11話 リン大敵
その大きい窓から入ってく日差しは燦燦と体を焼いてくる。
小麦色に焼けた肌には冒険者活動をして培った筋肉が一層似合う。
昨日気分よく眠れた分、寝起きは気持ちがよかった。
そのまま支度をして間もなく、家を出て冒険者ギルドへと向かい、クエストを受け、シャネルの家に向かう。
いつも通りの朝。
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シャネルの家の扉をノックするのはとても緊張する。
なにせ、初めての女子の家の訪問だから。
でも、勇気を振り絞ったら案外怖くない!!
そう思いながら挑んだら大丈夫だった。
そこからはスムーズに進んだ。
家から出てくるシャネルは寝起きの姿かと思っていたが、トレーニングを終えて体中からいい具合に汗を出していた。
これもこれで実に良い。
「おはようございます。アーサーさん、今着替えてくるので待っていてください!」
「分かりました!!」
朝のあいさつを終え、シャネルは家の中に戻っていく。
入りたいという衝動を押し殺して、俺は家の前で待つことにする。
今になって思うと、シャネルは噂に聞く性格とは違うのかもしれない。
俺と会ったばかりの時は会話も協調性もなければ、会話のすべてが敵対的で上から目線だった。
でも今は俺に心を許してくれたのか、距離が縮まったように感じる。
といっても、まだ会って2日目。
実は俺コミュ障じゃない??
シャネルも会話が得意なのか?
──残念ながらどちらも違うということはアーサーは気づかない。
「お待たせしました、すみません遅くなっちゃって」
そう、俺に謝る彼女の姿は美しいという言葉が一番似合う女性だった。
もちろん、冒険者としての着衣だ。
甲冑を少し薄くした防具に、腰に備えた剣。
そのすべてが美しい。
「い、行きましょうか」
その気迫に一歩退くも、そんな情けない姿は見せられないと強気の姿勢で立ち向かう。
ちなみに“行く”というのは、ゴブリンの村へだ。
遂にこの後、待望のシャネルとリンの初対面だ。
その全容を知らないシャネルは一切恐れていない。
それもそっか。
これから、魔物の村に行くなんて思いもよらないだろう。
言ってあげてもいいんだが、その反応を楽しみたいのも含め様々な理由から言うのは避ける。
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「・・・? アーサーさん? その子がいるのは町の外なんですか?」
「はい! 街の外にその娘が住んでる場所があるので。というか、預かってもらってるんです」
「そ、そうなんですね・・・」
その事実に驚きを隠せないシャネル。
シャネルが想像してる以上のことが起こるというのは安易に想像できる。
その未来を想像しながらにやにやと浮かべる笑みからは恐ろしさを感じ取れる。
会話をしながらも歩みは止めない。
俺自身成長したリンに早く会いたいからというのもある。
もちろんエトルフにも会いたいし、みんなに会いたい。
その気持ちが原動力になり、俺の歩みに拍車をかける。
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遥か森の奥地。
俺は何度も来て慣れてしまったが、初めて来るシャネルが不安がっているのも可笑しくはない。
初めて来たときの俺を見てるみたいで初々しい。
「ほんとに大丈夫ですか? こんな奥地に来たことなんてないので・・・」
「大丈夫ですよ。心配しないでください。何があっても俺が守るので!」
吊り橋効果とやらを期待したのだが、効果はあっただろうか。
こんな場面だからこそ、カッコよくアプローチ。
──そうして、ようやく村の入り口が見えてきた。
いくらゴブリンの村とはいえ、その入り口だけで判断することは不可能に近い。
まだ、魔物の村だとは気づいてない模様。
「ここが、もう一人のパーティーを預かってもらっている人が住んでる村です」
「こんなところに村があるなんて聞いたことないです。初めて知りました」
無理はない。
それでも、シャネルなら知っているのではないかと思っていた部分もあった。
「じゃあ、早速中にでも入りましょうか」
「・・・はい」
俺に言われるがままついてくる。
警戒しているのはもちろんだが、それでもついてこれるのは信頼に足るパーティーメンバーと一緒にいるからというのと、もう一人のパーティーメンバーがここにいるからだろう。
村の中へと、足先を向ける。
すらすらと進んでいく俺の、後ろをちょっとずつ。
それでも俺から離れないように懸命についてくる。
(すいませーん!! アーサーでーす!)
