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10話 優良物件の内見


「本当に1位なんですか?」

「ええ」

「本当の本当に?」

「・・・はい」


 何度も聞いてくるその姿に苦笑を浮かべながらもアーサーの納得のいくまで応えるシャネル。

 こうも何度も聞かれアーサーが納得いくときは来るのだろうかという可能性に襲われたシャネル。


 しかし、


「そ・・・そうか」


 と、アーサーが妥協に近い納得をして、その質問攻めに幕を下ろす。

 それでもまだ素直に受け入れられないのは、シャネルの態度にあるのだろう。

 態度というか、人への接し方だろうか。


 実際にあったことはないといえ、人からの見聞きは相当なものであった。

 その中でも多くの人が『彼女は冷たい』とか『冷淡だ』とか『無口だ』と口をそろえて言っていたのをはっきりと覚えている。


 百聞は一見に如かず。

 人から聞いたことよりは自分の目を信じるものだが、ここまではっきりとした違いがあると目の前の光景にも不信感を抱いてくるものだろう。


---


 フーリエ冒険者ギルドには、すでに実家のような安心感を感じられるようになった。

 ベラロマ含め、好奇心が旺盛な人たちとは喋れるようにはなった。

 もちろん、コミュ障の俺から喋りかける事などできないので相手方から話しかけられたのがほとんどだ。

 アーサーは新米冒険者の中では注目されている部類に属する。


 今までの統計で見てもEランクからDランクになり、そのまま活動を続けている人は極めて少ない。

 Eランクはマナ量がほぼ無い人(向いてない人)だから、マナの多さにその強さが大きく左右される冒険者という職業をやる上では致命的だ。


 そんな状態でも、魔物が多くいる地で指定以上の草を刈ったり、オークの住処からオークを排除したり、並の冒険者にはできないことを着々とこなしていく姿に、上級冒険者からは関心が、新米冒険者からは憧れになりつつあった。

