表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/46

017 キワドイお宝映像で組長を転がす姐さん

 


「え――っ、ギックリ腰ぃ!?」


『そうなのぉー。美緒ちゃーん、修業お休みして、帰って来てーぇ』



 特別レッスンを受けた直後、お母さんから電話が掛かって来た。

 珍しいなあ、と思って電話に出ると、開口一発泣きつかれた。

 何と、お父さんとベテランのギンさんというコックが、実家の洋食屋の冷蔵庫の配置換えを、明日に備えてやっていたみたい。

 でも、年なのに無理したから、二人とも腰が痛くなって立てなくなったらしい。



 うええー。大丈夫なのぉ!?



「明日のグリーンバンブーの厨房どうするの!?」


『えーん。どうしようー』


「泣いてる場合じゃないでしょーが! しゃっきりしな、母親だろ、コラ!」


『えーんっ、美緒ちゃん怖―いっ』



 ますます泣いてしまった。

 はー、ウザ。これだからお母さんは、もう!


 

「お姉ちゃんは? 明日グリーンバンブーに帰るんでしょ?」


『えーっと・・・・いおちゃんは多分揚場もできるからぁー。美緒ちゃんが帰って来てくれたら、焼き場頼んでぇー、えーっと、ぐすん、あの、琥太こたくんにー、えーっと・・・・』


「あーっ! お姉ちゃんに指示してもらうから、もういいっ! 何とかするから、泣くなっ!」


『えーん、美緒ちゃんのオニー』


 オニという単語なら、目の前のこの男に似合うものなんだが?


「泣いている場合じゃない! もう、後はこっちでやるから、お母さんはお父さんの看病でもしててっ」


 ブチ、とスマートフォンの通話終了ボタンをタップした。

 ホントもう、お母さんと話していたら胃に穴が空くわ!


「一体何を騒いでいるんだ?」


 特別授業を終えたばかりだから、中松さんがそこにいる。電話内容も聞かれていただろうから、私は彼に今聞いた経緯を話した。


「明日、令嬢修業休んでもいい?」


 

「修業より、親父さんを優先してやってくれ。家族は大事にするんだぞ」


 えー。中松さん、超優しいー。今、キュンってした!


「それより、親父さんの体調、そんなに悪いのか?」


「ギックリ腰だからね。年なのに無理しちゃったのよ」


「・・・・人手は足りているのか?」


「ううん。ホールがお母さん、お姉ちゃんが厨房を仕切るけれど、琥太郎も私も厨房はちょっとした手伝いくらいしかできないから、多分配膳兼洗い場が無茶苦茶になると思う。うちの店、ああ見えても結構忙しいから」


「知っている」


「お姉ちゃんにも言って、どうするか考えるよ。色々ありがとう。明日だけじゃなくて、当分修業お休みさせてもらうかもしれない。でも、ちゃんと修業も頑張るから」


「こっちの事は気にしなくていい。それより、一緒に来てくれ」


「ん?」


「一矢様に休暇を貰う」


「えっ」


「さあ、来てくれ」


 ぐい、と腕を取られ、引っ張って行かれた。イチ君の書斎までやって来て、コンコンとノックした。「中松です」


 

『開いている。入って構わんぞ』イチ君の声が書斎の中から聞こえた。


「失礼致します」


 何故か私も一緒に連れて入られた。「ん。美緒も一緒か? どうした?」


「一矢様、グリーンバンブーで問題が起こりました。一平様と銀次郎(コックのギンさんの名前で、私の敬愛する萬田銀次郎様と同じ名前なの!)様が、ギックリ腰になられたとかで、明日以降の営業に支障が発生しているようです。美緒が困っているので、暫く店を手伝ってやりたいのですが、お暇を頂くわけにはいかないでしょうか?」


「ん? 美緒・・・・というか、グリーンバンブーの手伝いを中松がやるのか?」


「はい」


「それは面白いな。よし、いいだろう。困ったことがあれば、連絡する」


「困ったことが無いようにしておきますので、会社の方は一矢様がおひとりで頑張って下さい」


 目の笑っていない笑顔で、中松さんが淡々とイチ君に伝えた。

 

「あ、いやしかし・・・・世界情勢はどうするのだ。私の出勤の送り迎えは?」


「他の者がおります。きちんと引継ぎをしておきますので、ご心配には及びません」


 イチ君は私と中松さんを見比べ、ううむ、と低く唸った。「・・・・やむを得ない事情だ。仕方あるまい。いいだろう。ただし、明日だけだ。お前がいないと何かと困る。美緒、中松を貸し出しするのは、明日一日だけと約束してくれ」

 

「えー。もう少し貸してよぉー。イチ君、中松さんに有休とかあげているの? お姉ちゃんの結婚式の時も言ったけど、ちゃんと休みあげなきゃダメだよ」


「いや、解っているのだが、暇は出せない。中松がいないと調子が出ないからな。私のサポートを完璧にしてくれるのは、彼しかいないのだ」


「これを機に、一週間くらいイチ君一人で頑張ってみたら?」


「ぐっ・・・・」


 やっぱりイチ君はポンコツなのね。ま、これだけデキる執事が傍にいたら、頼っちゃうよねー。


「折角だからさ、ここらでちょっとお姉ちゃんにイイトコ見せてよ。そしたら、溜飲モノのお姉ちゃんのキワドイお宝映像、イチ君に譲ってあげるから」


 幼少期の水遊び映像が、実家のどこかに転がっていた筈。

 

「なにっ、伊織のキワドイお宝映像だと! うううむ・・・・!」


 お。もう一押し!


「組長。姐さんの写真も付けやすぜ。これはもう、秘蔵中の秘蔵でございやす」


「ひ・・・・秘蔵中の秘蔵!」


 秘密のワードに、イチ君の目の色が変わった。ホント、お姉ちゃん好きだなぁー。


「大興奮間違いなしの、水着から胸元ポロリ写真ですわ。組長に献上致しやすぜ。うっしっし」


 詰め寄って耳元で囁いた。

 その時の水遊びで、水着が脱げかかって胸元が見えている写真だから、間違ってはいない筈。何処にも出していない、秘蔵写真というのも、間違ってはいない。


「う・・・・解った。許可しよう! 但し、困った事があったらすぐ電話するからな!」


「店が暇で、電話に出れる状態なら、電話応対いたします。それでもよろしいですね?」


「いいだろう。手を打とう」


 こうして、お姉ちゃんのお宝映像&写真と引き換えに、向こう一週間分、中松さんの有休をゲットしたのである。あと、電話のお母さんへの言葉遣いと、今の組長に聞かせたチンピラみたいな台詞、鬼になった中松さんにみっちり注意された。はぁう。

 

数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。




評価・ブックマーク等で応援頂けると幸いですm(__)m




定期更新は、毎日16時の時間帯&ゲリラ更新となります。


固定は毎日16時の時間帯間で更新を必ず行います! よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