〈思念〉を発動させ、大声で叫んだ。
いまいち〈思念〉について理解できていない俺。
とりあえず今のところ分かっているのは、そこら一帯にいる者で、俺の指名した者とは会話する事が出来るという事だけ。
その相手の、強さとの関係は特にない。
その相手がマナ量0であろうと、冒険者ランキングの1位であろうと、俺から一方的に会話に参加させることが出来るというわけだ。
相手の顔含む、個人情報を知らずともそれは可能らしい。
分かりやすく言えば、俺が作った家にみんなを勝手に招待することが出来るんだ。
その家に入れば、一緒に遊べるし、ご飯を食べることもできる(今回は会話)。
でもそれは、俺の作った家の近くにいる人じゃないと駄目で遠くから俺の家に来ることは出来ないようになっている。
ってな感じで俺は今、範囲内にいる全ての者を対象にして俺は〈思念〉で話しだした。
(ご無沙汰してまーす!!)
大きな声で、今一度挨拶をすると、すぐ一人の少女が駆け出してこっちに向かってくる。
(カーミー!!)
リンだ。
相変わらず、その呼び方は変わっていないんだな・・・。
外見からは何も成長したように見えないが、俺にはわかる──リンは間違いなく強くなっている、と。
所詮、元神の感でしかないが。
そして後から続いて、エトルフがやってくる。
一度を目を合わせてから笑顔になって(よう!)と軽く挨拶をする。
そして、エトルフに次いで多くのゴブリンが家から出てくる。
俺はその一人一人、にあいさつをしていった。
多くの時間を取られたが、それを感じさせない程楽しかったし、体感では早く感じられた。
でも、ただ一つ。
忘れてはならないことがあった。
俺は、リンとシャネルを合わせるために来たのだ──そう。
シャネルの存在だ。
背から、魔力が溜まるような──そんな雰囲気がしたのだが、あまり気にも留めなかった。
が、正気を取り戻し振り返ってみると、シャネルがぶつぶつと魔法を詠唱しながら今までにないほどの威力の魔法をためていた。
というか、もう溜まってるんだけど!!
もう、今すぐにでも打たれそうなんだけど!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
やばい!
のんきに今の場合を語ってる時間なんて無い。
あんなにどでかい魔法が打たれたら、この村ごと吹っ飛んじまう!
流石は冒険者ランキング一位!──って関心事てる場合かっ!!
シャネルは多分驚きのあまり正気でいられなくなっているんだろう。
正気を取り戻さないと。
「おーい。シャネルー!! 別にこいつらは襲ってこないぞ!! いいやつらだよー、仲いいし!!」
俺はできるだけ自然に、落ち着かせるように説得した。
一応聞く耳を持ってくれてはいたが、本当に心に届いたのか。
「そうなんですかっ!! で・・・も。ちょ、ちょっと待──我慢できないです!!」
意味深な言葉を最後に、その大きな魔法がシャネルの手から放たれた。
やばい。
ほんとにやばい。
焦燥にかられるアーサーだが、冷静さは消えていないようだった。
いつかの魔法のトレーニングのおかげで、すんなりと魔法は打てる。
(きゃああ!!)
目標をしっかり見て。
(うわああああ!!)
心を落ち着かせて。
(やめてぇえ!)
