020 ピンチを乗り切り、楽しいランチタイム
「さあ、みんなお腹空いたでしょ。ランチできたよ。食べようー」
お姉ちゃん声をかけてくれて、カウンターにランチを五人分置いてくれた。美味しそうなエビフライとハンバーグ。ランチのハンバーグは普通デミソースをかけるんだけれど、中松さんがてりやきハンバーグの方が好きなのを解っているから、ランチのひとつがてりやきになっていた。
「中松。ご飯は自由に好きなだけ入れてね」
「ああ、ありがとう」彼が笑った。
うー。不満だ。
というのも、中松さんは今日、笑顔が眩しい。普段全く見せないのに、今日は安売りしている気がする!
お姉ちゃんに笑うのもイヤだけど、それよりも営業中、常連様には私も見た事もないような輝く笑顔で『またのお越しをお待ちしております』なんて言うし!
お母さんがホールで新規のお客様を誘導中、レジに入って対応時に『お味はいかがでしたか』とか、『ご満足いただけましたか』とか、『お好み等がございましたら、遠慮なくおっしゃって下さいね』とか、笑顔でそんな事言うのよおおお!
私だってそんな笑顔見せてもらった事ないのに、ずるい――!!
厨房放り出して、お客になりたいって心底思ったもん!
行きつけの定食屋で、超イケメンから優しい言葉掛けて貰ったら、これもう、どんな女でも惚れてまうやろ――!
だから無駄に愛想振りまかないで欲しい!
鬼のままでいいのに!
常連様の奥様方(平均年齢七十歳)が、こぞって『私があと五十年若かったらー』とか言い出す始末だし!
止めてよ! 五十年若くても中松さんは譲らないから!
今日はキッチンが忙しくて、中々ホールに出るチャンスが無かった。
お陰で『中松さんは私のでーす』って言えなかったけど、そのうち吹聴しまくってやる!
あ”――――!
悔しさに打ち震えていると、中松さんが声を掛けてくれた。「何怖い顔してんだよ。食べようぜ。美緒の分もご飯入れるぞ?」
「あ、うん。ありがとう! 嬉しい」
はっ。いけない、いけない。私が鬼みたいな顔していてどーする。カワイイ笑顔を作って、にっこり笑った。中松さんがご飯をよそってくれたので、私はみそ汁を入れた。
一番テーブルに定食を並べて、みんなでテーブルを囲んでランチを食べた。
やっぱりグリーンバンブーのランチは最高!
すごく美味しいー!
「何時も伊織が作る弁当を一矢様に分けて貰っていたから知っているけど、出来立てのランチは格別美味いな。お客もみんな、ここの定食を食べたら満足して帰っていくのも納得だ」
ランチのエビフライを食べながら、中松さんが言った。「ホント美味い」
わかるー!
美味しいよねー!
この辺で洋食って言えば、グリーンバンブーが一番よおおお!
実家のえこひいきが鬼スゴイのは、気にしない。気にしない。
ご近所さんたちも、こぞってグリーンバンブーが一番って言ってくれる筈!
「中松さんがお屋敷辞めて、グリーンバンブーで働いてくれたら、毎日ランチ食べられるよ」
「美緒は面白い事を言うな」
ははっ、と中松さんが笑った。
ぎゃをー。激レア、激レア! シャッターチャンスよおおお、と驚きふためく私をよそに、お姉ちゃんは感動していた。「中松が笑ってる・・・・! 明日、雨でも降るんじゃないかしら」
「失礼だな。俺だって笑うぞ」
「中松は全然目が笑っていないのよ。自分で気が付いてる?」
「普通だけど」
「貴方の普通は普通じゃないもの」
「伊織は一体、俺を何だと思っているんだ」
「鬼」
ぶっ、とランチを噴き出してしまった。
鬼って・・・・! 姉妹だからか、思う事一緒じゃん!
「失礼だな」
しかし中松さんは鬼と呼ばれた事を気にもせず、食事を続けている。
「美緒、ひとくちくれよ。そのハンバーグ」
了承も得ていないのに、ひょい、とデミソースのかかったハンバーグを奪取されてしまった。「うん、このソースも美味いな」
琥太郎や倫太郎が私のハンバーグを横取りしたら、確実に首絞めて「何やってんだ、コラ」って怒る案件だけど、中松さんだから許す!
「あれー、姉ちゃん怒らないのー? 何時もはおかず横取りされたら、めちゃくちゃキレるじゃん」
「バカっ、余計な事言わないでよっ」
琥太郎を睨みつけた。「中松さんだから特別なの!」
「ふーん。何時もみたいにさ、首絞めて・・・・――ちょ、冗談だって、冗談! マジで怒んなよー」
私の鬼形相を見た琥太郎が、冗談で済まそうと必死になっている。
中松さんの前でつまらない事言って、後でシメる!
「おかず取ってしまったから、俺も美緒に首を絞められるのか?」
「真顔で聞かないでよ! そんな事しないし!」
琥太郎――――! 後で覚えておきなさいよ――!
「ぷっ。必死過ぎ」
また、中松さんが笑った。「美緒の家は賑やかで、楽しくていいな」
ずぎゃーん。
こうして楽しいランチタイムでも、容赦なく中松さんのスマイル拳銃で撃たれまくった私だった。
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