01話 転生
──神と人間の接触。
そんな夢物語が昔話へと変わり果てたことに、何の違和感も感じなくなったのは何時の事だろうか。
本当に御伽噺の世界が存在していたのかは、既に未知の領域へと達してしまった。
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早速だがここで一つ君たちに質問がある。
──君たちは神を信じているだろうか?
過去未来ではなく、今この瞬間に神が存在するか否かだ。
神の定義なんて考えなくていい。
自分の中で神に値する存在がいるか考えてみてほしいのだ。
もちろんYesと応えるもNoと応えるも君たちの自由。
俺は、人の意見は尊重する派だから別に咎めることはない。
自由に言ってくれて構わない。
人それぞれの考え方があるのは当然だし、どちらが正しいかで議論させるつもりもない。
とりあえず、神という存在について考えてほしかったからこの質問をしたまでだ。
どうだろう。
少しの時間だったが、考えられただろうか?
半強制だが”時間は待ってくれない”ということで先に進むとしよう。
今、心の中にある答え。
理由がなくてもいい。
ただ、それを心の中で取っておいてほしい。
いつか、その答えを聞きに行くから。
その時まで大事に取っておいてほしい。
この質問に正解、不正解なんてものはない。
ただ、この質問の回答次第で大きな何かが変わるのもまた事実。
だから──自信をもって今の自分の回答を誇ってほしい。
自信を持って。
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ここでまた一つ君たちに伝えるべきことがある。
──それは、俺が神であるという事。
ああ、でも、安心してくれ。
今の発言は決して、神が存在するという事の証明をしたかった訳ではない。
君たちの回答にマルバツを付けたかったわけでもない。
なんせ俺自身、なんで俺が神なのかもわからないし、神の定義すらわからないのだから。
でも、ただ一つ。
はっきりといえることがある。
それはこの世界には神というものが存在するということだ。
ただ、留意すべきは無限にある世界の中で、この世界に限定するということである。
いくら神といえど、全知全能ではないし、天才でもないから他の世界の事は俺にはわからない。
あくまで、この世界だけが神と崇められる者が存在するということを覚えておいてほしい。
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果てなく無限に広がる地面には、その終点を見ることはできない。
透き通った雲から下を覗くと、そこは御伽噺の世界が広がっている。
魔物狩りで繁栄した街を上から見ていれば、綺麗な六角形が秀でる事に気づく。
ここは神が住まう天界。
ここに名をアイネスとテラという、2人の神がいる。
神を『2人』と数えるには、いささか違和感を感じるが、これといって他の数え方もないので、人間と同じ数え方をすることにしよう。
──突然だが、神は誕生した年代ごとに呼び方が分けられることを知っていただろうか?
アイネスとテラを含む4人の神は、一期神と呼ばれている。
呼び方は50000年前から、10000年周期に、一期神、二期神、三期神・・・、と続き、現在は五期神まで存在する。
このままだと、神の数は増え続けるのでは?──と思うかもしれないが、神にも『死ぬこと』はある。
死ぬ理由は色々。
神同士の争いに負けたり、天寿を全うして死んだり・・・。
そうして、死んだ神は、記憶を消すことを代償に新たな神に生まれ変わる。
人間でいう、輪廻転生っていうやつだ。
神の場合、〇期神の数字が下がるにつれ、長寿ということになるため、長幼の序、年寄りは敬われる。
天界の中では平等を謳っているが、実際、年齢差による、権力の差が生まれ、教育という名の暴虐や横暴があったりなかったり・・・。
と、まあ色々あった天界──。