無事に一件落着する様子を想像して。
〈魔盾!〉
いたるところから飛んでくる叫び声は次第に消えていき、静寂に包まれた。
しかし、それもつかの間。
アーサーによって発動された防御魔法と、シャネルによって発動された攻撃魔法が互いにぶつかり合う。
当然の如く生じた、地面を揺らすほどの爆発音とともに悲鳴も増した。
皆が無事だという事に気づくと、今度こそ、本当に静かになった。
安堵に包まれるものもいれば、これは神様の起こした奇跡ではと、その場に倒れ込んで天を仰いでいる人までいた。
「アーサーさん、ありがとうございます・・・」
みんなの様子を傍観している俺に話しかけてきたのはシャネルだった。
申し訳ないという事を伝え、今にも泣きだしそうなシャネルだったが仕方のないことだと思えた。
というよりも、今回は俺に責任がある。
俺が説明もなしに、なんも言わずにいたのがいけない。
もとより、街の外に出るだけでも相当怖かったはずなのに俺を信じここまでついてきてくれたんだ。
今考えると、本当に申し訳ないことをしたという事をしたのだと痛感する。
今後同じようなことがないようにと、戒める。
「すみません! 俺が悪かったです。俺が行先も明らかにしないまま、ゴブリンの村まで連れてきてしまったばかりに・・・」
「そんなことはないです。私が早とちりしすぎた所為でこんなことに・・・」
「いや・・・俺の、所為です・・・。」
「で、でも、街の人も、もう普通話してますし、街に傷一つもつかなかったのでいいんじゃないですかね。私が言うのも変ですけど・・・」
そう言われて、視線を移すとさっきまでの叫び声はどこへやら、と。
何事もなかったように、笑い声であふれているではないか。
その様子を見て、ため息が出た──うんと大きなやつが。
この時、さっきまでの安堵が自分自身についていた見せかけの嘘だったことにようやく気付けた。
心の底からは安心できていなかったんだと。
でも、今のため息で体の中に詰まっていた負の感情がすべて出ていった気がした。
みんなが笑っている姿
──そうでなくても思えてしまう。
こんな満面の笑みを浮かべているゴブリンたちを見たらそう思えてしまう。
そうではないと分かっているのに。
絶対にそんなことがないとは分かっているのに。
ゴブリンたちは人間なんじゃないのかと──
「そうですね。傷一つもついていないですし、良しとしましょうか!」
「はい! あ! それと。ありがとうございます。守ってくれて」
守るとは言ったけど、こういう意味ではなかったんだが・・・。
「それにしても、やっぱりアーサーさんは強いんですね。私の最強の攻撃をいとも簡単に防ぐなんて」
「“いとも簡単に“なんかじゃありませんよ。相当きつかったですって」
シャネルとの会話をし終えると、エトルフから話しかけられた。
当然その内容は、シャネルについてであった。
俺は、そこから村の人を集め、全員に事のすべてを伝えた。
シャネルがゴブリンにとって害でないこと、優しい人であること等。
皆、納得していた様子で安心した。
こうして、ゴブリンの街にて起こったちょっとしたトラブルは誰の犠牲者も出さず、けが人も出ずに幕を下ろした。
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今しがた、俺は”種の壁”薄さを実感する。
もちろんそれは、いい意味の、である。
さっきまであんなにおびえていたシャネルも今では、多くのゴブリンに囲まれている人気者だ。
当初はどうなるかと思ったが、いらぬ心配だったようだ。
シャネルがゴブリンと喋れているのは何故なんだろう。
当然、シャネル自身が〈思念〉を使っているわけではない。
俺の〈思念〉の効果範囲内にいるからなのか、ゴブリンに自分から〈思念〉を通わせる能力があるのか。
まだまだ、フーリエ図書館にはお世話になるだろうとつくづく実感する。
とりあえず、シャネルはもう大丈夫だろうし、俺は俺の仕事をするとしよう。
エトルフとリンの元へと向かう途中に、俺が注目を浴びてしまうのも無理はない。
もう俺はこの村では、立派な旅人として扱われているのだから。
もしこれが逆の立場で、人間の街に魔物が入ってきたら、ろくに話し合いもせず争いになるのは目に見えている。
でも、今の俺がこうして安全にいられるのは共通の言語が存在し、互いに心を通わせているからだろう。
それもこれも、ゴブリンたちの優しさと寛容さのおかげだ。
(リン、久しぶりだなー!!)
さっきのは、挨拶とは言えないので改めて。
リンが俺の胸へと飛び込んできたので、しっかりと抱きかかえた。
幼いこともあって、相当軽い。
良い、筋トレになる。
しばらくそのままでいたが流石に疲れてきたので、リンを下ろした。
するとエトルフが
(俺もいいか?)
(・・・?)
誰が言っているのかと、自分の脳を疑った。
いくら考えても、言葉の主は男でムキムキのエトルフだった。
思わず苦笑を浮かべるアーサーに、返事を待たずして飛び込むエトルフ。
(うわっぁ!)
もしかして、こいつは俺の事・・・好きなのか?
(元気そうでよかったよ。リンちゃんむっちゃ強くなったから、戦ってみな!)
