033 俺に勝ったらデートしてやろう
「今日のMVPにかんぱーいっ」
あれから暫く。缶蹴り大会を続行の結果、白雪お嬢がMVPに輝いた。
私のアドバイスでコツを掴んだ彼女は、お嬢様でおしとやかという仮面はもう何処へやら。洋服が汚れる事も、汗をかいて前髪がおでこに引っ付く事もお構いなしに、大活躍をした。
大人たちから毎度毎度逃げていただろうから、逃げ足が速いのなんの。手加減しなくても、十分力を発揮していたと思う。あ、手加減したって事は内緒だから。本人は気が付いていないし、私も大袈裟に悔しがっておいた。
「白雪ちゃん、これ、いっぱい食べて」
「ねーねー、お話聞かせてー」
早速同年代の子供達と仲良くなり、お嬢は人気者になった。楽しそうに話をして、来週は仲良くなったみんなが、お嬢の家に遊びに行く約束をしていた。
彼女は可愛いし、嫌味な態度さえなくなれば友達はできると踏んだ私の読み、大当たり。よし。これで大人の手が焼かれる事もなくなるだろう。
ピクニックシートに広げたお弁当の中から適当に好みのおかずをチョイスして紙皿に盛り、私は中松さんの横に腰かけた。お嬢は友達とご飯を食べたりお喋りするのに忙しくしているから、中松さんの隣は空いているってワケ。隣の席は私のモノよ。誰にも邪魔はさせない!
何てったって、チューした仲だし!(しかもついさっき)
早く次のステップにも進みたい。
「お疲れ、美緒。今日は大活躍だったな」
「中松さんこそ」
「白雪お嬢のあんなに生き生きとした姿、初めて見たよ」
「子供は子供らしく遊べば誰でも輝くわ」
「当たり前の事って言うのは、なかなか気が付きにくいモンだ。美緒のお陰だな」
ぽん、と頭を撫でて貰った。ふふ。子供扱いされてるなって思うけれど、でも、こうやってされるの好きなんだよねー。
「えへへ」
ぎゅっと中松さんに捕まって、彼の逞しい肩に頭を乗せた。
んー。幸せ!
「食べないのか?」
おかず売り場化した中央に並べられた山から取って来た好みのおかずを指差しながら、中松さんが聞いた。
「食べるよ」
「美緒の皿に入っている方が美味そうだ」
言うが早いか、エビフライを奪取された。
「あ“――! 私のエビフライ!!」
「ぷっ。必死すぎ」
ククク、と押し殺したような声で笑う中松さん。もー! 欲しかったら取ってあげるのに、なんでわざわざ私のお皿から取るのよ!
今でも実家でおかずの争奪戦を繰り広げている私からエビフライを奪取するなんて、中松さんたら油断も隙もないわね! 次は必ず防衛するわよ!!
おかず争奪戦の勝率は、かなり高い方なんだから!
こうなったら、缶蹴り女王兼、おかず女王と名を馳せようかしら。
「こういうの、悪くないな」
中松さんが、優しい笑顔を湛えて言った。「ん、美緒。ソース付いてるぞ」
お約束の指グイで唇を拭ってくれた。そしてその若干ソースで汚れた指は、中松さんの舌でベロリと綺麗に。
ぎゃをー。刺激強い、刺激強い!
さっきまで色気のいの字もない、ラブコメからラブを抜いて、コメディー要素しかなかった美緒の任侠物語に、色恋沙汰がプラスされてきた!
ちょっと待って、ちょっと待って!!
ドキドキしちゃいますわよおお――っ!!
「どうせだったら、唇で拭ってくれたら良かったのに」
ちょっと色気を意識して言ってみた。
「へえー、お前、俺の攻撃に耐えれんの? 子供が大勢見ている前で、やってもいいってコトだな?」
「しっ・・・・失礼しましたあぁー・・・・」
すぐさま退陣した。受けて立とうじゃない、なんて言おうものなら、本気でヤラれちゃう。この男はそういう男だ。
私をからかうように、悪い男の顔してとんでもない事言ってしまう、三成組の若頭。相当なワルだ。元ヤ〇ザだけの事はある。
こんな男に、敵いっこない。でも負けっぱなしは悔しいから、何とかギャフンと言わせたい!
「美緒。またよからぬことを考えているだろ」
「ひゃっ、そ、そんな。滅相も無い! 考えていませんわよぉー」
どうしてこうも思考を読まれちゃうかね?
あまり変な事を考えるのは止めておこう。
倒す、とかギャフンと言わせる、とか、そういう系。
「ホント、美緒と一緒に居ると飽きねーわ」
ククっ、と中松さんが笑った。最近彼は、よく笑う。悪い笑顔も、可愛い笑顔も、カッコイイ笑顔も、全部ひっくるめて沢山見ている気がする。
これって少しは、親密度が上がったって自惚れてもいいのかな?
ああー。早くホンカノになりたいよー。
「早くホンカノになりたいって顔に書いてあるけど?」
「えっ。そんなに私って解りやすい!?」
からあげを頬張りながら中松さんに視線を送っていたのに、そんな事言われて驚きよ!
「そりゃもう。解りやすすぎる」
またまた愉快そうに笑う中松さん。もー、笑顔が素敵ング!
「じゃあ、そういう事だからデートして」
「そういう事ってどういう事?」
「もー! 解るでしょ! 中松さんが大好きで、早く本物の彼女にして欲しいからデートしてください。これでよろしいですかっ!」
「必死かよ」
ぷっ、と再び笑われた。「まあ・・・・俺に勝ったらデートしてやろう」
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