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「神ってなんもすることなくね?」
そう言うのは、白い羽織に、黒髪のよく似合うイケメン。
アイネスだ。
センターで分けで、これ以上ないほどの真っ黒な瞳が際立つ。大人っぽい顔だち。
でも、どこか幼さを感じるのは身長のせいか。
背は160cmと小柄な方だ。
人といってもなんの影響はないほど人間の筋骨に類似しているその姿に一瞬の気迫を感じるが、改めて見ると、背丈の所為で華奢に感じてしまう。
その真っ黒な目の向く先。
向かい合うそれは、白を基調とした天界に、今にも溶け込みそう。
こちらも、白い羽織に身を包む、眉目秀麗な顔立ちの女性。
白い肌と白い髪とは対照に、青い瞳。
その瞳は、なんでも吸い込んでしまいそうなぐらいに深く、広い。そんな気がした。
「ほんとだよねっ!私もちょー思う!!神なんかやめちゃいたいぐらいだもん!何で神に生まれちゃったんだろう!」
その、外見からは想像もつかない話し方の癖が光る。
あざとさを狙っているとしか思えない口調で自分の不満をぶつけるのはもう一人の神、テラ。
人間の若い女子が男受けのためによく使っているところを見るこの口調。
この言葉遣いもどうにかならないものか・・・と、しょっちゅう思うが、今まで一度もテラがこれ以外の言葉遣いを使ったことはない。
神がこんな喋り方をするのは実に異様だが、まだテラでよかった。
と、いうのも、テラは人間でいえば女性、動物でいえばメス、神でいうなら女神であるから、もし、男神のアイネスがこの口調を使っていた時は、それはもう異様を通り過ぎて滑稽である。
『神』
事実、この一言で一括りにされがちだが実際そんなことはなくて、神にも色々と種類はあるのだ。
とまあ、そんなことは置いといて。
テラのしゃべり方で、その重要性は一切を持って感じられないが、この話の内容は相当深刻な問題である。
4000年前から4500年までの戦の時代とは打って変わった、現在。
大半の王族によって、国や町は統制され、ギルドもでき、戦争も起きなくなった。
そんな生活に神は必要ない。
500年前までは人々は神に祈りを捧げ、心のどこかに『神が見守ってくれる』というよりどころを作っていた。
──でも今は違う。
人類にとっては戦争は起きなく、恒久平和な世界が確立して喜ばしい。
だが、神は何もやることがなくて詰まんないと感じている。いいことなのか悪いことなのか・・・。
「神の存在意義なくなってきてるし、人間の方が楽しそうだよな・・・。転生しちゃうか??」
場の空気を明るくしようとジョークを言ってみる。
会話の基本はジョークだ。ジョークで互いの心を和ませれば会話が弾む。
って、誰かが言ってた気がする。
「えっ!それいいじゃん!賛成賛成!私達転生しちゃおうよ!!」
「え、あ・・・うん・・・」
アイネスは一歩後退しながら、薄笑いをする。
(冗談ですよー・・・)
そう、心の中でつぶやくも、それがテラに届くことはない。
冗談半分でいったつもりのアイネスだったが、疑う余地もなく、まっすぐにこちらに向いてくる澄んだテラの目を見て、断ることはできなかった。
だがしかし・・・。
ふと我に返って考えるアイネス。
今まで、約3500年の間、人間を支えてきた、神だ。
そんな簡単に重要な決断をしていいのかという疑問が生じる。
もちろん神にも自由意志はあるし、大それたことや、非人道的(人じゃなくて神だから非神道的?)なことを除けば、大体のことは許容される。
だからそのルールーにのっとれば、神が転生することも不可能ではない。
だが、一期神として、天界の秩序を乱させないために自分たちがいるのに、その自分たちが秩序を乱すようなことをしていいのかということから来る不安がその意思の邪魔をする。
でも『転生』という心躍る言葉が、その邪魔を打ち砕こうとする。
そのループが永遠に続く。
これらの思考を巡らせているほんの数分間の間、人一倍固い顔をするアイネス。
それに対して、終始、笑顔のテラ。
笑顔といっていいのだろうか?
