042 家族になるために
「幸せになりなさい」
「きゃーん、美緒ちゃんおめでとー! ミチ君だったら絶対安心ね! 美緒ちゃんきっと幸せになるよぉー」
相変わらずのお母さん。
「あの・・・・反社だった俺を、こんなにあっさり・・・・受け入れて下さるのですか?」
「今は違うでしょー。だあったらそれでいいじゃない。何より美緒ちゃんが幸せな顔をしているもの。それに、ミチ君はグリーンバンブーで大評判なのよぉ。また一緒にお店を盛り立ててくれる?」
「はい、勿論。喜んで」
「きゃーん! これならダーリンが何度ぎっくり腰して厨房に立てなくなっても安泰ね!!」
「そうだな、美佐江。これからは伊織を筆頭に、道弘君と美緒に店を任せたらいいんじゃないだろうか。二人きりで旅行へ行けるぞ!」
「きゃーん! それって最高!」
「俺たちも、もう一度行くかっ、新婚旅行!」
「行きたい、行きたい!」
「こんな時の為にへそくり貯めていたんだよー。美佐江と旅行に行けるなんて・・・・感無量だ!」
二人ともアッチの世界に行って、帰って来ませーん。
挨拶しに来たのに、当人たちをそっちのけでラブラブしてしまう、わが親よ・・・・。
「挨拶はこれでいいんじゃないか。美佐江ちゃんもシェフもいいって言ってるし。もうこうなったら、誰も止められないし」
困っている私達に、ギンさんが助け舟を出してくれた。
「ありがとう。じゃ、そういうことで。もう行くね」
「折角来たんだ。飯食っていけよ。オムライス作ってやるから」
「わーい。ギンさんのオムライス食べたいー!」
「いおちゃんもイチと結婚したし、みおちゃんもミチと結婚かぁ。いいじゃないか。めでたい、めでたい!」
「ありがとうございます」
ギンさんとは道弘さんも顔見知りだから、優しい笑顔でお礼言っている。ふふ。いいなあ。こういうの!
「ミチは昔ヤンチャしていたんだって?」
「お恥ずかしながら、人には言えない過去が」
「三十歳も過ぎりゃ、人に言えない過去のひとつやふたつ、あらーな」
がはは、と豪快に笑ったギンさんは、道弘さんの背中をドン、と叩いた。「俺もヤンチャしてたクチだからさ。よーくわかるよ」
「ギンさんが? それは初耳ですね」
そうなのよ。昔の名残が時々顔を出すギンさんは、怒ったらチョー怖いんだぁ。
普段は優しいけれど。私とお姉ちゃんが一度、近所の悪ガキにちょっかいかけられた時とか、イチ君が虐められていた時、すっとんで来て鬼の形相で子供相手に凄む人だったからね。
ヤーまで行ったかどうかは解らない。でも、相当な悪だったと思う。元祖鬼?
「そりゃ訳アリですなんて、誰にも言わんからな。若い頃、ヤンチャしてムチャクチャしてた俺を先代が拾ってくれて。何処へ行っても煙たがられていた俺を、先代だけが初めて人間扱いしてくれたんだ。そりゃもう、嬉しくてさ。恩返しのために必死で働いたよ。お陰で一人前の料理人になれた。独立も勧めてくれたけれど、俺はここで骨を埋めるって決めたからさ。雇って貰えているうちは、死ぬまでここで働く」
何処かで聞いたようなストーリーね。道弘さんの境遇も、ギンさんによく似ているわ。
「成程。緑竹家がヤンチャ者に寛容な理由が、よく解りました」
「ここの人間はみんな、イイヤツしかいない。ミチだってそうだろ?」
「はい。人生の先輩として、これからもギンさんに色々と学びたいと思います」
「いいね。弟子ができた気分だ。イチんとこ辞めて、本当に俺の弟子になるか?」
わー、それナイスアイディア!
でも、イチ君が困りそうだね。
「そうしたいのはやまやまですが、一矢様には大きな恩が御座いますので、彼の許可が無い限り、仕事を辞める事はできません。しかし、月に何度か休暇を頂き、グリーンバンブーでも働きたいと思っております」
道弘さんの主人は、絶対にイチ君なんだね。それは、今も昔も変わらないんだ。何だか嬉しくなった。
「こんないい男が看板に立ったら、行列出来すぎてこの店パンクするなぁー」
ギンさんがわっはっは、と豪快に笑った。
「そうだよ。それは困るの。若い人だけじゃなくて、道弘さん狙いのおばちゃんやおばあちゃんはいっぱいいるのよ!」
「ソッチ系はヤンチャするなよ? 女関係でみおちゃんを泣かせたりしたら、俺がタダじゃおかないからな」
「命を懸けて、その様な事は致しません」
そうか、とギンさんは愉しそうに笑った。「よし。じゃあ秘伝のオムライスの作り方、じっくりとミチに教えてやるから」
「ありがとうございます。しかし、それで引退されては困りますよ。まだまだ現役で頑張って貰わないと、師匠」
「おおー、師匠っての、いいなあー」
ギンさんは本当に嬉しそうに道弘さんと肩を組んだ。「ミチ。背、たけーな」
「ありがとうございます。しかし人生の背丈はまだまだ師匠には及びません。色々とご指導、よろしくお願いいたします」
「任せてオーケー」
にかっと笑うとギンさんは道弘さんを厨房に引きつれ、嬉しそうにフライパンを振るい始めた。それはまるで、息子を可愛がる父親のような背中をしていた――
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