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041 ご挨拶

 昨夜は甘く濃厚な恋人の時間を過ごした。中松さんから道弘さんと呼び名を改めさせられ、たっぷりと愛して貰った。

 そして翌日。私と道弘さんは、グリーンバンブー(実家)の入り口に立っていた。


 うん。訂正しよう。実は昨日、道弘さんの猛攻撃のせいで、ヘロヘロになって一歩も動けなかったから、帰るに帰れなかった。弟の琥太郎こたろうに彼氏できたから泊まって来る、って言伝したんだ。

 そんなことを言ってしまったのなら、きちんと挨拶をして結婚を申し込むのが筋というものだろう、と道弘さんが言い出した。一度言い出したら、絶対に聞かないし譲らない。まるで私だ。


「本当にこのまま挨拶するの? 別の日にした方がいいんじゃ・・・・服も同じだし。完全朝帰りじゃん」


「だからこそ、だ。欲に負けてしまった己を恥じる為にも、きちんと筋道を立てなかった事を侘びなければご両親に顔向けできん」


「いや、そんな固いもんじゃないよ? 今の世の中もっとオープンだから」


「世間はそうかもしれない。しかし、俺は違う。もし自分の娘が外泊するようなことがあればその男を吟味し、きちんと娘とつき合える器量の男かどうか見極める必要があるだろう」


 わー。メンドクサイ親父になりそう・・・・。

 娘に嫌がられるタイプね。お父さんがこんな堅苦しい事言い出したら、うっせえわ、コラ、って言っちゃいそうだもん!

 

「何か言いたそうだな」


「べっつにー。さ、とっとと挨拶しちゃって、交際を認めて貰いましょ!」


「交際ではない」


「え? 違うの?」


「結婚だ」


 ぐい、と肩を抱かれ、グリーンバンブーの入り口をくぐった。

 きゃーん! 結婚だって! さらっと言っちゃうトコがカッコイイ!

 道弘さんにドキドキしながらくっついていくと、仕込み中のお父さん、ギンさんが忙しくしていた。お母さんもホールの補充とかしているし、丁度いいかも。


「おはようございます、中松です。朝早くから申し訳ございません。大切な話がありますので、美佐江さん、一平さん、少しお時間を頂けないでしょうか」


 低くよく通る声で、道弘さんが彼らに声を掛けた。

 因みに私のお母さんは、緑竹美佐江みどりたけみさえで、お父さんが緑竹一平みどりたけいっぺい。コック補佐のギンさんは田村銀次郎たむらぎんじろうと言い、私の敬愛する萬田銀次郎まんだぎんじろう様と同じ。


「ミチ君じゃないの。朝早くからどうしたの? あら、美緒も一緒?」


 にこやかな笑顔でお母さんがこちらへ、更に仕込みの手を止めたお父さんも、ホールまで出て来てくれた。


「話とは? 道弘君が話なんて珍しいな」


 

「あーっ、美緒ちゃんの新しい彼氏って、もしかしてミチ君なのぉ?」


 お母さんは嬉しそうに手を繋いだ状態の私と道弘さんを見て、にこにこしている。


「はい。一平さん――いえ、お父様、お母様。本日はお嬢様――緑竹美緒さんとの結婚を申し込みに参りました! 許可を頂けるというならばこの中松道弘、命を懸けてお嬢様を幸せにすると誓います!!」


 えええーっ。いきなりそんな挨拶なのぉ!?

 予想外すぎてビックリなんだけど!

 道弘さんやっぱスゴイ・・・・。想像の先を行く人だわ。大物ね!


「きゃー、素敵! こちらこそよろしくねぇー」


 お母さんは目を輝かせ、キラキラの笑顔を向けた。そして道弘さんの手を取って、ぶんぶんと振り回す勢いで握手している。


「二人は何時から付き合っていたのだ? 昨日急に外泊すると琥太郎から聞いたが」


 お父さんがジロリと道弘さんを睨んだ。


「お付き合いを始めたのは昨日です。思いを伝え合い、ご挨拶を飛ばしてお嬢様と関係を持ってしまいました。申し訳ありません。私の未熟さが招いた結果故、お怒りは真摯に受け止めます。切腹を命じられるなら、甘んじて受け入れる覚悟は出来ております」


「ちょ、ちょっとちょっと! 道弘さんっ! 切腹なんて現代風じゃないよ! 責任の取り方おかしいって!」


「指詰めの方がいいのか?」


「ちがう――っ! そうじゃないから――っ!!」


 何でこんなおかしな挨拶になっているんだろう?

 でも、道弘さんらしいとは思う。

 

「お父さん、お母さん。私が任侠映画大好きなの、知っているでしょ。あと、道弘さんは本当にすごーく昔、軒並みならない事情が有って、ヤーの道を歩まれていた過去があるんだ。でも、私にはそんなの関係無い! 道弘さんは理想の男性よ。私の事すごく大事にしてくれるし、何度も危ない目に遭いそうになった時、いつも一番に助けてくれたの。お姉ちゃんの時もそうだよ。イチ君と結婚する時、お姉ちゃんを守ってくれたのが道弘さんなんだ。すごくカッコよくて、シビれちゃった。だから、反対してもムダだから」


「反対なんかしないよ」


 お母さんは『ミチ君だったらいいじゃなーい』って言うと思っていたけど、予想外にお父さんの方が先に口を開いた。「美緒がこの人だと決めたのだろう?」


「ええ、そうよ。私の人生の隣に歩く人は、この人しかいないって決めたの。一生の覚悟を決めて、彼について行くって」


「なら、私達が何も言う事はない。長い人生まだまだこれからだ。今、立派になっているのなら、それでいいんじゃないか」


 ぎゃをー。お父さん、カッコイイ!

 初めて自分のお父さんに、ちょっとだけ『ずぎゃーん』された。


数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。




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