鼠顔というか、無表情というか、でもやっぱり笑顔というか。
その3つをかけ合わせた顔だ。
どちらも、時折顔を見合わせるだけで言葉は交わさないまま時間だけが過ぎていく。
しばらそんな時間が続く。
(テラのこの現象も、もうどうにかならないのか・・・)
テラには、たびたびこういうことがある。
ただ、ひたすらに黙々とアイネスを見つめる。
並の人間にはその顔から、テラが何を考えているなんて一切わからないだろう。
ただ、アイネスにはそれが理解できる。
いや、できるようになった。
このようなテラの奇行は50000年前から、相当な頻度で起こる。
もちろん最初の頃はアイネスには、まったくもって理解できなかった。
でも、もう、50000年も一緒にいるのだ。
この時テラが何を考えているのかなんてアイネスには手に取るようにわかる。
アイネスが到達した結論から言うと”何も考えていない”が正解だ。
いつものんきで、脳内お花畑なテラだが、この表情になった時は、より一層、馬鹿になっているということだ。
要するに無能。思考が停止しているんだ。
念のため、その事実を確認するために、鎌をかけてみる。
「どうする?──なんかいい方法あるか?」
「へ?」
当然の如く、腑抜けた声で言葉を返すテラを見て「はぁ」とため息をつく。
一応、一期神なんだから、ちゃんとしてもらいたいものだ。
『あざとかわいい脳内お花畑無能女神』なんてあだ名とかがつけられたらどうする・・・。
と、思うものの、案外、人間になったら、もてそうな感じではある。
人間の男は、従順で自分についてくるタイプの女が好きだと聞いたことがある。
おまけに、あざと可愛いし、顔だちもいい。
まさに、女神(?)。
それはそうとして、なんかいい方法ないだろうか。
神様としての役目も果たしつつ、人間に転生するなんて都合のいいやり方なんてないよなぁ・・・。
「神なのに転生ってやっぱり難しくないか? ほら、2人で転生しちゃうと、神の仕事が出来なくなっちゃうというか・・・」
と、手を顎に当てながら考える。
当然答えなど期待していない。
「ん?──1人が転生すればいいじゃん?」
「あー・・・ん? そうじゃん!」
と、徐々に声のトーンを上げる。
びっくりしたのか、テラは目を見開く。
誰でもわかるようなことなのに気づかなかった。
それに気づかなかったことよりも、それをテラから、教えてもらったことの方が悔しい。
と、いうか悲しい。
心のどこかで、テラより自分の方が優良だと思っているアイネス。
だが実際、自分も大してテラと変わらないんだということに気づかされ、言葉で表せないような気持ちを感じる。
その考え方も、いつかは治さないといけないと思ってはいるが、一度植え付けられた記憶を壊し再構築するのは非常に難しいことなのだ。
──アイネスはちゃんと分かっている。
自分は間違っているのだと。
自分がいかに使えない駒であるのかを。
テラが無能?
そんな訳ないだろ・・・。
テラは俺より、何段も、何段も上にいるんだから。
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2-2=0でも、2÷2=1だということに気づいた御一行は、一人が転生してもう一人がこのまま、神として生き続けるということになった。
するとどちらが転生するかの話に移った。
「俺が転生したい」
「いや、私が転生するよ」
「いやいいよ。俺が行くから」
2人とも神でいることには疾うの昔から飽きている。
でも互いに、ストレートに言ってはいけないような気がして、遠回しにあるいは、嫌々感を出している。
もう5分ぐらい、ずっとこの状態だ。
このままじゃ、埒が明かないと思ったのか、アイネスが提案をする。
「ここはあみだくじで決めるか。俺の神友がよくこれを使ってて、緊張感があって面白いんだ。それに人間も、よく使ってるらしいぞ。俺らのどっちかが人間になるんだから、少しでも人間の生活に慣れとかないとな」
「面白そう!それがいい!」
テラはその提案に快諾する。
そう言うとアイネスが早速用意をし始める。
用意といっても、神の固有能力『創造』で、作り出すまで。
ちなみに、ややこしい話になるが、人間が住む世界を作ったのは、神の祖フォードだ。
まあ、俺らのお父さんみたいな存在だ。
人間で言うと・・・・確か天地創造とかだっけ?
