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12話 前夜


 相当な日が過ぎ、翌日を街対抗戦に構える日が来た。


 全てがこの日の為であったといっても過言ではない。

 それだけここにかける思いは大きいし、成果も大きくなる。

 当然それは俺だけでなく、リンとシャネルに関しても同じである。

 2人にはもとより、街対抗戦で絶対に勝たなくてはいけないという事は念入りに伝えてある。そして無論参加するなら、勝つに越したことはないだろうという思考が一層のやる気を見出している。


---


 いつかのゴブリン村でのリンとの戦いの後。

 その日の夜は村で祭りが行われた。

 聞いてみたら、俺たちのためにやってくれたんだとか。

 祭りでは大きな肉やら、大量の野菜やらがたくさん放出され、酒も出された。


 黄色に紫、そして緑。

 やっぱり、彩色であることには変わりなかった。

 俺とシャネルだけが食べるのを躊躇っていたが、それでも周りの勢いに流されてしまい結局はバクバクと大量に食べることになった。


 祭りが終わってから俺たちはすぐに帰った。

「一晩ぐらい止まっていけ」という声も多くあったが、それを断って帰ってきた。

 もちろんそれにはちゃんとした理由がある。


 時は戻りシャネルの家に行ったとき──俺はすぐに気づいた。

 シャネルの家がいかに優良であるかを。

 対魔物をしない俺たちにとっては、物即ち機械と戦う事ぐらいしか効率的な練習方法がないことは想像に難くない。

 つまり、シャネルの家にある戦闘用の機械は俺たちの特訓に打ってつけって訳だ。

 

 そして何よりもの決定打は“書庫”だ。

 旧神魔法もそうだし、現代魔法に関して俺は全くの稚拙な状態である俺は知識を得るためのものが必要である。

 だから、書庫の存在はとてもありがたいのだ。

 単純に書庫といっても絵本や童話、自伝といった様々な分野に特化したものが存在するのだが、冒険者ランニング1位の人の家にある書庫だ──そりゃ戦闘に役立つ本がいっぱいに決まっている。

 

 まさにこの書庫は俺のための物といっても過言ではないのだ。


 ってなわけで始めた特訓の日々は俺たちを遥かに、そして着々と強くさせてくれたのである。

 一日中魔法を打つ者。ひたすらに剣を振り回す者。そして、本と向き合って、眉間にしわを寄せている者。

 とまあ、数打ちゃ当たる戦法進化版を三人で取り組んできた。


 俺は、剣術の基礎と現代魔法の種類を大雑把に把握することができた。

 流石にシャネルの書庫には、旧神魔法に関しての書類は見つからなかったが、それでもこれから戦う者は全員が現代魔法と剣術を使ってくる。

 俺には知識という面でほかの者より、ハンデがあったからそのハンデを埋めることが出来たのは俺が考えている以上に価値があるのかもしれない。ただ、相手も今同じ境遇にあることは変わりない。

 その面では俺が一歩リードしたといえるだろう。


 次にシャネル。

 言わずもがな、シャネルは元が強いから鍛錬というよりかはいつも通りの練習をしてもらった。

 それでも、いつもと違うところといえばリンに教えていたというところだろう。

 人間、人に教えることで自分はそれ以上に知識が定着するそうだ。

 故にその分、当たり前のように頭の奥底に存在した“基礎”が今一度繊細によみがえり初心を振り返るいい機会になったのではないだろうか。


 最後にリンだ。

 リンは三人の中で一番成長した。また言えば、リンが一番特訓をしていた時間が長かった。

 幼い分、伸びしろは多くあるからこそ、幼少期からの特訓はとても重要視される。

 ただ、今回に関しては俺に負けたという原因がここまでの熱意を見せたのだと思う。(自分でいうのもなんだが)

