できる事はそれだけだ。
俺は、Eランクだからこの部分に張られてるのが、俺が受けられるクエストか。
んー。
なるほどなるほど。
って、待て待て待て!!
なんだこのクエストは!!!
草刈りに、掃除に、魚釣り??
こんなの冒険者じゃなくても、誰だってできることだろ。
これじゃあ、便利屋じゃないか・・・。
でも、Eランクってそんなもんなのか。
実際、魔力量は少ないし、そんな状況で魔物なんかと戦いでもしたら、死んじまうもんな。
改めてEランクである自分の無力さを実感したアーサー。
じゃあ、どのランクまで上がれば、魔物討伐のクエストが受けられんだろう?
と、他のランクのクエストを見てみる。
魔物狩りに、洞窟探検に、ん?
これは。
見覚えのある、魔物だ。
ん?
あ!
これ、フィールが倒した、魔物だ。
どれどれ。
ランクは。
A!?
Aってむちゃくちゃ強いぞ。
聖騎士になれるぐらい。
フィールってそんな強かったのか。
友達として、誇らしいばかりだ。
でも、なんでこのクエストはクリアされてないんだろう?
この、クエストでは、この魔物は一体ってなってるけど。
普通、クエストはクリアされたらすぐに取られるはずだけど。
ってことは、まだクリアしてないことになってんのか。
つまり、まだ、魔物倒してからフィールはここに来てないってことか。
いづれにしろ、このギルドを使っていれば、いつかはフィールに会えるだろうから、その時、ちゃんと嘘ついてたことを謝ろう。
今すぐに、謝りたい気持ちはいっぱいだが、こんなに広い町から人ひとりを見つけるのはとんでもなく、難しいことだから機会が来るまで待とう。
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