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003 このチャンス、絶対モノにしたい!

 大学に通って四年目。随分美味しい野菜を育てられるようになってきた。最近では畑も借り、自分で有機野菜を育てている。その野菜を今、納品に来たところだ。中松さんに私が育てた野菜が美味しいと太鼓判を貰って、三成邸で使う食材用の野菜の仕入れを、私と契約してくれたから。


 表側玄関ではなく、裏の搬入口に回った。自分の家に搬入口があるなんて、どんだけーって感じよね。


 車を停めると同時に搬入口が開けられた。中松さんが相変わらず無機質な美しく冷めた瞳で、今日もご苦労様です、と淡々と告げてくれた。



 わあ・・・・! やっぱり中松さん、カッコイイ・・・・!



 どうも、と会釈して、車を開けた。この軽は自動ドアじゃなくてバタンバタンと煩い音の鳴る手動開閉の上、窓もハンドルをくるくる回して開けるタイプの年季の入ったものだ。ちょっと恥ずかしいので、イチ君の申し出通りベンツの最高級車を用意してもらった方がいいかな!?

 いかにも『農園から納品に来ましたー』っていうイモ娘じゃなくて、ハイソなお嬢様みたいに見られないかな。

 まあ、車が変わっただけじゃ、庶民根性は抜けないよね。

 姉は散々中松さんに淑女に仕立て上げられるために、修業でシゴかれたらしいけれど。本当なのかな。確かに厳しそうだけれど、言うほどじゃないと思うな。手取り足取り、丁寧に教えてくれそうじゃない!?



 美緒様、何度言ったら解るのですか。これはもうお仕置きですね――なんちゃって!



 いけない、いけない。妄想はこのくらいにして、とりあえず中松さんと世間話をする事に。



「今日の野菜は、夏野菜です。ピーマンが特段美味しいのですが、イチ君がピーマン苦手でしょう。でも、美味しいので、一度食べさせて欲しいです。苦みも無くて、甘いんですよ」


「美緒様の育てた野菜なら、さぞ美味しい事でしょうね」


 今日も美緒様って呼んでくれた!

 お嬢様になったみたいで、くすぐったい。


 

「トマトと茄子も美味しいですよ。きゅうりも冷やしキュウリで食べたらとっても美味しいです。あ、そんな庶民の食べ方、このお屋敷ではされませんよね」


「私は冷やしキュウリ好きですよ。露店で売っているものなんかは、特に。しかし、一矢様にお出しするものとしては利用できませんが、賄いで出すものなら、そういった調理でもいいかもしれませんね。きっと、美味しい事でしょう」


 中松さんは何時も私に話しを合わせてくれる。優しい人だ。

 お姉ちゃんたら、一体この人の何処が鬼って勘違いして言っているんだろう。まあ、確かにキレた時は鬼だったけれど、すごーく優しいじゃん。

 まあ、私からすれば、そのギャップがいいんだけどねー。


 軽い世間話をしている間に、納品が終わってしまった。伝票を切り、中松さんに手渡した。


「美緒様、今日も暑い中ご苦労様でした。それでは」


 中松さんがきびすを返そうとしたその瞬間、私はぐっと彼の腕を掴んだ。さあ、切り込んで立候補するぞ!

 

「姉から聞きました」


「・・・・何をでしょうか」


「お見合い、なさるとか?」


「・・・・ああ、一矢様のご命令で、財閥のご令嬢との見合いを組まされたのです」


「困っていらっしゃるのではないですか?」


 食い気味に聞いてしまった。


「ええまあ。気の無い相手と見合いをしても、時間の無駄ですからね。一矢様にはそう何度もお伝えしたのですが、先方も乗り気だから、一度くらいはと強引に話を進められている所です」


 乗り気!?

 冗談じゃない!


「じゃ、じゃあ、彼女がいるっていう事にすれば、先方も諦めるのではないですか?」


「彼女がいないから、見合いを組まれるのです。そういう存在がいれば、こんなややこしい話にはならないのですがね」


「だったら、私、やります!」


「美緒様が・・・・何をなさるのですか?」



「ニセカノ、やりますよ」



 

 きゃーっっ。言っちゃった、言っちゃった!!

 とりあえずここからよね!

 お姉ちゃんとイチ君も、偽契約から結婚した訳だし!

 巷の噂によると、契約からのウェディングは流行っているみたいだし!

 私もそうならないかなー、なんて!



 でも、このチャンス、絶対モノにしたい!

 頑張るの!



「美緒様が彼女役を引き受けて下さるのは大変有難いですが・・・・ご迷惑になりませんか?」


「いいえ。なりません!(どきっぱり)」


「そうですか。そこまできっぱりおっしゃって下さるなら、是非お願いしましょうか。こちらとしても助かります」



 キラ、と中松さんの表情が少し揺れた。いつもはクールで完全冷徹な雰囲気の彼。

 その彼の表情の変化は、珍しいものだと思った。




 そして私は速攻で実家に戻り、店を手伝って、中松さんとにゃんにゃんする妄想をして、明日に備えた。





 これから、地獄が待っているとも知らずに――





 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。


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定期更新は、毎日16時の時間帯&ゲリラ更新となります。

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