 当初はどうなることかと思っていたが、いい影響を与えてくれたのなら万歳だ。

 実践的な面では、使える魔法の種類が増えた・剣の速度が速くなった・筋力の増加。

 そして何より、シャネルとの模擬戦を通して立ち回りと、戦略の能力が格段に上がった。


 簡単に言ったが、並の人間には到底できないような鍛錬をしていた。

 寝る間を惜しんで、へっぽこな機械に黙々と魔法を打ち続ける。

 話し相手もいない中大幅に体力を削りながら、休憩もとらず打ち込む。

 休憩など取ってる暇がないとは自分が一番わかっていたから。

 他が休憩をとっても同調することなく打ち続ける。

 彼女の彼女のなりの努力が今の結果へと実を結ぶ。


 決して簡単なことではない。

 バカにしていいようなことではない。


---


 そして今日が明日から始まる『街対抗戦』のエントリーの日である。

 場所はもちろんギルド本部。

 ギルドへ行ってみるとそこには既にエントリーを待つ長蛇の列が外の階段を下りたあたりまで伸びている。


 聞いた話によると、出場条件は特になく、初級者から上級者までだれでも参加が可能であるとのこと。

 参加人数に制限はなく、種目はトリオ戦・シングルス戦そして、エリアファイトの三つ。

 トリオ戦、シングルス戦は名前の通り、3人であるいは1人で同人数の相手と戦う競技。

 エリアファイトとは設けられたエリアの中にエントリーしたランダムの10人が投入されその中での倒し合いだそうだ。


 トリオ戦、シングルス戦は参加・不参加を選べるそうだが、エリアファイトはエントリーしたら強制参加になる。

 誰と戦うのかは、その場で決められるので対戦相手に関しての情報をあらかじめ知っておくのは不可能に近い。

 全員分の情報をあらかじめ取得しておくのも一つの手としてあるが、100を超えてくるだろう冒険者全員分となると流石に気が引けてくる。


 ちなみに、今回俺たちが参加するのは強制参加のエリアファイトとトリオ戦。

 実際、シングルス戦に参加したいという意はあるのだが、予選1日目にシングルス戦とトリオ戦がある故、どちらかに参加するならもう一方には全力を出し切ることは不可能に近い。

 先にシングルス戦が行われることを加味すればトリオ戦に万全の状態で挑むことはできないから、仕方のないことだ。


「お待たせしました!街対抗戦への参加でお間違えないですか?」


 受付が安定のベラロマであることに少しばかりの喜びを覚える。

 いつもに増して、6人体制で受付に当たっている様子が街対抗戦へのエントリーの人数が多いのを物語っている。

 参加者が受付場所を選ぶことはできない点から、やはり俺とベラロマは運命の赤い糸で繋がっ──。


「はい、お願いします!」


 間を開けず、一番返事をしたのはリン。

 練習の成果を早く見せたいのだろうか。

 自分がどれほどの強さになったのかを、知りたいのだろうか。

 ニコニコ笑顔に、元気満々の声はその両方を連想させる。


「ええと・・・三人でのエントリーでお間違えないでしょうか」

「はい! そうです!」


 やや不安げに聞いてくるベラロマに対して、無邪気な返事をして見せるリン。


「アーサーさんとアイリーンさんと、シャネルさん・・・でお間違えないでしょうか?」

「はい。それでお願いします」

「わ、分かりました。で、では、どの種目に参加いたしますか?」

「じゃあ、エリアファイトとトリオ戦で。シングルス戦は全員欠場でお願いします」


 圧倒され、口を開けたままにするベラロマもようやく心の整理がついたのか話し出した。


「ところで、隣にいるのってシャネル=スレインさんですよね」

「え、ええ。まあそうだったり、そうじゃなかったり?」


 そんな事する必要もなかったのに、少し濁してしまった。

 それでもそんな俺の答えを聞いて理解してくれるのがベラロマ。


「流石、アイネスさんです。最初に見た時から、普通の人とは違うなと思ったんですよ。でも流石に、こんなに早くシャネルさんとトリオを組めるなんて思っていませんでしたよ」

「はは。僕もですよ。ほんとにたまたまなんですよ。森に行ったらたまたま会って、そのまま意気投合した感じで」

「それは、それは。とってもいい出会いじゃないですか」

「カミー! マダー? オソイヨー」


 楽しい会話をしていたが、リンに止められてしまった。


「今終わるから待ってろー」

「ワカッタ」

「では、すいません。僕たちはこれで」

「ありがとうございました。大会の組み合わせと詳しいルールは、当日会場についてからのご案内になります。ありがとうございました」


 そして、帰り際にふと隣で受付をしていたトリオを見た。


(親と子供でトリオに出るなんてことがあるのかー)


 まさに、家族で大会に出るらしい。

 いやでも、待てよ、今の俺たちって家族に見られてるんじゃ・・・ね?


読んでくださり、ありがとうございました。

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