こんなにいろんなことしてんのに、今は、俺らの事一切考えてくれないんだよ。
人間は。
ほんとに、都合のいい生き物だ。
人間に対し、不満を感じているが、人間になりたい、とも思っている。
矛盾。
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アイネスが右手を前に出す。
掌からは青白い光が、その前にある物体に当たり、それを輝かせる。
これこそが創造。
当然、人間にはできない。
お目にかかることすらできないだろう。
そんな、魔法をいとも簡単に操れてしまうのが神の神たる所以とでもいおうか。
だが、この魔法も、何でも創造できるわけではないのが残念なところ。
まあ、そりゃ、神だからって創造出来ないものの一つや二つぐらいあるっての。
具体的には、大きすぎるものや複雑すぎるものとか。
でも、そんなもの作ろうと思ったことなんてないし。
特に、不便でもないし。
問題なし。
神にも、欲というのはあるもので。
その、欲を満たすために、創造を使ったりして、いろんな物を作ります。
ついでに、欲の発散には、想像も使います。
何とは言わないが・・・。
しばらくの沈黙に、やけに嫌悪を感じたアイネスがその沈黙を消すように言う。
「お前人間になったら何する?」
会話の基本は、ありきたりな質問から。
ありきたりな質問をしとけば、会話に失敗することはない。
って、誰かが言ってた。
「温泉っていうものに入ってみたい!──疲れが取れて、体が癒されるんだって!
中には、混浴っていうものがあるんだって。
それはね、男女が一緒に同じところに入るんだって!──考えるだけでも、恥ずかしいし、ドキドキしてきちゃう!」
きもっ。
と思ったがそれは心の奥にしまっておこう。
テラは女の子なんだから、そういうのを言えば、案外、傷つくものだろう。
もちろん声に出してはいなかったが、感情と言うものは無念にも顔に出てしまうものだ。
明らかに嫌そうな顔をしていた。
それに気づかない程、アイネスも馬鹿ではない。
「なんか文句ある!?」
「い、いや何でも・・・」
「もしかしてキモイとか思ったりしてた??」
こういうことに関しては、無駄に勘のいいテラ。
「・・・」
わざとらしく目線をそらし、無言でいるアイネス。
「やっぱり、そうでしょ!!──アイネスだって、人間になったら不純なことの1つや2つぐらいするでしょ!!」
畳みかけてくるテラに対し
「いーや。俺はそんなことはしない。なんたって俺はお前とはちがって神としての自覚があるからな」
と、ここははっきりと言い切った。
「私だって自覚してるもん!!」
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そんなくだらない話をしているうちに、あみだくじの用意ができたようで。
2人しか参加しないのに無駄に大きな仕掛けのあみだくじだ。
「どっちにする?──先に選んでいいよ」
「じゃ、私こっちにするねー」
「じゃあ俺はこっちだね」
ここは、優しいところを見せていくアイネス。
その心遣いはテラに届いたのだろうか?
もちろん、2人ともどっちがあたりかなんて知らないし、いかさまなんて一切できない。
つまり正真正銘、運勝負。
どちらに傾いてもそれは、天の定めということだ。
「言っとくけど、決まった後にもう一回とかは、なしだからね!」
「わっかってるよ」
アイネスは苦笑いしながらも、答える。
(そんな大人げないことしないっての)
と、付け足しておく。
2人がどちらにするかを決めると、その大きな仕掛けの頂部に名前が記される。
あみだくじの下の部分は、白光に覆われていて、隠されている。
主軸となる二本の線を通じて上には、右にテラ、左にアイネスと、名前が浮かび上がっている。
「てかさ、てかさ、あみだくじって何なの? どうなるのこれ」
「え? まあ見ればわかるんじゃないか」
あみだくじ、の説明はさておき。
とりあえず、早くあみだくじをやりたそうだ。
ろくに、あみだくじについて説明せずに、足早に始める。
「じゃあ、やるぞ」
声高らかにアイネスが言う。
アイネスの眼中には、テラはいない。
アイネスが、1回大きく息を吸い込む。
その息を吐きだすのと同時に、右手を左手にたたきつけるようにして乾いた音を鳴らす。
その音に反応し、その装置が動き出す。
すると、線をたどるように、アイネスを表す赤い光、テラを表す青い光が、互いに交差しあって下へ下へと、向かいだす。
2人に緊張が走る。
時の流れを感じさせないほどの、集中。
今まで、ここまで何かに集中したことはあっただろうか?