 少しづつだが、アーサーの知名度は上がっている。


 だが、短期間での類を見ない急成長が周りに与える影響は良い物ばかりではない。

 冒険者になってからも苦労を強いている人からは軽蔑の目を向けられたり、反感を買っていることもある。

 ただ、良くも悪くも知名度が上がっているのは事実だ。


「お疲れ様でーす」

「お疲れ様ですー」


 そう明るく無事を喜んでくれたのはベラロマだ。

 考えてみれば、もう暮方。

 ギルドの中がクエストを終わらせてきた冒険者でいっぱいになる頃。


 運よくベラロマさんの受付は空いていたのでスムーズにクエストのクリア報告をすることが出来た。

 そして報酬をもらったところで「さあ、家にでも帰るか」と言おうとした時。


 賑わっているギルド内。

 そのうちの一人が叫ぶように言い出した。


「シャネル=スレインだぁぁぁー!!」

「本物だぁ!! 握手してもらえないかな?」


 その声を先導に、みんなの目がシャネルに向いた。

 俺のすぐ隣にいたシャネルが今まで気づかれなかったのは、何か魔法を使っていたからなのか。

 単純に考えて、冒険者ランキング1位の人がしばらくばれなかっただけでもすごいことだ。


「す、すみませんシャネルスレインさんですよねぇ? 握手とかってしてもらってもいいですかぁ?」

「──すみません。そういうのはやらない主義着なので」


 シャネルはその申し出を軽くあしらって見せた。

 ドンマイ相棒。心の中でそう呟く。

 俺は、そんな周りの目など気にもせずシャネルを連れて外へと出る。


「シャネル。いったん外へ出よう」

「分かりました」


 周りに気づかれて、噂に聞いていた冷淡な様相になったシャネルも俺の一声で外に向かい歩きだす。

 巷で噂のアーサーが冒険者ランキング1位の孤高の麗人を先導した様子に違和感を感じない者はその場に誰もいなかった。


---


「大丈夫でしたか。いろんな人にばれてしまいましたけど」


 すかさず俺は彼女の心配をした。

 俺の所為でばれてしまったかもしれないという可能性がある以上俺に出娑張る権利はない。

 部を弁えたうえで優しい口調で聞くのは今後の関係性を考えてのことだ。


 無論、俺としては気にもしないことだが、シャネルからしたらギルドで男と一緒にいたところを見られただけでも相当な被害なことは確かだ。

 だってほら。

 孤高の麗人が男の子といちゃいちゃクエストを攻略してたなんて広まったら・・・。


 考えれば考えるほど妄想は悪い方へしか進まない。


「ええ。大丈夫ですよ。私としては皆さんにアーサーさんと一緒にいる所を見られてうれしい限りですよ」


 そう落ち着いた表所で言ってくる様子からは嘘をついているとは思えなかった。

 俺の鼓動は速度を増した。

 そんなに早く動くと、血が全身に過度に回りすぎて死ぬのでは──と不安になるほどだった。


 続けて、


「アーサーさんは嫌でしたか?」

「いえいえ。そんなことはないですよ。ただほかに彼氏さんとかがいると困っちゃうんじゃないかなぁと思っただけですよ。ね? はは」


 うまい具合にシャネルに彼氏の有無を聞いた。

 自然感を残して聞くことが出来たのは、我ながらにして高等テクニック。


「いませんよ。なので大丈夫ですよ」

「ふーん。そうなんですね」


 何が大丈夫なのかは俺の知るところではないが、大丈夫ということは覚えておこう。

 彼女がいない=可能性がある。

 ということは紛れもない事実である。


「あと、シャネルさんって家とかってどこにあるんですかね?」

「家ですか? そうですね、私のおうちはここからすぐ近くですよ。ほら、あそこです」


 その右手の人差し指の向かう先には、一軒の家が・・・。

 家?

 と言っては失礼にあたるかもしれない。

 あれは立派な城だ。


 冒険者ランキング一位だとはいえ、城に住めるほど稼いでいたとは・・・。

 最底辺冒険者の俺でも、毎日安定した宿に泊まることが出来ているんだから最上位の人が城に住んでても驚くほどではないか。


「あ、あのぉ。良かったら行ってみてもいいですか・・・? パーティーを組むわけですし家ぐらい知ってても悪くないかなって・・・?」

「もちろんです!! 行きましょう行きましょう!」


 よっしゃ!


---


 さっき言われたお城の前まで来た。

 確かに近かった。

 冒険者ギルドから歩いて10分ほどで城の下まで到着した。


「さあ、入りましょうか」

「はい!!」


 あれ?

 おかしいぞ?


 シャネルが案内したのは大きなお城。

 ではなく、その正面にあるぼろっちい一軒家だった。


「あ、あのぉ。これがシャネルさんの家ですか?」

「そうですよ! 何か?」

「いいえ、ただ・・・。 いや何でもないです」


 シャネルは一度首を傾げ何事もなかったかのように、家の中へと入っていった。

 俺もそれに続いて入っていったが、そこまで興味はわかなかった。

 女性の家に入るのは初めてで興奮気味だが、城から平屋になったら見劣りしちゃうってもんだ。


---


 家に入って間もなく。

 階段が現れた。

 おかしいと思わないか?


 平屋なのに、階段だ。

 そう。

 地下室が存在したのだ。


「もしかしてこの家って地下室があるんですか?」

「ええ。そうですよ。でもどうやって?」


 案外感が鈍いシャネル。


「平屋なのに階段があるってことは地下室かなって思って」

「なるほど! そうでしたか。じゃあ地下室見てみます? 相当すごいんですよ!」

「じゃあ、ぜひお願いします」


 そうして、地下室を案内してもらった。

 階段はなかなかの急な角度になっていて降りるのは注意が必要だ。

 階段は16段あった。


 人間は、上る時と下る時では段数が変わるらしい。

 人間になった俺なら段数が変わるのだろうか。

 上る時が楽しみだ。


「ここが地下一階です。ここは剣技の練習をするのに使ってる場所です。ちなみにあそこにあるのは標的(ターゲット)です。知ってますか?」


 そういって指を指したのは、壁沿いに3つ並んでる人型の人形だ。

 人形であるのは確かだが、妙にリアルに感じる。

 今にも動きそうだ。


「いや、知らないです。あれに攻撃とか振るんですか?」

「大体はあってますね。もっと厳密に言うとあれと戦うんですよ」

「・・・戦う?」

「そうです、あれは対人間機械人形です。あれに魔力を少し加えるだけで、加えた本人を敵視して自動的に攻撃してきます。加えたマナ量によって強さを変えることが出来ますが、最大の強さにすると私でも太刀打ちできない程になります。まあ、アーサーさんなら勝てるでしょうけど」


 ギラギラとした笑みを浮かべてこっちを見てきたので「まあ」と照れ臭く相槌をした。


「でも、大丈夫なんですか? マナを入れすぎて、自分じゃ勝てないほどになっちゃうんじゃ。そうしたら命に係わるかも・・・」


 当然出でる疑問だったが、すぐに否定された。


「そんなことはありません。第一に命にかかわるような攻撃は打たれないようになっていますし、もしそんな攻撃が打たれそうになった場合は魔力を加えた者の強い意志によって、攻撃を強制終了することが出来るんです」

