002 美麗で完璧執事が、実は鬼ってるところとか、超最高!
「お金の問題じゃないし。イチ君には教えてあげなーい」
こうなったらこっちも意地悪してやる。私を怒らせたバツだ。
『だから中松に見合いを組んだのは、お前の為だと言っているだろう!』
私が意地悪を言ったものだから、遂にイチ君が怒り出した。
「どうして私の為になるわけ?」
『中松は幾ら言っても、一向に彼女を作る気が無い。ここらで見合い話を持っていけば、きっと伊織にぼやくだろう。そうすれば、美緒にも話が行くはずだ。だから、私が伊織に持ち掛けた時の様に、中松と契約すればいい。ニセの彼女役、やりますよ、みたいに何とでも言えば、恐らく困った中松は断らない筈だ。そうなれば、美緒と中松との距離が深まるだろう。アイツはただ近づくだけではダメだ。何か理由を付けないといけない。私の命令は絶対だから、うまく行くと思う。私とて、ぽっと出の女に中松と親しくなってほしい訳ではない。中松は大切な家族だからな。美緒、お前もだ』
「イチ君・・・・!」
何だ。イチ君ったら、神じゃん!
『そういう事だ。こちらの都合や理由も聞かず、先走るのは伊織も美緒も同じだな。全く、よく似た姉妹だ』
「ごめんなさい」
そんな思惑があるなら、最初から言えっつーの。あら。またお言葉遣いが。ヲフォフォ。
『そういう訳だ。お前の事だから、今日、私の所に持ってくる野菜を全部ピーマンにしようとか思っているだろう。止めてくれよ?』
優しくイチ君が言ってくれた。
「うん! 思ってたけど、止める! 美味しい野菜、後で届けるね!!」
私の手の内は、彼にお見通しだったらしい。
昔、実家でお姉ちゃんに意地悪して泣かせた時、イチ君の晩御飯全部にこっそり生のピーマン入れた経緯があるから。
『うむ。頼んだ。ここまでお膳立てしてやったんだから、後は美緒次第だ。上手くやるんだぞ』
「わかった! ありがとう!!」
素直にお礼を言っておいた。人間素直が一番!
『時に美緒、伊織や私の秘蔵写真とは何だ? 金は幾らでも出す。お前の言い値で譲ってほしい』
あー、出た出た。再びのお金持ち発言! お姉ちゃんが一番嫌いなヤツだ。私も嫌いだけど。
そしてもし、イチ君からお金を受け取ってお姉ちゃんの写真を売ったという事がバレたら、多分中松さんに嫌われちゃう! だから、そんな事は出来ない。
「家にあるアルバムの写真だよ。お姉ちゃんだけじゃなくて、イチ君も載っているよ。譲れないけど、特別に見せてあげるから、今度家においでよ」
『本当か? よし解った。楽しみにしておく』
「うん。じゃあね! イチ君ありがと」
『礼には及ばない。外ならぬ伊織の――私にとっても大切な家族である美緒の為だ。お前の恋、応援しているぞ』
「本当にありがとう! それじゃあ」
何だー。イチ君、本気でイイヤツじゃん!
電話を切り、ふうー、とため息を吐いた。本棚に並ぶミナミの帝王シリーズのDVD背表紙に写っている萬田銀次郎様と目が合った。
うん。敬愛する萬田銀次郎様(扮するは当然、竹内力様)も素敵だけれど、それ以上に中松さんがイイって思っちゃった!
ドスの効いた低い声。
キツい冷酷無比な目線。
情け容赦なく悪をたたっ切るその御姿。
美麗で完璧執事なのに、実は鬼ってるところとか、超最高!
よし。早速今日、中松さんにニセカノ話を持ち掛けよう。丁度、三成邸に有機野菜の納品があるんだ。
おあつらえ向き!
私はグッと握った拳に力を入れ、部屋で一人気合を入れた。
※
白の軽自動車に納品する野菜を積み込み、私はいそいそと三成邸へ出向いた。グリーンバンブー(実家)から車ですぐの距離にある。凄く近い。
車を走らせて本気ですぐに到着した。三成邸は大きな門と分厚く高いセキュリティーバシバシの壁に四方を囲まれている。正直、白の軽自動車なんか場違いもいい所だけれど、グリーンバンブーの配達用車がこれしかないから、仕方ない。
納品時、白の軽自動車じゃ恥ずかしいな、という事をお姉ちゃんに話していたのを聞きつけたイチ君が、ベンツの最高級車を荷物運搬用に用意しようか、と言ってくれたけれど、緑やオレンジの泥付きカゴをどしどし遠慮なく乗せるのに、最高級車なんか使えない! と、速攻で断った。
どこの世界にラグジュアリー車へ野菜を積み込むのだ。おかしいでしょ。これだから桁違いの金持ちは、世間一般の金銭感覚とズレているのよ。庶民の気持ちなんか、一生解らないでしょうね。
庶民出身の姉も、幾ら幼馴染でよく知った仲とはいえ、よくぞまあこんな立派な屋敷の主と結婚したものだと、この屋敷を見るたびに思う。私なら絶対無理。
私の到着と同時に、大きな鉄門が自動で開いていく。セキュリティーは全自動。納品予定を伝えているから、予め登録している車と人間を判断しての結果だ。機械はどんどん進化を遂げていくけれど、こういう美味しい農産物は、絶対に人の手じゃないと出来ないから、この温度差も広がる一方だと思う。
まるでこの屋敷と、私達の暮らすグリーンバンブーのような差だ。
因みに実家の洋食屋は、都内で百年ほど続く老舗である。昔ながらの味を守り、地元民に愛され、商売を続けて来られた。
私には家族が沢山いる。父、母は勿論の事、この屋敷の主であるイチ君の下へ嫁いだ姉の伊織、そして弟の琥太郎(高校三年生)、弟の倫太郎(高校一年生)、弟の雄太郎(中学一年生)、妹の明菜(小学五年生)の八人家族だ。イチ君を入れたら九人か。私達はみんな、グリーンバンブーをそれぞれ愛している。
この屋敷に嫁いだ伊織お姉ちゃんは昔から面倒見がよく、忙しい両親に代わって食事の用意もしてくれたり、と、何かと世話焼きで料理上手。彼女は一番にグリーンバンブーの料理人になりたいと、修業を始めたのだ。
そんな姉がいるものだから私は料理人になるのではなく、グリーンバンブーで使う美味しい野菜を作ろうと思い、関東にある有名な農業大学に通って野菜の育て方を学んでいる。
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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