017 キワドイお宝映像で組長を転がす姐さん
「え――っ、ギックリ腰ぃ!?」
『そうなのぉー。美緒ちゃーん、修業お休みして、帰って来てーぇ』
特別レッスンを受けた直後、お母さんから電話が掛かって来た。
珍しいなあ、と思って電話に出ると、開口一発泣きつかれた。
何と、お父さんとベテランのギンさんというコックが、実家の洋食屋の冷蔵庫の配置換えを、明日に備えてやっていたみたい。
でも、年なのに無理したから、二人とも腰が痛くなって立てなくなったらしい。
うええー。大丈夫なのぉ!?
「明日のグリーンバンブーの厨房どうするの!?」
『えーん。どうしようー』
「泣いてる場合じゃないでしょーが! しゃっきりしな、母親だろ、コラ!」
『えーんっ、美緒ちゃん怖―いっ』
ますます泣いてしまった。
はー、ウザ。これだからお母さんは、もう!
「お姉ちゃんは? 明日グリーンバンブーに帰るんでしょ?」
『えーっと・・・・いおちゃんは多分揚場もできるからぁー。美緒ちゃんが帰って来てくれたら、焼き場頼んでぇー、えーっと、ぐすん、あの、琥太くんにー、えーっと・・・・』
「あーっ! お姉ちゃんに指示してもらうから、もういいっ! 何とかするから、泣くなっ!」
『えーん、美緒ちゃんのオニー』
オニという単語なら、目の前のこの男に似合うものなんだが?
「泣いている場合じゃない! もう、後はこっちでやるから、お母さんはお父さんの看病でもしててっ」
ブチ、とスマートフォンの通話終了ボタンをタップした。
ホントもう、お母さんと話していたら胃に穴が空くわ!
「一体何を騒いでいるんだ?」
特別授業を終えたばかりだから、中松さんがそこにいる。電話内容も聞かれていただろうから、私は彼に今聞いた経緯を話した。
「明日、令嬢修業休んでもいい?」
「修業より、親父さんを優先してやってくれ。家族は大事にするんだぞ」
えー。中松さん、超優しいー。今、キュンってした!
「それより、親父さんの体調、そんなに悪いのか?」
「ギックリ腰だからね。年なのに無理しちゃったのよ」
「・・・・人手は足りているのか?」
「ううん。ホールがお母さん、お姉ちゃんが厨房を仕切るけれど、琥太郎も私も厨房はちょっとした手伝いくらいしかできないから、多分配膳兼洗い場が無茶苦茶になると思う。うちの店、ああ見えても結構忙しいから」
「知っている」
「お姉ちゃんにも言って、どうするか考えるよ。色々ありがとう。明日だけじゃなくて、当分修業お休みさせてもらうかもしれない。でも、ちゃんと修業も頑張るから」
「こっちの事は気にしなくていい。それより、一緒に来てくれ」
「ん?」
「一矢様に休暇を貰う」
「えっ」
「さあ、来てくれ」
ぐい、と腕を取られ、引っ張って行かれた。イチ君の書斎までやって来て、コンコンとノックした。「中松です」
『開いている。入って構わんぞ』イチ君の声が書斎の中から聞こえた。
「失礼致します」
何故か私も一緒に連れて入られた。「ん。美緒も一緒か? どうした?」
「一矢様、グリーンバンブーで問題が起こりました。一平様と銀次郎(コックのギンさんの名前で、私の敬愛する萬田銀次郎様と同じ名前なの!)様が、ギックリ腰になられたとかで、明日以降の営業に支障が発生しているようです。美緒が困っているので、暫く店を手伝ってやりたいのですが、お暇を頂くわけにはいかないでしょうか?」
「ん? 美緒・・・・というか、グリーンバンブーの手伝いを中松がやるのか?」
「はい」
「それは面白いな。よし、いいだろう。困ったことがあれば、連絡する」
「困ったことが無いようにしておきますので、会社の方は一矢様がおひとりで頑張って下さい」
目の笑っていない笑顔で、中松さんが淡々とイチ君に伝えた。
「あ、いやしかし・・・・世界情勢はどうするのだ。私の出勤の送り迎えは?」
「他の者がおります。きちんと引継ぎをしておきますので、ご心配には及びません」
イチ君は私と中松さんを見比べ、ううむ、と低く唸った。「・・・・やむを得ない事情だ。仕方あるまい。いいだろう。ただし、明日だけだ。お前がいないと何かと困る。美緒、中松を貸し出しするのは、明日一日だけと約束してくれ」
「えー。もう少し貸してよぉー。イチ君、中松さんに有休とかあげているの? お姉ちゃんの結婚式の時も言ったけど、ちゃんと休みあげなきゃダメだよ」
「いや、解っているのだが、暇は出せない。中松がいないと調子が出ないからな。私のサポートを完璧にしてくれるのは、彼しかいないのだ」
「これを機に、一週間くらいイチ君一人で頑張ってみたら?」
「ぐっ・・・・」
やっぱりイチ君はポンコツなのね。ま、これだけデキる執事が傍にいたら、頼っちゃうよねー。
「折角だからさ、ここらでちょっとお姉ちゃんにイイトコ見せてよ。そしたら、溜飲モノのお姉ちゃんのキワドイお宝映像、イチ君に譲ってあげるから」
幼少期の水遊び映像が、実家のどこかに転がっていた筈。
「なにっ、伊織のキワドイお宝映像だと! うううむ・・・・!」
お。もう一押し!
「組長。姐さんの写真も付けやすぜ。これはもう、秘蔵中の秘蔵でございやす」
「ひ・・・・秘蔵中の秘蔵!」
秘密のワードに、イチ君の目の色が変わった。ホント、お姉ちゃん好きだなぁー。
「大興奮間違いなしの、水着から胸元ポロリ写真ですわ。組長に献上致しやすぜ。うっしっし」
詰め寄って耳元で囁いた。
その時の水遊びで、水着が脱げかかって胸元が見えている写真だから、間違ってはいない筈。何処にも出していない、秘蔵写真というのも、間違ってはいない。
「う・・・・解った。許可しよう! 但し、困った事があったらすぐ電話するからな!」
「店が暇で、電話に出れる状態なら、電話応対いたします。それでもよろしいですね?」
「いいだろう。手を打とう」
こうして、お姉ちゃんのお宝映像&写真と引き換えに、向こう一週間分、中松さんの有休をゲットしたのである。あと、電話のお母さんへの言葉遣いと、今の組長に聞かせたチンピラみたいな台詞、鬼になった中松さんにみっちり注意された。はぁう。
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m
定期更新は、毎日16時の時間帯&ゲリラ更新となります。
固定は毎日16時の時間帯間で更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。




