026 どうやって攻略しようかな?
「中松の彼女なんか、興味ない。ね、それより今日は何して遊んでくれるのっ?」
五条白雪というこの幼女は、五条グループの創業者の孫で、イチ君の会社と古くから取引がある。そしてどのくらいお金持ちかというと、今、女性が働きやすい社会を目指す事をスローガンに掲げて国民の支持を得ている、日本屈指の大企業・櫻井グループと匹敵する程のお金持ち。もっと解りやすく言うと、TOYOTAレベル。
三成家もそうだけど、みーんなケタ外れのお金持ちなのよねー。私には無縁だけどー。
しかし、これで納得した。
どうりで中松さんが、お見合いをズバっと断らないワケだ。というより、断れないというのが正解かな?
彼女、普通の令嬢じゃないもんね。断っても断っても、押し切られるのだろう。
だからニセカノを見せて、諦めて貰おうという魂胆か。・・・・って事は、この話し合い(?)が上手く行ったら、中松さんの彼女はお役ゴメンって事!?
美緒の任侠物語、これでジ・エンド?
ダメダメっ。それは困る!!
何としてもモノホンのご令嬢と、仲良くならなければ!!
「初めまして。緑竹美緒と申します」
にっこり笑って、スカートの裾を摘まんで丁寧にお辞儀をした。
さあ、ニセ令嬢はどうかしら!? きちんとできているか不安!
しかし私の渾身の挨拶も徒労に終わった。ガン無視され、居ない事にされている。
ぎゃをー。手ごわい!
しかし、負けるものですか!
中松さんの手を取ろうとした白雪ちゃん(でいいよね。年下だし)の手を、私がぱっと取った。にっこり笑って、再びこんにちは。
「アンタなんか用事無いし」
「アンタではなく、緑竹美緒と申します。女性同士、一緒に遊びましょう。白雪様」
「私は中松がいいの」
プイ、とそっぽを向かれた。ムカつく令嬢だな、コラ。
我儘言ってると、シメるぞ。
「しかし中松は困っておりますわ。ここは女性同士で仲良くして、遊ぶのが良いかと」
「間に合っているわ。離して頂戴」
パシ、と握っていた手を払われた。
おのれ白雪・・・・! 腹の立つ物言い!
明菜がそんな事言ったら、間違いなくシメて張り倒ーす!!
「では、わたくしもお二人の輪に入れて頂きたいですわ」
「嫌」
「そこを何とか・・・・」
「嫌ったら嫌! あっち行ってよ、ブス」
いや、確かにそんな美人じゃないけどさ。
でもな、コラ。年上に向かって言っていい事と悪い事があるだろーがあああ!
ゴゴっと怒りオーラが全身を包みそうになったが、それをカバーしてくれたのが中松さんだった。
「お嬢様。彼女はこのわたくしが選んだ女性です。容姿が可憐な所は勿論ですが、それ以上に彼女の天真爛漫で飾らない魅力に惚れております。どうか、祝福頂けないでしょうか。遊ぶ時は彼女も一緒に遊んで頂けると大変嬉しゅうございます」
何この人!
神ですか!
もう、ずぎゃんずぎゃんとハートをブチ抜かれちゃいましたよおおお!!
えーん。カッコ良すぎるうううー。神松様に土下座したくなった。でも、多分今それやったら超怒られるだろう。だから、やらないよ! 成長したでしょ! 私は旬だし、今が買い時よ。早く嫁にしてっ。
「よろしくお願い致しますわ、白雪様」
にっこり微笑みを浮かべた。
勿論、笑顔は引きつっていないよ。偉いでしょ! だから早く嫁に・・・・(以下略)。
「私以外の女に祝福なんかできないわ! 帰ってよ! 帰って!!」
涙の滲んだ怒りの目を向けられ、私は言葉を失った。
この子、小さいけどちゃんと『女』してる。
中松さんを一人の男として好きな、れっきとした女性だ。
「解りました」私は笑顔で応えた。「では、祝福頂けるまで何度でもお伺いいたします。わたくしはこれで失礼させて頂きます。ごきげんよう」
中松さんを残し、お辞儀をして退席した。
とにかくああいうタイプは、子供扱いしたら余計に拗れる。認めて貰えない。
私、自分がそういうタイプだから、彼女の気持ちが手に取るように解る。
きちんと大人の対応して、納得して貰わなきゃ無理だ。
さあて。モノホン令嬢、なかなか手ごわいぞ。どうやって攻略しようかな?
近距離なので、歩いて屋敷まで行った。たのもー、と言って門をガンガン叩きたいところだけれど、それをやったらニセ令嬢だと一発でバレて中松さんに迷惑がかかるから、ぐっと堪えて大人しくインターフォンを押した。
「緑竹です。お嬢様へご挨拶に参りました」
相手の方で確認が取られたらしく、重厚な鉄門が自動センサーで開く。中々よね。ホント、お呼びじゃないって思うわぁ。抗争なんかしても、きっと門から先へは容易に入れないんだろうなー、とかアホみたいな事をつい考えちゃう。
無駄に広い庭を歩いて、玄関まで行った。その先で待ってくれている執事のお兄さんに挨拶をした。「ごきげんよう」
執事のお兄さんは、ふわりとしたエアリー感のある黒髪に、目力のある瞳がやや大きめ、線の細いイケメン執事だ。年齢は幾つだろうか。ニヒルな雰囲気の似合う中松さんとは対照的だ。
「白雪お嬢様はいらっしゃいます?」
「緑竹様、大変申し上げにくいのですが・・・・」
「いいのよ。貴方のせいじゃありませんもの。また、お時間の赦す限り待たせて頂きますわ」
この気の利く優しい執事のお陰で、私は玄関まで入る事が出来ているのだ。
もう少し親密度を上げ、今度は屋敷内に入れて貰いたいと目論んでいる。
「お仕事の邪魔は致しませんわ。どうぞ、おかまいなく」
「・・・・少し、お待ち頂けますか」
「何時までも待たせて頂きます」
多分心の中では迷惑に思っているんだろうなぁー。爽やかな雰囲気のイケメン執事がいるお屋敷、最高じゃないの。何が不満だ、コラ。
中松さんはいい男だけど、元ヤ〇ザだし、背中に鳥の絵描いてあるし、一般的にはちょっと難ありの男なんだよ?
悪いこたあ言わない。中松さんは、早くアタイに譲りな。お嬢には、お嬢に似合う男がいるってもんだよ。(何故か姐さん口調)
私はひたすら待っている暇な時間を、自らの任侠ストーリーを脳内で再生させることによって潰していた。
一切合切が脳内再生のストーリー通りだったら、世の中苦労しないんだけど。
「緑竹様。お嬢様がお会いになっても良いとおっしゃっております」
「まあ! 本当ですの?」
なあんだ。意外にチョロいな。年末までとりあえず毎日通うつもりだったのに、もう終わりかぁ。
所詮、根性レベルが違うのよ。これで勝った! 完全勝利も見えてきたわ! ヲーホホ。私に跪くがいいわ。
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