(お、おう)
抱擁されながら、そんなことを言われても全く頭に入ってこなかった。
俺に勝てるほどまでではないと思うが、それでも旧神魔法の1つや2つぐらいは使えるようになっていてほしい。
旧神魔法を使う感覚さえ覚えてしまえば、あとは“練習あるのみ“の精神で何とかなる。
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場所は村を少し出たところの平地。
俺と向き合うリンの姿は、とても勇ましく逞しく見える。
2人を囲う大勢の観客はどちらかというとリンのファンの方が多い。
成長を直で感じているからこそ、応援したい気持ちが多いんだろう。
審判役のエトルフによって合図が為され、その戦いの幕が開く。
まず最初に動いたのはもちろん俺。
まずは〈炎玉〉を地面に向かって打ち煙を立てる。
予想通り、煙があたり一帯に広がり視界を遮る。
これで、俺に分のある場面の完成だ。
どちらも視界が悪くて互いの姿が見えない?──そんなことはない。
リンは見えないだろうが、俺は〈探知〉の応用〈マナ探知〉でリンの居場所が丸わかり。
予め、リンのマナ量も〈状態〉で把握済みだからほかの人と間違えるなんてことは無い。
戦う前から、戦いは始まっていたのだ。
はっはっは。
後は、視界が悪くて動けないリンの背後に忍び寄って「えいっ!」と脳天にチョップ。
・・・というのが理想だった。
背後に行くまではよかった。
ただその後、チョップを入れようとしたらリンが素早い回し蹴り。
「ぐふぉっ!」
身長が低いせいで、横腹なんかではなく太腿に強烈に食らった。
案外、警戒外の太腿は痛い。
慌てて、距離を取る俺。
自分でも前、言ってたじゃないか。
魔法使いが物理攻撃を有する敵に、近距離戦闘で勝てるわけがないと。
つい先日まで、か弱かったからと気を抜いてしまった。
油断大敵、誰相手にも全力で。
といっても、しくじったせいで相当追い込まれていることには変わりない。
早速打開策として、魔法を使い始める。
〈変形〉を使って、地面に穴をあける。
大きな穴じゃなくていい、人ひとりが入るぐらいのを一つ。
そして、そこに向かって走り出すと、俺はそこを飛び越えた。
俺の想像以上に成長しているリンも俺に続いて飛び越える。
そこで俺は〈炎玉〉を打ち込む。
今度は地面じゃなくリンに、躊躇なくだ。
いくら、二回目の魔法だからとはいえ流石に空中では避け切ることも簡単ではないだろう。
──ただそれにも柔軟に体を翻して、ぎりぎりを避けてくるリン。
そして、もうこれ以上空中で体を動かせなくなった所に〈疾風〉を打ち込む。
強い風を起こすだけの魔法でも使い方次第ではS級をも超える魔法に化ける。
──人間とは、常に絶妙な状態で成り立っているのだ。
だから、ほんの少し外部から予想外の圧力をかけてあげれば、すぐにそのすべてが崩れてしまう。
その人のレベルによっては、それでも立て直すことが出来る場合もあるが、それが一度体を捩じって、すでに限界の状態であるならば、その可能性は猶更不可能に近づく。
想像通り、ほんの少しの風を受けたリンは、保っていた自身のバランスが崩れ落ちてしまった。
一度バランスを崩したら最後。
空中で、立て直すことはできない。
そのわずかな時間でも、アーサーが地面に新たな穴を作るのには十分すぎるほどであった。
できた穴は、大きさは変わらずともさっきの倍ほどの深さのある物だった。
(いやぁー!!)と叫びながら、落ちていくリンを見ながら、申し訳なさと、強くなっていることへの喜こびを感じるアーサーであった。
相当な高さから落ちたとは言え、下は土。
森の土、即ちふかふかな土である。
穴の中に落ちたリンはその心地よさからか、すぐに出てこようとはしなかった。
おそらく、あれほど成長していれば補助魔法等のバフ効果を与える魔法は習得しているだろう。
それでも一向に出てくる気配がなかったので、俺は手を差し出した。
そしたら、すぐに俺の手を掴んで地上に登ってきた。
生まれたての小鹿のように、ままならない足癖で俺の方へ近づき(カミ・・・ツヨスギル)と、かたことで言ってエトルフの元へと帰っていった。
俺嫌われたか?
と思うものの、あそこで負けることはリンの親(仮)として避けておくべきことだったのだ、と自分を納得させ気分を落ち着かせる。
俺も、皆に続いて村に戻った。
帰り際、(カッコよかったぜぇ!)とか(強すぎー!!)とか称賛されたが、妙に素直に喜べなかった。
──明日は素直に喜べるようになっているだろうか?
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