015 俺好みの女に教育してやろうか、ってどういう意味ですか?
「少し伺いたいのですが、中松さんの見合い話をお断りするのに、どうして令嬢に扮さなければいけないのでしょうか?」
「令嬢口調、やればできるじゃねえか」
「お答えあそばせ」
「先方の指名だよ。一矢様が見合いを組んだみたいに伝わってしまったけど、本当は相手が俺を指名してきたんだ。断っても、断っても、俺に惚れたとかで、一向に引き下がりやがらねえから、無下にも断れずに困ってたんだ。見ての通り、俺に彼女はいねーから。普通の代行彼女連れて行っても納得して貰えないだろうって一矢様の見解だったから、言う通りにしただけだ」
ふおおっ。そう言えば、ライバルいるじゃん!!
しかもモノホン(本物)の令嬢なんて、まずいまずいまずい×∞
「では、中松様」私はニセ令嬢になりきって、しっかりと言った。「貴方好みの女になります故、私を・・・・教育して下さいまし」
「何処で覚えた、そんなセリフ」
何故か間合いを詰められ、顎グイされた。
きゃあああーっ。近い近い近い――――っ!
キリリと端正なその御顔!
凄みのある凍てつく視線!
鬼だからムカつくけど、でも好き、あああ――っ。
「最後がダメだ。教育して下さいませ、だろ? 花魁じゃあるまいし、そんな言葉遣いじゃ、落第だぞ」
「きょ、きょういく・・・・し、してくださ・・・・」
「何焦ってんだよ。カミカミじゃねえか。ちゃんと言えるだろ。最初からだ」
「い、いやこの状況ムリ・・・・」
えーん。
何でこんなに鬼ってるの――ぉ。
「言えたらご褒美やるよ」
「ごっ・・・・ご褒美っ!?」思わず目が輝いた。
「喰いつき早えな」
って、また中松さんの頬筋が緩む!
表現的にクスって感じかな。なんか、嫌な感じじゃなくて、いい雰囲気なんだ。しかも顎グイされたままだから、顔が近いのなんのって!
「お前、ホント俺の事好きだな」
えええーっ。本人目の前にして、そんな事言っちゃうぅ!?
お願いだからこの状況で、そんな優しい顔して笑わないで――――ぇ!!
「あ、あなっ・・・・貴方好みの女になります! 私を・・・・教育して下さいませ!!」
やけっぱちで叫ぶように言った。
心臓がばっくんばっくん言って、潰れそうなんだけど!
「よくできたな。合格だ」
彼は笑った。極上の優しい笑顔で。
もうね、ずぎゃーんとか、そんなお笑いの安っぽい表現レベルじゃない。
心奪われて、心臓が破裂しそうな程に痛くて、熱い。
中松さんから、目が離せない。
「目、閉じろよ」
わーっ。ご褒美ってもしかして、キス・・・・?
ごくり、と生唾を飲み込んだ。
ゆっくり目を閉じて、中松さんを待った。
ああ・・・・っ、ドキドキする!
唇が触れる事を震えながら待っていると、微かに中松さんの吐息が唇を掠め、頬にキスされた。
「褒美だ」
「あっ、え? 今のがご褒美? ほっぺなの!?」
熱い唇の感触は、何と左頬に落ちた。唇じゃなかったのだ。
そんな殺生な!
「令嬢に手を出すわけにはいかねーから、頬なら丁度いいだろ」
優しい眼差しの中松さんに、そんな風に言われた。
「えっ、それって手を出したいって思っているってコト!?」
私は何時でも前向きに受け取るぞ。
「さあ、どうだろうな」
結局手練れに上手くはぐらかされてしまった。
私は、自身が中松さんの恋愛対象になれるかどうかが知りたいのに!
手を出したいって思っているかどうか、そこんとこ詳しく私に教えて下さい。お願いします、中松様!
※
――――・・・・
「あっ・・・・中松さんっ・・・・!」
「美緒。この程度でいちいち騒ぐな」
「だ、だって・・・・んんっ、きもちい・・・・っ、それ、だめ・・・・力抜けちゃうぅ」
もうだめ。どうにかなっちゃいそう。
ていうより、どうして私がこんな事になっているかと言うと――・・・・
事の発端は夜。今日も無事、令嬢としての修業を終えた。
い・よ・い・よ、中松さん直伝の『彼好みの女』のレクチャーが始まるの。
早速食事部屋に呼びつけられた。ここで一体何が・・・・?
もう、期待しかない!
「待たせたな」
わぁー。中松さん、やっぱりカッコイイ!
「飯、まだだろ? 一緒に食おうぜ」
「はい!」
私のリサーチ結果、気が強くて素直な女子は好きって見解なんだよね。
あと、言葉遣いも多分良くないとダメ。
「やけに素直じゃねえか」
「ええ。中松さん、素直な女は好きっておっしゃっていたもの。言葉遣いや態度を少し、改めようと思いまして」
「いい心がけだな。ま、何時まで持つやら」
しっかり微笑まれた。
ぎゃをー。何か最近、笑う頻度マシマシ君じゃない?
嬉しいけど・・・・心臓が!
「そ、それより、中松様。きょ・・・・今日の食事は何でしょうか?」
「たっぷり野菜のチーズ焼きだ。簡単だけど、美味いぞ」
「美味しそうだわ!」
思わず目が輝いた。タイトルだけで美味しそうな料理!
「明日は美緒が俺の為に作ってくれよ」
「ええ、勿論いいわよ。天ぷら得意なの。中松さんの為に作ってあげる」
「口調、戻ってるぞ」
「あ ”っ。いっけなーい」
中松さんと目が合ったので、笑って誤魔化した。
ふう。アブナイ、アブナイ。大分アウト気味だったと思うけど、赦してもらえるかな?
美味しそうな野菜チーズ焼きを目の前に運んで貰って、取り分けて貰った。次なるステージは愚か、今日これから始まるイベントでさえ、よく解らない状態だ。
「中松様、ひとつ聞きたいことが」
解らないので、直接本人に聞いた。上品になるよう、気を付けて食べながら尋ねた。
「様なんか付けるな。中松でいい」
「いいえ、そういう訳には参りません。ひとつ聞いても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「令嬢修業の後、三十分の特別レッスンを付けて下さるとおっしゃいましたが、どのようなレッスンになるのでしょうか?」
「食事だ」
「しょ・・・・くじ?」
「ああ。お互いの事を知るには、同じ釜の飯を食うのが一番だ。色んな話ができる。まずはそこから。任侠世界でも、そうだろ? 作法も教えられるし、色々な事が解る」
「確かに・・・・!」
子分が事務所に入所した時、兄貴分が同じ釜の飯を分けて食べる――そんな感じよね!
成程! 流石本物は体験しているだけあって、的確ね!
数ある作品の中から、この作品を見つけ、お読み下さりありがとうございます。
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