「そうなんですか。すごいですね。そんな技術もあるんですね」


 技術はもちろんの事、そこまでの配慮が出来ているというのは俺的ポイントは高い。

 これだけすごい技術を搭載した機械がどれほどの値に値するのかは気になるがそれを聞くのはやめておこう──高いのは間違いない。


「アーサーさんもやってみます? なかなか楽しいですよ! 剣が使えなくても練習ですし、ちょっとぐらいなら戦えると思います」

「じゃあ、ちょっとだけやってみようかな」


 そうして、対人間機械人形を部屋の中心に移動させマナを込め始めた。

 そうしてしばらく。


 ピコーンピコーン。

 ダサい効果音と共にその機会の頭が赤く光りだした。

 何か異常があったのだろうか?


「アーサーさん。ちゃんとマナを込めないと動き出しませんよ」

「わ、分かりまし・・・た」


 おっと。

 これは。

 機械の始動に必要なマナ量>俺のマナ量

 ということだそうだ。


 流石の俺もこれにはショック。

 シャネルに旧神魔法のことを打ち明けてもいいが、それはちゃんとした状況で行いたいという願望があったため、俺は潔くあきらめることにした。


「や、やっぱりやめとこうかな。ほら、剣を振り回してこの部屋を傷つけちゃったらまずいでしょ」


 それっぽい理由を付けてその場を凌いだ。


「そうですか。残念です・・・。 では次行きましょう!!」

「・・・次?」


---


 次と言われ案内されたのはもう1個下のフロア。

 つまり地下2階だ──階段の段数は18段。


「ここは、魔法の練習場です。この部屋の壁には、特殊な加工がされていてどんな魔法でも傷すらつけられないんですよ」


 自慢げにそういって、火属性魔法を打って見せてくれた。

 確かに傷一つつかなかった。

 俺の〈業炎〉とどっちが勝つか見ものだ。


「あと、真ん中にある機械は魔力測定機です」

「あー! あの冒険者ギルドの地下にあった機械か!」

「あ、えと。違いますね。あれはマナを測定するものです。でもこれは打たれた魔法のマナを測定するものです。どっちも同じ名前なのでややこしいですよね」

「なるほど・・・」


 技術がすごいのは認めるがもっと覚えやすくて簡単な名前にできないものかね。

 機械Aとか、機械Bとか。

 機械1でも機械2でも、一文字なら何でもいいから。


「アーサーさんも打ちますか? 魔法の威力、私も気になりますし」

「今日はやめておこうかな・・・さっき魔法を打ちすぎちゃったから」

「そうですか・・・」


 シャネルには申し訳ないが、これもさっきと同じ理論で後回しにさせてもらう。


「じゃあ、次ですね」

「・・・はい・・・」


 まだあるのか・・・


---


 段数は21。

 今までで一番多い。

 つまり天井がそれだけ高い。


「ここは、書庫です。知識を付けたり、語彙を付けたりしてるんです」

「なるほど」


 フーリエ大図書館には遠く及ばないが、それでも端から端までみっちり本で埋められている。

 探してみれば中には『旧神魔法』についての本もありそうだな。


「1日一冊は必ず読むようにしているんですよ」

「いい心がけですね」

「はい!」


 元気よく返事をして、地下3階にはそこまで触れることなく1階へ戻ることにした。

 1階につながる階段の段数は疾うに忘れていた。

 まあ、転ばなければいいんだ。


 なかなかの優良物件であった。

 外見に騙されたが、中は綺麗だし広いし。

 これは人にも結び付くことだ。

『人を見た眼で判断するな』とはよく言ったものだ。


 この家も、城と肩を並べるほどの値段だとは思ったが、やっぱり直接聞くのは気が引ける。

 外見では見劣りしても、内部では勝っているだろう。


「すごいですね。この家!」

「そうですよね! やっぱりそう思いますよね! この家に住んでると明日も冒険者頑張ろうと思えてくるんですよね」

「それは素晴らしいですね!」


 会話に心躍らしているが、もう太陽は沈んでいる。

 家の中には、何にも明かりはないのでタンスの角に小指を──なんてこともあるかもしれない。


「あ! もうこんな時間ですね」

「本当だ。そうですね。じゃあ、そろそろ僕も帰るとしましょう」


 そこまで長くいたわけではなかったが、名残惜しい。

 いつでも来れるし別れるのは寂しくないはずだが・・・。


「分かりました。お気をつけて」


 その言葉を最後に、家の外へと出て月をバックに自宅へと帰るのであった。


読んでくださりありがとうございまいた!!

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