過度な集中にからか、より静かさが秀でる。
それと共に、2人の呼気音もよく響く。
ほんの、数秒間。
その一瞬が、ものすごく長く感じられるのも無理はない。
だが、その長い時間もいずれ終わりを告げる。
結果の部分につながる線。
まだ、結果はわからない。
白光が消えてからだ。
次第に白光りが薄れ、結果が見えてくる。
その静けさが、断ち切られる。
「人間になりたーいぃ!」
「来い来い!」
いつも、自分の意志があっても素直に口に出すことは少ないアイネスだが、つい言葉が漏れてしまった。
そのことにも、気づかない興奮っぷり。
期待から来る興奮には、いつも自己抑制の欠如がつきものだ。
より鼓動が高まる。
白光が消えた先に目をやる2人。
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──無事どちらが人間に転生するかが決まった。
沈んだ表情をする、テラ。
それとは、対照的に勝ち誇った表情をするアイネス。
結果は、見ての通り。
アイネスの勝ち(?)。
アイネスが転生することになった。
もちろんアイネスは喜んでいる、声には出さないが・・・。
でもどこか、素直に喜べないように感じるのも不思議ではない。
アイネスが人間に転生したいのは事実。
でも、アイネスよりテラの方が転生したいという気持ちが強いのもまた事実。
そんなこんなで、微妙な感情。
アイネスは、テラが転生するとなった時のことしか考えていなかったから、今回のことは全くの想定外だっただろう。
でも、仕方ない。すでに決まったことだ。もうどうにもならない。
テラには悪いが、潔く腹をくくってもらおう。
「俺が人間に転生だな。明日にでも転生しようと思ってるから、よろしくな!」
「えーっ!!明日!?──明日転生するのー・・・。早くない!?」
「いやでも、決まったことだし。伸ばし伸ばしにしても仕方ないからさ。」
早く転生したいとワクワクしているアイネスだが素直にそうとは言わず、遠回しに言うあたり。
アイネスの性格が出ている。
「わ、わかったよ・・・」
神になれなかったからなのか、アイネスが明日転生してしまうからなのか、どちらかは分からないが、悲しそうな顔をするテラ。
その表情を見て、本当に明日、自分が人間に転生するんだ、という実感がわいてくる。
これは神自身にとっても天界にとっても大きなことだ。
何より不安要因が多すぎると思った、アイネス。
一期神が一人かけても、問題ないのか? テラは今後一人でやっていけるのか? 等
まあ、なるようになるか。
と、半分あきらめ、半分を運命に託し、これ以上考えるのをやめた。
神50000年時代を築いた4人の神たち。
それが今3人になろうとしているのだ。
良くも悪くも、今まで生きてきた50000年が変わるわけじゃないんだから、精一杯の努力をしようじゃないか。
これは永遠の命を持つ神にとっての一世一代のチャンスであり覚悟である。
何にだって、『初めて』はある。
正直、その『初めて』は大して重要ではないと思う。
一番大切なのは、その後、どのように進歩し、改良されて今どうなっているかだ。
注目されるのはやはり、そこだろう。
どんなにすごい発明をしても今それが使われていなかったら、あるいは必要とされていなかったら、まったくもって意味がない。
逆に言えば、意味のあることをすれば、人の役に立てる。
俺は先に、『初めて』は重要ではないといった。
もちろんその言葉は覆らない。
だが、歴史の書物を見れば、偉大な、発明家や、思想家が名を連ねているだろう。
要するに、『初めて』になれば、知名度が手に入る。
そしてそれが意味するのは、知名度を手に入れたいのならばそれは、ある一種の先駆者になればいいということであろう。
知名度は少なからず、人間になるうえで必要だ。
知名度があればいろいろできるからな。
もちろん、そのためには、人間に転生する事の有用性を示さなければいけない。
