040 たっぷり愛してやる
任侠映画的には、しなびた温泉街や歓楽街のような場所のホテルが似合うのだろうけれど、実際映画じゃないから中松さんの選んだ場所は、夜景が綺麗に見えるであろう高級ホテルの上階層の一室。今はまだ昼だから、夜景は見えずに明るい。
恐らく一泊何十万円もするような、ラグジュアリールーム。ブラックカードでデジポットしたものだから、もうVIP客扱いだ。専用のエレベーターで一直線。
予想していた一室と違う。もっとエロティックなピンクの照明に安物のせんべい布団の上でまぐわうような・・・・ではない。広々とし、綺麗に磨かれたピカピカの値段も解らない様な調度品が置かれ、意味なくキラキラしているように目に映る。貧乏人だから、こんな部屋に泊ったことが無い。
「美緒。少し話をしないか」
「え、ええ」
いい雰囲気になる前に、何故かソファーに座って向き合った。
「何度も野暮な事を聞いて申し訳ないが、本当に俺でいいのか。止めるなら、今がチャンスだ。なに、気の迷いでオーケーした事を撤回しても、気にしなくてもいい。こういう事には慣れてる。美緒が嫌だと思うなら、この話は無かった事にする。ちゃんと家まで送り届けるから」
「この話は無かった事にするってどういう事? それに、止めるってなんで今更そんな事確認したりするの? 止めないし」
「いや・・・・本当に、俺でいいのかなって・・・・」
「背中に絵が描いてあるとか、元ヤーとか、そんなのどうでもいいし!」
私がいいって言ってんの!
「どうでもよくないだろ。親御さんはきっと、こんな男止めとけって言うぞ。俺が親なら間違いなく言う」
「私の親は言わないよ。偏見じゃない、そんなの!」
「そうだ、偏見だ。だが、俺たちが生きている世界は、そういうモンだろ。俺は人道外れた過去を生きて来た。それを消す事は出来ない。美緒にも迷惑がかかるだろう」
「迷惑なんか、かからないよ! そんなの私が吹き飛ばしてやるから!!」私は中松さんの隣まで距離を詰め、黒いカットソーの胸倉を引っ掴んで言ってやった。「何時までもグジグジ言ってないで、覚悟決めなさいよ! 男でしょっ! 私を見くびらないで。一度言い出した事は、絶対に撤回しないわ!! 貴方が好きなの! お姉ちゃんを一生懸命守ろうとして、鬼みたいに変身したあのカッコイイ姿に惚れてから、貴方を知るたびに惹かれていく。元ヤーとか、過去とか、そんなの関係ない! 私は、中松道弘――貴方が好きなの!!」
胸倉掴みながら言う事じゃないとは思ったけれど、腹が立ったので勢いでやってしまった。
中松さんにそっと手を取られたと思ったら、ぐい、と力強い腕に引き寄せられた。くるりと視界が浮いて、すっぽりと彼の逞しい腕に抱きしめられている。お姫様抱っこ状態だ。
真剣な視線を外さないまま、中松さんは私をそのまま運んで行った。キングサイズのベッドへやや強めに押し倒され、深く口づけされた。
「お前がそこまで言うなら――もう、遠慮しない」
さっきまで引っ掴んでいた黒のカットソーを、彼は自ら脱ぎ捨てた。雄々しい筋肉に、肩から少し覗いている美しい絵の先。背中には、一面の鳳凰。
「美緒。好きだ。俺をここまでにさせた責任は、一生を懸けて取って貰うからな」
「うん。モチロン責任取るよ!」
「言ったな? その言葉、撤回するなよ」
「絶対しないわ!」
「よし」
中松さんは不敵に笑った。あれ、何か様子がおかしい――?
「じゃあまず、俺の寿命を相当に縮めてくれた罰を与えなきゃならないな」
「えっ? 罰なんて聞いてないし!!」
「責任取るってさっき言っただろ」
「いや、それとこれとは話が別!」
「別じゃない。俺がどんなに心配したか、その体に思い知らせてやるから」
「なんでそんな――っ!」
びく、と身体が震え、鼻に抜けるような甘い声が自然に飛び出た。
中松さんの指が、ニットごしに私の身体を滑っていく。
「たっぷり愛してやるから」獰猛な鋭い目線で、中松さんが私を射抜く。「――覚悟しろよ」
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