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018 お手並み拝見

 という訳で、翌日。朝五時起きで、仕込みの手伝いをしている。絶対にバタバタするから、普段より多めの仕込みと準備で乗り切ろう作戦だ。

 お父さんに加え、ギンさんまでいないなんて、マジ最悪。厨房のコック二人抜けとか、あり得ないでしょ。


 ミーティングの結果、お姉ちゃんがグリルと揚場を担当する。私はオムライスなんかが通った時のご飯系の焼き場と、お姉ちゃんの補佐。琥太郎がグリル系の焼き場。結果、私が色々な補佐兼雑用係になる。サラダ、ご飯、みそ汁、ソースのチェック等、色々と忙しい。普段はこれを、グリル系の焼き場を担当しながらお姉ちゃんがやっている。配膳はお父さんとお姉ちゃんの二人のどちらかができる時にやっている。ギンさんはオムライス等のご飯系の焼き場担当。


 グリーンバンブーは厨房に最低でも三人、可能なら四人は欲しい。しかし配膳がきちんとできる人が入れば、三人で十分回していける。ホールもできれば二人は欲しいが、お母さん一人だけなので、厨房がホールをサポートしながら店を回す。

 普段は店をホールも入れて四人で回している。私はホールを手伝う方が多いから、あまり厨房をやったことが無い。メニューは一通り作れるけれど、不安。なので、中松さんが配膳に来てくれるのは、本当にありがたい。

 とりあえず開店時間の午前十一時から、午後三時まで。それが終わったら休憩で、次に五時からラストまで。とにかく頑張るしかない。

 お母さんは邪魔になるから、お父さんに付いていてもらっている。


 準備を進めていると、午前九時前、グリーンバンブーに中松さんがやって来た。

 好きな人と仕事できるなんて、最高じゃん! 早くもテンションが上がった。


「中松、わざわざありがとう。しかも朝早くから」


 お姉ちゃんが声を掛けた。


「緑竹家(ていうかお姉ちゃんにでしょ)には、恩があるからな。今こそ恩を返す時だろう。みんなが困っていると美緒から聞いた。配膳は得意だ。任せて欲しい」


「執事やってるもんねぇー」


 しみじみと言うお姉ちゃんの間に割って入った。「おはようございます、中松さん」


 令嬢の如く振る舞い、笑顔を見せた。


「ああ、おはよう」


 それに対して、中松さんが笑顔で応えてくれた。




 ずぎゃーん。



 

 いかん。早くも撃たれてしまった。


「中松・・・・貴方、何時から愛想を振りまけるようになったの?」


 お姉ちゃんが怪訝そうな顔で中松さんに聞いた。


「どういう意味だ」


「ふーん・・・・ま、いいけどぉ。美緒のお陰かなぁ?」


 意味ありげにお姉ちゃんに笑われた。


「中松、その調子でお客様に愛想振りまいてね。睨んじゃダメよ」


「そんな事しねえって」


「どうかしら」


 うー。お姉ちゃんと中松さんって、やっぱり仲良しよねー。

 羨ましい。中松さんまだ・・・・お姉ちゃんの事、好きなのかな?

 妹分が親分に嫁いだなんて上手い事表現していたけれど、そんな簡単に好きな女性の事、身近にいるのに忘れられるものなのかな。

 ほんのちょっとだけ、心がモヤった。また、時間のある時に確かめよう。


 

「どーも。中松さん、今日はヨロシクー」


 くだけた感じの琥太郎が中松さんに挨拶した。

 彼もコック姿で、様になっている。最近琥太郎狙いでちょくちょくグリーンバンブーに食事に来る同級生とか、若い女性が増えた。

 お姉ちゃんやお母さんは昔から常連ウケがいい。年上に可愛がられるタイプだからね。


 私はというと、若い衆からモテていると思う。でも、そういうのは中松さんがいるから、もういいかな。

 結構建設業の人とか、ドライバーのヤンチャそうな人に誘われることが多い。ガテン系ってヤツ?

 お世辞で『美緒ちゃん目当てで通っているんだよー』って言ってくるヤツいるけど、チャラいから相手にしていない。


 でもでもっ。中松さんが配膳立ってホール手伝ったりしたらさ、若い女性がキャーキャー言って通うようになるんじゃないの!?

 それは困る!


「中松さん」


「なんだ、美緒」


「常連さんとかに口説かれても、私と付き合っているってちゃんと断ってね! 押し強い人多いから!」


「お前も相当押し強いと思うが? 自分はいいのかよ」


「私はいいの。だって中松さんとつき合っているんだもん!」


 家族は私が中松さんに惚れているが、相手にされていない事も知っているから、誰もツッコまない。ここは、そっとしておいて。

 

「ま、解った。面倒な事になっても困るから、そう言う事にする」


「素直でよろしい」


「誰に言っているんだ。お前こそ他の男の誘いなんか断れよ?」


「あったりまえじゃん。もうすぐ結婚するって吹聴しておくから」



 そしてそれを既成事実に――


 

「そこまで言わなくていい。契約終了後、別れたらどうするんだ。説明するのが面倒だろ?」


「契約打ち切られないようにすればいいだけの話」


 ぽん、と大きな手が頭に置かれた。「まあ、あまり無理するな。俺みたいなワケアリ男、すぐ飽きるから」


「飽きないよ! 中松さん、凄く素敵だもん! 背中の鳥さんだって別に気にしない――」


 もが、と口を塞がれた。「人の秘密をベラベラ大声で喋るな、バカ」


 ふおわぉー。お口塞がれているよー。どうせ塞ぐのだったらお口にチューして欲しい・・・・。

 

「遊んでいる場合じゃねーんだ。仕事だし、キッチリやらないといけないだろ。手順を色々教えてくれ。とにかく、しっかりサポートするから」


 そう言って中松さんは、私やお姉ちゃんから聞いたグリーンバンブー全般の仕事を頭の中に叩き込んでいった。


 中松さんが担当する配膳は、伝票がカウンターに並んだら、中にオーダーを通して定食ができるタイミングでご飯をよそい、みそ汁を入れる。手が空いたら、ホールが片付けてきた洗いものを自動食器洗浄機にかけ、食器を戻す。

 ホールが用事で手を取られていたら、お客の案内や料理を運ぶ。時に、キッチンのサポートをする。ホールもキッチンも、両方こなしながら、配膳していくのだ。

 ベテランばかりでこなしていく仕事なのに、今日はリーダーがお姉ちゃんで、他のサポートが付け焼刃の姉弟。大丈夫かな?



 開店時間の五分前になったらお母さんが二階から降りてきた。ミチくんありがとー、今日はヨロシクねぇー、と相変わらず軽いノリで挨拶して、グリーンバンブーのロゴが入った緑のエプロンを身に着けた。中松さんにもエプロンをしてもらおうかと思ったけれど、一応キッチン内に入るので、コックの恰好に落ち着いた。



 うーん、本気でカッコイイ。こっそり写真を携帯で撮っておいたの。待ち受け確定ね。



 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。




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定期更新は、毎日16時の時間帯&ゲリラ更新となります。


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