無論そんな簡単なことでないことは100も承知。
ただ、不可能に近くてもやり遂げないといけないことが、一生涯にはたびたび起こる。
それが俺の、なすべきことなのだろう。
俺が転生する事になった以上、この役は誰にも務まらない俺だけができることだ。
真っ白な俺の人生に、色がつくような。
そんな気がした。
まだ、絵具を用意しただけに過ぎないが、いずれ時間をかけて少しずつ色鮮やかにしていきたいものだ。
気づけばもう夜。
太陽ははるかに続く地平線の向こうに沈み、対抗から月が現れている。
神としていられる最後の夜。
その、感覚を覚えているために、忘れないために。
一人で天界の中へと歩き出したのであった。
---
「記念すべき神が転生する日だぞ!」
元気よく、声を上げるのは、アイネスだ。
昨日よりも顔が引き締まっているように感じるのは、気のせいだろうか。
どちらにせよ、朝からテンションが高いところを見ると、とてもわくわくしていることがわかる。
「え? もう・・・?」
「早く転生しよう!」
急かすアイネス。
追い打ちをかける。
「わかったよ。でもその前に3つだけ約束して!」
心を入れ替えたのか?
何があったかは分からないが、笑顔だ。
顔からこぼれそうなぐらいの満面の笑みを浮かべてる。
なぜかはわからない。
ただ、悲しい別れのはずなのに。
転生できなくて、悔しい気持ちのはずなのに。
笑顔だ。
続けて言う。
「1、人類に神の存在を広めること!
私だけこのまま暇してるのは嫌だから、ちゃんと私の仕事を増やしてね!」
「2、100年後までには帰ってくること!
ずっと、アイネスがいないと寂し・・・」
と、恥ずかしいのか、今にも消えそうな声で言う。
実際、消えてしまったが・・・。
「3、人間になったからと言って気を抜かないこと!
人間になったらどこで誰が牙を剥いてくるかわからないんだから気を付けて行動してね!」
アイネスの顔の前に手を出し指で数えながら言う。
その口調はどこか、いつもより強いと感じた。
「わ、分かった。」
心の奥底では、悲しさと寂しさを感じているが、決してそれを口に出す事はしないテラ。
この後の空気を重くしないためのテラなりの配慮なんだろう。
ずっと一緒にいた友が別れを告げるんだ。
別れの挨拶もなしか? と、考えるアイネス。
鈍感にもほどがあるのではと思うが、そんなことはなかったようで。
アイネスは、テラを強く抱擁する。
何の前触れもなく、抱きかかえる。
この温盛はもう100年は感じられないことを理解して。
僅か数秒間されど数秒間。
傍から見れば一瞬だったがそれでも彼ら自身はそれ以上の価値があるものだった。
「じゃあ転生、始めるよ!」
「ああ、よろしく」
抱擁を通して、互いの気持ちが通じ合ったかのように、息ぴったりに言う。
その瞬間、あたり一帯が光に包まれ、それと同時に不思議な、でもどこか神秘的な音があたりに響き渡る。
光に覆われたアイネスは、もうその姿かたちは認識できない。
認識できるのは、声だけ。
「──それじゃあ。元気で!」
そして、その声さえも消えていった。
そういったのを境に、光がある一点へ向かい、小さくなっていく。
徐々に、徐々に。
そうして、光が消えると、そこにはテラが一人、ぽつんと。永遠に続くこの広い天界とは対照的に──。
その姿は、孤独か、それともただ気高いだけか。どちらが正しいかは誰も知る由はない。
アイネス、ちゃんと転生できたかな?
私だって、転生したかったのになぁー!!
神としての100年なんて一瞬だけど、人間の100年は相当長いからなぁー・・・。
帰ってきたらいろんなことをたくさん聞こう!!
さあ、あと100年、神としての役目を果たそう!
これにて、50000年来の神友との別れは終わった。
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