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第1話 召喚師、裏切られる

「あ、れ……」

 赫い花びらが宙に散った。

 初め、その一瞬だけ、そう思った。

 それは、私の顔を含めた上半身を濡らし、その生温さに、新鮮な血液であることを知る。


 私の目の前に展開されていた障壁がパリンと割れた。


 ーーあれ。私は、魔物から皆を守るために、最前線に立って障壁展開していたんじゃなかったっけ?


 私の片腕は、背後から伸ばされた誰かの腕に掴まれていた。

 なんとか首を捻って背後を見ると、仲間のはずの勇者ハヤトが、私の肋骨の隙間をそれは巧みに縫って、私の心の臓があるはずの場所を一突きにしていた。

 彼の周りには、かつて仲間だったメンバー二人が薄ら笑いを浮かべて立っている。

「どう、いう、こ……」

 それは、最後まで言葉にならずに、私は、カハッと、喉を迫り上がる血を吐き出した。

「俺は勇者だ。勇者のいうことを聞かない女なんていらない」

 ぐいっと腕を掴んだまま、勢いよくハヤトが剣を抜く。


 ーー出血抑えるために、抜かないで欲しかったんだけどな〜。

 まあ、そういうわけにもいかないか。

 再度の痛みと、傷口が露わになって、どんどん失血していく。私はそれを防ぐために、こっそり圧迫止血をしながら、時が経つのを待つ。


「さ、帰ろうぜ! 新規加入者さんが待ってるしよ〜!」

 私が防ごうとしていた魔物を切り捨ててから、立ち去っていく三人の声が遠ざかる。

 私はチラリと横目で見ると、彼らの姿はかなり小さくなっていた。

召、喚(サ……モン)、大聖女フェルマー」

 私の倒れている頭上に、古の大聖女フェルマーが顕現した。

「マスター! なんてことでしょう! パーフェクトヒール!」

 彼女の最上級回復魔法で私の傷は癒えていく。

 しかし、血を流しすぎた。


 ーーたとえ私の心臓が一般人とは反対側にあったとしても。


 無理だ。

 私はそのまま意識を失った。


 ◆


 私、魔族の四天王アスタロトは、木陰からその一部始終を見ていた。

 魔族領に勇者一行がやってきたと聞いたからだ。

 そしたら、彼らは仲違いを起こし、メンバーらしき女性の一人を、卑怯にも背後から剣で突き刺し、そのまま去っていった。


 そして、横たわるまだ若い人間の女性の元へ駆けていく。

 頸動脈に手を添える。

「……動いている」

 と、すると、失血量の多さに気を失っているだけかしら?

「……凄いわ。傷も綺麗に無くなっている。まあ、ここに放っておくわけにもいかないわね」

 アスタロトは、しゃがみ込んで彼女をいわゆる姫抱きにして抱き上げる。


 ーーそれにしても、軽いわね。


 まあ、彼女自身も女なのだが。

 それを考慮しても、彼女の体は細かった。

 歳のころは十五、六といったところかしら?

「一旦、城へ連れ帰りましょうか」

 奇しくも、彼女が、いや、彼女がかつて在籍していた勇者パーティーが目指していた最終地点に、魔族の手によって、あっさりと連れていかれるのだった。

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