021 仲のいい同級生
「みーお」
「わー、やっすん! 久々じゃん! 元気?」
今、ディナータイムの営業を五時から始めるべく、看板に電気を点けに行った時の事。地元の小中高が一緒だった、同級生の仲間保昭が声をかけてくれた。
保昭だから、やっすん。
小学校の頃から野球部だった彼は、地元はそんなに強い高校じゃ無いから甲子園こそ行けなかったが、中々の野球の腕前だ。
やはりプロになるという夢を諦められず、大学でもまだ野球を続けている。私も農業大学に進んだものだから、大学が別になった。
結構近所に住んでいる、頑張り屋さんの幼なじみだ。
スポーツ刈りなところは相変わらずだけれど、くりっとした可愛らしい幼い顔つきだった彼も、精鋭な青年へと変化していた。日焼けした黒い肌も、私よりも随分高くなった背も、がっしりとした肩幅も、もう立派な男性になった証拠なのだと思った。
暫く会わない間にすっかり成長しているが、真面目で優しそうな雰囲気だけは、相変わらず彼の中にあるようで、すぐにやっすんだ、って解った。
時々、アンタ誰? って言う位変貌遂げる人、いるからね。
「久々にグリーンバンブーの定食食べたくなってさ。ディナーで一番乗りだったらゆっくりできるかと思って」
流石やっすん。よく解っている。
グリーンバンブーは基本、ランチの方がお客が多い。確かにディナーも多いが、ランチよりはゆっくり食べられる。しかも五時台の前半は、特にお客が少ない。
ディナーはおかずをアテに、瓶ビールやお酒を飲む常連さんも多い。五時台はそういう人が来るから、ランチみたいに焦る事は無い。
六時台でランチみたいに忙しくなる事があるけれど、昼程回転はしない。で、言っている間に七時になり、お客が徐々に減って閉店、という流れになる。
「うん。今はランチが鬼忙しいけど、ディナーは相変わらずゆとりがあるよ。日によるけどね。忙しい日は、この時点でお客が外に列作っているけど、今日はそうじゃ無いから大丈夫だと思う」
「そっか。あ、これさ、美緒の好きなオレンジキッチンのケーキ。買ってきたんだ」
「ええーっ。ありがとう! 嬉しい!」
ぱああーっと笑顔に花が咲いた。オレンジキッチンっていう、イタリアン料理が美味しいと評判のお店は。店内で提供しているデザートを持ち帰りで購入する事ができるのだ。
全部シェフの手作りで、どのケーキも美味しいから好きなんだぁ!
やっすん、覚えていてくれたんだ。
「美緒のトコは兄妹多かったよな? 人数分の八個入っているから」
スイーツが入っている紙袋を差し出してくれた。
「ありがとう! あ、殆ど準備できてるからさ、中、入りなよ。お茶出すから」
やっすんの手を引いて、中に招き入れた。
「お姉ちゃん、やっすんが食べに来てくれたよ!」
「えーっ、保昭君が? うそーっ」
やっすんは同級生という事もあるし、ちょくちょくグリーンバンブーへ食べに来てくれていたから、家族全員彼が私の幼馴染という事は知っている。まあ、私は地元から離れていないから、やっすんだけじゃなくて、同級生が尋ねて来てくれる事は結構ある。お姉ちゃんも琥太郎もそうだから。
嬉しいお客様が来てくれたので、お姉ちゃんと私が一番テーブルに集合した。
「これ、やっすんに貰ったんだ。オレンジキッチンのスイーツだって!」
「うそーっ。オレンジキッチン、美味しいよねー」
お姉ちゃんも嬉しそうだ。お礼を言って、早速カウンター下のビールなどを冷やしているショーケースに頂いたお土産を放り込んだ。
「保昭君、元気だった?」
「はい」
「まだ野球頑張っているの?」
「はい。何とか頑張っています」
「すごいねー」
お姉ちゃんは心底感心したような顔で、やっすんを褒めた。
「折角来てくれたんだし、お店が始まったらバタバタしちゃうだろうから、先にオーダー作っちゃうよ。他のお客さん来るまでなら、美緒とお喋りしてくれて構わないから」
「ありがとうございます。それじゃあ、ビフカツをお願いします」
「解った。待っていてね」
お姉ちゃんはコック帽を被って厨房へ入って行った。手元はカウンターに隠れて見てないけれど、真剣に料理を作る姿がここからよく見える。我が姉ながら、カッコイイって思う。
「お姉さん、揚場入ったんだ?」
お姉ちゃんが厨房に入って本格的に揚場をやり始めたのはつい最近の事だから、やっすんは知らないんだな。
「そうなの。ホントに最近なんだけど、お姉ちゃん一生懸命修業して、焼き場だけじゃなくて揚場も頑張っているんだ。今日のリーダーはお姉ちゃん。私も琥太郎もサポートで焼き場に入っているんだ。あとね、ここで出している野菜の一部、私が頑張って作ったものなんだよ。結構美味しいって評判なんだ」
そう言うと、やっすんは感心したようにそうか、と頷いてくれた。
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